レプリロイドは電子狼の夢を見るか 作:きしめん陰陽師(五寸釘装備)
政府直属のプロジェクト『
未だ完成品は私だけだ。
私の後発であるヘロー・デスタメントは廃棄処分が決まったらしい。
イエ■ーデビ■(検閲済)という旧世紀の開発素体を見付けたものの、それを上手く使う能力を持った人材が今のプロジェクトチームにはいなかったそうだ。
“人でないものを人にしようとする技術は失われた”と、フォントやサイズの定型を無視した殴り書きの一文が挟まれていた。
開発素体の記録は私にも送られていないが、送られている情報から考えるに、一般的なレプリロイドとは余りにも根本が違うものをレプリロイドとして再現しようとして失敗したのだとか。
私の時には、まるで一から作ったかの様に作成した者が開発チームにいたようだが、個人の技術をシステムとして組み込んでおきながら、システムとしてその技術を吸い上げる事が出来なかったということになるのだろう。
私はそれを否定するつもりも、批判するつもりもない。
現在は、開発素体を別チームが引き継いで、シャドー(仮称)を開発中とのこと。
私は次なる目標として、既に提出したデスストーン・フォッカーズの討伐計画の最終決裁を待っていた。
執拗なる呪術戦士の異名を持つデスストーン・フォッカーズは、破壊困難な有害電磁波発生結晶『呪石』を打ち出したり、自身の身体を変化させられるレプリロイドであり、本を持った獣人型の姿と、巨大化した形態を持つということだ。
巨大化していれば消息は直ぐに分かるので、近年は巨大化してはいないのだろう。
だが、その能力を消失したと考えるのは、余りにも希望的観測に過ぎるというものだ。
政府からの返答が来た。
フォッカーズは必ず破壊せよとの事だった。
そして可能であれば、その頭部を持ち帰れとも。
フォッカーズは、元政府開発研究所の出向職員であったらしい。
在籍期間は、私が開発されている期間と重なっている。
そして、彼の出奔時期も。
成る程、政府には消すべき理由はある訳だ。
フォッカーズを私が倒す事が許されたのなら、私は彼から聞き出すか奪い取る事で情報を得る権利が与えられたともいえる。
後はお人好し過ぎる隊長からの決裁だけだ。
以前の森での件は、何故か好意的な誤解が発生していたが、隊長がそう思いたいのだと私は思慮している。
それを待ちながら、元第4陸上部隊員である無花果型レプリロイドのスタンボール・フラワレッスの討伐計画を作成している。
実質的な第三席というポジションではあるが、私の書類作成能力のせいか、かなり頻繁にイレギュラー討伐計画を作成、又は検閲・修正している。
よって、隊長や副隊長が自分達で完結させる計画以外は、殆ど全ての第14特殊部隊の計画は私の管理下にある。
ある意味、計画に問題があったとしても、私が改竄したとして責任を押し付け、切り捨てられやすい立場であるが、私ならともかく隊長はそれをしないだろう。
我が隊といえば、マックという隊員が行方不明になった。
適性は恐らく第0特殊部隊の方が高いのだが、本人の希望もあって我が隊に所属して…いた。
最早過去形だ。
若手幹部として、書類の一部を押し付けてはいたのだが、いなくなったのなら仕方が無い。
イレギュラーに破壊されたのか、イレギュラーになったのかまでは分からないが、前者ならそれこそ隊長自身が
故に、私がマックの事に思考のリソースを割く必要性は無い。
私はこの様な見た目をしているので、広報的な意味合いで表に出しておきたいというイレギュラーハンターにおける組織の要求があるのはそれとなく理解している。
以前、図らずもイメージアップに貢献したこともある。
政府の側からは、余り表に出したくないという意見や、姿形しか見ない大衆にとっては美しさと人気は最高のカモフラージュになるという意見もある。
それらは均衡しているようで、特に売り出し方に関する正式な要求は来ていない。
イレギュラーハンター本部としては、女性活躍のアピールも兼ねてビジュアルと性能と地位が高い私を押し出したいようで、ドップラー博士による、Σウィルスワクチン開発プロジェクトの成果公表会に護衛として参加することを命じたりと、それなりに仕事は増やしてくる。
ドップラー博士はケイン博士に造られたレプリロイドでありながら、今ではレプリロイドの第一人者であるケイン博士に並ぶ程の名声を持つ。
私は基本的に男性には優しくする意義を感じられないので、最低限の会話以外をするつもりは無いが、彼は己の成果であるΣウィルスワクチンや、それを研究するためのΣウィルスそのものを私に見せて来た。
Σの残党が減らない理由の一つは、Σウィルスという不治の病が未だ流行しているからだという。
そのワクチンを開発中というが、摂取の方法も考えられているのだろうか?
