灼眼のシャナの世界に転生したまたしても何も知らない原作知識皆無系オリ主の話   作:深夜テンションで砂嵐

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第1話

 世界が紅蓮に染まり、文字通り時が止まった。

 周りで雑踏を作っていた人々は今やただのオブジェと化し、今にも地面に落ちそうだった誰かの落とした缶は空中に留まっている。

 

 そんな光景を目にして、俺は愕然としていた。

 

(ここ…灼眼のシャナの世界かよおおお!)

 

 俺は転生者。名前は坂井雄二。

 

 転生者の常として、当然自分がどの世界にどんなポジションで転生したかは、幼いころからずっと気にかけていた。

 

 その中でも一瞬頭によぎったのが『灼眼のシャナ』の世界だった。

 『さかいゆうじ』という名前と、美人過ぎる母親。合致する点はいくつかあって、俺にとってはそれが唯一の手掛かりなので頭に引っかかってはいたのだ。

 

 だが、俺は『灼眼のシャナ』を諸々の理由で完全に除外していた。

 

 一つ目の理由は名前。『灼眼のシャナ』の主人公の名前は『坂井悠二』だ。同音ではあるものの漢字が違う。

 

 二つ目の理由は、そもそも俺が『灼眼のシャナ』についてあまり知らないという事。

 

 何せ、見たのが小学生の時。年の離れた兄貴が見ていたのを後ろから覗き込んでた程度だ。その時に興味が出てラノベに手を出してみたが、漢字が分からなさ過ぎて挫折した。

 

 で、俺が死んだのは、『鬼滅の刃』だったり『地獄楽』だったりが現役だったころ。

 普通に脳梗塞からのあぼんだ。地味に死んだ。

 

 まあ、つまりなにが言いたいかというと、『灼眼のシャナ』は俺の世代じゃなかったってことだ。

 

 流石に何も知らない世界に転生なんてさせられてたら、そもそも考えるだけ無駄な話になってしまう。除外する以外の道が無かったのだ。

 

「クソッ、どうせならもっとほのぼのした世界が良かった…!」

『アレ、こいつ封絶の中で動いてるよ?』

 

 考え込んで停止していた俺を、甲高い子供のような声が現実に引き戻した。

 

 そこにいたのはキューピー人形のようなもの。ただし身長が4m以上もある。

 

『驚いた。コイツ、ミステスね。宝物が入ってるトーチ』

『え、ほんと?』

『嬉しいお土産ね。ご主人様もお喜びになるわ』

『やったー!僕達お手柄だぁ!』

 

 それに、宙に浮かぶ球体が反応している。

 いくつもの人形の頭で構成された悪趣味な形をしていた。

 

 人形が嬉々として俺に向かって手を伸ばしてくる。

 

 丸太よりも太い腕。それを、緋色の斬撃が斬り飛ばした。

 

『ぎゃああああ!』

「アラストール…どう?」

『ふむ…徒ではない。ただの燐子だ』

「そう…外れね」

 

 降り立つ黒髪の美少女。それから、どこからともなく謎の声が響いている。

 

 それからはもう訳の分からないことだらけだ。

 美少女VSキューピー人形&闇堕ちした塊魂VSダークライの上映が始まり、俺の背後に謎の美女が忍び寄ってきたと思ったら美少女が俺ごとそいつを切り飛ばし、美女が実は人形で中からさらに小さな人形が出てきたと思ったら逃げていった。

 

 夢でも見てるのかって感じだ。

 どんな世界に転生していても大丈夫なように、それはもう無駄に肉体を鍛え続けてきたというのに全くと言っていい程役に立たなかった。

 

「逃げられちゃったわね。あの口ぶりだと、後ろに大きなのがいそうだけど」

『久々に紅世の王を討滅できるかもしれん』

「うん…それにしても…さっきはびっくりしちゃった。これが動いてるってすっかり忘れてたから」

『そうだな。我も一瞬、天目一個の事を思い出していた』

「でもあの時は最初から動けることも戦えることも分かってたし…」

 

 なんのこっちゃな話をしながら戦闘終了の雰囲気を出す二人組?に、肩から胸にかけてほぼ真っ二つにされた状態の俺は声をかけた。

 

「…で、俺の身体ってこれ、自分で元に戻せる?」

 

 血は出ていない。断面は…なんだこれ。真っ黒でぐにぐにしてら。

 

「ふーん、これ、随分と冷静なのね」

『現実を受け入れられていないのだろう。だが、騒がれるよりかは幾分かマシか』

 

