レプリロイドは電子狼の夢を見るか   作:きしめん陰陽師(五寸釘装備)

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薫灼と焦燥の間に

 シュリンプァーが軍制作のレプリロイドであること、それをイレギュラーハンターが倒した事。

 これらはレプリフォースにとっては不利になる出来事であったが、イレギュラーハンター本部の公式アナウンスで発表された。

 但し、シュリンプァーはΣウィルスによってイレギュラーしていた事になっていた。

 まあそこが落し所だったのだろう。

 貸しを作ったという事だ。

 

 そもそも、イレギュラーハンターだって褒められた評価でもないが。

 対外的に全ての元凶となっているのは、これまで二回はシグマだった。

 今回こそドップラーだが、シグマも同時に復活した事の印象は大きい。

 

 嘗てシグマによって開発されていた恐竜型メカニロイド『D-REX』。

 開発が間に合わず、上顎から上部分しか完成せず、そこから下は戦車になっていたと記録されていたが、今回全身も造られた完全体D-REXも暴れている情報が入っている。

 

 エックス隊長はビートブードとの一戦で、相当にメンタルをやられている。

 クワンガーを殺さず止めれていればビートブードが堕ちる事は無かったと思い込んでいるようだ。

 イレギュラーに堕ちる奴は堕ちる。

 兄が欠陥品ならば、弟にも欠陥があったというだけではないだろうか。

 そう言えば更に落ち込むだろうし、だからといって慰めるつもりもない。

 

「エックス隊長は次に破壊するイレギュラーは決めていますか?」

 

 思い切って『何をしたいかしたくないか』ではなく、『何をするべきかするべきでないか』の公的な思考にシフトさせる必要がある。

 それは本人が嫌がっているがやらなくてはならない事であればある程効果的だ。

 

 

「……そう、だな」

 

「宜しければ第0特殊部隊長と同行されてはどうでしょうか」

 

 エックス隊長は少しだけ理解に時間を要していた。

 思考を放棄していた状態から、戻るのに時間があったのだろう。

 回復したようで何よりだ。

 

「エックス隊長にとってビートブードがやり難い相手であった様に、エクスプローズ・ホーネックとの戦いを望む訳では無いでしょう。

…勿論、それでも彼女を斬るとは思いますが」

 

「レトナって、ゼロには優しいんだな」

 

 「そのつもりはありませんが」と答えると、エックス隊長は準備を始めた。

 

 

 さて、私も完全体D-REXを潰しにいかなくては。

 前回はデータの海での活動だったので、エイリアのナビゲートがあったが、アレは稀有な例だ。

 エックス隊長とゼロとは違って、私は今回も単独で活動する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 辿り着いた場所は瓦礫になっていた。

 なる程、D-REXは確かに破壊力は高いようだ。

 巨体でありながら機動力は凄まじく、その大きさと重さに速さが加わるのだから、それそのものが破壊力となる。

 構造がシンプルかつ装甲が厚ければ、それは防御力にもなる。

 関節部分はしっかりと剥き出しにはならないようにもされている。

 

 

 とはいえ、やはり関節は弱点となり得る。

 機動の障害にならないように、それなりの隙間は存在している。

 それに、私には切断に特化した新しい武器もある。

 

「シザーリングチェーン」

 

 極めて強度の高い物質で造られた鋭利な刃。

 これはシュリンプァーのハサミから得た武器だ。

 鎖付き鉄球使いの私に馴染みがあるように、鞭状の武器として開発して貰った。

 

 D-REXの関節の隙間に通す様に放つ。

 

 

 

 

 悍ましい音を立てて駆動部に巻き込まれる超硬質の刃鎖。

 二足歩行のD-REXの片脚は完全に機能停止した。

 

 そうなれば顎を噛み合わせながら、身体を捻ったり振り回すだけの、厚装甲で超重量というだけだ。

 元の戦車と組み合わされた未完成のD-REXは、戦車部分はほぼ無敵に近しい、それこそシュリンプァーのハサミやシザーリングチェーンに似た、又は同じ材質だったらしい。

 幸いな事に、完全体D-REXの材質は厚みこそあれど攻撃は通る。

 

 確かに巨大さそのものは武器となる。

 いや、兵器と言っても過言ではない。

 だが、全身どこであって攻撃が通るなら、ほぼ戦車であった未完成の状態の方が強かったのだろうと感じた。

 

 

 D-REXの各関節にシザーリングチェーンを落とす様に入れていく。

 耳障りな音と共に、それらの機構は次々と停止していった。

 

 

 

 

 

「お見事です」

 

「当然じゃ。何せワシの作品じゃからな」

 

 

 私の行動を見ていたらしいレプリロイドが二人いた。

 