全レプリロイドをオープンチャネル受信状態にして、Σウィルスワクチンを電波で流せば一瞬で終わるが、予め分かっている時間帯と周波数帯に対して、ファイアウォールをオフにして、電波による更新を受け入れるなんてのは、セキュリティの観点で言えば最悪だ。
経済的にも難しいが、その時間の周囲だけはワクチン電波以外の全ての電波発射を禁止しなければならない。
ハッキングもウィルス混入も余りに容易に出来過ぎる。
私はやらないが、私がやろうとすれば出来てしまう予測も立っている。
昔から何かを合体や変形させるのは得意だったから。
チャネル開放処置からのインストールなんて難しくも無さそうだ。
しかし何故だろうか。
私は Σウィルスを恐ろしいと思えた事が無い。
データ制御の権威であるドップラー博士としては余りにも不注意な事に、ロック制御が甘い近距離用無線型デバイスに入っているΣウィルスデータを渡されたが、私は冷静にそのロックを固めた。
「ワクチンがあるとはいえ、御注意を」
ドップラー博士はワクチンを過信し過ぎて、不治かつ危険なものである事を忘れているのか、実験材料として余りに頻繁に使う為に、簡易にΣウィルスにアクセス出来る環境を作らないと現実的ではなかったのか。
恐らく後者ではあろうが、釘は刺さねばならない。
今回の成果公表会では、公衆の目前で可視化出来る状態にしたΣウィルスをワクチンで破壊するというデモンストレーションを行う。
大勢が見守る中で、仮想フレームとして疑似物理化したΣウィルスを、博士のウィルスで
その為に各回の著名人が集められたのだが、突如政府の重要人物達は代役が来る事となった。
政府高官は代役を立てる事は良くあることだが、そういった情報が私に情報が流れて来なかったのは珍しい。
良くあること…というのは、代役を送った側の人々は、別に怠惰な豚ではないからだ。
世間一般的に貧困層の持つイメージは、上層部は肥え太った豚と思われているが、現実は支配者達は運動不足のライオンやクマであり、彼等を批判する民衆こそ痩せた豚でしかない。
今貧しくて痩せているから豚に見えないというだけで、餌を与えられたならば、種を植えて増やす事もせず、只々我先にと必死に食い尽くす。
与えて貰える餌を強請り、貪る事しか知らぬ民衆は、可食部位を増やす事に才能が特化している。
だが、そんな事実はどうでも良い。
豚であれ獅子であれ、私に指示を行う立場にあるかないかだけで、私にとっての価値は決まるのだから。
だから、何も問題はない。
そして私は引き続きドップラー博士の護衛という事となった。
私は別にドップラー博士と親しくなるつもりはなく、護衛という任務の達成にしか興味はなかった。
というより、私が男性型レプリロイドに興味を向ける事は基本的にない。
だが、ドップラー博士は私に話し掛けてきた。
流石に凡百のレプリロイドと違って下世話な話では無かったが。
「レノォーク君、君はΣウィルスをどう思うかね」
但し、興味を引く様な面白い話でも無かった。
「特別に何か思うところはありません」
ドップラー博士にとっては得意分野の話題なのであろうが、私にとってはその話をドップラー博士とするメリットも無ければ、話せという命令も受けていない。
「ほう…。嫌悪感や恐怖は無いと?」
「それらの感情を持つ必要性がありません」
そう答えると、ドップラー博士は興味深そうに此方を見て来た。
そして再び視線を前に戻すと、外界から隔離された空間における仮物質化媒体内において、Σウィルスを起動させた。
復活するシグマ。
ワクチンによって消滅させられる光景が、全世界に放映される、予定だ。
実体化したΣウィルスが、仮物質化して顕現する。
直ぐにワクチンによって滅ぼされる予定ではあったが、
眼の前の光景を眺めながら、ドップラー博士は私に聞いた。
「では、プログラムそのものに善悪はあると思うかね?」
その答えは決まり切っている。
「それを判断した政府の見解に従うだけです」
実体化したフレームで構成されたシグマの頭部は、ただ此方見てニヤニヤと笑っていた。
ガラスの向こう側には、最悪の厄災が命を取り戻してそこに在った。
出て来られない事が分かっているからなのか、何の抵抗もしていない。
それに対して私が思う事は────、何も、ない。
本当に、何もなかった。
私の答えに対して、ドップラー博士は内容とは裏腹に、強い興味を隠せない口調で話した。
「一見実につまらない返答だが、Σウィルスを一切恐れていないというのは興味深い。
本来レプリロイドならば根源的な恐怖を感じるはずであるというのに…。
まあ良い。─────全て直ぐに確認出来る事だ」
ガラスが、割れた。
警 告 開 戦
WAR NRING
──────
原点にして頂点 シグマ
「ははははは、諸君ご機嫌よう。
私の復活を祝いに来てくれたかね?
