魔法科高校の劣等生~フローラの煌き~   作:春薪 琴音

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第八話

「僕たちは学内の差別撤廃を目指す有志同盟です!」

 

 

「始まったわね。」

 

達也が壬生の誘いを断ってから数日後の放課後、その放送は突然始まった。

部活の始まる準備をする者、帰る準備をする者、自由に行動していた生徒の耳に一瞬ノイズが響いた後に聞こえてきた声。

差別撤廃を叫ぶ声に、楓は調べていた二科生の反抗が始まったのだと理解した。

 

だが情報を知らなかった生徒会の面々は、驚きとともに戸惑っていた。

おろおろと困惑の表情を浮かべて落ち着かないあずさ、苦い表情で放送が聞こえる場所を睨みつける鈴音。

心底不機嫌そうに、嫌悪感を露わにしている服部。

真由美は困ったように首を傾げている。

 

「真由美、いるか!!」

 

生徒会室の扉を開いて入ってきたのは、隣の部屋に詰めていた風紀委員長の摩利だった。

その顔は真剣そのもので、全員の視線が彼女に向かった。

この由々しき事態をどうするかと聞きに来た様子の摩利に、真由美は難しい表情を浮かべる。

 

「恐らく、放送室を占拠しているのだと思います。」

 

鈴音はすぐさま彼らがどこにいて、どのような状況なのかを推測してきた。

放送部員を脅したにしろ、鍵をどうにかして奪取したのにしろこの行動は明らかな犯罪行為だ。

大胆すぎる行動に、この場にいる全員が頭を痛めてしまうのは仕方のないことだった。

 

「そうか・・・とにかく、放送室に行こう。」

「そうね。」

 

摩利は頭を押さえながらも、真由美に促す。

鈴音たちも頷き、十文字にも連絡して一旦放送室の前で集合するのがいいだろうと判断したのだ。

しかし、楓は生徒会室から出ていこうとした真由美に声をかけて引き留めた。

 

「待って、真由美。」

「楓?どうしたの?」

「真由美は私と一緒に職員室へ行こう。」

「職員室へ?」

 

現状を確かめるのはもちろん大事だが、閉め切られていると思われる放送室に行ってもやれることはほとんどない。

ならば生徒会長である真由美は、教職員に話をして今回の件をどうにかこちらに一任させてもらえないか交渉したどうだろうかと提案したのだ。

楓の提案に、真由美は考え込むように俯いてからすぐさま判断を下した。

 

「わかったわ。職員室へ行きましょう。」

 

さすがというか、真由美の判断は思い切りがよく、相手の考えを理解するのが早かった。

教師が絡めば、学校の問題になり、想像以上に事が大きくなる可能性があるのだ。

それならば、早いうちに生徒会に一任してもらえるように言質を取っておいて損はない。

 

鈴音や摩利達には予定通り放送室へ向かってもらうようにお願いして、真由美と楓は急いで職員室へと向かった。

向かった先では同じく放送を聞いていた教師達が戸惑い、厳しい表情を浮かべているのがわかった。

ここに来たのは正解だったと思いながら、真由美がいつものふんわりとした柔らかい雰囲気を醸し出しながら教師と交渉を始めた。

 

「今回の事は、是非生徒会に任せていただけないでしょうか。」

「しかし、これはさすがに・・・」

「いいえ、生徒が学校に不満があるというのであれば、それ改善するのは私たちの役目です。」

「だが・・・」

「どうか、この”七草 真由美”にお任せください。」

 

交渉は真由美の思うがままと言ってよかった。

教師も抵抗しようとしていたが、最終的に七草の名前を出されてしまえば何も出来なくなってしまう。

これはもう交渉ではなく、半ば脅迫だなと思いながら楓は真由美の後ろに控えていた。

教師はまだ少し渋い顔をしていたが、事が大きくなるのは彼らにとっても望むものではない。

結局真由美に折れて、今回のことは生徒会で納めるということが決定したのだった。

 

「それでは失礼いたします。」

 

綺麗にお辞儀をして職員室を出ると、ふうっと少し大げさにため息をついてから隣にいた楓に笑みを向ける。

 

「ありがとうね、楓。先に先生方を押さえられたのはとても大きいわ。」

「どういたしまして。」

 

先ほど楓が真由美に提案しなければ、鈴音達と一緒に放送室へ向かってから話し合いののち職員室へ向かっていた。

だがそれではすでにどこかに報告され、後戻りが出来ない状態だった可能性があった。

それを考えれば、楓の提案と交渉は大手柄なのだ。

 

「じゃぁ、今度こそ放送室へ行こうか。」

「そうね。あっちはどうなっていることやら・・・」

 

楓の言葉に苦笑しながらも、放送室へと二人で向かうことにしたのだった。

もし放送室が封鎖されているのなら、先行組が中に入るのは難しい。

さすがに魔法で強制突破まではしていないだろうが、少し不安になってしまうのは仕方がない。

 

現状は何も動いていないかも、と危惧していた真由美と楓だったがその危惧は不要のものだった。

放送室の扉は明らかに強制ではなく、中から開けられたような状態であり、占拠していたであろう生徒達が風紀委員に取り押さえられていたのだ。

 

「この件は生徒会に一任されることになりました。」

 

先ほど職員室で話したことを説明し、今にも連行されそうな生徒達を解放して欲しいとお願いした。

戸惑う彼らを納めながら、真由美は十文字とともに交渉のための打ち合わせを始めていた。

楓は達也のそばまで向かうと、小さな声で聞く。

 

