レプリロイドは電子狼の夢を見るか   作:きしめん陰陽師(五寸釘装備)

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忍び寄る刃時雨 SLICER SLIMESLUG

 スライサー・スラックジーの討伐計画が要約受理された。

 かなり練った計画なので、通せて良かった。

 政府への計画書は、隊長への計画書の数倍の量が必要であったが、それこそ私の役割なので苦にはならない。

 これで、また一体のイレギュラーを屠れる。

 しかも元副隊長格とは素晴らしい。

 

 今回も包囲戦としたいのだが、森という足元が草に覆われた場所で、液体金属の体によって地面スレスレで蠢く配下を持つスラックジーを相手に、森の中に入って立ち止まるのは悪手。

 理想はこの森ごと焼き切ってしまうのだが、それに反対する動物愛護団体や自然保護団体が邪魔なのか、そちらの許可は降りなかった。

 

 よって、水源地に寄生洗脳効果付きのメタルロータスを散布する。

 これによって、森林の生物を支配下におけば、効率的に敵と相対出来る。

 

 長期の寄生型メタルロータスは、あまり同時に多くは作れない上に、そもそも稼働する期間が短いので、エネルギー補充の為に寄生対象からエネルギーを貰う機能も付けた。

 

 

 何体か大型のネコ科動物にも取り憑いたようだが、問題はない。

 警備用レプリロイドのシャイニング・タイガードには、政府から話が進んでいる筈なので、逆らうようならイレギュラー認定だ。

 ある程度の動物の犠牲で抑えられるのなら、後から該当する種を増やし直せば良いという判断は下りている。

 

 

 代わりに、この作戦期間である数ヶ月は、密猟者に対してやり過ぎてしまったとしても(・・・・・・・・・・・・・)事故として処理する契約になっているとのこと。

 但し、やるのならしっかりとやれ(・・)と。

 

 

 

 しかし、残念な事に殺すつもりで襲った密猟者が、逃げ延びてタイガードによる被害を主張し始めた。

 残念。

 そうなったらタイガードを消すしかない。

 折角これまでは、家に帰って来ない密猟者の家族からの通報で来たエックス隊長達を追い返していたのに、実に残念だ。

 そしてこれからはイレギュラーと判定する事になったので、殺す事は最早残念でもない。

 寧ろ殺す。

 是非殺す。

 イレギュラーなら殺さないといけないのだから。

 

 タイガードにとって喜ぶべき情報は幸い一つある。

 政府と密約した密猟者限定の殺害許可がバレては困るので、逃げ延びた密猟者は家族に本当の仕事を打ち明けて、今ある虎革を売ったら、明日から真面目に働くと宣言した日に、家族共々不幸な事故(・・・・・)に遭った事だ。

 エイリアに「やった?」と聞いたら、「今回は私じゃない」とかなり不機嫌に言われた。

 政府に仕事を振られたのが自分で無かった事が、悔しかったのだろうか。

 エイリア、その気持ちは分かる。

 

 

 

 

 折角、エックス隊長達に政府の出した『事故証明書』を提出してタイガードを庇って来たのは、それ程の費用対効果は無かったと結論付けて良いだろう。

 エックス隊長やゼロよりも先に、私がタイガードを消せという任務も下りている。

 さて、任務ならば従うのがレプリロイドだ。

 

 

 寄生蓮によって洗脳した虎達を使って、他の虎を攻撃していればタイガードは簡単に釣れた。

 操った虎達で、タイガードを攻撃すれば反撃も中々してこない。

 執拗に蓮だけを攻撃しようとするが、上手くはいっていない。

 

 傷付いた虎には、寄生済の虎からメタルロータスの種を植え込ませる。

 そうする事で、傷付いた虎達の傷は急速に回復する。

 勿論寄生もするけれども、全てが終わったら開放する。

 全てが終わった────ならば。

 

 

 

 

 

 嘗て親しかった虎達に追い回されるタイガード。

 早く捕まってやってくれないと、不眠不休で走る虎達も疲弊して倒れるだろう。

 そして、それでも追おうとする。

 

 そろそろ塩梅と言えた。

 もう良いのだろう。

 全部タイガード(イレギュラー)が悪い。

 私がケリを付ける。

 

