「まひろはどうだったのですか?」
「……それは、まぁ。……漫画かアニメで確認してくれ」
前略。男だった親友が、女の子になってました。
「朝起きたら、女の子になってたらしいわよ?」
ベッドに座って足を組み、正座している俺を見ているのは、みなとの姉の千川かなたさん。スマートフォンを弄りながら、口笛を吹いている。
みなとの部屋から戦略的撤退をした俺は、フラフラした足取りでかなたさんの部屋へ敗走。整理できていないながらも懸命にアンビリバボーな出来事を伝えると、かなたさんは何てことないみたいな態度で、
「別に大して変わってないからいいんじゃない?」
「そんな馬鹿な」
「元々なよなよしてて中性的だったし、声も高めで女装すると私に似てたから、女性的になっても問題ないでしょ?」
「いや、その理屈はおかしい」
某のびのび小学生もびっくりの超理論である。某猫型ロボットも同じツッコミを入れるだろう。
「大事なのは、外見じゃなくて『中身』でしょ?どんなに変わっても、あの子はアンタの知ってるみなとだよ」
「かなたさん……」
「な?」
ぽん、と肩に手を置かれ、優しく微笑みかけてくる。その顔を見て、俺は正気を取り戻す。
「……誤魔化されませんよ?」
「バレたか」
何かいい話っぽくしてるけど、問題はそこじゃない。可愛く舌を出してテヘペロしても騙されないぞ。
論点をすり替えられている。別に最初から中身の話はしていない。身体が『女の子』になっているのが問題なんだ。
「おかしいだろ。どう考えても……」
「まぁそうなんだけどさー。正直どうしようもないし。原因とか分かんないけど、戻し方があるのかも不明だし」
「それは……そうですけど……」
返す言葉もない。現状は何も分からない。どうして女の子の身体になったとか、どうしたら元に戻るとか。
「だから、在りのままを受け入れるしかないのよ。私は受け入れた」
「器が広いっすね」
「そういう訳でもないと思うけどね。―――でも、それはアンタにも期待してるよ?」
「え?」
「あの子の親友でしょ?なら、一番の理解者になれるってね」
そう言いながらはにかむかなたさんの顔は、誤魔化しようがないくらいその言葉が本心であると伝わってくる様な顔だった。
……そこは嘘であって欲しいと思ったのは、俺の器の狭さを物語っているのだろうか?
「―――入っていいか?」
一応、ノックをしてから聞く。五秒ほどのインターバルを空け、控えめな声が聞こえてくる。
「どうぞ」
「……失礼します」
何故か敬語で入室。中に入ると、先程かなたさんの部屋で見た様な光景。ベッドに腰掛けている女の子―――、みなと(?)がいた。
息を飲み、その場に正座する。これも先程と同じ光景。何故か分からないが、自然と背筋が伸びた。
「……」
「……」
お互いに無言。お互いに目線が泳ぐ。目の前に居るのはみなと(?)のはずなのに、初対面の様な緊張感がある。
因みに、みなと(?)の?は、まだこの女の子がみなとではない可能性を捨てきれない証である。
「……本当に、みなと、なのか?」
「……うん」
空気に耐え兼ねて、最初に切り出したのは俺だった。聞くとみなと(?)は返事をしながらこくりと頷く。
「何か、証拠とかあるか?」
「証拠……?」
例えば、みなとしか知らない俺とのエピソードとか、逆に本人にしか分からない自分の情報とか。後者だと俺が分からないかもだけど、これでも長い付き合いだし、かなたさん経由で知り得たみなと情報も多少はある。本人には言ってない。怒られるから。
俺が目の前の女の子をみなとだと確信出来ればそれでいい。
文字通り座して待っていると、少し考え込む素振りを見せた後、頬を赤らめながら自身の胸に手を当てて、
「……じゃあ、触ってみる?」
「………………へ?」
「触ってみれば、本物かどうか分かると思うよ?」
何を言われているのか理解できないでいたが、みなと(?)の素振りと、それに当てはまる解釈を思い付いて、咄嗟に叫ぶ。
「ち、違うわ!! 女の子かどうかの証拠じゃなくて、みなと本人かどうかの証拠見せろって話っ!!」
「え?……あっ!?!?」
一瞬ポカンとして、直ぐに理解し赤面する。
「な、なんだよっ!! 本当にみなとだよっ!! 信じてなかったのかよ!?」
「信じられる訳ないだろ!! 何処の世界に『朝起きたら女の子なってた』とかいう与太話を信じる馬鹿がいるんだ!!」
居るなら今すぐ連れてこい!ついでに女の子なった奴も連れてこい!
「そうだけど、事実なんだからしょうがないだろ!」
「それはそうかもだけど、簡単には信じれないだろ!?」
お互いにヒートアップして立ち上がり、暫くギャーギャーと言い合った後に、肩で息をしながら、
「はぁ、はぁ、……分かった。お前はみなとだ」
「僕が言うのもなんだけど、この言い争いの後にその着地はおかしくない?」
二人のエピソードトークを聞いた訳でも、みなとの暴露を聞いた訳でもない。でも俺は確信してしまった。
「こんな斜め上の返しをしてくる馬鹿はみなとだけだ」
「酷くない?それ」
顔をしかめて不満を露わにしている。馬鹿は言い過ぎたかも知れないが、この『抜けている』所は実に、俺の知っているみなとらしかった。それに―――、
「―――この有り得ない状況を信じれるのは、馬鹿な俺くらいだろうし」
「……ゆうた」
「だから、馬鹿は馬鹿同士、今まで通りだ。これからも」
姿形が変わっても、変わらないもの。それは目に見える物じゃないし、手に取れるものでもないけど。
大切でかけがえのない物。俺達の『関係』は永久不滅。……ヤバい。凄くダサい。
「……」
「……おい、何か言えよ」
「ダサ」
「おい!」
若干引いてやがる。確かに俺もダサいと思ったけど!!
「くそっ!」
「ははは」
「何笑ってんだ」
「ごめんごめん」
目尻の涙を指で拭くみなと。涙出るとか、どんだけ『笑ってんだよ』。全く……。
「―――ゆうた」
「あぁん!?」
「ありがと」
笑顔に涙を添えた感謝の言葉。……やっぱりこいつはみなとだ。
外見が変わっても、中身は変わらない。かなたさんの言葉が遅れて響いてくる。
流石は人生の先輩。年長者は違うなぁ……とか言ったら、キレられそうだけど。
「ゆうた君、いい奴だなぁ」
「こういう友情展開も、いいよねぇ~」
「これが醍醐味だよっ!! 男同士はぁ!!」