宜しい。実に、殊勝な事だ」
ガラスが割れて、私の前に進んで来たシグマの頭部。
フレーム状のシグマを破壊するべく、鉄球を構える。
私は特に取り乱してはいないが、周囲の人々はパニック状態にあった。
しかし、ドップラー博士は冷静だった。
伊達にこの世界に現存する最高の頭脳ではないということなのだろうか。
「皆さん安心して下さい。
処方箋プログラムではなくワクチンプログラムと名付けたのは、感染してからだけでなく、予め防ぐ事が出来るからです。
直ぐにワクチンを送りますので、セキュリティを解除してダウンロードの準備を」
ドッペルタウン全体にも、同様の放送が流れている。
私も含めて、全てのレプリロイドがそれに従った。
その十数秒後、周囲全てのレプリロイドが苦しみ出し暴れ出した。
即ち、イレギュラー化。
ワクチンが間に合わなかった、訳では無いだろう。
「感染しなかった…だと…?」
「いや、カウンターハンターのパーツには、バックドアが仕掛けてあるはずだ。
イレギュラーの原典が正常化した例を受けての、対策への対策だ。
だからこそセキュリティをかけていても、並のレプリロイド以上に感染しやすい筈だが…………、まさかサーゲスめ裏切っていたのか?」
私を見て話し合うシグマとドップラーの様子を見れば、ドップラーの言っていたワクチンこそが、原因であった事は疑う余地もない。
ならば抹殺するだけだ。
建物ごと崩落させようと、特殊武器ロータスコープからメタルロータスを生成して、建物の管理プログラムに寄生させようとした。
だが、
「高々寄生型の独立デバイス程度の処理能力で、この建物の管理を掌握しようとは無理が過ぎる」
流石にΣウィルスを学び尽くしたドップラーからすれば、一種のウィルスである寄生デバイスへのセキュリティ程度はお手の物だったようだ。
「その身体、悪くない」
疑似実体化したシグマが飛び込んで来たが、私は相手の額部分を殴り付けて弾き飛ばした。
「…………どういうことだ、
シグマも巨大な顔で不思議そうにしていた。
中年男性の巨大な顔で、辛気臭い表情をされても見るに耐えない。
だから私は鉄球を叩き込む。
シグマの横っ面──────ではなく、それをフェイントにしてドップラーへと。
だが、それは別の鉄球へと止められた。
凄まじい衝撃が奔る。
吹き飛んだ壁の向こうから鉄球を叩き込んで来た者、それは────────二人の天才科学者が製作した『ドッペルタウンのシンボル』マオー・ザ・ジャイアント。
その鉄球が引き戻されると同時に、ドッペル博士はその鉄球へと飛び上がり回収されていった。
そして無線が入って来た。
「緊急連絡 緊急連絡
こちらはイレギュラーハンター本部。
ドップラー軍の攻撃を受け、応戦中。
本部周辺のイレギュラーハンターは、直ちに応戦にあたれ」
緊急区分は最大に設定されてある。
同時多発的に酷い攻撃が仕掛けられている様だ。
「こちらエックス。敵に占拠された本部に再突入する。
内部は敵の支配下にあるため、A級以上のハンターで攻勢を開始」
エックス隊長からも無線が入った。
全チャネルに向けられた放送であり、更にそれ以外のものは周辺の敵を倒せという命令もあった。
私は敵の飛行型メカニロイドを寄生デバイスで操り跳び乗ると、イレギュラーハンター本部の中程まで引き上げさせた。
敵もそれに気が付いたのか、砲火が集中してきた。
被弾せずにこれ以上上に行くのは、乗っているメカニロイドの機動力では難しいだろう。
私は足場を蹴り抜く様に跳躍すると、本部ビルの側面に鉄球を振り抜きながら飛び込んだ。
