許嫁幼馴染が弟に純愛寝取られたので、俺は変わることにした。   作:wakaba1890

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二度目の修学旅行。〜1日目。part 1

 東京駅の広場の前にて、だんだんと集合時間に近づくにつれて制服を着た生徒たちが集まってきていた。

 

「ーー・・まさか、二度目の修学旅行とはな。」

 

 修学旅行。それは人生で一回きりのイベントであり、まさか二回目を経験するとは思いもよらなかった。

 

 などと呑気に考えていると、全体的にエロい雰囲気の、黒のロングニットを着た黒髪の女が話しかけてきた。

 

「..おにーさん、おにいさん。一人ぃ?...私..ドタキャンされちゃってさ、これからどう?」

 

「悪いが..」

 

 谷間の部分に絶妙に切り込みが入っており、否応なしに視線が吸われてしまうが、俺は遊び人ではないので丁重にお断りしようとした。

 

「ーー・・海道くんっ!待ちましたか?」

 

「っと、久留米か。」

 

 その時、いつものようにどこからか久留米が現れ、俺の腕を目の前のエロい女に劣らぬ豊満な胸元に埋めてきた。

 

「..ほら、みんな来てますよ行きましょ!」ジロっ

 

「あ、あぁ。」

 

そして、久留米はジロリと女の方を一瞥して、先よりも深くパイに沈んでいる彼の腕を引っ張りながらこの場から離脱した。

 

「うー..やっぱ、彼女持ちかぁ...飲み直そー」

 

 

そして、彼女に連れてかれるままに連れて行かれていると、待ち合わせ場所が少しずれていたようで、班のメンバーたちは既に集まっていた。

 

「ーー・・あっ、清澄!おはよ」

 

「海道くん!おはようございます!」

 

 ソフィアと青鷺から爽やかな挨拶を受けるが、一つ気がかりなことがあった。

 

「あぁ...って、ソフィアは別クラスじゃ..」

 

『えぇ、万が一に通訳が必要だからね。変えてもらったの。』

 

 そう聞くと彼女はなぜか上機嫌そうにそういった。

 

『外交特権か。』

 

 いや、もう必要ないだろ。と思ったが、ここは乗る事にした。

 

「ふふっ、そんなところよ。」

 

「...まだ、話せない事にしているんですか?」

 

 いつものように彼らだけの空間になりつつあった中、久留米がそこに入り込んだ。

 

「!?...環奈。ロシア語わかるの?」

 

「えぇ、時々お二人だけの会話を楽しんでらっしゃるので、少し勉強しました。」

 

 久留米はにこやかに微笑みながらも、目の奥からしたたかさを感じた。

 

「す、すごいわね...」

 

 ソフィアは久留米の執念に近い何かに感嘆していた。

 

「それで、どうなんですか?」

  

 久留米は悪戯に笑顔を浮かべながら、彼女の真意をすでに知っているかのような様子で聞き直した。

 

「..まぁ、話せない方が話しかけられたりしないし。それに..」

 

ソフィアは言いずらそうにそう言い、ちょっと心配そうに親身に聞いている彼を見て何を言いかけた。

 

「?」

 

「うんうん。変に付き合いができちゃうと、私との時間が少なくなっちゃいますからねー、わがります」

 

 なんとなくソフィアが言おうとした事を察した久留米は、彼女を抱き寄せ陽の光で天使の輪っかができている頭を撫でた。

 

「なっ..ちょ...人前で...」

 

頭を撫でられている心地よさと、それを見られている気恥ずかしさの狭間で葛藤していた。

 

「ふふっ、では後でゆっくりと...」

 

「違っ..清澄!違うからねっ!!」

 

「?...仲良いな。お前ら」

 

 久留米が意味深なことを言ってソフィアは何か弁明しようとしていたが、彼にとってはいつもの光景だったので特に変わりなかった。

 

「だから違っ..」

 

「・・海道くーんっ!」

 

 そうしていると、白髪の天使がこちらに手を振りながらこちらに向かってきた。

 