「・・・・達也、何したの?」

「何でも俺がやったと思わないで欲しいんだが・・・」

「いえ、今回もお兄様です。聞いてくださいお姉様!お兄様ったら・・・っ!」

 

彼が現場に居合わせている状態で、何もしていないなどありえないと考えている楓はどうやって占拠されていた放送室の扉を開けさせたのかと疑問に思う。

達也がやったと信じて疑っていない楓の言葉に、ため息をついてしまうが裏切り者はすぐ後ろにいた。

壬生の電話番号を聞いていて、しっかり登録されていたということがまだ納得言っていなかった深雪はすぐさま楓に密告し始めてしまったのだった。

まぁ、楓は深雪と違ってそれくらいのことで怒ったりはしないが、彼女の報告で大体のことが予想できた。

 

「悪い人ね。」

「・・・・・・」

 

お得意の言葉遊び、何か悪知恵を使ったのだろう達也にそう言ってやると、達也は何ともいえない表情を浮かべたのだった。

結局、真由美と十文字、有志の話し合いがその後行われたのだが、内容は散々なものだった。

あれほどの行動を起こしたというのに、いざ何が目的なのか改善とはどこをどのようにして欲しいのかと聞いても、答えが判然としない。

曖昧にとにかく差別をなくして欲しいと訴えるだけで、明確なものが提示されない。

むしろそこから先は生徒会が考えろとでも言うような態度に、話し合いに参加した面々は一様に呆れた表情になってしまったのは仕方がないだろう。

話し合いとは決して呼べない内容に、鈴音は頭痛がするとばかりに頭を振ってから真由美に視線であることを訴える。

彼女が何を言いたいのか察したのか、ふうっと一度息を吐いてから話し合いに参加している有志の面々に話を持ちかける。

 

「では、こうしましょう。三日後、放課後に公開討論会を行います。」

 

真由美の言葉に、ただまくし立てていただけの生徒達がぴたりと口を閉じる。

全員の目が自分に向いているのを確認してから、真由美は更に続ける。

 

「それまでに具体的な差別と思われること、改善提案をまとめてきてください。」

「人数は4・5人程度、生徒会からは・・・・生徒会長である私が請け負います。」

 

毅然とそう提案した真由美に、生徒達は誰も反対することが出来ず結局討論会を行うことでその日は決着した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

そして三日後、討論会が行われる日、学校ではいつも以上に落ち着かない騒がしい一日になっていた。

公開討論会とはいえ、生徒全員に参加義務があるというわけではない。

あくまで任意、興味のある生徒だけが講堂に集まって話を聞くことが出来るようになっていた。

撤廃を求めるメンバーは一人でも多くの賛同者に参加してもらい、自分達の話を聞いて仲間になって欲しいと考えているのだ。

 

そのため朝から、いや討論会が決定してから二科では討論会に参加しませんかと勧誘が頻繁に行われていた。

楓は一科生でもあり、生徒会寄りであるため勧誘の声はかからなかったが、授業が終わり廊下に出ると生徒を引き留めて話しかけている姿ばかり目に映った。

一科生である楓でそうなのだから、二科生である達也のところはもっと酷いことになっているに違いないのだろうと苦笑してしまう。

 

そんな慌ただしい声が聞こえる中本日の授業が終わり、ついに公開討論会が行われる時間が近づいてきていた。

討論会が行われる講堂には一科、二科の両方の生徒がぞくぞくと集まってきていた。

どんな討論が行われるのか興味があるものもないものもいるとは思われるが、この討論会が注目されているという意味では変わらないだろう。

 

「只今、あらゆる面でとのご指摘がありましたが・・・」

 

時刻通りに行われた討論会は、四人の有志メンバーと真由美との討論がメインである。

さすがに時間を与えたので、相手側もちゃんと内容を考えてきてようだったが、やはり曖昧な部分が多かった。

問題点を指摘したとしても、動揺すら見せない真由美によって理路整然とした答えを返され覆される。

真由美の答えに、反論することも出来ず、傍聴する面々も彼女の答えに納得してしまう。

摩利の言葉ではないがもうこれは討論会ではなく、真由美の演説会であることに否定はなかった。

そして、最後に真由美の強い意志を見せられ、全生徒が彼女に引き込まれた。

このまま何事もなく終わる、そう誰もが思った矢先、それは起きた。

 

ドカンッ!!!

ドーン!!

 

突然の大きな爆発音、そして講堂を揺るがす震動。

講堂にいた全員が何事かと慌て、悲鳴をあげる。

全員の意識が外に向いた瞬間、講堂内にいる数人の生徒が動き出すのを見て講堂を開始する。

達也が生徒を取り押さえ、服部が投げ込まれたガス弾を防ぎ、侵入した男達を摩利が倒す。

その流れるような対処は、彼女たちをただの高校生と断じるには難しいほど手慣れていた。

 

「何?そっちにも侵入者だと?!」

 

摩利がインカムから聞こえてきた報告に声をあげると、達也はすぐさま自分が現場に行くと声をかける。

 

「お兄様、私もお供いたします。」

「ああ。楓、けが人がいると思うからお前も・・・」

「もちろん一緒に行くわ。」

 

当たり前のように深雪が達也と行動をともにすることを宣言し、達也は楓に声をかける。

あまり戦闘には向いていないが、応急処置などの治療系魔法を心得ている楓はこういう現場には必須だった。

摩利の了承を得ると、三人ですぐさま行動を開始する。

 

 

 

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