レプリロイドは電子狼の夢を見るか   作:きしめん陰陽師(五寸釘装備)

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執拗なる呪術戦士 DEATHSTONE CURSEFOX

 レプリフォース。

 イレギュラーハンターよりも政府に近しいながらも、様々な事情から、イレギュラーハンターよりも弱い立場であることを政府に望まれる組織。

 武力において弱い訳ではない。

 しかし、その立場は冷遇されている事を望まれる。

 

 その理由としては、釣った魚や忠犬には餌を与えず、釣ろうとする魚や野良猫には餌を撒く政府としての対応であったり、レプリフォースがレプリロイドのみで構成されている点もあるが、何より総司令官(ジェネラル)が政府と渡り合えるだけの思考力を有している事は無視出来ない。

 

 ジェネラルを廃すれば、レプリフォースとしての機能が大幅な低下を予測される事もあるが、軍がそれに反発して蜂起しかねない。

 少なくとも私はそう認識している。

 

 

 シュリンプァーの一件は引き下がったが、アレは軍としてもイレギュラーとしてシュリンプァーを認識していた。

 

 しかしキバトドスの場合は違う。

 イレギュラーハンターとしてイレギュラー認定したキバトドスを、イレギュラーではないと判断した軍が引き取った。

 その認識が軍内で変更される前にキバトドスを破壊した。

 

 勿論、不幸な事故に見せ掛ける事も可能だ。

 その為のトラップでもある。

 

 しかし、キバトドスがイレギュラー化していたかどうかは、その死に方とは異なる話となる。

 当然イレギュラーハンターとしては、認定当時からずっとキバトドスをイレギュラー認定しており、それが正しかったという対応を取る。

 少なくとも現場指揮官であった私はそう報告した。

 

 

 キバトドスはイレギュラーハンターとの共闘を軍に命じられていた筈なのに、友軍を攻撃し始めた。

 その結果、セラミックブライニクル現象に巻き込まれて機能停止した。

 嘘は何一つ含まれていない。

 

 これはキバトドスを引き取った軍の判断そのものが誤りであった事を示す材料となり、ジェネラルを抑えたい政府の高官達も賛同する話だ。

 文民統制とは、軍の最高指揮権が政府であるということ。

 全ての民が軍より偉い訳では決してないが、民を支配する最高の者達は、軍よりも偉いというものだ。

 

 しかし、ジェネラルが優秀過ぎて、政府が従って貰えているといった感覚は否めない。

 これは良い機会だった。

 

 

 

 

 

 

 そう考えていたのだが…。

 結果、ジェネラルは一切の反論も無くキバトドスの件を謝罪した。

 しかし、「キバトドスに従って同行した、その他の軍人については名誉を保証されたい」と。

 ジェネラルの判断力の不足に付け入ろうとした結果、事後対応によって器を見せ付ける機会に利用されてしまった。

 私が臨時ハンターベースに帰る頃には、全てが転がされていた。

 

 私の所には、秘匿回線で数名の政府高官からの叱責が幾つも流れてきている。

 私が政府に迷惑をかけてしまった。

 

 必要とあれば自壊したい程度には後悔している。

 もう少し政府のお役に立てる方法は無かったものだろうか。

 

 

 

 

「レトナ、お疲れ様。

暗いけれど、何かあった?」

 

「表情に出していたつもりは無いのだけれども」

 

 エイリアに指摘されたので、表情の状態を確認するが特に平常時と変わりは無い筈だ。

 

「確かに表情の変化は大きくないけれど、見ていれば何となく分かるものよ?」

 

 …少なくとも、エイリア以外には指摘されていない。

 流石に高度な情報を高速並行処理可能なレプリロイドだ。

 けれど流石に言えない。

 エイリアは、巻き込めない。

 

「…最近はパフェを食べる時間もない」

 

「……………。

…そうね、全てが終わったら二人で(・・・)パフェ巡りに行きたいわね」

 