「申し遅れました。私はシャクティーラCC。こちらは────」

 

 シャクティーラCCという存在は私のデータには無い。

 その隣の嘗て存在した『乾電池』に似た頭をしたレプリロイドも当然私のデータにはない。

 無い…はずなのだが。

 

「初めまして…では無いからのう。

そうじゃのう。適切な挨拶はこうじゃろうて。

おはよう、レトナ。

 

 

 

 …………再度検索をかけたが、ログには会った記録は無い。

 だが、そのはずだが、私の中の何かがそうではないと叫んでいる。

 

 危険人物なのかと判断するのなら、その可能性は極めて高いだろう。

 しかし、ならば排除するべきという結論にはならない。

 

 

 

「可愛い子供達の様子を見に来ただけじゃよ。

お主もゼロも揃って愛想が悪い。

…よいよい。

フォルテあやつもそうじゃったからな」

 

 

「私とゼロ…?

貴方はいったい……」

 

 私達を子供達と呼ぶ老人のレプリロイドは、いったい誰なのだろうか?

 話す内容が真実であれば、そのままの意味で受け取るのなら開発者ということになる。

 

 そうだとしても、ゼロは元々発掘された過去のロボットであり、私は最新鋭のレプリロイド。

 制作者は異なるのが当然だ。

 

 ブラフ(ハッタリ)と考えるのが最適解か。

 私は警告の意味を込めて老人に武器を向け──────られなかった。

 システムのエラーを確認したが、エラーやロックは掛かっていない。

 

 

「どうやら狂犬では無かったようですね」

 

「当然。ワシの作品じゃぞ?」

 

 

 

あいつら凡人共はいつもいつもライトは凄いライトが凄いとばかり褒め称えて、ライトの理解者の様に振る舞っている。しかし、誰もワシを理解しようとしない。天才は理解されぬものじゃがな。…ワシの理解者はお前達だけじゃよ

 

 今、何かがよぎった。

 ログには何も残されていない。

 この記憶(エラー)は何だ。

 

 

「こっちに来るのじゃレトナ。

真にお主達を理解してやれるのは、ワシだけじゃよ」

 

 

 その老人の言葉には、切って捨てられぬ何か(・・)があった。

 

お父(ワイ)──────」

 

 

 

「姉さん。姉さん姉さん姉さん姉さん姉さんねぇええええさんっ!!

姉さんは僕のものだ。

僕から姉さんを奪う奴らは、────全員死ね」

 

 突如乱入して来たデストーメントが老人に斬り掛かった。

 

「博士ッ!!」

 シャクティーラCCとやらが、それを咄嗟に防ぐ。

 

 

「邪魔をするなぁ!!」

 

「何かと思えば、ワシの技術を再現しようとして出来なかった、愚か者共の作った失敗作じゃないか」

 

 命を狙われているというのに、老人は私に向けていたのとは明確に違う酷薄な笑みを浮かべた。

 

 

「残った連中ではイエローデビルワシの作品を再現するには何もかも足りず、挙げ句恥知らずにもゼロ(別のワシの作品)の姿を与えるとは…。贋作をまるでワシの作品かのように見せられるのは苦痛じゃ」

 

「煩い黙れ!! 僕と姉さんは誰かの再現じゃない!! 僕達自身だ!!」

 

 デストーメントの攻撃はシャクティーラCCを圧している。

 だというのに、老人には余裕が、デストーメントには焦りがあった。

 

 

「お主はワシの子供達ではない贋作じゃよ。レトナは大切なワシの作品じゃ。一緒にするでないぞ紛い物が。

さて、紛い物の出力を落とす力場を展開してやろう。

さあ、殺せレトナ!! この偽物を!!

 

「力が、集中力が抜けていく…」

 

 この老人は恐らく敵なのだろう。

 シャクティーラとやらも同様だ。

 だが、デストーメントもまた、明確なイレギュラーだ。

 政府からも処分せよと命じられている。

 この老人に言われるまでもない。

 

 

 デストーメントに向けて武器を向けようとすると、老人の時とは違い自然に矛先を向けられた。

 

「ねえ…さん!?