壁を粉々にした鉄球に続いて内部に入る。
そこには────────
「行方不明になっていた、マック…?」
任務中に所在不明となった部下のマックがいた。
彼が偶然機能回復して復帰した、という訳でないのは特殊な地場で拘束されている
「確認するが、敵に捕まった隊長を助けにやって来たのか?」
「実はそうなんだ。……というとでも思ったかっ!!」
そう言うとマックは私にも攻撃をしてきた。
とは言えど、だ。
「──────自分で言っていても白々しい」
既にそこに私はいない。
スラックジーのチップから作った、液体金属によるデゴイのセンサー吸収体を出しつつ、自身も液状化して移動する能力で、マックの背後に回る。
そしてそのまま刀を突き刺した。
「かはっ!! …く、はははは…は、最初から…何もかも…信用して…いなかったった訳……か」
イレギュラー相手に、慈悲は必要無い。
やはり私にはエックス隊長の様に相手を信じて出し抜かれる…というのは、振りをするのも難しい様だ。
そもそもイレギュラーハンター本部の内部がやられている時点で、内部構造に詳しい誰かの手引きがあったのは確実だったのだから。
「隊長、お怪我はありませんか」
「助かったよレトナ。
だけどマックが裏切るなんて」
裏切っているのは、マックどころではなくこの町の支配者そのものだ。
今となって、急遽政府関係者が代役を立てた理由が分かった気もするが、政府として危険の可能性を掴んでいた事が事実であったとしても、そうでなかったとしても、私は政府に従うだけなのだから。
「イレギュラーになればハントすれば良いのです。
隊長、引き続き私はビル内部の敵を一層するということで構いませんか?」
「レトナなら心強い。宜しく頼む」
外は夜てあり、タイガードの特殊チップから得た、太陽光による回復と強化の能力は使えないが、それが無くて問題になることも無さそうだ。
多少の欠陥があっても、それだけでその者の全てを全否定はしない。
ただミスが少なく、大きな問題は起こさず、人並み程度には仕事が早く、イレギュラーではなく、政府にその存在を否定されないのであれば、その他の欠陥があったとしても、この世界で生きていても良いのだ。
特に最後のイレギュラーで無い事と、政府に否定されないという二つは、絶対に必要な条件である。
それが出来ないのなら、────生きる事が有害だ。
「君は行方不明になったミック…、レトナ!! 何故破壊した」
「エックス隊長、彼も既にイレギュラー化していました」
マックやミックの他にも何体かの裏切り者がいた。
エックス隊長が気が付くよりも早く仕留める。
隊長が先に気が付いてしまえば、説得が始まり時間をロストする。
それは避けたい。
「コンプライアンスは達成すべき成果と対立するものではなく、両立して行われるべき事です。
これは全隊員に、イレギュラー反応検査と対イレギュラー教育、そしてその問題点と改善策の報告書の提出をさせないといけませんね。
当然、通常任務と復興任務と並行させながら」
「そうするしかない、か。
今言った任務は、どれも蔑ろにする訳にはいかない」
それが出来ないのなら、わざわざレプリロイドとして生命を与えられた意味もない。
…という表立った理由もあるが、
今まで表面化していなかっただけのイレギュラーを炙り出すのには、丁度良いだろう。
「だがレトナ、今はその事は後回しにしよう」
「そうですね。
終わった後にはやらねばならぬ事ですが、この緊急事態には全リソースを現在に向けるべきでした」
