錬成の悪魔   作:お父様

10 / 14
 感想が増えてモチベが上がるので今日も出す。


ページ9.迫るダイヤモンド

 魔法騎士団と言っても、その仕事は戦事に限らず、幅広い。

 基本は貴族。そしてごく稀に、平民や下民の護衛任務として、魔導士が派遣されることがあれば。

 時にはパトロールとして、不規則に王国内を彷徨うこともある。

 そして、当然の話ではあるが、魔法騎士団は九つ存在し、それらの間には、民からの支持という名の、格差を決める戦いが存在する。

 金のある者は、より良い腕を持った魔導士を求めているし、腕の良い魔導士が所属する団は、必然的に知名度を上げ、慕われる。

 ()、クローバー王国で双璧を成している魔法騎士団は、二つ。

 

 王族ヴァーミリオン家、『紅蓮の獅子王』。

 王族シルヴァ家、『銀翼の大鷲』。

 

 彼らは今この瞬間も、武勲をあげて、メキメキと実力を伸ばし続けている。

 強魔地帯、そして魔宮(ダンジョン)の攻略といった危険な任務は、必然的に彼らに優先して回されるのもあり、その経験値差は凄まじい。

 単純明快な。純粋な人員数…マンパワーという利点は、たとえどれだけ個の力が優れていようと、『任務』という形では力を発揮しづらい。魔導士単体ではなく、『団』としての強さ、それが彼らの力であった。

 ――だからこそ。

 そんな、忙しい彼らにではなく、この依頼がやって来たのは。

 サタナキア…『灰色の幻鹿』にとってはある意味、幸運とも呼べるものだった。

 

 クローバー王国、国境付近。

 

 この地にある町の名は『キテン』。

 クローバー王国とは非友好的な関係にある国、『ダイヤモンド王国』のすぐ近くというのもあり、外の危険度だけなら、あの強魔地帯にも劣らない場所である。

 突如として、この国境近くにわざわざ彼が足を運んだ理由は、ようやく舞い込んできた任務にある。

 

「…商人の救出?」

 

 サタナキアは、隣に立つユリウスを見上げ、先ほど聞いたセリフを複唱する。

 もはや見慣れた、大人の姿になったユリウスが、サタナキアの疑問に答えた。

 

「正確にはちょっと違うと思うけど…まぁ、大雑把に君でも分かるように言うなら、物を売ったりする人だね」

「…なるほど。つまり、私がいつもイエローアップルを買ってる、あの店の人たちも商人か」

「まぁ、そうだね」

 

 なるほど。そう言って、合点がいったように何度も頷く。

 魔法騎士団に入団し、一週間。

 まだこれといった、大きな事件や任務は発生していないのもあって、とても平穏な日々だったのだろうと、ユリウスは考える。

 というのも、ユリウスは実際に、そう長い間、サタナキアの普段を見ている訳ではなかった。

 魔法騎士団団長。その立場故、ユリウスにはたくさんの命が、責任が圧し掛かっているし、何より最近は、少し不穏な空気が流れているのを感じていた。

 ダイヤモンド王国は、クローバー王国とは非友好的な関係であり、こちらの資源を得ようと、侵略行為を仕掛けてくる事は珍しくない。

 まだ魔導士新人で、依頼など全然やって来ないサタナキアとは違い、ユリウスに安息の日々はない。

 自分の見ていない間に、何かサタナキアにトラブルでも起こっていないだろうか…それが唯一の気掛かりだった。

 

「イエローアップルというと…あの露店のお爺さんだね」

「あぁ、あそこは安く果物が買えていいぞ」

「…そっか」

 

 …だが、どうやら心配はいらなさそうだ。

 ある意味、それはユリウスの期待通りで、微笑ましいものを見るような、そんな表情を浮かべる。

 

 ――が、ユリウスは知らない。

 街にも馴染み、時折道に迷った彼女を、街の住民総出で、『灰色の幻鹿』拠点まで連れて行ってあげるのが。

 もはや街のお約束芸になっていることを…ユリウスはまだ知らない。

 

