もう後悔したくない   作:くらしき

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よろしくお願いします


アイドル

 

 私の最後は後悔と懺悔でした。

 

 苗木くんを犯人に仕立てるため部屋を交換するまではうまくいきましたが、最後の最後まで覚悟が決まらず、桑田くんを殺すどころか返り討ちにあってしまいました。

 計画では部屋に招き入れ不意打ちで彼を殺すはずでしたが、彼の顔を見た瞬間、私の頭の中は真っ白になって包丁で襲い掛かってしまったのです。

 

 彼は咄嗟によけて、私になぜこんなことをするのか問いかけました。いくら殺害を強制させられている状況下とはいえ、アイドルである私が本当に人を殺そうとしているのが信じられなかったようです。

 

 彼の声は聞こえてはいましたが、私はもう止まれなかった。

 

 桑田くんを殺してここからでる。そして、もう一度みんなとアイドルとして表に出たい。その心が私を突き動かしました。

 

 超高校級の野球選手の才能を持つ彼の動きを捉えることは難しく、長い攻防の末、部屋にあった模擬刀で応戦した桑田くんの攻撃が、右手首にあたり凶器である包丁を落としてしまいました。

 彼の一撃は骨折させるほど強く、咄嗟にシャワールームに逃げ込みました。本来であれば簡単に開くシャワー扉ですが、建付けの悪いおかげで一時的に私を守ってくれました。

 ですが、この安全が私には辛かった。

 

 1分くらい格闘しましたが、彼は諦め、部屋を出ていきました。おそらくこの扉を壊すために工具箱を取りに行ったのでしょう。

 この隙に逃げ出すことも考えましたが、もう私にはその体力も残っていません。アイドルとして鍛えてはいましたが、彼の運動能力には到底かないませんでした。

 

 ドアノブが破壊されるまで、私は今までのことを振り返りました。

 

 思えば、殺すのであればもっと簡単に殺せそうな人にするべきでした。わざわざフィジカルが強い運動部である彼を狙う必要はなく、不二崎咲さんあたりを狙うべきでした。

 ……でも、それでも彼を殺すことに決めたのは彼のはなった一言です。

 

「いや野球なんてやめてミュージシャンになる!俺なら余裕っしょ!」

 

 私は自分ができる事はなんでもやってきました。アイドルに誇りをもっています。それを彼は練習もしないで簡単に芸能界に入れるなどとのたまっていたのです。

 普段であれば受け流せる言葉だったんですが、あの映像をみた後、彼を標的することに決めました。

 

 ドアノブが破壊され、桑田くんが入ってきました。

 

 彼の目には少し理性が戻りかけていましたが、包丁を腹部に突き刺そうとする動作は止まりません。ドスッと鈍い音をだして突き刺したら動揺しながらシャワールームから出ていきました。

 本当は殺すつもりはなかったのかもしれませんね。私が死ぬところを確認しないなんて、殺意は薄かったのかもしれません。……これなら大丈夫そうですね。

 

 意識が遠くなっていくのを意地でつなぎとめる。

 

 ――――まだだ。まだ死ねない。最後にこれを残すまでは。

 

 これは、彼を裏切ってしまったことへの謝罪と、私を信じてくれたことへの感謝を込めた冥土の土産です。

 

 ふふっ、左手で反転して書いてしまったので、もしかしたらこれを見た人はこう見えてしまうかもしれませんね。

 

『11037』

 

 さようなら、苗木くん。あなたの見せた希望は……

 

 ――――最後まで私の中で輝いています。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「あれっ?」

 

 どうして目が覚めたのでしょうか。私は確かに死んだと思っていたのですが……。

 

 戸惑いながら周りを確認すると、どうやらここはマンションの一室のようです。四人家族でも住めそうなほど広い部屋ですが、ここに住んでいるのは私だけのようです。

 

 時間をかけて何か手がかりがないか探してみたら、入学通知書と新しい制服を発見しました。幸いパソコンがあったので調べてみたところ、音ノ木坂学院高校というところらしいです。

 歴史の長い女子高で立地もいい素敵な学校です。部活動はあまり活発でなさそうですが、おそらく私は部活に入ることはなさそうなので気にしなくてよさそうです。

 

 さて、それなりにこの世界をリサーチしましたが、どうやらこの世界は私のいた世界と違う可能性が高いです。

 

 突飛な話かもしれませんが、私のいた世界とは明らかに違う要素が多すぎます。

 誰もが知る希望ヶ峰学園が見当たらないこともそうですが、私のSNSアカウントも発見できませんでした。超高校級のアイドルとして希望ヶ峰学園に入った身ですので、全く検索されないのは少しおかしいと思いました。

 

 それに、この世界ではスクールアイドルというものが流行っているようです。スクールアイドルで優秀な成績を収めることで、アイドルとしての道が開かれます。熱狂的な人気で全国の高校のあちこちにスクールアイドルがいるようです。

 芸能界にいた私がこんな大きなイベントを知らないはずがありません。以上の観点から私は違う世界と結論付けましたが、断言はできません。モノクマによるいたずらも大いにあるので、頭の片隅にいれておきましょう。

 

 今度こそ、もう後悔はしない。

 

 私は人を嵌めて殺そうとし、それをなすりつけようとした最低な人間です。この罪は私が生涯背負っていくべき使命ですが、その罪滅ぼしをしようにもすべき相手がこの世界にいない。