 

 

「大人しく処分されろイレギュラー」

 

「ッ!? 政府の狗が!!」

 

 私を認識するのと、タイガードの攻撃が私に届く迄の間には、一秒のロスも無かった。

 しかし、それを理由に負ける私でもない。

 刀で光速の爪を弾き返す。

 爪は光速でも、本体が音速に届かないのでは、予め斬線さえ躱しておけば問題ない。

 

「成功すればレプリロイド。

失敗すればイレギュラー。

その勝負に負けた駄猫に言われて響く言葉も無い」

 

「そもそも政府がしっかりと密猟者を取り締まっていれば…!!」

 

 其の為の警備用のレプリロイド(シャイニング・タイガード)では無かったのか。

 己の無能を他者に押し付けるな。

 

「トラと戯れる為ではなく、警備の為だけに造られ、それに必要な最低限度の機能は設計段階で計算されていたはず。

…警備以外に何らかのソースを割いた?

全く、イレギュラーとは無駄の塊。

虎になったつもり?

レプリロイドとは、────模造品(レプリカ)に過ぎないというのに」

 

 

 タイガードは固まった。

 心を持つと定義されたレプリロイドは、旧時代の発掘品である『原初のレプリロイド(ロックマン)』に限ると聞いていたが、私の見る限り、現実に近しい程には、レプリロイドの心は再現の域に達している様に思える。

 ならば、利用するだけだ。

 

 

「政府へのゴマすり人形がっ!!」

 

「すり潰されるゴマが眼の前にいる。

違うか? 模造品(レプリカ)にさえなれない欠陥品(イレギュラー)

 

 

 

 私にとって、イレギュラーをハントする事は当たり前だが、元特Aイレギュラーハンターをイレギュラーとして破壊する時程の高揚感はない。

 思考の何処かで、イレギュラーハンターよりも強かったとしても、所詮コレは侵入者捕獲・撃退を目的とした警備用レプリロイドでしかないと過ってしまう。

 まるで私はイレギュラーハンターを倒したいみたいだ。

 あくまで武装として、バイオレンとアジールの武器を改良したものを装備しているだけだというのに、それでは特級のイレギュラー(カウンターハンター)みたいた。

 …いや、そんな思考は無駄であるし、そんな筈はない。

 速やかに終わらせる。

 禁忌開放申請完了

 CODE:MARCHOSIAS

 

 

 

 私は政府直属の機関で生み出された最も正常なレプリロイド。

 私は、全てにおいて最も正しい回答をする者。

 私は翼与える狼ゴスペル

 描くは強さの先を進む者スーパーフォルテ

 

 

 

 背から漆黒の翼が生える

 

「その姿…まるで…………悪魔」

 

 そう。

 この状態は、悪魔。

 虎を殺すのなら、狼が良い。

 誰よりも誠実な戦士として仕える、天翼持つ黒き雌狼の悪魔マルコシアス。

 

 右手には鉄球を。左手には光刀を。

 懺悔の時間は、既に期限切れだ。

 

 

 

 

「俺は只護りたかっただけなん────────」

 

 

 

 

 タイガードの破壊は一瞬で終わった。

 私もマルコシアスモードを解除する。

 マルコシアスモードは、余りにも演算速度が高まり過ぎて飽和状態を維持する上に、確認出来ない演算のロスが処理出来ないまま消えてしまう。

 何を思考していたかもあやふやだ。

 何も考えたくない時には便利だったが、最近はそのような機会は全く無かった。

 本当に久しぶりの感覚。

 複数回大きく深呼吸しながら、周囲の音を聞く。

 

 

 

 

 

 

 

 ふとセンサーが認識したので、後方へと振り返る。

 その人物に敬礼を行い報告した。

 

「レトナ・レノォーク。現時点を以てイレギュラー、シャイニング・タイガードの破壊を完了しました」

 

「レトナ、…やり過ぎだ」

 

 何故でしょうか?

 私にはエックス隊長の意図は分かりかねます。

 

「有害金属の破片を自然保護地域に撒き散らした事でしょうか? その点は私の力不足に拠るものです」

 

「違う。何故分からない!!

