ゲゲゲの謎 ifルート   作:史上最弱の弟子

1 / 2
目を逸らさない

1:目を逸らす

⇒2:目を逸らさない

 

 肉親である祖父に性的虐待を受け、親族を殺してしまった少女。

 そんな相手に俺はどう接していいかわからなかった。一人の少女にかける言葉さえ無い。成り上がってやろうなんて考えていた自分が、如何に凡人で卑小な存在であるかを思い知らされる。ただ目を逸らしてはいけない。そう思い、それだけは実行することができた。

 

「私、本当はわかっていたんです。東京へ行っても自由なんてないんだって。でも、水木様、あなたとなら……」

 

 俺は真っすぐに少女、龍賀沙代と向き合う。そして自分自身の気持ちとも。俺が彼女に対して近づいたのは、彼女を利用しようとしたからだ。それについては何としても償いたいと思っている。しかしその感情を抜きにした時、俺は今、彼女に対してどう思っているのだろうか?

 

1:俺は沙代を愛している

⇒2:俺は沙代を憐れんでいる

 

 俺は沙代を愛している訳ではない。憐れんでいるのだ。数日前の俺であれば憐れみとは侮蔑に近い感情だと考えただろう。しかしゲゲ郎が、会ったことも無い彼の妻が教えてくれた。

 本当の憐れみとは、決して相手を侮蔑するものではなく、相手の弱さを受け入れ向き合うものであるということを。

 

1:愛していると嘘を言う

⇒2:沙代を抱きしめて己の気持ちを正直に言う

 

 俺は沙代を抱きしめた。肉親に犯されようと、人を殺めてしまっていようとも、彼女が穢れた存在では無いという事を伝えるために。その上で俺は正直な気持ちを伝えた。

 

「沙代さん、改めて言う。俺と一緒に東京へ行こう。確かに東京にだって自由なんか無い。希望に溢れた未来があるかどうかもわからない。そして、今の俺には君を愛しているとは言えない。だけど君が新しい道を見つけられるまで、ずっと傍に居る。それだけは約束できる」

 

 ゲゲ郎の奴の、妻への想いのような熱い感情は今の俺には無い。だけど沙代を救いたいという気持ちは本当であると断言できた。

 その想いが俺の本心であることが伝わってくれたのか、沙代は涙を流しながら俺を抱きしめ返した。

 そしてそこに無粋な声が投げかけられる。

 

「くだらないお芝居は終わりかしら。長田、あの男を始末して。沙代は殺しては駄目よ。もう一度、躾直すわ」

 

 沙代の母である乙米の言葉に応えて、長田が前に出てくる。

 正直絶対絶命だ。沙代を人質にした狂言は見破られてしまい、ゲゲ郎は未だ捕らわれたまま。銃は弾丸がもう無いし、あったとしても敵となる相手は多数な上、裏鬼道という術を使う相手である。

 

「させない。水木様は殺させない!!」

 

 その時沙世が俺から離れて、前に出た。

 そして彼女は長田のように狂骨を操ってみせたのだ。その力は長田を上回り、その場に居た者達を皆殺しにする。

 恐ろしい虐殺劇。俺を守るためとは言え、その行為に恐怖を感じない訳ではなかった。だけど、今更、目を逸らすつもりもなかった。

 殺しつくした後、俺の方を振り向いた沙代の目を俺は真っすぐと見つめる。

 そしてそのおかげで、彼女の後方で立ち上がった長田の動きに気付くことができた。

 

「危ない!!」

 

 沙代を突き飛ばす。

 そして彼女が居た空間に対し、最後の力をふり絞ろうとした長田の槍が空をきった。俺は長田に立ち向かい、奴の身体を地面に叩きつける。それは通常であれば人を殺す程の威力はなかったが、もとより死にかけだった長田にとってはそれがとどめとなったらしい。絶命する長田。人を殺してしまった訳だが、こちとら戦争帰りの身、人を殺したのはこれが初めてではなかったのでショックは少なかった。寧ろ沙代と共犯になれたことで、その重荷を少しでも背負えたのではないかとほっとする。

 

「水木様……」

 

「大丈夫、俺は君を受け入れると言った気持ちに変わりは無い」

 

 俺は改めて思いを伝え、ゲゲ郎を解放する。未だやるべきことは残っている。

 それはゲゲ郎の妻をみつけ、助けだすこと。

 

「いこう」

 

「ああ」

 

「ご一緒します」

 

