魔法科高校の劣等生~フローラの煌き~   作:春薪 琴音

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第七話

新入部員勧誘週間、それは今年入学してきた新入生を自らの部活に入部してもらおうと様々なパフォーマンスとアピールを行う一週間のことを言う。

魔法を使用する部活も純粋な技術だけで行う部活も、優秀な新入生を獲得しようと必死になっている。

その試合結果や実績が部費や校内の勢力図に反映されるのだから、必死になるのも当たり前である。

それだけ必死になるということは、それだけ争いごとが起きるということと同義でもあるため、生徒会はもちろんのこと風紀委員は特に多忙となる。

今年委員会に所属することが決定した達也しかりである。

 

「達也、これから見回り?」

「楓か・・・ああ、これから行ってくる。」

 

委員長である摩利の話とCADの配布が終わり部屋を出たところで、窓際にもたれ掛かって待っていた楓が声をかけてきた。

服部とのいざこざはあったものの、無事風紀委員となった初めての仕事なのだからと楓は楽しそうに笑う。

一方の達也はなりたくなかったという雰囲気を匂わせつつも、そこそこ真面目にやらなければ後が怖いとため息をつく。

 

「この時期は忙しいから、私も摩利さんの手伝いするし。一緒に頑張ろう?」

 

一応生徒会の手伝いという役割にはいるが、よく知る相手である摩利がこの時期忙しいと知っているので、楓は風紀委員の手伝いをすることが決まっていた。

大ざっぱで細かい作業が苦手な摩利は、楓の申し出をとても喜んでいたのは言うまでもない。

無線での連絡を受けてチェックしたり、生徒の名簿の確認、細かな指示などを行うことになっている。

きっと達也なら下手すれば見回り早々に誰かを捕まえてきそうだと、ころころと笑う。

 

「はぁ、とにかく行ってくる。」

「いってらっしゃ~い!」

 

颯爽と見回りに向かう達也の背中を見てから、楓も仕事をしようと今彼が出てきた風紀委員の部屋へと入る。

そこには様々な対応をするために用意された器具や、指示をするために残った摩利の姿があった。

ドアが開いて楓が来たことに気付いた摩利は、嬉しそうに今まで自分が座っていた無線を受けるための席から立ちあがってその場を譲った。

 

「待っていたぞ、楓。さぁさぁ、ここに座りたまえよ。」

 

にこにこと仕事をする気がないのが丸わかりな摩利の顔に苦笑して、言われた通り席に着く。

目の前の端末には風紀委員が校内のどこにいるか、どこでどの催しが行われているかなど様々な情報が表示されている。

早速キーボードを操作して、催しに参加している部活のメンバーを検索し端に表示させておく。

各風紀委員からの報告を聞きながら、近くでトラブルが起きそうな部活の場所を指示して向かってもらう。

達也ほどではないが楓も機器類には強いほうで、アナログな手打ちの方を得意としていた。

慣れた手つきで流れるように行われる作業に、後ろから見ていた摩利は口元に手を添えながら関心している。

 

「いやぁ、さすが楓。頼りになるなぁ~」

「もう、摩利さんもこれぐらい出来るようになったほうが良いですよ?」

「あはは、まぁいいじゃないか。ほら、連絡来てるぞ?」

「ふう・・・はい、こちら本部。どうしました?」

 

あまりにおちゃらけている摩利に小言を言う楓だったが、いつもの通りのらりくらりとかかわしながら意識を逸らされてしまう。

むっとしながらも、どこか憎めない摩利にため息をついて言われたとおり、入ってきた無線に耳を傾ける。

すると、相手の声は楓のよく知る人物の声だった。

 

「はい、わかりました。すぐにそちらに向かわせます。」

 

救護班を体育館へ向かうように指示をした後、思っていた通りの展開になって口の端が笑ってしまう。

今連絡をしてきたのはもちろん達也で、魔法の不正使用をしていた桐原、表示していた情報を見ると剣道部の後に体育館を使用するはずだった剣術部の主将を確保したというものだった。

報告によれば桐原が使っていた魔法は高周波ブレード、悪くすれば停学処置もありえる状況である。

そう考えて顔をしかめたのが見えたのか、摩利が声をかけてくる。

 

「どうした?楓。」

「摩利さん・・・真由美と十文字さんを呼んできて貰えますか。話し合いが必要になるはずですから。」

「・・・・・了解した。」

 

