レプリロイドは電子狼の夢を見るか 作:きしめん陰陽師(五寸釘装備)
「レトナ。俺とゼロは戦闘空母ビーグ・ビートルを軍から奪取した……グラビティー・ビートブードのところへ行く」
ビートブード。
嘗ての部下の一人でもある。
部下と言っても私より古株ではあったが、私は仕事関係の相手が自分より古株かどうかは気にしない。
感情を優先する傾向のあるビートブードには、そういった部分を疎まれているのは少し感じていたが、だからといって関係が悪かった訳ではない。
とはいえ、私が配属された時には実質的に
ビートブードの叛逆の理由は分かっている。
ブーメル・クワンガーのイレギュラー化と、其の為の討伐だ。
クワンガーはイレギュラーとしては、余りにも理知的理性的な態度で、レプリロイドから見たシグマの正当性を語ったと記録されているが、私からすれば政府に逆らった時点でそこに理性はない。
十分にイレギュラーだ。
問題は、クワンガーもビートブードも元
それ故にエックス隊長が自ら赴く必要があった。
これには、エックス隊長の個人的な希望だけでなく、対外的な印象対策も兼ねている。
そこが珍しく一致した。
そして、もう一つ問題がある。
これは印象対策が必要な理由の一つだが、元イレギュラーハンターのビートブードが、
空軍のスパイラル・ペガシオン からは、ハッキリと抗議が来ている。
ストーム・フクロウルでないあたりが嫌らしい。
軍としてはイレギュラーに空母を奪われた事を黙っているが、青年将校達は怒りに燃えているというアピールだろう。
あのフクロウなのにタカ派なフクロウルらしい、憤怒の示し方だ。
レプリフォース全体としては未だ抗議は来ていない。
海軍のジェット・スティングレンが抑えている…というよりは、海軍の不手際が解決するまでは、軍としては他所に抗議を表立って行える立場ではないのだろう。
だから、ペガシオンが独自に抗議という形を取らざるを得なかった。
『
ならば政府の息のかかった私や、後続の者が配置される予定のあるイレギュラーハンターが、軍に優越するパワーバランスになるのが望ましい。
だからこそ政府は、イレギュラーである軍属のシザーズ・シュリンプァーを、軍が軍事裁判に基づき軍内で処分すると発言した事に対して、既に多くの被害が出ている以上、レプリフォースだけでなくイレギュラーハンターも動かさざるを得ないと返答した。
…実際、イレギュラー指定を受けたフロスト・キバトドスを戦力として使い続けている軍には、シュリンプァーを生み出す土壌はあった。
そうなると、私が出るべきだ。
政府作、イレギュラーハンター所属の私が、軍制作レプリロイドで軍の依頼で造船されていた潜水艦を奪取したシュリンプァーを軍より早く倒す。
それ自体は素晴らしい事だろう。
但し疑問点はある。
私の事を監視している節のあったゼロが、エックスと共に飛行空母に向かうというのは、違和感がある。
実はそれは事実ではなく、私に対するブラフかも知れないが。
「第0特殊部隊長もですか?」
「あ、ああ。ゼロもそっちはレトナに任せておけば大丈夫だろうと言っていたからね」
別に実は監視があったとしても、私のすることは変わらない。
気にする必要も無いだろう。
「それでは、御武運を」
「レトナも無事に帰って来てくれ」
私とエックス隊長は互いに敬礼をすると、それぞれの任務に向かう事になった。
私のプランは、徹底的にレプリフォースを貶めるやり方だった。
別に抗議してきたペガシオンには悪感情はない。
寧ろアイリスの兄がいる組織といった印象すら、レプリフォースにはある。
だが、それとこれとは別だ。
レプリフォースがイレギュラーハンターより劣等なバランスを作る必要を政府が認識しているのなら、それに従うまで。
空母と潜水艦を戦わせる。
本来共に軍の為に造られた兵器が、互いを攻撃しあって無様に散る。
それがプランの理想の最終行動だ。
それが出来なかったとしても、少なくともシュリンプァーの首だけは回収する必要がある。
そして、そのルートとして、軍主力が敢えて選ばないであろう最短ルートを通る。
所謂中ボスと呼ばれるイレギュラーの層が、軍が動けない様に封鎖している地域がある。
・モルボーラー
・ビーブレイダー
・ジェリーシーカー
・アングラーゲ
・ウツボロス
これらの中ボス勢が大量に配置されており、明確な脅威として陽動や封止として使われている。