 サタナキアは相変わらず、虚空を見つめ、ぽけーっとしながら、口だけを動かして。

 

「…要は悪い奴がいて、そいつが良い奴を攫ったんだろ?悪い奴はどうする?殺すか?」

「捕縛でお願いするよ。殺すな…とは言わないけど、それは最後の手段だね。私の時間魔法と違って、君はより精密に戦えるだろう?」

「…うーん、分かった。お前の言う通りにする」

「ありがとう」

 

 その辺に出かけるかのような、そんな気軽さで『殺気』を滲ませるサタナキア。

 ユリウスは顔色一つ変えず、それを御して、団長として命じた。

 再び、サタナキアが口を開く。

 

「そういえば、良い奴…商人か、それはなんで捕まったんだ?撃ち落されでもしたのか?」

「いや、どうやら道中、待ち伏せしていた山賊たちに、一斉に囲まれて無力化されたらしい」

「…?道中?もしかして歩いてたのか?なんで空を飛ばないんだ?」

「空は、思っていたよりも不自由ということだよ」

 

 そもそも、空を飛ぶ手段というのは、非常に限られているものであり。

 飛行能力を持つ、魔法生物を飼い慣らすにしても、その調教に長い月日がかかるのと、何よりただ箒で飛ぶより目立つ。

 箒に頼る方法も、空が飛べる便利な道具とはいえ、所詮は道具。それなりに腕が立つ魔導士の、簡易的な魔力弾にも、追い付かれる可能性だってある。

 何より荷物を乗せるとなれば、更に移動速度、旋回能力に制限がかかる。これではまともに、荷物の運搬などできはしない。

 必然的に、多少の危険を承知の上で、陸地を歩いて目的地に辿り着く…これが、最善の手段なのだ。

 

「分かった、行ってくる」

 

 そう言って、サタナキアは()()()

 翼を生やすことなく、箒に乗ることもなく、純粋に宙へ、そのままふわりと浮かんでいた。

 以前、三つの魔法を掛け合わせて作った黒翼は、周りへの被害が抑えられないという弱点があり、ユリウスから使用禁止の命令を下されていた。

 そこで、サタナキアは魔法騎士団入団試験の際にも使った、純粋な(マナ)の放出による、飛行方法を選択したのだ。

 "マナスキン"や"マナゾーン"といった、匠の技術を鼻で笑う。

 悪魔の生態に任せた、暴力的な魔力量のゴリ押しである。

 そのまま、サタナキアは上空で一度止まり、ユリウスに向かって指を振り。

 

「ちゃお」

 

 そのまま、一気に加速して、目的地に向かって飛んで行った。

 

 

 

 

「……いつまで隠し通せるかなー」

 

 案の定、濃密な魔力の気配にどよめく周りの住民たち。

 ユリウスは乾いた笑いを浮かべ、この場所を後にした。

 

 

 

 


 

 

 

 

「山賊と言っても、やはり実力の平均値はこんなものか」

 

 サタナキアが目的地に到着して、まだ数分しか経っていない。

 だが、結果は火を見るよりも明らか。

 目の前には、息も絶え絶えの盗賊たちが、その身体で山を作り上げており、その様子を、先ほどまで囚われていた商人たちが、口をあんぐりと開け、呆然と見ていた。

 

「っ…そぉ…」

「こん…な…ことが…」

 

 恨みの声が聞こえるが、それはあまりにも小さな、弱すぎる声であった。

 盗賊たちは全員で二十名程。そして全員に満遍なく、本気の拘束魔法がかけられており、身動き一つ取ることも、(マナ)を練ることもできない。

 当然の話ではあるが、所詮彼らはならず者、更には有象無象に過ぎないときた。

 

(なんだこの拘束魔法…!?こんな…!こんな滅茶苦茶が…!?)