楓の口調に、事態が思った以上に面倒なのだと理解した摩利は言われた通り行動することにした。

隣の生徒会室にいる真由美に声をかけ、部活連の十文字にも集まるように願い、ことの次第を捕まえた達也に説明させることにしたのだった。

 

掻い摘んで先に話を聞いていた楓は、最悪の事態は避けられるだろうと察し、達也に言われて深雪やエリカ達と一足先に喫茶店に向かうことにした。

放課後の喫茶店、人があまりいない店内の奥でソファ席にエリカ、美月、レオと座り、向いの三つある椅子のうち二つに深雪と楓が座っている。

椅子がもう一つあるのはもちろんこのあと合流する達也の分である。

 

「達也さん、大丈夫でしょうか?」

「大丈夫だって、美月は心配しすぎよ。」

 

軽い飲み物を頼んでまったりして達也が来るのを待っていると、美月が心配そうに口を開く。

どこまでも真面目な美月に、エリカはストローを口にくわえたままで軽く答える。

達也と一緒に現場に居合わせたエリカも軽い聴取が行われたが、すぐに解放されてここで待っている。

 

「エリカ、行儀が悪いわよ。」

「へぇ~い。」

 

行儀の悪さを深雪に指摘されて、エリカは反省していない返事をしてストローを離す。

コーヒーを頼んでいたレオは一口啜ってから、楓に尋ねる。

 

「で、本当に大丈夫なのか?」

 

レオの心配とは桐原という上級生、しかも一科生を取り押さえたという事実が問題になりはしないかというものだった。

同じ一年の二科生は達也が風紀委員になったことを喜んでいるし、自分達も同じように喜んではいるが、こうしてすぐさま問題が起きてしまうと心配にもなる。

そんな意味を含んだ質問だったが、楓は特に慌てるでもなく答える。

 

「大丈夫よ。心配してくれてありがとう、レオ君。」

「お、おう。」

 

楓の返事にちょっと照れくさくなったのか、頬を染めながらそっけなくレオがそっぽを向く。

その姿が面白かったのか、エリカがちょっかいを出してそのまま美月を挟んで言い合いが始まるといういつもの風景になる。

ありきたりな、どこにでもある平凡な高校生の日常に楓は楽しくて、隣に座る深雪を見る。

 

「ふふっ・・・」

 

三人の漫才にも見えるやりとりを見ながら笑っている深雪を、眩しそうに見つめる。

今まで四葉の令嬢として厳しく躾られ、周りにいるのは同じように身分の高い人間のみ。

気軽いやりとりなど出来るはずもなく、腹の探り合いや固苦しさしかなく今のような笑みを見ることなどほとんどなかった。

それが今は一介の女子高生のように笑っているのだから、嬉しくないはずがなかった。

 

「待たせたな、皆。」

 

ちょうど最初に頼んだ飲み物が終わった頃、遅れてやってきた達也が姿を現した。

すぐさま深雪が立ち上がり、隣の椅子に座り直すと深雪と楓の間の席を達也に譲る。

当たり前のように譲られた席に座る達也の姿にうわぁっと思いながらも口に出さないエリカは、慣れてきたと言っていいだろう。

とにかく無事合流したので、それぞれにパフェや軽食などを頼んで今日の出来事を聞くことにした。

 

「キャストジャミング?」

 

深雪の口から出てきた聞いたことのない言葉に、三人が首を傾げる。

仕方ないとばかりに達也が説明をすると、三人ともが今度は驚愕の表情になる。

 

だがそれも仕方のないことで、特殊な道具を必要とせずに魔法を無効化出来るなど魔法師にとっては脅威以外の何物でもないのだから。

いくら条件があり、使える人間が限られているとはいえ、実際に達也が使えるのだから実用性があることに違いはない。

とはいえ、達也がむやみやたらにその技術と使うとは到底思えないので、三人は安心したようにいつものじゃれあいに戻ることが出来た。

 

「優柔不断だなんて、お姉様はどうお思いですか?」

「ん~?エリカはどう思う?」

「さぁねぇ、美月の意見が聞きたいなぁ。」

「え?え?えっと・・・」

 

達也が女性陣に、最終的には美月がからかわれるいつもの日常に。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「部活連とは違う組織?」