 付いてくることを決意した沙代を連れ、俺達は3人で先へ進んだ。

 そして進んだ先に、桜の咲く空間へと辿り着く。

 そこには予想外の人物、時弥君の姿があった。

 

「何故、君がこんなところに」

 

「水木、魂を見ろ」

 

 ゲゲ郎に言われ、俺は気付く。目の前の相手が時弥君では無く、その祖父である時貞であることを。外道な時貞は孫である時弥君の肉体を奪ったのだ。

 

「そんな、お爺様・・・・・・」

 

「おうおう、沙代。お前が生き残っていてくれて嬉しいぞ。この肉体であれば、お前をより可愛がり、今度こそ孕ませることができるであろう」

 

 醜悪なその言葉に沙代が震える。俺は時貞の視線から庇うように沙代の前に立った。

 

「妻は何処だ!!」

 

 ゲゲ郎が叫ぶ。それに対し、時貞は血吸い桜にその血を吸わせているのだと得意満面に語った。俺達は桜の根を漁り、必死に彼女を探す。

 しかしこの場にうずめく怨念めいた力に俺は倒れてしまったのだった。

 

「水木様!!」

 

 沙代が俺に駆け寄ってくる。

 龍賀の一族であり、強力な霊力を持っている彼女は耐性があるのだろう。

 俺は返事を返すことすらできなかった。しかしかすかに残る意識で俺の耳が、ゲゲ郎の妻のお腹にはあいつの子供がいることが聞こえてきた。それをただ資源が増えたとばかりに喜ぶ時貞。やっぱり奴は人間じゃない。

 

「わしの操る狂骨は幽霊族の怨念を集めた者、幽霊族のお前に勝ち目は無いわ」

 

 奴が狂骨を呼び出して操る。必死に抵抗したようだが、その力の前にゲゲ郎は敗れてしまい、血吸い桜に捕らえられてしまった。

 

「親子3人、仲良く、わしの、この国の礎となるがいい!!」

 

 得意満面な調子で誇る時貞。しかしゲゲ郎の心は折れていなかった。

 

「はっ、わしはな諦めが悪いんじゃ!! それにわしの相棒もな!!」

 

 ゲゲ郎の声が聞こえる。ああ、そうだな。その通りだよ。俺は立ち上がっていた。

 そして持ってきた斧を掴み、時貞のもとへと歩いて行く。

 その俺に対し、時貞は俺を懐柔しようとしてきた。

 

「会社を2つか3つ任せてやろう。上手い食い物や酒をのみ、いい女を侍らせる生活ができるぞ」

 

 その言葉に俺は少しだけ想像を巡らせる。その想像の中で俺の横に居る女は沙代だった。なんだ、愛していないなどと思ったが、案外もう俺は彼女に惚れているのかもしれないな。

 そんなことを思う。

 とりあえず、今、断言できることは一つである。

 

「時貞。お前、つまんねえ奴だな」

 

 時貞の提案よりもゲゲ郎とまた酒を酌み交わす未来の方が何百倍も魅力的だと言うことだ。俺は時貞の持っていた骸骨を、斧で叩き割った。これにより奴は狂骨を操れなくなり、暴走した狂骨に飲み込まれそうになる。

 

「お爺様、飲み込まれるのはあなただけ。せめてあの子の身体は返してもらう」

 

 そこで沙代が狂骨に干渉し、奴の魂を時弥君の身体からひき剥がしてみせた。

 骸骨を失い、食われかけた今の状態だからこそできたのだろう。

 肉体から抜かれ、魂のみが飲み込まれる時貞。

 ゲゲ郎の言葉によれば死ぬこともできず永遠に苦しむらしい。まさに因果応報、いや奴の犯したことに対する報いとすれば軽い位である。

 奴は数えきれない程の幽霊族、ゲゲ郎の同胞を殺し、誘拐した人間を大勢生贄にし、沙代や時弥君にも酷い行いをしたのだ。

 

「くっ!!」

 

 しかし奴は当然の報いとして狂骨は止まらない。妻を庇うゲゲ郎に狂骨が向かう。

 

「おぎゃあ、おぎゃあ!!」

 

 その時、俺には赤子の声が聞こえた。これはゲゲ郎の、あいつとその妻との間の子供の声だ。

 新たな生命を救おうとあいつの先祖達が力を貸してくれた。血吸い桜にその血を吸いつくされていた屍が光り、ゲゲ郎のつけていた組紐がそれよりも大きなちゃんちゃんこに変わる。