 エイリアの視線は、哀しそうだった。

 きっと、彼女もパフェが食べたかったのだろう。

 

 

「ごめん」

 

 そういう事にするのが、一番良い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 以前討伐計画として申請していたデスストーン・フォッカーズだが、現在ではドップラー軍との戦争が激化しており、ドップラー軍と無関係なイレギュラーへの対応優先順位は低い。

 

 だからだろうか。

 フォッカーズにドップラー軍が接触した可能性があるという情報に飛び付いてしまったのは。

 今度こそ、今度こそ政府に認められる成果をあげなければならない。

 レプリロイドはその成果こそ存在意義。

 成果を出さないレプリロイドが存在をしようとすることが有害だ。

 

 人は信じたいものだけを信じる。

 私はそれを理解していたが、作戦の実行を開始した。

 

 

 

 

 

 

 この世界でも特有の貧困地域ディーキキン。

 ここ最近は気候が安定して緑も増えて来たが、嘗ては干魃や洪水に襲われていて、その上気候調整クリスタルを導入するだけの資金や経済的・防衛的価値が無いとされてきた場所。

 

 代わりに納税が滞る状況を目溢しされてきた経歴を持つが、現在では気候の安定と共に農業が栄えてきた。

 

 政府資金が流されていない中で、近年の農業的にはほぼ完全に近い気候は、元気象コントロールセンター上級研究員でもあったフォッカーズの影響が見え隠れする。

 

 

 実際に辿り着くと、予想もしていなかった穀倉が広がっている。

 その映像を政府にも転送した。

 

 私服に着替えて近くの山の中を調査すれば、隠し田の様なものまで幾つも見付かった。

 これ程までに簡単に見付かる隠し田でこれだけの数があるのなら、更に多くの隠し田が未だ存在するはずだ。

 

 

 

 散策中に、人間の少年を見付けた。

 相手も此方を呆けた様に見ている。

 

「一つ聞いても良いかしら」

 

「…は、はい」

 

 現段階では特に犯罪者でもない少年には、情報を聞き出しやすいように、人間が優しそうと感じる口調と声色を使うと、少年は赤面しながら返事をした。

 

 

「この辺りに、キツネのイレギュラーがいると思うのだけれど知っているかしら」

 

「お前っ、ウカノ様をっ!? 俺は何も知らないっ!!」

 

 

 そう言って少年は逃げるように私と反対方向に駆け出した。

 いや、事実として逃げていた。

 

 

 

 ウカノとは、フォッカーズの偽名なのか、それとも無関係な別の人物なのかは分からないが、追い掛ける必要はありそうだった。

 

 少年に野鳥の偽傷のような錯乱をさせないためにも、敢えて私はセンサーで終える範囲で距離を広げながら追跡した。

 

 

 

 

 

 少年はある位置で停止している。

 その場所を衛星写真で撮影依頼すると、そこに何かあると確信した上で注視すれば、見つかる程度の人工的な何かが広がっている。

 

 私はそこへ向かって一気に駆け出した。

 

 

 

 

 

 隠し里の様なものが近付くと確認出来た。

 しかし、その入口には多くの人々が立っている。

 

「なんて、別嬪さんなんじゃ」

 

「油断してはいかん。ウカノ様の事は話すで無いぞ。決してな」

 

 

 人々の囁き声もセンサーには回収されている。

 暫くどよめかせておこうと思っていたが、回収出来る情報が画一化してきたので、此方から話すこととする。

 

 

 

「すみません。獣人のレプリロイドについて聞きたい事があるのですが」

 

 老人が一人進み出た。

 

「貴方が代表ですか?」

 

「如何にも。

此処には傷付き汚れて逃げ延びて来たものばかり。

しかし今はお偉方の手を煩わせる事は何一つしておりませぬ」

 

 

 小声の老人の声だけが通る。

 他の者達は何一つ口を挟まない。

 

 