こんな残虐な破壊の仕方をしなくても良かった筈だ。

後ろを見てみろレトナ!!」

 

 隊長に背を向けるのは失礼とも思いましたが、一言断って振り向く。

 そこには、未だ洗脳状態の筈の虎たちが、破片となったタイガードに頬を擦り付けていた。

 

 

「レトナ、君は何か思うことは無いのか」

 

「これ程野生動物に懐かれていたものを、私はこの手で破壊してしまったのですね」

 

 この野生動物達をまた懐かせる後任者を探すのは、骨が折れるだろう。

 野生の生き物は簡単に代わりで納得しない。

 

 

 

「そうだ。

虎達の心は、張り裂けそうになっている」

 

「では、イレギュラーを見逃すのが正解でしたか?」

 

 そういうと、「そうじゃない。そうじゃないないんだレトナ…」とエックス隊長は理想を語り始めた。

 

 説得により、何とか出来ればそれが良かったと。

 

 

 

 虎達が寄生植物をお互いに噛み付いて取り外し始めた。

 そろそろ潮時か。

 色々と時間が重なってしまいそうだ。

 

 一匹の雌個体が襲い掛かってきたが、流石に負けたりはしない。

 文字通り、歯が立たない。爪が通らない。

 私のボディは、極めて高価な金属で構築されているので、当然だ。

 

 

 攻撃にもならない他愛も無い野生動物の活動を無視して、エックス隊長の話を拝聴しようとしていると、何かが高速で迫って来た。

 

 咄嗟に躱した私は無傷であったが、足元にいた雌虎は“それ”に触れた瞬間全身を微塵に切り刻まれた、

 

 

 

 

 

 

「おっととと、間違えちゃいましたねえ。

おじさんの身体も老朽化かなぁ。」

 

 

 地面に広がる薄く半透明な金属体。

 間違いなく、それは私の本来の獲物だった。

 

 

「本当はそこのシャイニング・タイガードの残骸と結合したかったのに、そこの女の子にあそこまでバラバラにされたんじゃ、取り込む事も出来ないし、周囲の(生体部品候補)も、取り憑いたら寄生植物に引っ掛けられそうだし。

虎の身体で戦って見たかったのに、全部台無しなんだよねえ。

だからさあ、そこの女の子かそっちの男の子────────どっちか身体、頂戴な 

 

 

 

     Target approach     Target approach     Target approach     Target approach

──────────────────────

 

WARNING

 

  ──────────────────────

     Target approach     Target approach     Target approach     Target approach

忍び寄る刃時雨『スライサー・スラックジー』

 

 

 

 

 

「レトナすまない。もしかして君はそれを知って」

 

「その話は後です」

 

 

 

 スライサー・スラックジーは、微塵切りにした相手の隙間に入り込んて、再結合する事を嗜好にするイレギュラー。

 過去の例から、打撃や熱で破壊された個体には結合していないと確認出来ている。

 

 特A級とはなっていたが、古い型という事も災いして他者との意思疎通が出来ない事もあり、本人の実力だけなら特A級という枠組みに収まらないとさえ言われていた。

 しかし、性格に難があり過ぎたのだ。

 根本的につまらない性格という事もあり、恐怖で縛らないと相手に真剣に相手して貰えないという、話は通じるけれど話したくならないタイプのレプリロイドと記録されている。

 

 

「おじさんは賢いんだよ?

鋭い爪を持った危険な虎レプリロイドがいるこーこーなーらー、おじさんも誰かを惨殺しても誰も疑わない。

だから今まで見つからなかった。

でしょ?でしょでしょ?

ねぇ聞いてる? お嬢ちゃん、年配の人の話はちゃんと相槌打たないといけないって教わらなかったかなあ? かなかなあ?」

 

 かなり古くから存在するレプリロイドであったが、空気の読めない老害と彼をからかった知人を殺害して逃走した。

 それ以降イレギュラーと認定されながら、これまでイレギュラーハンターに破壊されていないというのは、それ程の強さということだ。

 

「それにしても本当にかぁいいねぇ。ネェネェおじさんと一つになろうよ」

 

「気持ち悪い」

 

 嫌悪感から、思いっ切り鉄球を振り下ろす。

 炎属性を付加する事で、ついでに草木に火を付けた。

 鉄球と鎖も熱した理由は他に幾つもあるが、まあそれは良い。

 

 火が付いた事で、洗脳から外れた虎達は本能的に逃げ出した。

 この場にはもうタイガードの残骸と、雌虎の死骸と私達三体しかいない。

 

「マンモスかなぴー。 それっておじさんだから?