これさえ抜ければ、レプリフォースも動きやすくなるのだが、敢えて私はそこを通る。
目的は、私の後ろを着いて、そして置き去りにされる
それに、洗脳効果のある寄生型メタルロータスは、こういった中ボスが群れた環境には極めて有効だった。
この特殊武器の元の使い手は、イレギュラーハンター元第6艦隊艦長。
海軍と空軍にも、上層部には知られていたはずだ。
現地に到着して行動を開始する。
レプリフォースが色々と余計な事をやってくれたお陰で、一部未完成ではあったものの、敵の潜水艦は既に港を発ってしまった様だ。
中ボス格の数も事前報告からくる予想よりもかなり多い。
これでは当初の最適なプランは難しい。
次善のプランに移す必要がある。
レプリフォースが手をこまねいていた理由は、数が多い中ボスだけではない。
飛行状態から蜂型の大型ヘリメカニロイドのビーブレイダー達をメタルロータスで洗脳して、モルボーラーを含む地上の敵を掃射させているが、敵にも別格のものがいた。
RT-55Jとシュリケイン(仮称)だ。
どこかライトットを思わせるRT-55Jは、見た目以上にその存在感を感じさせる。
圧倒的な装甲と重量と出力。
以前シグマが引き起こした大戦において、かなりの被害を出していた。
そして、シュリケインはシグマウィルスが鋭利な形に実体化したもの。
かなりの速度で回転していて、触れるだけで強烈な斬撃と感染を引き起こす。
この二つがセットで動いているのなら、地上に兵士を派遣するのは難しい。
海の周囲は電気を発するジェリーシーカーと、元は海底のヘドロ調査を目的とされて造られたアングラーゲとウツボロスが配置されており、ジェリーシーカーが機雷として水面に残り、残り二種は潜水艦に随伴して深海へ移動しているものと見積もられている。
その他にも謎のメカニロイドがあったそうだ。
海の方は既に策はあるが、先ずは港の開放だろう。
RT-55Jは拠点防衛に有利な性能で、単純に堅く強い。
シュリケインは、攻撃を浴びればイレギュラー側に引き込まれるので厄介だ。
だが、シグマウィルスの実体化であれば、私には問題がない…筈だ。
ビーブレイダーがモルボーラーと周辺の雑魚共を上空から一方的に攻撃している中、私は二体と戦闘を開始した。
シュリケインはRT-55Jに当たりそうな攻撃をしているが、実際に当たったとしても問題無いようだ。
RT-55Jはその小さな頭部以外は、極めて強力な装甲で出来ており身体の殆どを占める大きな胴体にぶつかる限りは、攻撃が通用しないとエックス隊長の残した記録にあった。
そう。
当時のエックス隊長のバスターや、特殊武器では通用しなかっただけだ。
私にはエックス隊長にはない圧倒的な物理的パワーがある。
飛び掛かってくるRT-55Jに、鉄球をブチかましてかち上げた。
頭部が弱点だからこそ、相手の上を取る限りは無敵というお粗末な考えが災いしたようだ。
襲ってくるシュリケインには、ケイン博士が私のデータから開発したシグマウィルス抗体を付与した刀でダメージを与えて足止めする。
上に吹き飛んだRT-55Jの上昇が止まりそうだったので、鉄球に繋がった鎖を巻き付けて頭から引き落とす。
落下地点は当然──────シュリケインの上だ。
共に爆散するRT-55Jとシュリケイン。
RT-55Jはこのレプリロイド全盛期の時代に『ロボット』と明記された存在であり、シュリケインはシグマウィルスの物体化だ。
私は価値ある二体の情報を吸い上げた。
地上掃討はもう十分だと判断して、ビーブレイダー達を水上で蠢くジェリーシーカー達に墜落させる。
そして燃え上がる水面に飛び込んだ。
後ろからはレプリフォースらしき者達が走ってきているが、海中に飛び込んで来る者は誰一人いなかった。
少々情けないが、……それで良い。
水底へと沈む私は、生き残っていたジェリーシーカーをメタルロータスで洗脳し傀儡化したものを、浮力調整材にしながら沈んでいく。
アングラーゲとウツボロスが反転して襲い掛かってくる。
潜水艦へは辿り着かせたくない訳だ。
私はジェリーシーカーを前面に押し出し、過電圧の電流でショートさせる。
ジェリーシーカーも完全に破損したが、それは想定済だ。
今度はショートしたアングラーゲとウツボロスを傀儡化して、傀儡の同族共と争わせる。