 だが、私もここでフォッカーズは見付かりませんでしたと引き下がる訳にはいかない。

 これ以上、政府に失望されたくない。

 その為には何としてでも此処でフォッカーズを処分するという実績が必要となる。

 

 搦め手でいくとしよう。

 

 

「アイヅ・ドロン、十五年前に宝石店を襲い貴金属類を強奪。

サヌキ・ヤキウティー、十三年前にアグリカンパニーに放火未遂。

ドウミン・クメイグン、十年前に反政府運動に参加。

エドー・ソンゾクサツ、三十年前に孤児院の経営者一家を襲い殺害して、他の孤児達と逃亡

マミ・ロウサギー、三年前に飼育を禁止された動物の繁殖と販売。

ソネザキ・カケヲチン、二年前に政府高官の一人娘を誘拐して失踪。

オーヌマ・シカリー、二十八年前に希少な植物の密輸入を主導───────」

 

 

 前に立つ人々を見回しながら私が話しているのは、現在行方不明となった逃亡中の犯罪者の名前と犯行内容だ。

 

 人々は徐々にざわめきだしている。

 自分達の経歴を知るものがいない場所で、罪を無かった事にして生きられるつもりだったのかもしれない。

 だが、検索をして経過した年齢に合わせて修正をかければ、一致させられるものは幾つかあった。

 

 

 

「あ、今アイツを殺せば、全部収まるんじゃねえか?」

 

「でもそれは…。妻と娘は守りたいが…」

 

「いや、それしかない。それしかないだろっ!!」

 

 聞こえている。

 全て筒抜けだ。

 犯罪者はどうあっても犯罪者。

 犯罪者になったから社会復帰が難しい訳では無い。

 元から欠陥のある異常者として生まれたから、犯罪へのハードルが低いだけなのだ。

 

 通信で政府への、人間攻撃許可を申請すべきか考えていた。

 これはあまり使い過ぎると、危険なレプリロイド(イレギュラー候補)と見做される可能性が高まるので、なるべく使いたくはない。

 

 私は人間攻撃許可という汚名と、フォッカーズ討伐失敗という汚名とを天秤にかけていた。

 

 

「みな、静かにしてくれぃ」

 

 前に出た老人が鎮めようとしているが、己が捕まる末路に怯えた者達には届かない。

 

 

 

 それを鎮められる者が奥から出て来た。

 

 

「皆、鎮まりなさい。

レトナ・レノォーク。貴方の目的は私。

違いませんか?」

 

 …見付かった。

 デスストーン・フォッカーズ。

 私の標的(ターゲット)

 

 

「ウカノ様!?」

 

 

 

 やはり、村人達の言う『ウカノ様』はフォッカーズだったか。

 

 

 

 

 

「レトナ、貴方には話したい事もあるのです。

私にとっても娘の様な存在ですからね」

 

「……はっ?

……話す必要はない。

話さなくても、そのチップを解析すれば方が付く」

 

 

 気にならないと言えば嘘になる。

 私の出生に関わりがあるということも、計画作成当時の私にとってはフォッカーズ討滅作戦の理由になっていたからだ。

 そんな余裕がない今となってはともかく、少なくとも当時そのつもりだったのは事実だ。

 

 

「これでも研究者の端くれ。

破壊されるのならチップにロックを掛けて破壊しますよ。

…場所を変えましょうか。

これから話す事を彼等に聞かせれば、政府が本気になって彼等を神隠しにするでしょう?