 その力により、狂骨が分解されたのだった。

 

「これで全てが終わったのか?」

 

「いや、憎しみは簡単には消えぬ」

 

 分解された狂骨は結界を破り、外へ放出され、この国全体を荒らすと言う。

 それを俺はある種、当然の報いだと思った。

 この国の人間は幽霊族と誘拐された人達の犠牲によって作られた薬によって発展した。

 知らぬことととは言え、恩恵を享受してきたのだ。一部の者に押し付けられた負債を、全員が負うことになる、ただそれだけの話だと思った。

 

「水木、妻を連れて逃げてくれ」

 

 しかしゲゲ郎は狂骨を止めようとしていた。

 

「お前が犠牲になる必要なんてないだろうが!!」

 

「わしは我が子の未来を守りたいんじゃ」

 

 想いと覚悟を告げるゲゲ郎。

 その時、沙代が口を開いた。

 

「私も協力します。龍賀の血をひく私なら、狂骨をコントロールすることで、ゲゲ郎さんの負担を抑えられるかもしれません」

 

「それは正直、助かるが……」

 

 躊躇うゲゲ郎。俺も覚悟を決めた。

 

「だったら俺もこの場に残る。安心しろゲゲ郎。お前の妻と子は身体を盾にしてでも守る」

 

「……わかった。頼むぞ、水木、沙代ちゃん」

 

 そして俺達は狂骨に立ち向かう。依代となったゲゲ郎に狂骨が集中する。沙世も必死に援護をしている。俺はゲゲ郎の妻を守りながら必死に二人を見守り、そして気付いた。

 

「時弥君!?」

 

 ゲゲ郎と付き合うことで、少しではあるが霊力に目覚めた俺の目は、狂骨の中にある時弥君の魂に気付いたのだ。

 そしてその言葉を聞いた沙代が力を使う。

 

「お願い!!」

 

 時弥君の魂を身体に戻す。

 そして時弥君は起き上がった。

 今がこんな切羽つまった状況でなければ、俺は目の前の奇跡に歓喜していただろう。

 だが、本当の奇跡はこれからだった。

 

「おじちゃん…....僕は、僕も……戦うよ!! 頑張っていい未来にしたいから!」

 

 何と蘇った時弥君までも霊力を行使し始めたのだ。

 時貞に身体を奪われ、狂骨になりかけたことで力にめざめたのかもしれない。

 3人の力が重なり、そして今度こそ本当に終わりを迎えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全てが終わり、俺達6人だけが生き残りとなった。

 代償がまるで無かった訳では無い。

 ゲゲ郎は左目と右腕を失い、足もひきずっている

 沙代と時弥君は霊力の大半を失ったらしい。

 俺は色々な責任を取って、失職することになった。

 それでも俺にとって大切な相手は皆、命を繋いだ。

 俺は約束通り、沙代をそして時弥君を東京へと連れて行った。

 職の無い状態で大変ではあるが、今は少しずつ生活を立て直している。

 ゲゲ郎の奴は子供が無事産まれたらしい。

 名前は鬼太郎とつけたそうだ

 血を抜かれた上に出産の負荷も加わり、奥さんは一時危なかったそうだが、なんとか命を取り留め、徐々に体調と共にその美貌も取り戻しているようだ。

 こちらの生活が立て直せたら、会いに行く約束をしている。

 

「水木様、私、お仕事が見つかりました!!」

 

「そうか、それはよかった!!」

 

 東京へ移住してしばらくして、沙代は俺より先に職を見つけた。

 一応弁解すると、これは俺が情けない訳ではなく自分の再就職よりもそちらを優先し、協力したからである。

 正直な所、彼女を妻として娶る方向へと俺の気持ちは固まりつつある。

 共に苦労を乗り越え、一緒に暮らしている可愛い女の子に興味を持てない程、唐変木にはなれなかったようだ。

 だが最終的にそうなるとしても、その前に彼女は自分の手で生きる手段を得るべきだと思った。

 そうすることで沙代は初めて自由になれる、そう思った。

 その上で俺と一緒に生きることを改めて選んでくれれば嬉しいが、そうならなくても耐える覚悟はしている。

 

「早くあいつと、胸を張って会いたいものだ」

 

 友との再会を夢みて、俺は職探しに街に出るのだった。




短編で終わるつもりでしたが、もう2,3話、水木とゲゲ郎コンビで探偵をやる話や沙代と銀座デートをする続きを書くかもしれません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。