レプリロイドは電子狼の夢を見るか 作:きしめん陰陽師(五寸釘装備)
結論から言うとエックス隊長は来なかった。
私が敵勢力は排除したと報告したのもあるが、ゼロのケアという部分も大きかったらしい。
おかげでその間、私はエイリアの人工スキンの膝枕を堪能したが、ゼロの様子が気にならなかった訳では無い。
ゼロは元副官のエクスプローズ・ホーネックを斬った事で沈んでいるらしい。
極めて勝手な偏見だが、ゼロは自分に惚れた女でも斬り伏せる印象がある。
やるかやらないかで言えばゼロはやる側だ。
とはいえ当然そんな場面を見たことはないので、私の勝手な偏見である。
私がゼロを慰めにわざわざ赴く事は無い。
ゼロの方が私よりも立場が上なので、そういった行動は上下の乱れとなる。
故に行わない。
エックス隊長からは、それとなく遠回しに頼まれている気もするが、命令としては明確に伝えられていないので、それは違うというものだ。
都市氷結活動を実行しているフローズン・バッファリオを鎮圧する必要があったが、都市全体が寒冷化を超えて凍結化しており、通常のレプリロイドであれば活動さえも困難になっている。
寒冷地対応型のレプリロイドといえば、第13極地部隊
イレギュラーの破壊率、即ち戦闘成績も群を抜いて低い。
未だ新たな隊長が決まっていないあたりに、部隊の内外共に諦めた雰囲気があるのが窺える。
その情報を知ってかどうかは分からないが、レプリフォースが共闘を打診してきた。
通常であれば、イレギュラーハンターとしての立場を守る為に本部は断るはずだった。
それがこれまでの流れだったのだが、前回私がシュリンプァーの首を取り、大きくパワーバランスが自分達に傾いた事で、本部も少しの譲歩は認めたのだろう。
…寒冷地対応についてはガタガタなイレギュラーハンターでは心許ないということもあったのは、まず間違いない判断材料だろう。
修理中の私は目的地のエリアマップと、フローズン・バッファリオと共に都市破壊を行う敵勢力。そして、レプリフォースからの援軍情報を確認していた。
……代表はフロスト・キバトドスか。
確かにレプリフォースも寒冷地特化型という、普段使いとしては使い難い戦力は少ないとは思っていたが、よりによってキバトドスか。
私がイレギュラー認定の申請をして、破壊寸前まで追い詰めた相手だった。
…レプリフォースも人材難ということなのかもしれない。
足手纏いになるかも知れないが、臨時で第13極地部隊の隊員と装備をサポートに付けさせて貰った。
ホッキョクギツネ型、ハスキー型、ミンク型、シマエナガ型それぞれのメカニロイドを支援装備として私に随伴させる。
開発中だった寒冷地対策装備『
仮の隊長代理として、第13極地部隊へ映像通信で連絡をする。
画面の向こうには、事前に隊員全員を集めさせていた。
「訳あって病床からで済まない。諸君らと共に都市奪還計画を遂行するレトナ・レノォークだ。
臨時ではあるが、指揮を執る。
正直に言って、この部隊の評価は最低だ」
モニターの向こうには、事実と認めてしまっている故に、怒るに怒れない隊員達がいる。
心も折れた負け犬達だ。
「熱さ寒さの違いはあれど、同じく極地で活躍する事が多い第14特殊部隊は、どの戦場でも評価が高い。
故に冷凍属性のレプリロイドは弱く、炎熱属性のレプリロイドは強いというのが、戦闘に携わる者達の中で常識になっていることは、他でもない君達は理解しているはずだ」
…誰一人反論しないのは、上官に服従する姿勢としては素晴らしい。
しかし、その理由が劣等感以外のものでは無いのが見て取れる。
「それでいいのか!?