「へへ、おはようっ!」

 

「...天使。」

 

走ってきた事で体が若干火照っているのか、頬が赤らんでおり、無防備に晒されている真っ白な首筋から、人を惑わす何かが醸され、まさにこのまま天へと召してくれそうな天使を連想させた。

 

「うぇ?!ど、どうしたの急に///」

 

天使は白木にとってポジティブな意味で捉えられたようで、案外満更でもなかったようだった。

 

「いや、なんでもない...つい神々しくてな。」

 

「もぅ//...からかわないでよぉ」ポンっ

 

 そのままゴールインしかけた彼は、またもや天使のせせらぎに耳をすませていた。

 

 

 

 

そうして、集合時間を迎え新幹線へと向かった。

 

「ーー・・どうする?」

 

席は対面4席となっており、青鷺、久留米、ソフィアはともかくとして、一人あぶれる形だった。

 

「...俺が後ろの席に行く。」 

 

 ここで横着してもだったので、俺から率先して後ろの席へと向かった。

 

「えっ..あ..」

 

「そっか..なんか、ごめん。清澄。」

 

 彼女らは申し訳なさそうというか、どこか残念そうにも見えた。そして、彼はもう後ろへと向かっていたため反論の余地がなかった。

 

「あ....あと、白木は貰っていく。」

 

 一方で、彼の思惑としては、女子会組に白木を渡したくなく、先手を打って白木をなんとしてでも白木したかっただけだった。

 

 思ったよりも軽い白木の華奢な体は、た易く彼の胸元まで引き寄せられた。

 

「ぁ...ん、うん//」

 

小さな悲鳴が漏れたが、白木は抵抗しようもなく、肩を竦めて彼の男らしい体に身を寄せていた。

 

 

「「「....。」」」

 

 颯爽と天使が大きな狼に颯爽と攫われた様子を見ていた、彼女らは呆気に取られていた。

 

「...なんか、その...いいわね。」

 

「「うんうん。」」

 

 ソフィアが思わずそう呟くと、何がとは明言しないものの何か良いものを見たよね。と高鳴る何かを共有していた。

 

 

 

 

(...しら可愛い。)

 

  そして、席についてしばらくして、外の景色を見るふりをして、白木の綺麗な横顔を眺めていると、こちらの視線に気付いたのかこっちにお顔をむけてきた。

 

「・・僕、京都行った事ないから、楽しみだなー」

 

「..そうなのか?」

 

 一瞬、白木を見ていたのがバレたのかと思ったが、杞憂に終わった。

 

「うん、中学の時は海外にいたから。行きそびれちゃったんだ...」

 

「そうだったのか、ちなみにどの国に居たんだ?」

 

 そこそこ関わって入るものの、白木のことに関してまだ知らないことも多く、もっと白木の事を知りたかった。

 

「うーん。ヨーロッパ中を転々としてたかな..」

 

「なら、ソフィアとすれ違ってたりしてな。」

 

 ちょうどその頃も、ソフィアも欧州を転々としていたらしいので、その可能性は十分にあり得た。

 

「あー、ソフィアさんもそうだったね...もしかしたら、そうかもね」ニコッ

 

 白木はどこか含みのある表情をしていたが、それを掻き消すように満天の笑顔をこちらに向けた。

 

「ふっ...あぁ。」

 

 その無垢であまりに可愛い笑顔に、思わず白木の頭に手のひらが吸い込まれた。

 

「ぁ..っ..へへ、くすぐったいよぉ。海道くん...」

 

 初めは驚いた様子だったが、白木は気恥ずかしそうにしながらも、にこやかに彼の撫でる手に身を任せていた。

 

(...やばい、止まらん)

 

 この空気が、白木との空間が心地良すぎて色々と止まりそうになかった。

 

 

「・・やっぱり、いちゃついてましたか...」

 

 しばらくイチャイチャしていると、久留米がひょっこりと顔を見せに来ていた。

 

「いちゃっ///..違っ」

 

「違うのか?」

 