ある程度破壊しては傀儡化して、古い傀儡はオーバードライブさせて自爆特攻させる。
メタルロータスを複数同時に使用可能なロータスコープという特殊武器は、多過ぎず少な過ぎない中途半端な数の乱戦に圧倒的に特化している。
元の持ち主は、大規模攻撃は空母で、少数の敵は部下で、中規模の数の敵は己が対応していたのかもしれない。
アングラーゲとウツボロスが二体ずつ残った。
何れも私の支配下にある。
ここに至って、シーキャンスラーが出て来た。
シーラカンス型の海底兵器輸送艦。
元第6艦隊のクラブロス反逆時に、シグマ側に改造された元深海作業用母艦だ。
…素晴らしい。
私は躊躇なく手持ちの傀儡全てを特攻に使い、動きが固まったシーキャンスラーを新たな傀儡にする。
シーキャンスラーなら潜水艦に追い付くのは難しくない。
下方向に強い武装を持ったシーキャンスラーにとって、より下に潜っている潜水艦は良い的となる。
水中用レーザーと魚雷を後先考えずに使い果たす。
目標を十分な圏内に入れた。
敵の潜水艦から反撃が来るが、構わない。
シーキャンスラーをオーバードライブさせて、潜水艦に衝突させた。
衝突と爆発により穴が空いて、水が流れ込む潜水艦。
背後からの衝突により、起動機能は停止したように見える。
このままであれば海に沈んで、浮かび上がる事もないだろう。
流石にそこまで無能だとは思わないが、
…やはり、簡単には終わらないか。
潜水艦は姿勢制御も出来ず沈んでいくが、その中から泡がまた吹き出てきた。
何処かがまた爆発したのか、それとも────誰かが脱出したのか。
赤い何かが迫って来ている事から、後者と断定して良いだろう。
「良くもやってくれたな。お礼にそのボディー、斬り刻んでやんよ!!」
「無限の寿命を持っているロブスターは、今や絶滅の危機。
どうしてか分かるか? 捕食者より弱かったからだ」
「テメェ、ブッ殺す!!」
シグマウィルスによる狂化以前に、設計段階で異常であったという話を聞いている。
これは軍がひた隠しにしていたが、エイリアが暴いた。
ミスとはいえ、元々イレギュラーとして戦闘用レプリロイドを設計したとなれば、その問題は露呈する前に解決したかっただろう。
しかし、この深海までは敵の深海用メカニロイドを乗り継いで来た私程早くは、軍も辿り着けない。
「エイリアにじゃんけんという遊びを習った。
グーはチョキに勝つらしい」
敵の主武装である両腕のハサミは極めて強固ということだが、鉄球程ではないだろう。
仮により強固であったとしても、衝撃にまで強いかどうかは分からない。
シュリンプァーを下方向に叩き付ける形で鉄球を放った。
受け止めようとしたシュリンプァーはそのまま海底に叩き付けられる。
私は鉄球を引き戻して第二撃を放った。
「鉄球はグーかも知れねえが、それ以外は俺にとっちゃ全てパーだ」
シュリンプァーは二撃目の鉄球を右手でいなして、左手のハサミで鉄球を繋ぐ鎖を切断していた。
完全にはいなせなかったようで、右手は歪んでいるがこちらも鉄球は失った。
否応無しに近接戦闘になる。
相手はハサミで、此方は刀の一対一。
「さあ、いくぜっ!!」
シュリンプァーは左のハサミを動かしながら高速で突っ込んで来る。
私もそれに合わせた行動を取る。
先に刃を届かせたのは、────シュリンプァーだった。
しかし、それは彼の勝利をそのまま意味しない。
「液体化…だと…!?」
『
シュリンプァーの背後に取り憑く様にして、その唯一の武器である左手を彼の首元に動かす。
思った通り、シュリンプァーのハサミを閉じる力と、その腕の器用さは確かなものだが、そこに特化し過ぎて、腕そのものはそこまで強くない。
「自壊しろシュリンプァー」
ハサミも閉じる力こそ強いが、開く力は弱い。
ハサミの両端から閉じようとする私の力に、必死にハサミを開いたままにしようとするシュリンプァーの力が負けている。
左手の鋭利なハサミはシュリンプァーの首元に食い込む。
素晴らしい鋭さで、既に表層は裂けつつある。
「クソックソックソオオォォオオオオッッ!!」
シュリンプァーは観念したのか、自らそのハサミを閉じた。
私は分離した頭と身体を回収すると、信号を放ち海上からの回収を待った。
この深さから自力で戻るには、シュリンプァーは重過ぎる。
漸く回収がやって来て、壊れたシュリンプァーと共に海上に上がると、レプリフォース達もいた。