 一番会いたかったグループのメンバーの安否も結局最後までわかりませんでした。きっと、私は生涯みんな以上のアイドルと巡り合うことはないでしょう。別れは覚悟してはいましたが、実際にその状況に陥ると悲しいですね……。今にも逃げ出したくなる程の絶望です。

 

 ですが、アイドルとしてみんなを笑顔にするという約束を果たすためにも、前を向きたくなくても向かなければなりません。

 辛くても、苦しくても前を向くこと。だから私がアイドルになる手段としてすべきことは、音ノ木坂学園にスクールアイドルを誕生させることです。メンバーは私一人でも構いませんが、幅広い層に受け入れられるには多くの個性を持ったメンバーが必要です。アイドル研究部というものもあるらしいので、まずはそこに顔を出すことから始めましょうか。

 

 もしかたら、私と同じくらいの才能を持った人もいるかもしれませんしね。

 

 では、明日の入学式に向けてコンディションを整えましょう。新入生代表という名誉な勲章もいただいたので、失敗するわけにはいきません。幸いなことにスピーチの式辞用紙は入学通知書と一緒だったので、あとは噛まずに喋れるように練習するだけです。

 

 まだ頭の整理はついてはいませんが、希望を胸に前に進みましょう。もう二度と、絶望に屈するわけにはいかないのです。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

「……ねぇ聞いた? 今日の新入生代表の人、めちゃくちゃかわいいらしいよ!」

「聞いた聞いた。うちの学校かわいい人多いけど、それでも頭一つはぬけてるらしいね」

「いいな~。それに新入生代表ってことは頭もいいんでしょう? うらやましいな~」

「ねー。今年は1クラスしかないらしいからすぐにお近づきになれるからラッキーだね!」

「どうしてUTX高校に行かなかったんだろう。スクールアイドルができそうなほどかわいいのに」

「うーん、なにか理由でもあるのかな。」

 

 ひそひそと喋っているのは入学式に出席している新1年生。入学式ではあるが1クラスしかないため、同じ学校の出身者は近くで固定されていてすでにグループを築いていた。中にはあの子が新入生代表なのかと予想していた者までいた。

 

「次に、新入生代表 舞薗さやか」

「はい」

 

 舞薗さやかが壇上に上がると、その美しさから感嘆の息を吐いた者までいた。容姿は言うまでもなく、抜群のプロポーションに綺麗な所作は、わが子の晴れ舞台を見に来ていた保護者でさえ息を呑んだ。

 

「今日は私たち新入生の為にこのような素晴らしい式典を執り行っていただき、誠にありがとうございます。」

 

 舞薗さやかの美声にそれまで眠そうにしていた生徒も起き、全員が壇上に上がっている少女に注目した。年端もいかない少女とは思えないほど堂々とした立ち振る舞いに、全員が驚いていたがとりわけ驚いていたのは代表を譲った赤毛の少女だ。

 

「……」

 

 周りの生徒と比べ大人びている彼女が本来新入生代表をする予定ではあったが、気が乗らないという理由で断ったのだ。注目されることは嫌いじゃないが、変に目立ってしまうと今後の学校生活で面倒ごとを引き受けてしまうかもしれない。という保身でただ断っただけであったが、あまりにも堂々とした立ち振る舞いの彼女に興味を覚えた。

 

「……あとで、話しかけてみようかしら」

 

 自ら話しかけようとした自分に驚きながら、舞薗の言葉に注目する。

 

「音ノ木坂学院高校の生徒としての自覚を失う事なく、それぞれ、新しい自分の理想を目指して明日からの生活を、送っていく事を誓いますっ!」

 

 舞薗は式辞を読み終え、万雷の拍手を受けながら壇上を降りた。

 

「す、すごかったね。凛ちゃん」

「にゃぁ。なんかすごいものを見た気がするにゃ……」

「ただの式辞なのに、私すごい感動しちゃったよ!」

「うー。あんな子が同級生なんて緊張するにゃ」

「だ、大丈夫だよ!話しかけるときは私も一緒だから!」

「……あんまり励ましになってないにゃ」

 

 あちこちで舞薗を(たた)える声や噂する声が聞こえたが、舞薗はどこ吹く風。芸能人であった彼女にとって、この程度は日常茶飯事であった。ステージの上であればファンサをしてあげたが、今は入学式のためそんなこともできない。なるべく刺激をしないよう努めて聞こえていないふりをすることに決めた。

 

 その後、問題もなく入学式は進行していき時間通りに終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 入学式が終わり、新しいクラスに案内されました。

 

「みんな、入学おめでとう。早速で悪いが、このクラスの委員長を伝えたいと思う。舞園、前へ」

 

「はい」

 

 先生からあらかじめ言われていましたが、私がこのクラスの委員長を務めることになりました。なぜかクラスメイトの皆さんから尊敬の眼差しで見られていますが、私なにかしましたっけ?

 

「舞薗さやかです。これからよろしくお願いします」

 

 不満な顔をしている人はいなさそうですね。よかったです。

 意外と思われるかもしれませんが、私は委員長や生徒会長といった役職を経験したことがありません。先生方が気をつかってくださったのが大きいですが、私より適任な生徒が多くいたおかげでお鉢が回ってくることはなかったです。

 

 初めてのクラス委員長というのはプレッシャーを感じますが、希望ヶ峰学園で短い間一緒に過ごしたあの方を参考に、このクラスを笑顔溢れる学校生活にできるよう精一杯努力しましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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