隊長からの正論に従いながら、隊長より僅かに先行して駆ける。
行方不明になっていた、ムックとメックとモックを見つけ次第破壊した。
うわ…っ、
隊の規律を高める為に、毎日唱和と自己点検チェックも増やすべきかもしれない。
勿論、これまでの仕事は達成した上で、だ。
これもイレギュラーになって問題を起こすものがいるのが悪い。
シグマウィルスが広まる前から、イレギュラーハンターという組織が構成されていた事からも、その問題の根深さが分かるというもの。
それにしても、余りにも問題点が多い。
これでは政府からの監査兼制御役として送り込まれた私としては、問題は大いにありとして報告せざるを得ない。
今回の裏切り者は少なくとも五人はいた。
報告書はそれだけで内訳五件。
Mックsとして一つの報告に纏めてしまおうか…いや、正直に報告しよう。
その程度大した手間ではない。
少なくとも私にとっては。
屋上まで目に付く全ての敵を一掃して辿り着くと、マオー・ザ・ジャイアントが迫って来ていた。
どうやら私達がハンター本部ビルの内部で手間取っている内に、外側からビルごと叩き壊すという作戦だったのだろう。
狭い坑道に誘い込んで、地盤破壊により坑道を崩落させて抹殺するというのは、政府もイレギュラーハンター本部もよくやる手口だ。
エイリアも少なくとも二度はやっている。
マオー・ザ・ジャイアント。
イレギュラー化した、若しくは予めイレギュラーとして作られた元町のシンボルである超巨大人型メカニロイド。
メカニロイドとレプリロイドの境界線として、知性の有無があり、操られた通りに動くだけのメカニロイドには善悪はなく、よってイレギュラーという概念はないという者もいるが、高性能の制御CPUや動物型生体再現メカニロイドの、それらしい動きというものには、果たして感情や意識は無いのか?
何故エックス隊長でさえ、メカニロイドには容赦なく攻撃出来るのか?
そこには同じ人工生命体という枠にあるものを破壊する悩みは働かないのか?
そういった疑問を聞く相手も、話す相手も私にはいない。
話す必要が無いといえばそれまでだが。
なにはともあれ、イレギュラーが町のシンボル等とは許されない。
私にとって抹殺するべき対象だ。
例え相手が誰であっても、私はエックス隊長の様には悩まない。
マオーの主武装である鉄球には私の鉄球をぶつけて相殺する。
重量の差による凄まじい衝撃があるが、鉄球内の液体金属を高速で回転させて、ジャイロ効果で受け止める。
ジャイロ効果は私の様な軽量なレプリロイドでも、大質量の鉄球を動かす為のギミックだが、他の質量武器から受け止める際に反動をキャンセルする効果も生み出している。
そうやって敵の攻撃を無効化しつつ、そこにエックス隊長がチャージバスターを撃ち続けた。
攻略法が固まっているのに他の行動に映らないのかと考えていると、マオーはそのまま突進攻撃に移行した。
さて、どうしてくれようかと思っていると、マオーは回るように転倒した。
…マオーの足元には案の定ビームの刃を振り抜いたゼロがいて、マオーの右足が切り離されている。
私は鉄球を振り回しながらビルの屋上から飛び降りると、回した鉄球をマオーに叩き付けるように降下した。
一瞬。
ほんの一瞬だけ、マオーの表情に怯えに似た何かが映った気がした。
人間はレプリロイドには思考は出来ても、本物の心はないという。
そしてレプリロイドもメカニロイドには演算は出来ても、感情はないという。
本当に────、そうか?