 反射的に否定していたのを見た彼は、寂しそうな表情で白木の赤く染まったお顔を覗いた。

 

「いやっ..違わな...もぅ!からわわないでよぉ..」

 

 それを見た白木は、一杯一杯になり思わず彼の肩におでこを乗せた。

 

「つい可愛くてな、悪かった。」ヨシヨシ

 

 流石にからかいすぎたと白木の天使の輪っかが乗っている頭を撫でた。

 

「...か..海道くん..」

 

「..白木..」

 

すると、先からずっと甘々な空気に打たれていた彼女は、珍しく子供みたいに止めに入った。

 

「もーっ、私の前ではイチャイチャ禁止ですっ!」

 

「はっ...危ない...」

 

 彼女のおかげか、彼女のせいなのか、兎にも角にも召されかけた意識が無事に帰着した。

 

 

 

そうして、旅館に手持ちの荷物を置いた後、早速に班別行動へと移った。

 

「ーー・・うわぁ...これが日本のお寺なのね。教会とは全然違うわね」

 

清水寺に向かう途中、ソフィアは神社のことをお寺と思って感嘆していた。

 

「いえ、ここは神社ですね。」

 

「え、そうなの?お寺と何が違うの?」

 

「お寺には仏像が、神社には御神体が祀られてて、大きな違いは、人の目に触れるかどうかかな。」

 

「像?御神体?」

 

「えぇ、礼拝の対象がお寺では仏像のご本尊、神社では神様の依り代となるのがご神体。」

 

「難しいわね...」

 

日本人もよく理解できていないことのため、ソフィアもあまりピンと来ていないようだった。

 

「神社は神道、お寺は仏教が信仰されてると言ったとこだ。」

 

「「「へぇー」」」

 

 彼の補足に青鷺やソフィアらは妙に腑に落ちていた。

 

 

 そうして、清水寺のふもとから少し歩いたところ、慣れない坂にじわじわとふくらはぎが張り始めていた。

 

「...それにしても、登り坂が長いわね。」

 

「そうですね...はぁ...スゥ」

 

 それに同調した青鷺は明らかにニコチン不足で息切れしていた。

 

「ちょっと、みなさん。運動不足が祟ってますよ」

 

「まぁまぁ、少し休憩するか。」

 

 意外にも平気そうにしている久留米は皆を鼓舞していたが、ちょうど雰囲気の良い茶屋が目に入ったので、彼女を宥めてそこで休憩することにした。

 

 

「ーー・・うわぁ...すごい壮観ね...」

 

案内されたのは、ししおどしの鳴く音がこだまし、底まで透き通っている池には綺麗な模様を纏ったお魚が悠々と泳いでおり、慎ましくも趣のある庭園を一望できる2階の畳の居室だった。

 

「何だか落ち着くわね。」

 

 着物の店員の方は、彼女らの反応を微笑ましく眺めていた。

 

「ふふっ...ご注文がお決まりになりましたら、お呼びかけください。では失礼します。」

 

 着物を着た店員さんの浅く一礼し、正座で襖を閉じるといった自然な動作一つ一つの動作は洗練されており、この茶屋のおもてなしを如実に感じられた。

 

「...素敵な着物でしたね...」

 

「うん、すごい綺麗だったね。」

 

 青鷺や白木は先の店員の方の所作や振る舞いに感嘆していた。そして、何より整った顔立ちと柔和な表情、穏やかな声音などどこをとっても綺麗だった。

 

「てっきり、一見さんお断りかと思ったのですが」

 

久留米は店に入ったものの、内装はかなり洗練されており店員の振る舞いも普通ではなかったので、てっきりそういったお店だと思っていた。

 

「それに、ここも一学生にはもったいない気がするんだが...」

 

ここ二階の畳の居室からは丁度庭園を一望できるため、一回の学生には贅沢な気もした。

 

「そうよねっ、普通当たり前じゃないわよね」

 

ソフィアは日本ではこういうのも当たり前かと思っていたが、彼の発言からそうではないと確信した。

 

「まぁ、そういう日もありますよっ!」

 