「レノォーク殿協力感謝する。そのシザーズ・シュリンプァーの身元を引き受けたい」
「…私にその権限はありません。
一度イレギュラーハンター本部に持ち帰ります。
本部を通した交渉を願います」
相手はスティングレン少佐。
海軍の若きホープであり、何れ海軍のトップになる人材と有名な男だ。
「既にシュリンプァーの確保は報告してありますので」
相手の人格まではしらないが、これを告げる事で、私や回収部隊ごと隠滅しようとは考えなくなるだけの考えはあるだろう。
「そこを何とか──」
「駄目です」と断ろうとした。
「────私からも頼む」
「閣下ッ!?」
スティングレンが平伏して閣下と敬う相手など、三名もいない。
私の前に遠隔映像通信で表れたのは、
それでも私の対応は変わらない。
「すみませんが、イレギュラーハンター本部を通して調整をお願いします」
「貴ッ様ァ。閣下が頭を下げられたのだぞっ!!」
指揮系統が違う事は理解しているはずであろうに、スティングレンは激昂した。
少佐にまで上った頭脳を考えれば、十分にポーズの可能性はある。
勿論、上官は尊敬されるべきという内輪の理屈を、軍の外に求めてしまう者も軍にはかなりいるが、それはイレギュラーハンターにおいてもよく見る光景だ。
「駄目か。見事なイレギュラーハンターへの忠誠…………いや、違うな。その
驚いた。
レプリフォースの総司令官なら情報は集まる立場だろうが、一目で見抜かれるとは。
「隠しても、分かる。
知らなくても分かるのだ。
より上の組織から来た、己は今の所属よりも崇高な使命を持っていると思っている者は、目を見て話せば通信越しにだろうと分かる」
スティングレンは呆気に取られていたが、まさかという表情になった。
「スティングレンよ。確かに相手は美しいお嬢様だが、生まれが違い過ぎて我々の手にはあまる。
諦めるとしよう」
「はっ」
立体映像のジェネラルが消えると、スティングレンは此方を睨み付け、完璧な敬礼をした後に去っていった。
「あの、先程の件はいったい…」
「イレギュラーとして処分されたくなければ、黙って大人しく忘れなさい。
記憶処理は手配します」
ジェネラル。
大したものだ。
これでは私の後継達は苦労するだろう。
実際に軍に派遣されて、正式に軍に所属するといって帰ってこなかった者もいる。
一番有名な例だと、そのまま参謀にまでなっている。
もし、政府の狗のまま参謀にまで上り詰めていたのなら、大いに政府へと貢献出来たであろうに…。
それに、初見で見抜いた上で自ら引き下がるポーズを取ったのは、次の会合で、それも仕組まれたタイミングで私を引き抜こうとしている可能性もある。
そういったやり口は、政府の側にもマニュアルとして存在する。
…プライドに拘る相手に有効な手口として。
これも含めて政府への報告としなければ。
恐らくシュリンプァーのイレギュラーハンターとしての最大限の有効活用の為に、暫くエイリアは休めないだろう。
軍の技術レベルの確認と吸収。
そして発表による軍の支持率低下による、戦闘用レプリロイド開発リソースの確保。
やることは決して少なくない。
その間は…私もきっと休めない。
レプリフォース統合司令部
「スティングレン少佐。ダシに使って済まなかった」
「閣下、頭をお上げ下さい。
軍の為に使われる事は、小官の誇りであります」
司令部に帰ったジェネラルとスティングレンは、最初からシュリンプァーの回収を諦めた上での茶番劇について話していた。
元々、レトナ・レノォークの事は知らなかった訳ではない。
政府機関やイレギュラーハンターに所属して働きながら、
勿論、通信越しに直接見た事で理解した事や確信した事も多い。
政府の側だったのは想定外だったが、シュリンプァーの回収を理由にしてレトナと接触を図るのは折り込み済みだった。
だからこそ、無理に深海にまでレプリフォースはシュリンプァーを追って潜らなかったのだ。
「どう見る、少佐」
「はっ。私見ではありますが忠義を尽くすと認識した相手には忠実。戦闘能力や思考力も十分でしょう」
その回答を聞いたジェネラルは少し笑った。
「それは私見とは言わん。
正直に言うと良い」
「では恐れながら、────少々生意気な小娘ですね。…まあ、嫌いではありません」
ジェネラルとスティングレンは一秒程黙ると、耐えきれず笑い出した。