教えて教えてなあぜなあぜ?」

 

「中年が使い始めた時、その言葉は若者言葉としては既に死語」

 

 部下に「なあぜなあぜって流行っているの?」と以前聞いていたエックス隊長の事は不問とする。

 

 私は鉄球や刀で、エックス隊長はバスターで戦っている。

 

 動くスラックジーを狙っているが、スラックジーは初速から移動が速く、打撃も斬撃もそれ程効かず再生する上に、連射用の小さな弾はスラックジーの斬撃によって無効化されたり、溶けて地面スレスレになって躱されてしまう事は、事前資料によって把握している。

 

 

 私の光刀にも熱量はあるが、余りにも鋭いのが災いして、切断面以外には熱ダメージを与えられていない。

 それでも、やるしかない。

 鎖付き鉄球もあまり効かない上に、タイミングを合わせられて鉄球に付着されると一気に攻められるし、刀ではリーチが短い。

 だからこそのプロトアームドフェノメノン。

 だからこその翔ぶ斬撃。

 

 炎属性を付加した光刀から、斬撃を飛ばし続ける。

 又は赤熱した鉄球を振り回す。

 周囲は完全に炎で囲んだ。

 もう逃げられる事はない。

 

 液体金属の身体には、熱の浸透は致命的だろう。

 炎属性を付与して熱した事で、鉄球に取り付く事は出来ないし、翔ぶ斬撃は距離も長く範囲も広い。

 

 エックス隊長の撃ち出す連射弾は、正確にスラックジーを狙っており、スラックジーはその場に足止めされて防ぐか、避けるか、喰らう事を選ばされる。

 最も都合が良いのは、無傷のまま避ける事だ。

 

 そう、それは私達にとっての、最も都合が良い選択だった。

 避けた先には、既に仕掛けがある。

 

 炎属性を付与した金属睡蓮(メタルロータス)だ。

 丁度虎達から外れたものを回収して、再利用させて貰った。

 あまりの熱に溶ける寸前で維持されている、消耗品の観葉植物。

 触れたら最後、どうなるかは考える迄もない。

 

 スラックジーの左右と後ろには赤熱した睡蓮が配置済み。

 飛んで跳び付ける様な高い木は全て伐採済み。

 その為の飛ぶ斬撃。

 

 スラックジーに残されたのはバスターを防ぐか、喰らうか。

 

 

「可愛いから優しくしてやったら調子に乗りおって!!

歳上に対する敬意は無いんかぁっっ!!」

 

 

 バスターを受けながら跳び掛かってくるスラックジーは、言葉遣いも変わって、斬撃を繰り出して来た。

 

「炎の安全地帯、それはお前らの足元じゃい!!」

 

 その斬撃は飛ぶことは無いものの、あまりの速さに縦横無尽に同時に発生しているかの様に見えて、最早網と言える。

 

 それを躱した私達だったが、スラックジーはニヤリと笑った。

 

 

「反撃は囮。

本命はコレ(・・)じゃよ」

 

 そういうと、微塵切りとなっていた雌虎へと同化した。

 

 

「オジサンは新たに同化する時、直前に受けた攻撃に耐性を付けて復活出来るんだよ」

 

 

 顔だけがニヤつくスラックジーになった雌虎は、不気味に喋る。

 

「先ずは炎属性への耐性かなあ」

 

 一度液状化して、再び構成された雌虎は半透明の赤色になっていた。

 

 

「これで、『()』は効かないねぇ」

 

 ニタニタニタニタと笑うスラックジー。

 ほんの僅かにだが、徐々に虎の身体は崩れつつあり、少しずつ元のナメクジ状に戻っていっている。

 …しかし、それを待つのは悪手そうだ。

 

 

「んん〜、この身体なら火の円を飛び越えて逃げられるねぇ。いや〜死体の使い道を見付けて、おじさん助かっちゃったよ。

おじさんが逃げる為に、これまで生きてくれて殺されたトラさんに感謝感謝や。

でもやっぱり生体部品は安物やなあ。

後数時間は持たんやろうから、ほ〜〜んと使えん」

 