「そうだな。」

 

 実は隠れ家的な茶屋ってこともありそうだったが、考えても答えは遠そうだったので、今は楽しむことにした。

 

 

そうして、気兼ねなく寛ぎながら、適当におすすめの品を注文すると程なくして品が届いた。

 

「ーー・・坊ちゃんセットどす。お茶はお熱いさかい気ぃつけとぉくれやす。」

 

「どうも。」

 

 彼は先の店員の方から、この茶屋のオススメの品を受け取り年季の入った机に並べた。

 

「うわぁーお、映画で見たまんまだ。」

 

 ソフィアは日本の時代劇に出てきそうなラインナップに舌を巻いていた。

 

「美味しそうですね!」

 

「食べるのが勿体無いよ..」

 

 そして、白木は綺麗に整頓された餡とお団子をあぐねていた。

 

「ふふっ..では失礼致します。」

 

 店員さんはその様子が微笑ましそうに見ていたが、居室から退出しようとした時、彼に胸ポケットを確認するようジェスチャーした。

 

「?...紙。」

 

 言われるがまま胸ポケットを確認すると、メモ用紙を折り曲げて入っていた。

 

「なぁ、これ...って...」

 

 そして、これが何なのか確認しようとすると、彼女はすでに行ってしまっていた。

 

「.....。」

 

 紙を開くとそこには、そこにはラィインのIDが書かれており、まぁ、そういう意味だよなと眺めていた。

 

 すると、その様子を見た青鷺はチラリとその紙を覗き見した。

 

「ん?何ですか、その紙は....ラィインの、ID?」

 

「「「っ?!」」」

 

 彼女の一言で、周囲の空気は震撼し、隣の久留米が真っ先にその紙を取り上げた。

 

バッ!

 

「っ...おい。」

 

「...これは、先の店員さんからですか?」

 

 咎めようとした彼を押して、久留米は微笑んではいるものの、浮気を詰めるような雰囲気で問い詰めてきた。

 

「あ、あぁ..。」

 

 なぜか後ろめたさを覚えながらも、事実を容認した。 

 

「えっ、どういう事?!」

 

 青鷺は何のこっちゃと言った様子だった。

 

「ワァーオ。」

 

「海道くん、すごいね...」

 

「いや、違うんだ..白木っ、これは...」

 

 白木は彼が誘ったものだと勘違いしており、若干引き気味というか、どこか要領を得ない表情をしており、彼は慌てて弁明しようとした。

 

「はぁ、まぁ私がどうこういう事でもないですか...」

 

彼がどうしようと、彼女でもない久留米は自分がどうこういう事でもないと思いあっさりと紙を返した。

 

「....あぁ。」

 

「「「.....。」」」

 

 彼は受け取った紙をしばらく眺めていると、彼女らがそれをどうするのか固唾を飲んで見つめていた。

 

 

「....はぁ。やれやれ」

 

 彼は傍目でジリジリとこちらを見ている久留米たちを一瞥し、胸ポケットに入れ茶柱の立った温かいお茶を啜った。

 

 

 そのあとは、普通にお茶を楽しみ数十分ほどくつろいだところで茶屋から出た。

 

「・・ご馳走様でした!」

 

「はい。またのお越しをお待ちしております。」

 

 にこやかに着物の店員の方は、礼をして見送ってくれていた。

 

 

「..あっ、そういえばお会計って...」

 

「さっき海道くんが払ってましたよ。」

 

お店から出た青鷺は、お会計をしていないことに気がついたが、彼が既に払っていたようだった。

 

「えっ、あ、払いますっ!」

 

「私もっ」

 

 いつの間にか賄ってくれていたとはいえ、流石にこう言ったのは申し訳なさを感じていた。

 

「要らん。」

 

「え、しかし...」

 

「ふふっ、海道くんの顔を立てると思って甘えましょ」

 

 男を立てるのが上手い久留米はそう言って、彼女らを説得した。

 

「ふーん、そういうものなのね。ありがと清澄っ」ニコッ

 