「・・・はい、今年中に抗議する予定です。」

「そう、もう良いわ。ありがとう。」

 

放課後、人の通りが少ない場所で楓は一人の男子生徒を捕まえて話を聞いていた。

ただ楓が質問する内容に、男子生徒がどこか虚ろな瞳で無感情に答えるだけ。

一見不思議な場面だが、必要な情報を聞き出させた楓は男子生徒に帰るように促すと、自分はその場所に残った。

しばらく歩いたところで、男子生徒の瞳に色が戻り、なぜ自分がこんなところにいるのかと不思議そうにきょろきょろと周りを見回していた。

 

「これ以上の情報収集は難しいか・・・」

 

男子生徒から得た情報はほとんどがすでに知っていたもので、楓の満足いくものではなかった。

ここ最近校内でなにやら不審な行動をする気配がすると感じたので、少しずつ調べていた。

違和感を覚えたのは、達也が勧誘週間に受けた襲撃の話を聞いてからだ。

去年も確かに事件は起きていたが、今回は多すぎた。

風紀委員が二科生だからと対抗意識を燃やしていたのもあるようだが、それにしても達也の周りでことが起こりすぎていると思えたのだ。

達也も同じように思っていたようで、楓は独自に調べることにしていた。

とはいえ、男子生徒を捕まえても下っ端ばかりでろくな情報が手に入らず辟易していたのだが。

 

「でも、何かが起ころうとしてるのはわかる。とにかく、達也に話してみないと。」

 

家に戻ってから達也と話した結果、反魔法組織が関係しているのではないかという考えに至った。

楓はもう一度その線から荒い直しをしようとしたのだが、ことは思ったよりすぐに動きを見せた。

 

「壬生を言葉責めにしたというのは本当か?」

 

すでに日常となっている生徒会室での昼食中、摩利が突然にやにやとからかうような笑みを浮かべて達也に声をかけてきた。

さすがに驚いたのか達也は、おかずを持っている箸が口に届く前に止まってしまっている。

隣にいる深雪はびくりと肩を震わせて俯いてしまったため、どんな表情をしているかはわからない。

楓はどんな表情をすればいいのか悩んでしまい、微妙な顔になっているのが自分でもわかった。

昨夜、簡単にだが壬生という上級生から声をかけられたということは聞いていたので驚かなかったのだが、摩利の言う言葉責めというのは初耳だった。

 

「楓というものがありながら、浮気はよくないんじゃないか?」

 

明らかにそういうことではないと知っている上でからかってく摩利に、達也はため息を付いてしまう。

悪い人ではないのだが、どうも人をおちょくるというかからかうのが好きなところが玉に傷である。

まぁ、先ほど摩利の彼氏のことを話題にしてしまった腹いせも兼ねているのかもしれないが。

 

「そういうことではありませんよ。」

「そうです!お兄様はお姉様一筋です!」

 

一際大きなため息をついてから全員が理解しているだろうと思いながらも、否定をする。

すると深雪が突然がたっと席を立ち上がって、すごい剣幕で叫んだのだった。

 

「み、深雪ちゃん、落ち着いて?」

「しかし、お姉様っ!!」

 

このままではどんどんエスカレートしていきそうな雰囲気の深雪を、楓はどうにか宥めようとする。

楓に言われて席には座り直したが、やはり納得がいかないのかまだ何か言おうとしているのがわかった。

 

「深雪、落ち着け。壬生先輩からは、勧誘を受けたんですよ。」

 

興奮している深雪に、達也からも声をかけてから昨日楓も聞いた説明を始める。

部活の勧誘という名目ではあるが、実際には一科と二科の差別に対して学校へ抗議するための組織に参加してほしいということ。

だが、主張と要望が判然とせず次回までにもう一度よく考えてから話を聞かせてほしいと言ったこと。

おそらく反魔法組織が裏にあるということを指摘すれば、真由美も摩利も驚愕と困惑の表情を浮かべていた。

部屋の中が暗い雰囲気に包まれる中、摩利がその空気を一掃するように明るい声で達也に声をかける。

 

「とにかく、壬生のことは任せたぞ。」

「何を任されたのかもわからないのですが・・・」

 

とにかく次回、達也が壬生に話を聞いたときにまた事態は動くだろうというのはここにいる全員の共通認識だった。

 

 

 

 

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