 美少女は…って言うか、多分、『灼眼のシャナ』の主人公の1人のシャナ、だよな?は、俺を見下ろして小さくため息をついた。

 

「別に治す理由もないし、このままでいい?」

 

 …本当にラノベのヒロインなんだよなこの人。

 ここまで『人の心とかないんか?』って感じの言葉しか口に出してないんだけど。

 

『いや、放置するのは悪手だろう。天目一個の一件を思い出せ』

「仕方ないか…」

 

 美少女が俺の肩を持って断面同士をくっ付け合わせた。そして、息を吹きかける。

 すると俺の身体が燃え上がり、あっという間に傷は無くなっていた。

 

「おー、凄いなこれ。どうもありがとう」

 

 俺のお礼の言葉を聞いているのかいないのか、美少女は周囲を見渡して同じようにぐちゃぐちゃになっている人間たちを治した。

 

「トーチはこれでいいとして、次は街の修繕ね。トーチをいくつか使うね」

『うむ…それにしても派手に食いよるわ』

「奴らの主って、よっぽど大食いなのね」

 

 うーん、全く分からん。

 一回アニメで見た筈なんだけど、すっかり忘れてる。小学生の頃の記憶だしなぁ。むしろ『さかいゆうじ』って名前を憶えてたことすら褒めてやりたいくらいだ。

 

 街が直り、謎のご都合主義結界が解ける。

 そうして全てが元通りになり、街の雑踏が蘇る。

 そこにあるのはごく普通の街並みだ。

 

「…全く、なんでもありだな」

 

 周囲を見渡す。そこには俺のクラスメートの姿もあった。

 俺が修行マンの所為で殆ど話す事の無かった女子。名前は確か平井って言ったか。

 俺の記憶が正しければ、あの子ももう…。

 

「おっと、ちょっとちょっと。そこの…お二人さん。ちょいと聞きたいことがあるんだけど」

 

 こっちに人目もくれず歩き出した美少女に、俺は慌てて付いていった。

 

「…」

「おいおい、無視か?俺がトーチってやつだから無視するのか?」

「…分かってるならさっさと消えなさい」

「そう言われてもなぁ。さっきの奴ら、俺のことをミステスとか言ってただろ?『嬉しいお土産』で、『ご主人様もお喜びになる』ミステス。俺、多分この後普通に襲われると思うんだけど、そこんとこどう思う?」

「…」

 

 お、足を止めた。

 

「ねえ、アラストール。これ消していい?」

『先ほども言ったが、迂闊にミステスを開けてはならん』

「でも、これうるさくて」

 

 やっぱ人の心とかないやろこの人。

 

『まあ待て。そこのトーチ、気になることを言っていたな。あの燐子たちは、貴様に興味を示していたのか?』

「そのように見えたな」

『ふむ…』

 

 これ、ペンダントが喋ってんのか?

 美少女は黒いロングコートに身を包んでおり、首にはキラキラ光るペンダントを付けていた。

 

「なあ、教えてくれ。えーっと…徒とか、燐子ってなんだ?アイツらは、俺に何をしたんだ?」

「なんで私が教えてやらなきゃいけないわけ?」

「教えてくれるまで付きまとうからだけど?面倒ならとっとと教えてくれ」

 

 流石に原作の流れに乗らない訳にはいかない。

 ラノベってのは基本話が世界規模だからな。主人公がいなかったら世界が滅んでた、何てのはザラにある。

 ここでミスって原作の流れに乗り遅れた結果、世界が消えるとかなったら目も当てられない。

 

 問題なのは、原作の坂井悠二がどんなキャラクターだったか、なんてのはぶっちゃけ全く覚えてないってところだ。

 ここは体当たりでやっていくしかなさそうだ。

 

「はあ?…ねえ、アラストール」

『ダメだ。仕方がない。事実を教えてやれ』

 

 美少女は面倒くさそうにため息をついて、口を開いた。

 

 で、聞いた話はこうだ。

 実はこの世界の裏側にはもう一つの世界が存在しており、そこの住人である紅世の王はこの世界に度々やってきて迷惑を振りまくらしい。

 トーチってのはその迷惑の一つ。紅世の王はこの世界の住人…つまり、人間の『存在の力』を好んで吸い取る。だが、本来そこにいた筈の存在が急に消えてしまえば、世界に穴ができて悪影響がでるし悪目立ちする。