「あ、ありがとうございますっ!」

 

「ありがとう海道くん!」

 

久留米に言いくるめられた彼女たちは素直に感謝していた。

 

 

 そうして、居心地の良い茶屋で一息ついた彼女らは、清水寺の本殿へと向かっていると、近くからチーズの焼ける匂いが鼻腔をくすぐった。

 

「クンクン...なんか良い匂いするわね。」

 

「ほんとですねー...あれですか!」

 

 匂いの先には、チーズを湯葉で挟んで焼いたものが売られていた。

 

「湯葉チーズ焼きですね。」

 

「湯葉?」

 

 聞き慣れない単語にソフィアは頭を傾げていた。

 

「えぇ、薄い豆腐みたいなものですね。」

 

「日本人は余すことなく何でも食べるのね...」

 

「ふふっ、私買ってきますね。五個で良いですね?」

 

 彼女が感心していると、久留米が買いに行ってくれた。

 

「はい。どうぞ」

 

「うわぁ、美味しそうっ、いただきます!」

 

「「「美味しいっ!」」」

 

「これ、いくらでも食べれるわね!」

 

「うんうん!」

 

 彼女らは新感覚の食べ物を堪能していると、その味で海馬が刺激され、彼の前の世界の記憶がフラッシュバックした。

 

「上手いな...あっ、そういえばこの辺に生抹茶アイスがあるんだが...」

 

「..生抹茶アイス!どこですかっ?!」

 

 湯葉チーズを平らげた青鷺は、食い気味にその単語に食いついていた。

 

「あー、確か清水寺を通って少し行ったとこに...」

 

「行きましょうっ!」

 

「おい..」

 

既に抹茶アイスの口になっている青鷺は、彼の腕を掴んで先へと進もうとしていた。

 

「良いわね、抹茶アイス。しょっぱいもの食べたら、甘いもので口直ししないと」

 

「無限カロリーですね。」

 

「ぐっ..帰ったら、清澄のジムで消費するし!」

 

 久留米の指摘に、ソフィアは何とか己を説得していた。

 

「おい、俺んちでかよ...」

 

 いつの間にか、彼の家のジムでのカロリー返済が決まっていて、思わず呟きが漏れた。

 

「ダメかしら?」

 

「...まぁ、良いけどよ。」

 

 彼女の当たり前でしょ?という既定路線的な態度に渋々納得すると、なぜか久留米と青鷺、白木も参加することになった。

 

 

 そんなこんなしていると、清水寺の本堂への入り口を通過するにあたった。

 

「..ここからが本殿ですね。」

 

「うわー、ここからでも十分に綺麗ね」

 

「そうですねー!」

 

 右手の方には秋がかかった紅葉が豊かな自然を色付けていた。

 

「..ん、あれは何?」

 景色に魅入られていたソフィアは、行先のオブジェが目に入ったようだった。

 

「これは、弁慶の錫杖と下駄ですね。」

 

「弁慶?さんの持ち物なのね。」

 

 ソフィアはあんまり興味なさそうにしており、実際、確かに昔の人の持ち物と言われてもピンとこないものである。

 

「..ぬくっ!..っと..上がらないですね...」

 

 そんな中、青鷺は中心の一番質量のある錫杖を抜こうとしていたが、上がりはしなかったものの確かに動いてはいた。

 

「今ちょっと動きましたね、なーちゃん結構力持ちですね...」

 

「バイクとか結構重いからな。」

 

普通バイクだったら200kgはあるわけで、それを暴走族時代に扱えているのであればない話ではなかった。

 

「なっ、か弱い女の子になんてこと言うんですかっ」

 

 それに、なぜか妙に様になっているファイティングポーズを構えながら、反論している彼女からは、それ以外にも色々と腕っぷしを活用していそうなので見てとれた。

 

(...こいつ、結構やってるな。)

 

「それ、96kgはあるぞ。」

 

「ぐっ...」

 

 とはいえども、か弱い女の子は96kgの鉄の棒を動かせないものである。

 

ギィっ

 