いや、今はそれを考えるべきではない。
考える必要も、考えることによるメリットもない。
それに、感情があったところで破壊することには変わりはない。
政府の敵は破壊が前提条件だ。
ならば不要な事を考える事は無駄でしかない。
…これでは、下らない事で悩み非効率的な行動を取るエックス隊長以下ではないか。
「壊れ方は覚えておいてはやる。砕けろイレギュラー」
私は鉄球の中にある液体金属のを操作して、外側の鉄球を思いっ切りマオーの頭部にぶつけてその反動が発生する瞬間に、僅かに遅れて同じ方向へ液体金属が動いて鉄球内から衝撃を発生させる事で、鉄球が跳ね返る事なく衝撃を敵の内部に対して二度伝えさせる。
無反動ハンマーと同じ仕組みで、二重衝撃でエネルギーをロス無く貫通させる。
完全にマオー・ザ・ジャイアントを沈黙させた。
同じ鉄球使いとして、効率化と機能向上に使えそうな機構情報だけは回収しておく。
「容赦無い壊し方だったな」
「第0特殊部隊長、お疲れ様でした」
ゼロから話し掛けられたので、返答しておく。
「それと、今告げる話では無いでしょうがエックス隊長の保有出来る機密情報のレベルは上がりそうです」
「本当か」
元々イレギュラーハンターの現場組のシンボルとなるであろうエックス隊長ならば、それなりの機密を知る資格はあったので、結局のところ機会を待っていただけなのかも知れない。
だが、私の功績と思われるのならば、それに越した事もない。
「話は通りますが、後は建前の理由付けを選別することですね。
お忙しい中ではあるでしょうが、第0特殊部隊長のお時間がある時にエックス隊長とエイリアとアイリスで話を固めて下さい。
本部の現状と、イレギュラーハンター所属でないアイリスが参加する関係上、別の場所を確保する必要はあるでしょう。
必要でしたら個室も用意出来ます。
政府高官も使う場所なので、セキュリティも問題ありません。
それと美味しいパフ……いえ、何でもありません」
私は必要事項を告げると、この未曾有の大混乱に乗じた犯罪者達をイレギュラーとして抹殺する為の巡回に移る事にした。
壊れたデパートからの強奪を働く者。
刀を取り出した私に対し、全く無意味な言い訳をする。
「お、俺達にだって、生活が────」
聞く意味は全く無いので切り捨てた。
「他のやつだって──────」
そのイレギュラーのいう『他のやつ』と纏めて切り捨てた。
インフラが停止した事をいい事に、地下鉄のコントロールルームに乗り込んだ者や、落下防止のガードを撤去して巨大撮影機を置く者などがいた。
「聞いてくれ誤解なん────」
誤解でも何でもなく問題行為なので切り捨てた。
イレギュラーを切り捨てる巡回をしながら、私はある場所を目指していた。
そこはイレギュラーの刑務所。
失敗作として生まれた欠陥品や、当時は嫌疑不十分でその場では破壊されなかったものの、後で発覚したイレギュラー達。
後で纏めて破壊する為に、一時保管される場所。
案の定、混乱に乗じて一部倒壊した刑務所から逃げ出しているイレギュラーが多かった。
まだ視界にいる者は纏めて壊した。
出ようとしている者も当然壊す。
壊して、壊して、壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊して壊す。
破壊宣告を受けたという時点で、既にその生命に価値は無い。
私は既にいなかった牢の住人に関しては記録しつつ、その最奥へと向かった。
ハイパーダイヤモンド、インバー合金、サイバーネットの特別製の三重構造の檻は綺麗に正面だけが開いており、その奥には私の目的の相手がいた。
「きみ を まっていた」
「ヘロー・デスタメント…」
私と同じプロジェクトで生まれた後発品の欠陥個体。
宇宙開発の為に天文学における『銀河ハロー』に存在する、『ダークマター』の特性を人工的に再現するというプロジェクトがあったが、政治闘争による予算の関係で潰えた結果、『
その姿は不定型と記録されていたが、今見る限りはゼロに酷似している。
一切光を反射しない黒色であることを除けば、ゼロと外見的な変わりはない。
「ちがう
ぼく は
すべて の ものに くのうを あたえ しんかを うながすもの」
現在私が知るデータによれば、感情の不完全さ……と言えばイレギュラーみたいであるので、高度な苦悩回路の再現ミスとでも言おう。
それがあるウィルスと混じったものがΣウィルスだとされている。