 それを何とかするための緩衝材がトーチらしい。人間の『存在の力』を全て吸い切らず、少しだけ残してその場に置いておき普通の人間に見えるように加工する。

 それがトーチだ。トーチはその後緩やかに自我と絆を失っていき、周囲の人間すべてに忘れ去られながら消えていくが、急に消えるよりかは緩慢に消えることができて影響も少ないらしい。

 

「ほーん。じゃあ、俺はもう既に死んでるって訳だ」

「そういう事。あんたはもうタダのモノなの。分かった?」

「まあ、多分」

「…動揺しないのね」

「顔に出てないだけだよ」

 

 ラノベの主人公ポジションだしどんな問題に巻き込まれてもおかしくないとは思っていたが、まさか初っ端死亡することになるとは思ってもみなかった。

 じゃあ、今の俺はただの代替品ってことか。

 何それハード過ぎない?俺の第二の人生すでに終了してたとかワロエナイ。

 

 本当に顔に出てないだけだ。心の中ではめっちゃ動揺してる。

 

「じゃあ、アンタらは何なんだ?」

「私はフレイムヘイズ。紅世の徒を狩りだして討滅する者」

『いかにトーチを置いたとて、存在の乱獲により世界に穴をあけ危機をもたらすことに変わりはないからな』

「ふむ。なら察するに、アラストールさんは正義の紅世の王で、彼女には力を貸してるって流れか。紅世の王と人間のタッグがフレイズヘイム…みたいな」

『ほう、大した推理力だ。これまでの情報でそこまで読み取るとはな』

「フレイムヘイズ、だから。名前を間違ってちゃ台無しね」

 

 折角褒めてくれたアラストールさんの言葉を横から一蹴される。

 

「じゃあミステスってのはなんなんだ?」

「トーチの中にたまに発生する、宝具と呼ばれる特別な力を持ったモノを内包したトーチのことよ」

『旅する宝の蔵とも言う。その中に宿る宝具の力の内容は千差万別。故に、時には大災害を引き起こすものもある』

 

 聞けば、宝具はトーチの中をランダムに行ったり来たりしているらしい。規則性は無く、どのトーチがミステスになるのか、どのミステスにどんな宝具が入っているのかは、開けてみるまで一切不明なんだとか。

 

「なるほど、宝の蔵ねえ。じゃあ、連中が喜んでたのも理解できるな。ようはくじ引きにあたりが入ってたってことだろ?」

「そうね。アンタに興味を示してたってことは、収集癖でもあるんでしょ」

『そうなると、これには利用価値があるということになる。近くを張っていれば囮として活用できるやもしれぬ』

「本人の前でそういう事言う?」

 

 完全にトーチ=モノだとみているらしい。

 主人公の『坂井悠二』はこれを堕として惚れさせたんだよな?どんな女たらしだったんだよ。マジで想像すらできないんだけど?

 これからは主人公のことは尊敬も込めて先生と呼ばせてもらおう。

 

「…確かに、それもそっか。よし、今日からしばらくこれのこと見張ることにする」

『それがよかろう』

「俺の意思が介在しないよね、ソレ」

「モノの意思なんて気にしてどうするの?」

 

 先生、俺、もうくじけそうです。

 

 

 

 

 

 

 次の日、俺は学校に行かずにその辺をブラブラとしていた。

 

「…暇なの?」

 

 機能の美少女が急に現れて、俺にジト目を向けてくる。

 

「アンタくらいの年頃だと、普通学校に行ってる時間だと思うんだけど」

「学校にいる時に襲われる可能性もあるしな。行かないってか行けないだけだ」

 

 親には「出来心でグレることにしました。しばらく学校に行きません」と伝えてある。

 親不孝者だと笑わば笑え。でも必要なことなのだ。

 

「ふーん…ところで、意味も無くブラブラするのやめてくれる?付いていくのが面倒なんだけど」

「ならせめて話し相手になってくれよ。同じ景色の場所にずっとい続けるのは虚無る」

「…きょむ…なに?」

「暇で死にたくなるって意味」

 

 小首をかしげてはてなを浮かべる美少女。

 こうしてみると、マジで見た目のレベルは高い。

 ちょっと幼すぎる気がするが、大人になったら女優も裸足で逃げ出すほどの美女に成長できることだろう。

 

「なんで私が話し相手にならなきゃならないの?」

「なら散歩は辞めん」

 

 俺は歩き出して、ふと公園の隅の方にキッチンカーが停まっているのを見て腹を摩った。

 そろそろ腹ごしらえでもしとくか。

 キッチンカーまで来て、メニューを眺める。

 