「ふんっ...うーん。まぁまぁね。」

 

すると、ソフィアがサラッと96kgの錫杖を両手で上げていた。

 

「「「....。」」」

 

「...そ、ソフィアさん。何者なんですか...」

 

「凄い。」

 

「無差別級いけるな。」

 

 若干ドン引きしている久留米だったが青鷺は尊敬の眼差しを向けており、彼はソフィアが世界チャンプのトロフィーを掲げている未来が見えていた。

 

「っ!...うぅ、いろんなスポーツしてたら力がついちゃったんだもん。」

 

 ソフィアはやってしまったと、なぜか反省していた。

 

ギィっ!...ドンっ!

 

「...まぁ、こんなもんか。」

 

 特に意図したわけではないが、ソフィアの印象を塗り替えるかのように、彼は片手で彼女があげた錫杖を持ち上げ、降ろした。

 

 

「スゲェ...」

 

「やばくない?」

 

「片手?!」

 

「スポーツ選手なのかな?」

 

ソフィアたちのみならず、その様子を見ていた人たちは感嘆の拍手をしていた。

 

 

「...海道くん、ほんと何者なんですか。」

 

「海道くん!凄いなぁっ!!」

 

 久留米はソフィアの時以上に引いており、青鷺は少年のような目で彼を見ていた。

 

「....ありがと。」

 

 そして、ソフィアは彼の背中あたりに近づいて、感謝を呟いていた。

 

「うぅ....っは、へへ..ビクともしないや。」ニコッ

 

 そんな中、一応白木も挑戦しており、顔を窄めながら力を込めても少しも動かなかったが、どこか清々しそうに笑顔でそうつぶやいていた。

 

「「「可愛い。」」」

 

 彼女らはそう言いつつも、これが女子に求められる反応なのかと白木に思い知らされていた。

 

 

そうして、彼女らは清水の舞台に到着した。

 

「...うわー、壮観ねっ!」

 

「そうですね。」

 

 ソフィアたちが感動している中、久留米はどこか見慣れているかのような反応だった。

 

「環奈はあんまり感動ないのね...」

 

「結構頻繁に行ってるのか?」

 

「えぇ、正直、両親が旅行好きなので、幼稚園くらいから京都は毎年行ってます。」

 

 確かに、京都に住んでる人だったら子供の頃から観光名所は大体見飽きているであろうし、同様に久留米からすれば見飽きた景色になってしまうのは致し方ない事であった。

 

「ふぇー、そうなんですね。毎年この景色が見れるなんて素敵ですね!」

 

「ふふっ、そうですね。」

 

 青鷺は無垢な笑顔でそう言い、久留米の鈍ってしまった感性を暖めていた。

 

「....。」

 

 久留米が青鷺の頭を撫でている様子を見ながら、彼は青鷺やソフィアたちがいれば、何度目かわからない京都旅行でも久留米も楽しめると思い、静かに安堵していた。

 

「海道くん。楽しそうだね」

 

「そうか?」

 

 無意識に表情が弛んだのか、白木はそのわずかな変化を隣から感じ取っていた。

 

「うん。なんか僕も嬉しくなる」ニコッ

 

 花開くような眩い、白木の笑顔はやはりどこまでも素晴らしく可愛かった。

 

「なぁ..白木。なんで....」

 

 タガが外れたように、白木のことをもっと知りたくなり、つい気恥ずかしい事を口走りそうになる。

 

「..おーいっ、海道くーん、春ちゃん!行きますよー!」

 

「あ、あぁ。」

 

気づけば先へと向かっていた青鷺からの声で、意識が正常になり、口から何かが溢れないように手で口を押さえた。

 

「?...行こっか、海道くん。」

 

 白木は彼が何を言おうとしたのか気になったが、彼女らを待たすわけにもいかないため、彼の手を引いて彼女らの方へと向かった。

 

(...白木なら..)

 

 白木のしなやかな手から、白木の体温が伝わり彼の中の無意識の隔たりは、ゆっくりと融和しつつあった。

 

 

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