苦悩回路の再現失敗と元のウィルスのどちらが主体か、それとも完全にどちらでもない変異なのかは敢えて答えを出さない。
仮に、あくまで仮に苦悩回路自体が全ての根源だとして、地獄というのは社会にとってなのか、それともレプリロイドにとってなのか。
いや、考える必要など無かった。
この後私に壊されるイレギュラーが自分で名乗った名前などに、何の意味も価値も無い。
「きみは ぼくの せんぱいになるのかな それとも────」
「煩い!! 死ね!!」
禁忌開放申請完了
CODE:MARCHOSIAS
センサー感度が明瞭になり過ぎる程に歪む。
演算処理速度が計測出来ない程に加速する。
世界の速度が遅くなり、然して内面はそれ以上に飽和する。
物理世界における超越者でありながら、己の能力は己を更に超えて暴走域にある。
私は政府直属の機関で生み出された最も正常なレプリロイド。
私は、全てにおいて最も正しい回答をする者。
私は翼与える狼
描くは強さの先を進む者
はっきりと聞こえるのに認知出来ない言葉が流れる。
視界は明瞭でありながら、視えない何かがちらつく。
感覚は明確でありながら、自分のものとは思えない。
意識は明白でありながら、認識出来ずに処理される。
背から漆黒の翼が生える
私が、本物の死の苦痛を教えてやる。
地獄を殺すのなら、悪魔が良い。
誰よりも誠実な戦士として仕える、天翼持つ黒き雌狼の悪魔マルコシアス。
右手には鉄球を。左手には光刀を。
懺悔の時間は、既に期限切れだ。
「やっぱり そうだったんだ
きみの そたいは ぼくよりとししただけど
ぼくたちは もう そたい じゃない
ぼくたち じしんなんだ
ぼくは ■■ローデビル じゃない
きみも もう ■スペル じゃない
だから ねえさん ってよぶね」
何も考えられない。
ただ刀を振るい、鉄球を叩き付ける。
効いている様子はない。
「ひどいな ねえさん
なかよくしようよ ねえさん
ねえ ねえさん」
相手が何を言っているかは分かるが、それを記憶も反応もしない。
思考の全てが自動で戦闘に優先される。
不必要な思考は全て自動的に削ぎ落とされる。
「でも たのしいね
ねえさん」
『敵』は武器を使わずに、素手のみで攻撃してくる。
いや、こちらの攻撃を捌き続けている。
防戦一方ではあるが、明確に余裕を見せている。
此方は安全の為の許容時間を、たった今オーバーした。
「おい レトナッ!! ──────俺…、だと……!?」
『乱入者』が何か言っているが、その為に記憶や思考が出来ない事を考えるに、戦闘には関係無い事なのだろう。
「レトナ、説明………は後で良い。
お前のその姿といい、あの敵の姿といい、何もかも分からないが、アレは倒すべきイレギュラーなんだな」
私は『友軍』に肯定の動作を行った。
そのまま戦闘を継続する。
「ねえさんと ぼくの じゃまを するな!!」
『友軍』が『敵』に吹き飛ばされた。
『友軍』のパーツが一部破損している。
機能が低下している可能性がある。
『敵』は私と戦っていた時よりも速い。
私も出力を引き上げる。
……追い付ける。
『友軍』が『敵』に攻撃を仕掛ける。
私への対応で精一杯である『敵』はそれを受けるしかなかった。
だが、それは効いていないようだった。
「ぼくは おまえ ではない
ねえさんは おまえの ねえさん ではない」
『敵』は未知のエネルギーを収束させ始めた。
強力な攻撃が予想される。
まもなく私のエネルギーが尽きる。
完全に稼働が停止するだろう。
ならば『私』よりも『友軍』が生き残った方が、勝率は高まる。
それに、ゼロはフォルテや私の後にワイリーに造られた。謂わば「ゼロは、弟みたいな存在だから」
視界と思考すら濁って来た。
私はゼロの前に覆い被さった。
「レト…ナ?」
誰かが何らかの音声を出している。
「ゆるさない ゆるさない ゆるさないぞ ぜろ おまえだけは ぜったいに ゆるさない
…まってて ねえさん またいつか むかえにいくから」
誰かが何らかの音声を出している。
薄れゆく意識の中、黒い青年と重力に逆らうヒゲの老人、そして未だ目覚めない見覚えのある誰かがいる光景が、見えたような、そんな気がした。
『Σウィルス』に対する作者の認識
ロボットエンザ(地球外)+ロボット破壊プログラム(ワイリー製)+苦悩回路(ライト製)→プログラムアドバンス発動『Σウィルス』
メインとなるのは苦悩回路
スパイラル・ペガシオンは処女厨のユニコーンなので、