…とは、散々言われてきたし、思ってもいただろう。
しかし現状は変えられないと、直ぐに思い直した。
そういった所だろう。
今回は、レプリフォースも参戦する。
…そういうことだ。
上も君達だけでは難しいと考えたはずだ」
誰もが俯いて、顔を上げてもいない。
図星だから仕方無いといった様だ。
腑抜けきっている。
蓄積した失敗経験が、己の頭上に重力をかけているのだろう。
「レプリフォース側の代表は、あのキバトドス。
新人以外は知っているだろう。
仲間壊しの乱暴者だ。
正直、再会したくない者もいるだろう。
…だが、その様なトラウマには私も興味はない。
興味があるのは、作戦の成否のみ。
君達は羊だ。
寒さに耐える事が出来るだけの、肉食動物に喰われるだけの弱者だ。
だが、『狼に率いられた羊は狼の群れと看做せ』という諺がある。
では、作戦のデータは共有クラウドにアップロードするので確認されたい。
以上だ」
通信をそこで切った。
私は弱者を盛り上げる話術は得意でも好みでもない。
やれと命令されれば行うが、そうでない限りは不要だ。
作戦の概要としては、基本的には都市の解凍資材の配置と私へのサポートがメインとなる。
長時間の寒冷地に不向きな、非寒冷地型メカニロイド用の温熱剤を私の移動予定地点に配置する。
また、一部移動が困難な場所において事前に足場を構築したり、トラップを解除させる。
工兵と補給員と言ったところだ。
彼等が華々しく戦闘する予定はほぼ無い。
だが、先行して長時間待機する事が求められる任務に耐えられるレプリロイドは、彼等の他にいない。
目立って戦闘力が高いレプリロイドがペンギーゴやキバトドスしかいなかった。
そもそも寒冷地型のレプリロイドは珍しく、軍がキバトドスを拾ったのも、ペンギーゴが大きなレプリロイドを卑屈に憎むに至る根本でもあった巨大な苛めっ子のキバトドスの、第13極地部隊の実質的な権力者としての古巣への影響力と、部隊内最強であった圧倒的なパワーを求めた事は容易に想像が付く。
軍の総司令官が切れ者だと分かったなら尚更だ。
キバトドスを再会させて、残った第13極地部隊だけでは、軍に所属しているキバトドスに勝てないと再認識させて、パワーバランスを回収していくつもりもあるに違いない。
それは困るのだ。
今から鍛えても時間がないし、素質も足りないだろう。
これまで素質が開くまで全く鍛えなかったのなら、それはそれで性格的な将来性が無いし、鍛えて現状なのだろうから能力的な将来性もない。
そもそも
どれだけ能力が低い者を上手く使っても、使われる者のスペック不足によって、掴める高みは最初から限界が見えている。
それは事実だ。
有能な指揮官と有能な部下だけで構築された第17精鋭部隊に所属して、その成果全てを確認して上に報告する為に纏めているのはこの私だ。
優れた者だけで集まった場合のパフォーマンスというものは、重々認識出来ている。
そしてそうでない部隊の問題点も理解している。
だが、寒冷地型の部隊は、他の部隊の余り者を集めた訳ではなく、目的あって設立されたものだ。
その本来の運用方法は、直接的な戦闘ではなくトラップの解除や設置、移動経路の構築や妨害といった、エリアへの影響を考慮したものだというのが私の持論だ。
ペンギーゴに破壊された元隊長の手記にも、それが書かれてあった。
そして、戦闘が本分ではないと強いレプリロイドが言えばサマになるが、弱い女性レプリロイドが言っても言い訳にしか思われないという記述も。
ペンギーゴが卑屈になった主な原因は、キバトドスによる苛めと、それが改善されない状況であっただろうが、ペンギーゴはイレギュラーとして組織運用を唯一正しく理解していた部隊長を殺した。
既に破壊された後だが、本当に有害なイレギュラーだった。
私の修理には時間を要したが、修理終了に付きエックス隊長に一時部隊移動の報告を行い出撃する。