 

 私は最後まで聞くこと無く、手元にあった物を隊長に投げた。

 隊長はそれを躊躇無く、己に組み込んだ。

 

 

 

「スライサー・スラックジー」

 

 隊長の声のトーンが低いが、こういった時はもう相手の結末は決まっている。

 

 

「死者を愚弄する資格は貴様にはない。『()』が駄目なら、『()』を喰らえ、レイスプラッシャー!!」

 

 シャイニング・タイガードから回収していた特殊チップを組み込んだ隊長から放たれた弾ける光が放たれる。

 私も予めラーニングしていたシャイニング・タイガード由来の技を出そうとした。

 それは、目の前のトラの腰と膝が落ちていたからだ。

 飛び上がる準備をしているのは明白だった。

 

 私はスラックジーの上に照準を構える。

 

 

 ふと、スラックジーの顔が消えた。

 元の雌虎の顔に一瞬だけ戻ったのは、気の所為では無かった。

 其処には、私に対する敵意があった。

 少し上を見て、もう一度此方を見て、そして正面から隊長のレイスプラッシャーを受け、完全に消滅した。

 

 

 

「終わったなレトナ。

…実を言うと、最後飛び上がる仕草をした時には外したかと思ったよ」

 

 隊長には、あの一瞬が見えていなかったのだろうか?

 それも仕方が無いのかもしれない。

 何せアレだけの光量を正面に発生させていたのだから。

 

「複雑な気分です。

…私にだけは倒されたく無かったようでしたから」

 

「小娘扱いされていたことか?

気にしなくて良い」

 

 どうやら、隊長はスラックジーの事を話していると思った様だ。

 もうそれならそれでも良い。

 訂正をする義務もメリットも無いのだから。

 私に殺されるよりも、スラックジーに使い潰されるよりも、タイガードの武器で終焉を得る事を選んだ雌虎の事は、私だけが記録していれば良いのだ。

 

 

 

 後の確認として分かった事だが、この森で発生した最近の惨殺事件はタイガードの死も全て含めてスラックジーの犯行とされ、タイガードは名誉警備官として表彰される事になったそうだ。

 隊長は己の好悪に甘過ぎて間違えた判断を下したと私は思ったし、それを告発せず見逃した私もまた、間違えたのだろうと考えもした。

 

 

 

 …しかし、政府としては雄々しい外見の虎型レプリロイドを罪を擦り付けられた悲劇の英雄という美談にして、嫌われる寄生タイプのナメクジ型の古いレプリロイドを真の黒幕にするというシナリオを承認した。

 流石にこの辺りまでくると、エックス隊長も知らないが、それこそ教える必要も無かった。

 

 この情報操作には、エイリアも一部関わった。

 彼女はきっと今日も悩むのだろう。

 作られた美談と、全てを押し付けられた悪評とに。

 何故かは分からないが、彼女はこういう時に苦しむ。

 悩む事は始原のレプリロイドにのみ許された行為であり、それ以外のレプリロイドには制作者が付与しようとしても出来なかったと言われているが、本当にそうなのだろうか?

 被創造物には既にそれが宿っていても、創造者には未だに観測されていないだけではないのか?

 それともそれはプログラムや回路としては、未だ始原のレプリロイドの悩みとは完全な別物で、それを模倣しただけの別物でしかないのだろうか?

 人形には心がないと思っているのは、観測する人間の側だけではないのか?

 では本物の感情と、感情を再現した模倣の違いとは何か?

 それではエイリアの苦しみとは?

 …やめよう。

 不毛だ。

 創造者が『ない』と言っているのなら、私にもエイリアにもそれは『ない』ので正解なのだ。

 私は与えられた判断に逆らわない。

 

 

 

 今回の件も、これまでの全ても、これからの全ても。

 政府が判断を下した以上は、それが正解となる。

 政府が否定した答えは誤りとなる。

 それで良い。

 それだけで良い。

 私は誠実にして正確な答えを述べる忠実なる狼。

 政府という神への讃歌を咏い続ける物。

 政府が為の主天使にして地獄の侯爵(マルコシアス)

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