 

 元とはいえ、サタナキアはかつて、冥府の頂点に立った存在。

 あらゆる属性の、この世界に存在する全ての(マナ)を再現できる力を持った存在。そんな彼が、あらゆる知識と本気の魔力を使って作り上げた、オリジナルの拘束魔法なのだ。

 仮にこれを喰らってしまえば、最上位はまだしも、上位悪魔は抗うことなどできず、完封される程の魔法――

 

「錬成分解魔法×錬成空間魔法…」

 

 錬成魔法。

 それはサタナキア元来の魔法。概念を除いた、あらゆる物質を分解し、(マナ)に還元し再利用することで、永久に発動し続ける、()()()()()魔法。

 それに、もう一つの力を付け加える。

 

 ――錬成空間魔法。

 最上位悪魔、空間魔法のベルゼブブから着想を得、サタナキアが独自にアレンジした魔法。

 

 空間魔法の理論を『分解』に転用し、本来は物質限定の、錬成魔法が持つ分解の力を、"空間内"ならば『概念』にも触れられるように――

 そしてこの場合、"空間内"は捕縛した対象の体外から体内にかけての、()()

 ――相手の(マナ)を随時分解し続け、永久に衰弱させ続ける拘束魔法。

 

「複合魔法"獄魔掌握"。やはり便利だな、これは」

 

 ハッキリ言って完全なオーバーキル

 ただの盗賊相手に使っていいレベルではない、悪魔の叡智が詰まった理外の魔法。

 それが見事に、二十余名全ての盗賊に掛けられているというのだから、商人たちは驚愕する他ないだろう。

 もはや抵抗など万が一…否、億が一にもありえない、完全な詰み。

 しかし、ある意味で盗賊たちは幸運であった。

 

「力加減は難しいが…ユリウスに迷惑をかける訳にもいかない。…うん、これからも使っていこう」

 

 サタナキアは出発前に、ユリウスから殺しを渋られていた。

 悪魔としての本能。人を虐げ、弄ぶ邪心すら摩耗する程、永い年月を生きてきたサタナキア。

 そんな彼だからこそ、意外と素直に、ユリウスの要望に沿うことができた。

 拘束魔法を掛け終わり、身体をほぐし、商人たちの方に向かって振り向き。

 

「待たせた。怪我はないか?あったなら治すぞ」

「か、回復魔法も使えるのですね…」

「…?」

 

 少し引いた風な気配を見せる商人。

 本来なら、相手の凄まじい力量やら、得体の知れなさで畏怖の念を覚えたり、身体が震えたりするのだろうが、残念ながら、今のサタナキアにはそれを成す下地がなかった。

 戦闘開始から終了まで、ぽやぽやとした気配のまま、敵をワンパンチで倒していくその姿はあまりにもシュールで、恐怖心を覚える余裕などない。

 悪魔にとって、魔力量=身体能力であるため、ルチフェロに遥かに劣るサタナキアであろうと、その一撃は必殺レベルなのだが、これも彼の器用さ故。

 サタナキアは腰に手を置き、ない胸を反らして。

 

「凄いか?」

「…………」

「私、結構凄いか?」

「……えぇ、はいそれはもう」

「…フフ、そうかそうか」

 

 冥府にいた頃、自分を妬み、蔑む者。

 もしくは好奇の、数多の視線や感情を向けられることはあったが、褒められたことはない。

 悪意が当たり前の日々。そんな中、ただ自分にとっての『当たり前』を、こうして認められることなどありえなかった。

 サタナキアは今、最高潮に『人間生活』を謳歌しているのだった。

 「むふー」という音が聞こえそうなほど、目に見えて上機嫌になったサタナキアは、次に新しく、帰り道を作る為の魔法を――

 

「…………ん?」

 

 ――巨大な魔力反応。

 勿論、サタナキア本来の魔力量と比べるまでもないが、人間の平均値を遥かに超えることは間違いない。

 その直後に、僅かに頬を叩く突風が吹き荒れ、何かが破壊されたような、そんな轟音が響き渡る。

 

「…………あれも悪い奴なのか?」

 

 ――その日、数年の膠着状態を破り。

 クローバー王国に、ダイヤモンド王国が攻めてきた。




"獄魔掌握"
 ただの盗賊モブに使っていい技じゃない。
 ダイヤモンド軍は頑張ってもろて(適当)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。