炎属性はかなり有益になるはずだったのだが、もし出来ていたらは無意味な想定だ。
臨時の副官曰く、既に全隊員が持ち場に配置済みとのこと。
…悪くはない。
エネルギーを使って温熱効果を与えるミンク型メカニロイドを首に巻き付かせて、凍結都市に向かうと先発した二名の隊員が説明の為に待機していた。
「レノォーク隊長、お待ちしておりました」
「ご苦労、現状はどうだ」
敬礼と共に向けられた挨拶には、敬礼を以て返した。
映像を介さない実質的な最初の部隊との対面になる。
この程度は必要だと認識していた。
「はっ、命じられたショートカット用の足場の構築とトラップ予測地帯の安全化、メイン経路のバリケードの構築は完了しましたが、既に連絡が取れない隊員が二割程…」
「…彼等は彼等のやるべき事を果たした。イレギュラーハンターとして完璧にだ」
レプリロイドは、その存在の全てが目的の為にある。
その役目を果たしたのであれば、それは正しく生まれて来た意味の証明だ。
「第一バリケードの中のトラップはどうだ」
「……はいっ。当初の装備は奪取されましたが、第二先発分隊長が自ら凍結して反応型自爆装置を起動可能にしています。
観測班からの報告では、敵も躊躇していて未だ破壊されていません」
つまりは求めた成果は全てこなされたということだ。
「言う事は何もない。
この盤面の勝利は、既に彼等によって作られた」
そう答えていると、静音性を考慮しない煩い軍用ヘリコプターの音が上からしてきた。
そして飛び降りたもの達がパラシュートを広げて降下してくる。
パラシュートがあるというのに、その着地音は耳障りだった。
降りて来た者の巨体のせいだ。
極北の暴れん坊 フロスト・キバトドス
「ああん、相変わらずトロい部隊だな。まだ戦闘始めてねえのかよ」
「私が軍の所属だろうがイレギュラーの破壊に躊躇しないということは、シュリンプァーの件で理解してくれていると思っていた」
背後から鼻息荒く己の原隊を貶める
「テメェッ!!
…まあこんなザコ共とつるむようになったとは、落ちぶれたもんだな。
私だけでなく、部下にも威圧している。
いや、違うな。
威圧されても萎縮とは無縁の私にオラついても効果が無いと判断して、萎縮させられる相手に威圧したのだろう。
全く有害でしかない。
「わ、我々はっ、己の仕事を、完遂しています」
「あ”っ? 口答えするとは偉くなったなぁ!!」
本当に迷惑だったので、刀をキバトドスの首元に向けた。
「その小さな頭で理解出来るように説明してやろう。
私の部下は、その任務を完璧に果たしている。
理解出来なかったのなら、洗脳してやろう。
もし、この吹雪で聞き取れ無かったのなら、可哀想なことだ。
軍に頼んで
キバトドスから蒸気が上がっているが、首の前に刃がある事は理解していた様だ。
自ら突っ込む事は無かった。
レプリフォース達は作戦を開始すると、報告義務を忘れるどころでなく激昂していた指揮官に代わって報告していたが、私達は既に作戦の半分以上を終えている。
今更作戦開始とは言わない。
肩に乗るシマエナガ型メカニロイドは、吹雪による電波の乱反射を逆に活用した通信機能を持ち、既にエリアにも数匹配置されている。
寒冷地というのは、極めて特殊な状況が重なっていて通常の常識は通用しない。
キバトドスは粗暴だが、そういった経験はかなり積んだベテラン兵でもある。
しかし、
「しゃらくせえ。
全部纏めてぶっ潰せば良いんだよ!!」
味方が作った被害拡散防止と敵誘導を目的としたバリケードまで壊しながら只管直進している。
これらの事は逐次観測班によって本部へと報告させる。
壊されたバリケードを突破しようとする敵に攻撃されながら、バリケード修復を試みる部下達を視界から外して、私も前も見る。
敵本拠地予測点へのショートカットとして作られた氷のレールをハスキー型メカニロイドによって、歩行可能な状態に変えながら直進していく。