「…ふむ。メロンパンを一つ」

 

 たまには甘いのもよさそうだ。

 

「はいよ」

 

 平日の真昼間の客にしては年齢が気になったのだろう。俺の顔を見て怪訝な顔をした店員だったが、お金のやり取りには応じてくれた。受け取ったメロンパンを手にして、そこら辺のベンチにでも座って食べよう…と思っていたのだが。

 

「…ごくり」

「…なんだよ。やらないぞ?」

「うるさいうるさいうるさい!別に欲しいとか言ってないし!」

「はあ、しょうがないな…」

「…な、何よ」

「半分だけだからな」

「ふぇ?」

 

 半分に割ったメロンパンを渡すと、目をぱちくりとさせて唖然とした表情を見せてきた。おずおずと受け取ってくる。

 

 メロンパンが好きなのか、こいつ。

 可愛い一面もあるんだな。いや、あって当然か。ヒロインなんだし。

 

 その後、長ベンチに座ってメロンパンを食べていると、怪訝な顔を浮かべてメロンパンを見つめていた美少女が、頼んでもないのに俺の横に腰掛けてメロンパンを食べ始めた。

 

 無意識なのか意識してるのか知らないが、一応知り合いがいるんだから、一緒の席で食べるようにしたんだろう。こうしてみると育ちは良いのかもしれない。

 

「ここのメロンパン、美味いな」

「まあまあね」

 

 まあまあ、と評価しながらも、それはもう美味しそうに食べている。リスみたいに頬が膨らんでいた。

 

「なあ、そろそろ名前教えてくれない?」

 

 メロンパンを腹に入れ終わったタイミングで、俺はそう切り出してみた。

 まあ、名前は知ってるんだけどな。シャナだろ?タイトルにもなってるくらいだし間違いないと思う。

 でも記憶違いってこともあるし、何より名乗ってもないのに名前で呼び始めたら不気味だろう。

 

「私に名前なんてないけど?」

「…えっ?そうなの?」

 

 普通にちがったっぽい。

 あれー、おかしいなぁ?

 

「フレイムヘイズに名前なんて必要ない」

「…それ、普通に不便では?」

「うるさい。…他のフレイムヘイズと区別をつける時は、贄殿遮那のフレイムヘイズで通るわ」

『この子の持つ大太刀の名だ』

 

 ニエトノノシャナ…武器の名前だったのか。

 それでシャナか。なるほど。

 

「なら、俺はシャナって呼ばせてもらおうかな。流石に三人いる場で一人名無しだと呼びにくいし」

「好きにすれば?」

「そうするよ、シャナ。俺のことも適当に雄二とでも呼んでくれ」

「…ふん」

 

 特に気分を害することも無く、呼び名はシャナで確定した。

 

 その後、俺はシャナと…というか、シャナとアラストールと言葉を交わし続けることになった。

 話題と言えば大体が存在の力とか宝具とか、とにかくその辺の専門用語の情報についてだ。

 話ってのも違うか。俺がただひたすらシャナとアラストールから教わってるだけだし。

 

「じゃあ、自在法ってのはトーチの俺でも使えるってことでいいのか?」

『理論上はな。だが、トーチはただでさえ徐々に存在の力を消耗し続けている。自在法になど使っていれば、あっという間に枯渇し消えてしまうことになるだろう』

「それはそうか。あ、ならシャナは使えるのか?」

「…別に、私には必要ない」

 

 おっと、これは地雷…というか、フラグだったか。

 多分後の成長フラグで開花するんだろう。

 だったら今は触れない方がよさそうか。

 

「話はちょっと変わるんだけど、ミステスって、中に宝具が入ってるんだろ?宝具って例えばどんなのがあるんだ?」

「…私の贄殿遮那も宝具の一つよ。大体は一芸に特化した能力を持ってるわね」

『以前見たものでは、周囲の存在の力を水に変換する宝具があった。他にも斬撃を飛ばすものや弾を放つものなど…とにかく様々だ』

「ちなみに俺の中の宝具って何か分かったりする?」

「そんなの、開けてみないと分からないに決まってるでしょ」

『かといって迂闊に開ければ何が起こるか分からない。ミステスへの対処法としては、本体となるトーチが消え、またランダムに転移するのを見届けた方が賢明だろうな』

「なら、俺は俺の中にある宝具を見ることはかなわないってことか」

 

 と、ここでシャナが黙り込んだ。

 