戦うにしても、被害は少なくしたいので」

 

 余裕がある程度だ。

 

 フォッカーズは村人達が機密を知れば、全員殺されると確信しているようだが、さあどうだろうか。

 少なくとも、政府が吟味した上で適切な(・・・)沙汰は下るだろう。

 その結果が全員死罪ならば仕方が無い事だ。

 

 

 

 

「構わない」

 

「ありがとうレトナ」

 

 

「ウカノ様ッ!!」

「ウカノ様ッ!!」

 

 

 人々が止めるが、私とフォッカーズは彼等が着いて来られない場所まで移動した。

 

 

 

 

 

 村からはすっかりと離れて、木々もない本来のあるべきディーキキンの罅割れた大地へと辿り着いた。

 

 

「さて、何処からか話しましょうか。

プロジェクトゴスペルの初期メンバーは、私とサーゲスと後数名と……おおよそがイレギュラー指定になってしまったりして破壊されてしまった事ですかねえ」

 

 その内容は、苦笑しながら話す事ではない。

 

「私を作った後にイレギュラーになったのなら、問題は無いだろう」

 

 そう。

 イレギュラーが悪意によって開発したというので無ければ問題はない。

 これまでドップラー以外にも科学者レプリロイドのイレギュラー指定はあったが、彼等によって作られたレプリロイド全てもイレギュラー指定にしていたら、成り立たなくなる。

 

 

「そう。

その通りです。

例え私達がイレギュラーとされたとしても、私は君に友と語らえる明るい世界で生きる事を望んでいる。

────尤もサーゲスは、Σウィルスの感染とは別だったっ!!」

 

 これまで飄々と語っていたのに、サーゲスに対しては憎々しさを隠していない。

 

 

「あの男はっ、誰よりもレトナの誕生に関わった。

彼の技術は私でも理解出来ないものが多く、別格の天才だった。

彼がいなければレトナは完成しなかった。

彼こそがレトナの多くを決めた。

私は彼を尊敬していた。

だが、サーゲスは世界への絶望という闇を抱えていた。

その為なら、君に世界を壊させようと考えていた。

私は…、その危険性に気が付いていた。

そしてそれを追及した。

君に破壊以外の可能性を与えたいというと、サーゲスは発作の様に叫び私を殺そうとした。

「ライトの様な事を言うなっ!!」とね」

 

 ライト…。

 聞き覚えがある。

 ログには無い誰かの、名前。

 

 

「サーゲスは闇の住人であった。

けれども、その根底には己の才覚を認められない事に絶望する努力家という、共感を呼ぶものがあった!!」 

 

 ボルテージが上がっているようだ。

 先程までの温厚さは見られない。

 

 

「だがあの男をは違う。

あの男だけは違ったっ!!

サーゲスを庇い、私を追放したあの男はっ!!

他の仲間達も破滅させた男はっ!!

プロジェクトゴスペルで唯一人間であったあの男は─────────」

 

 緊急通信が入った。

 

 

【最優先命令 CODE004 デスストーン・フォッカーズを速やかに破壊せよ】

 

「了解。これより任務を遂行する」

 

 

     Destroy Target     Destroy Target     Destroy Target     Destroy Target

──────────────────────

 

WARNING

 

  ──────────────────────

     Destroy Target     Destroy Target     Destroy Target     Destroy Target

最優先破壊対象『デスストーン・フォッカーズ』

 

 

 

「くっ、■■■■■■■(検閲により削除)めっ。

許せレトナ!! 機神召喚!!」

 

 フォッカーズは巨大なライドマシン兵装を転送した。

 また通信が入った。

 

【最優先命令追加事項 CODE002】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気が付けば私のエネルギーは底をつく寸前であった。

 周囲には壊れたライドマシンの残骸。

 そして、足元には火花が散るフォッカーズの頭部。

 

 一体何が起きたのか分からない。

 幾つかの可能性はあるが、それが分からない。

 

 

 

「レト…ナ、きみ…に…どうか……さち…あ…れ」

 

 機能が停止した。

 政府からフォッカーズの回収を行うので、そのままにしておくようにとの連絡があり、私は恐らく了解と答えた。

 

 

 

 

 

 何故なのだろう。

 私は任務を達成した。

 政府からも良くやったと秘匿回線で電報が届いている。

 …だというのに、だというのに、人の様に泣けない事がこんなにも苦しいと感じたのは。

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