遥か後方で下方から、キバトドスが喚いているが考慮にメモリを割きたくはない。
ホッキョクギツネ型メカニロイドによって、周囲の隠された温熱剤の位置を確認する。
事前に部下達が設置したそれらは、文字通り私の生命線となっている。
まず液状化を使う事はないが、温熱フィールド発生無しで液状化を行えば、そのまま行動不能になる可能性が極めて高い。
空を駆ける氷のレールによって、最短距離でタワーの屋上に飛び込んだ。
そして駆け続ける。
温熱フィールドの発生や、首に巻いた温熱用レプリロイドへのエネルギー剤は消耗が激しい。
進むたびに冷気は強くなり、それらの消耗は激しくなる。
ボスのバッファリオは絶対零度でも活動可能な極めて特殊なレプリロイドで、分子が完全に止まる世界の中で能動的に初動を発生させられる。
熱力学的にはテレポートに近い事を行っており、寒冷地どころか現在の技術の最先端にある。
絶対零度で動けるのであれば、絶対零度に近い環境で待ち受けようとするだろう。
室外とさえ繋げてしまえば冷気も逃げて、絶対零度は起こらないとしても、だからといって暖かくなる訳でもない。
希望的観測として、バッファリオの欠点はあるが、当然最悪に備えるべきだろう。
私は居場所が知られる事を前提にエレベーターの天井に予め仕掛けさせた爆弾を起動させる。
タワーの屋上が吹き飛んで、縦に大きな風穴が開いた。
エレベーターの通る穴を落ちる様に落下していく。
落ちる度に温熱の為の資源が消耗されていくが仕方無い。
一番下まで着地すると、足元のエレベーターを破壊し、扉も破壊して中へと再突入した。
「………………」
「戦闘態勢。
投降する知能も凍り付いたということか」
先ずは扉を氷で塞がれて、部屋が再び冷やされる前に徹底的に外壁を壊して冷気の密度を下げる事だ。
相手が部屋の凍結を最優先した場合、戦闘力の上下に関わらず此方の負けが確定する。
寒冷地戦闘の準備が行われていたのは、此方側だけではないということだ。
鉄球を振り回し、動きが鈍る前に壁を優先して叩き壊す。
壊した壁から外に逃げてもバッファリオは追ってこない。
バッファリオは私を倒さなくても、私に倒されずに都市を凍結させ続けられるのなら勝ちだと理解しているようだ。
口はきいてこないが、少なくともキバトドスより賢いかもしれない。
仕方無く外から壁を壊しながら、時折バッファリオに向けて鉄球をぶつける。
金属植物のメタルロータス、液状化のリキューフィクション、太陽光によるソーラーサンクチュアリといった特殊兵装は、全てこの吹雪舞う寒冷地では使い難い。
残された温熱用エネルギーに気を付けながら、通常兵装である鉄球と刀を使い戦うしかない。
修理中にこれまでに倒して来た敵から得た情報を解析、吸収して作り出した新機能『チャージ』をメインに扱う事となった。
通常攻撃では敵に
「喰らえ」
バッファリオを攻撃する為の鉄球は、中の液体金属が低温下して不調をきたしていたし、吹雪の影響か刀の様子も芳しくは無かったが、バッファリオは徐々に動きを鈍らせて、そして停止した。
エックス隊長なら、間違いなく此処で攻撃を止めたのだろう。
あの人はそういった甘さがある。
「手柄ってのはな、最後に壊したもの勝ちなんだよ!!」
乱入してきたキバトドスの突進によって、動かなくなったバッファリオは粉砕された。
だが、最終回目標であるバッファリオ討伐が行われたという事実には変わり無い。
バッファリオはイレギュラーだったからだ。
軍としてはこの機会にリードを取りたかったのだろうと、特に気に留める必要もないかと思っていたら、鋭い氷が飛んで来た。
咄嗟に躱したが、吹雪内で連絡可能なシマエナガ型メカニロイドは破壊された。
「一応確認しておこう。何のつもりだ」
「何のつもりって、その頭はスカスカか?