「…どうした?」

「…変な奴…いや、妙な奴。アンタ、明日には消えるかもしれないのに、どうしてそこまで他人事でいられるの?今まで会って来たどんなトーチとも違う…本当に妙な奴」

『確かに、これまでは泣きわめいたり、現実逃避をしたり…中には、身を投げたモノもいたか。そう考えると、確かに坂井雄二、貴様は多少変わり者と言えるかもしれん』

「変わり者て」

 

 そして妙な奴呼ばわりも大概である。酷い謂れようだ。

 

「別に、動揺してない訳じゃない。俺だって思う所は当然あるさ」

「ならどうしてそこまで余裕でいられるの?」

「余裕ったってね。何度これまで聞いた情報を洗っても、俺はもうどうしようもない状態だろ?だったら、もう後はのとなれ山となれって精神でいるしかない。後は、ついでに消えるまでに少しは世の為に働こうかなってノリだ」

「世の為に働くって、随分と殊勝な心掛けね。トーチの癖に、一体何をするつもり?」

「何って…今のこれだよ。紅世の王を引きずり出してぶっ倒す。その為にこうしてるんじゃねえか」

 

 ぶっちゃけ今、それ以外にやる事無いしね。

 

「頼りにしてるぜ、フレイムヘイズ。俺の人生最後の時間をこうして使ってやってるんだ。ヒトを囮に使っておいて、最後に取り逃しましたなんて効かないからな」

「…変な奴」

 

 そう言って、シャナはそれっきり黙りこくってしまった。

 見た目以上に時を過ごしているだろう。俺みたいな奴も過去にはいただろうに、妙に突っかかってくるな。

 難しいお年頃なのだろうか。

 

 その後は会話の頻度も減って、ぽつりぽつりと言葉を交わすだけで時間が過ぎていった。

 

 夕方になると、下校時間だ。高校の制服を着た生徒たちがぞろぞろと歩いている。

 

「…あ、平井さん」

「…なに?知り合いなの?」

「あー、一応?話したことはあんまないけど…昨日、俺と一緒に封絶に閉じ込められてたんだ」

「…そう」

 

 つまりは今はトーチである。

 俺はベンチから腰を持ち上げて、平井さんへと声をかけた。

 

「こんにちは、平井さん。元気?」

「…」

「…おっと、これは…なあ、シャナ。トーチってこんなにすぐ消えるもんなのか?」

「私に聞かないで、食事をした連中に聞いてくれる?トーチにどれだけの存在の力を遺すのかなんて、食い散らかした本人が決めることだもの」

 

 何て無情な話だ。

 そうこうしてる間にも、平井さんの身体が揺らいでいる。

 

「…せめて家まで保ってくれりゃいいんだけど。こんな道端で消えるだなんて、あまりにも無情すぎる」

「こいつはトーチであって、本体じゃないのよ?」

「見た目の問題…って言うか、気持ちの問題だよ」

 

 俺は平井さんと手を繋いで、何とかできないものかと試行錯誤し始めた。

 

 少し目を凝らしてみれば、俺と平井さんの胸の奥に火が灯る。

 これが存在の力だ。見て見れば、俺のと平井さんのを比べると、明らかに平井さんの灯の方が小さい。

 

「分けてあげられねえかなぁ」

「…分かってると思うけど、そんなことしたら、アンタはその分早く消えるわ」

「まあ、そりゃそうなんだけど」

 

 集中して、自分の中にあるものを平井さんに移る様に想像して意識してみる。

 …が、やっぱりダメ。ご都合主義はそう簡単には起こらない。

 

 そうこうしてる間に平井さんは完全に揺らいでしまっている。

 

「平井さん、これまで話す機会とかなかったけど…えっと、池のこと好きだったんだっけ?後は…明るい子だったよね。とりあえず、そんな感じの子だったってこと、俺は忘れないでいるよ」

 

 池とは俺の友達だ。

 で、噂で聞いたが、確か平井さんは池に想いを寄せていたと思う。

 耳が良いもんでね。噂話は勝手に頭に入ってくるのだ。

 

 …いやぁ、我ながら、完全な自己満足だなぁ。

 こんな事しても意味はないのかもしれんが、だからと言って何もしないでいるなんてできなかった。

 

「…」

「…茶番に見えたか?」

「…知らない」

 

 完全に消えてしまった平井さんを見送りながら、後ろで見ていたシャナにそう尋ねると、シャナからは端的な返しが。

 フレイムヘイズなんだから、見慣れてるんだろう。滑稽に見えても仕方ない行為だ。

 

 そういう感じで、俺はその日の散策を終えたのだった。

 

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