違うよね。姉さんは僕だけの姉さんだ。

そいつらの言う事なんて聞いちゃ駄目だ!!」

 

「この老人達の言う事は関係無い。

政府の命に従い、────お前を殺す

 

 

 禁忌開放申請完了

 CODE:MARCHOSIAS

 

 センサー感度が過敏になり、不明確に揺らめく。

 演算処理速度が計測域を超える。

 世界の速度が遅延し、以て内包を飽和する。

 

 物理世界における超越者にして己の制御の外にある。

 

 

 私は政府直属の機関で生み出された最も正常なレプリロイド。

 私は、全てにおいて最も正しい回答をする者。

 私は翼与える狼ゴスペル

 描くは強さの先を進む者スーパーフォルテ

 

 

 

 

「そう、それでこそワシの傑作ッ!!」

 

 己の感覚は己のものでなく

 己の意思さえ己のものでない

 己の身体は己でない己のもの

 然して構わない

 私は政府の狗。

 ──────私は正義を答える悪魔。

 

 

 

 背から漆黒の翼が生える

 

 

 誰よりも誠実で、誰よりも純粋な戦士

 天翼持つ黒き雌狼の悪魔マルコシアス

 

 右手には鉄球を。左手には光刀を。

 懺悔の時間は、既に期限切れだ。

 

 

 

 

 

 

「鎖よ!!」

 

 開戦と同時にシザーリングチェーンを無数に敵に絡める。

 地から伸び上がる様に絡み付く鎖刃は、目標に執拗に絡み付くと拡がる。

 その様はまるで大樹の如く勇壮。

 鎖の締付けを強くして、敵に食い込ませると、その先の鎖は更に花開き雄々しく芽吹く。

 

 敵の死こそ大樹の栄え。

 

 

「いいぞレトナ!! その贋作を破壊してしまえ!!

それでこそワシの大切な愛娘じゃ!!」

 

「僕は、僕は偽物じゃ」

 

 手を握り鎖を締め付ける。

 敵のパーツが千切れ落ちて、鎖は一層締め付けて先を拡げる。

 

 

 敵の戦闘続行を不可能と判断。

 禁忌開放終了

 

 

 

 

 

 意識が緩やかに鮮明化していく。

 視界が己のものという実感が再生される。

 己の支配が己にかき戻る。

 

 

 老人達の姿はもう無かった。

 私は再び視線をデストーメントに向けると、頭と左腕だけが付いた胴体を動かして、必死に残りのパーツを掻き集めている。

 私はそれを見て何かを思う────事もなく鉄球を構えた。

 シザーリングチェーンがかなり効果的だったのには驚いたが、今ならば弾切れのシザーリングチェーン以外の武器でも倒せるだろう。

 

「クソッ!! くっつかない…。くっつけ。くっつけくっつけくっつけくっつけくっつけくっつけよぉ!!」

 

 身体がバラバラになって、再び自在に再構成出来るレプリロイドなんてそうそういない。

 液体金属化可能なレプリロイド()の様な例外もあるにはあるが、条件があったりと特殊なものだ。

 

 敵である以上は躊躇は不要。

 直ぐにでも壊してしまおう。

 

 

 

 

 通信が入った。

 相手はイレギュラーハンター本部からだった。

 

「はい。レトナですが」

 

「至急だ直ぐに来てくれ」

 

 とはいっても、敵を念入りに破壊してからでも構わないだろう。それからでも遅くはない。

 

 

 

「本部が襲われた!! エイリアも拐われ─────」

 

 続きは聞こえなかった。

 気が付けば駆け出していた。

 

 他に優先すべき使命はあったはずだ。

 エイリアの救出は政府の要求には無いはずだ。

 

 

 

 エイリアは、極めて優秀な情報処理技能者(データサイエンティスト)だ。

 確かに誘拐するメリットはある。

 それにイレギュラーハンター本部の人員として、多くの情報を知っている。

 場合によっては、敵に情報を抜かれる前に破壊しなければならない。

 

 記憶に浮かぶのは、私を着せ替え人形にするエイリア。

 私の要求をダシに、自分だってエネルゲン水晶パフェが食べたいエイリア。

 特に目的なく私の横に座るエイリア。

 

 

 

場所は何処だ。今すぐ答えろ

 

 司令部のオペレーターは、私の要求に慌てるように答えた。

 

「ポイントは、43M985G:モナーク。以前に出動した巨大ダムがある場所です。

敵はアシッド・シーフォース。その他巨大水中用メカニロイドのボルト・クラゲールを確認。シーフォースからの要求は、レトナ・レノォーク一人で来いとの事です。

レトナさん、エックス隊長からの伝言です。どうか冷静に───」

 

分かってるっ!! 私は冷静だっ!!

 

 通信はそこで切った。

 イレギュラー共め、私一人で十分だ。

 噛み砕き、引き裂いて皆殺しにしてやろう。




オペレーター「絶対冷静じゃないじゃん」


Q.前回素手で時間切れまで持たせた敵がどうしてこんなにアッサリ?
A.弱体化(イージーモードの体力)した相手に弱点武器使うとアッサリ倒せるんですねってのが今回の裏テーマ。
ゴミ飛ばししたらムカデの尻尾が千切れたりするのと同じ。


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