見れば分かるだろ。
此処でなら、お前を壊しても誰にも気が付かれない。
壊した後は、しーっかりと遊んでやるさ。
気が強い女は屈服させたくなるもんなんだよ。
ハンター時代の元隊長も最初はそこそこ気が強かったが、──まあ、躾って大事だよな。
…ずっとな、お前もこの手でブチ壊したかった。
氷のベッドでおねんねしようぜ!!」
既にコンプライアンスという枠は軽く吹き飛んでいるが、パワハラだけでなく、セクハラも好むという時点で、やはりイレギュラーだった様だ。
元となった動物が性欲が高いのとは無関係だろうが、極めて嫌悪感がある。
しかし、ミンク型レプリロイドの熱も低下しているし、温熱フィールドは掠れ気味だ。
万が一キバトドスと戦闘になる可能性は想定していなかった訳ではないが、
キバトドスは、白鳥型メカニロイドを使って一面を瞬間冷却した。
消費エネルギーは凄そうだが、極めて強力な力だ。
後で回収するとしよう。
その一回で白鳥は壊れて砕けたが、周囲を見ると何羽もいる群れが迫って来ている。
既に凍り付いたフィールドに変化は無いが、気温の低下が凄まじいのは、温熱フィールド発生機構が停止したミンクの状態で分かる。
キバトドスに対してチャージした鉄球を衝突させるが、中の液体金属の動きが悪い。
所謂
ふと首周りが軽くなった。
元々長らく使われていなかったメカニロイドなので、遂に機能停止して落ちたかと思ったが、しばらくして再び私の首周りに戻って来た。
先程とは比べようもなく、温熱効果が発揮されている。
フィールドも完全に回復した。
周囲を見ると自律型メカニロイドのホッキョクギツネとハスキーが動かなくなっている。
損傷は見当たらない。
…二匹のメカニロイドが自らエネルギーを託したということか。
メカニロイドと我々が呼ぶ存在と、
また、分からなくなりそうだ。
「白鳥共、とっとと凍らせて砕け散れ!!」
キバトドスは数が少なくなりつつある白鳥達の在庫を一気に消費することで、高い制圧力で終わらせる作戦に出たようだ。
電子刃を飛ばして全ての白鳥を地に落とし、鉄球を振り回してキバトドスを追い込む。
寒冷地仕様のキバトドスは、バッファリオが生み出した冷却をエネルギーとして稼働力を高めているが、それでも追い込んでいく。
ポイントB-11
遂に此処まで誘導した。
「へへ、
さて、吹雪が終わったら軍に連絡して迎えに来て貰うとしよう。
それまでにお前を破壊出来なくても、俺が破壊されなければ勝ちって訳だ」
「遺言として受け取ろう」
敬礼をすべきだろうと思った。
役目を果たした者には、それ相応の態度がある。
第一バリケードが起爆する。
敵に分かりやすく透明な氷のバリケードの中で、大量の誘爆剤と共に自爆コードを発動した第二先発分隊長によるものだ。
敵に分かりやすく設置された爆発可能な第一バリケードの目的は、主に敵を迂回させる事であって、破壊させて爆発に巻き込む事ではない。
そして、目的は更に一つある。
予めキバトドスが来る事は分かっていた。
もし、キバトドスが此方に害する場合、徹底的に仕掛けられた寒冷地用トラップを集中発動させる計画を含めていた。
その始動として、第一バリケードの起爆が機能する。
同時に床が抜けて、キバトドスが落ちる。
其処は地獄のトラップルーム。
数日前から容易されていた氷と冷気の脅威を利用した、
その恐ろしさは、私よりもキバトドスの方が詳しいだろう。
「まさか、嘘だろ…。
ナノセラミックブライニクルッ!!」
ナノセラミックブライニクル現象。
それは現在では安全性の観点から寒冷地での使用が禁止された特殊なナノセラミックを、長期間緩やかに冷却させ続ける事で、触れると分子レベルで瞬間冷却する液状化したセメントの氷柱を発生させる現象だ。
絶対零度で動けるバッファリオ相手では意味もないトラップというあたりに、完全にキバトドスを仕留める為の罠だった。
この現象の恐ろしさ。
仮にも第13極地部隊のベテランであった者なら、その脅威は知らないはずはない。
「は、はは。ここで終わんのか、よ」
キバトドスは完全に氷漬けになった。
近付いてくる煩い軍用ヘリの音は無視して帰るとしよう。
勝利の肉の味を噛み締めるには、少し肉が冷え過ぎた。