錬成の悪魔 作:お父様
ブラクロ最近読み始めました!って人は本作を読んで「ルシウスって誰だよ」ってなってるんですかね?
最後に彼らが、ダイヤモンド王国がクローバー王国に牙を剥いたのは、4年も前のことだった。
戦力、作戦。戦いの決着をつける二つの要素は互いに互角で、これまでの長い膠着状態の歴史の中、何度も両国は痛み分けをし、睨み合う日々。
唯一の幸運。それはクローバー王国のとは違い、資源に恵まれていないダイヤモンドの大地は、一つの軍隊を結成するのにさえ、長い時間を必要とすること。
もしダイヤモンドの地に、クローバー王国のとそう変わらない資源が眠っていたならば、今頃クローバー王国は、純粋な兵力差によって敗北は免れなかっただろう。
ダイヤモンド王国は今日、この日までずっと。
民の不幸を代償に、クローバー王国に匹敵する、強大な力を求め、人材の育成の為、非道にも手を染める。
それでも、彼らが資源を食い潰しながら、侵略行為を辞めようとしないのは。
幾度の敗北を味わおうと、決して止まらない彼らの原動力は。
人の持つ――
「撤退!撤退ーっ!」
魔導士たちの叫び声。
それが響くのは街『キテン』から離れた場所にある、国境近く。
ダイヤモンドの兵士が、時折敵情視察のために訪れる光景がよく見られるここで、戦いの火蓋が切って落とされる。
本来であれば。
普段なら、この国境付近を訪れるダイヤモンドの兵士は――
「た、たす…け……!?」
一人、背を敵に向けて逃げる魔導士の悲痛な叫び。
それを狙って、ダイヤモンドの兵士が放った魔力弾。それが男の背を穿ち、そして命を奪う。
背を向ければ、そのまま死が確定する。
それを理解して尚、それでも彼は、逃げることを我慢できなかった。
彼のそんな行動を、憶病だと、情けないと侮辱できる者など、ここにはいない。
実際、彼だけに限らず、国境付近の見回りを続けていた、残る十数名の魔導士たちも、皆腰が抜けて、蹲っている。
防衛戦の要となるキテンならまだしも、ここからキテンの間には、かなりの距離がある。
何故キテンのすぐ近くではなく、わざわざ遠回りに、国境付近に姿を見せたのか……
――陽動。
先ほど、通信用の魔道具から流れてきた、他部隊からの連絡。
それは、丁度ここ『キテン』のある国境の正反対…ハート王国とクローバー王国の国境、そこにダイヤモンド王国の兵士が現れたというもの。
――罠。
きっとクローバー王国に残っている魔導士たちは、ダイヤモンド王国が今回、今までのように馬鹿正直に攻めるのではなく。
これまでの国境とは違う位置から攻め、作戦を変えてきたと思い込んでいるだろう。
――それこそが罠。
彼らは今も、そのまっすぐな戦争のやり方を変えている訳ではなかった。
「なん、で……」
ただの、ほとんど暇つぶしに近い形の、楽な仕事ではなかったのか。
今日たまたま、国境付近のパトロール活動を割り当てられていた、クローバー王国の魔導士の一人が、震える声で叫ぶ。
彼らの絶望の原因。
それは今まで、呆然と傍受していた日常が崩れたことではなく。
目の前に立つ彼らの、その正体を知っていたから――
「なんで…なんで"八輝将"がここにいるんだよ――!?」
――"八輝将"。
ダイヤモンド王国が誇る、選ばれし最強の八人の魔導士。
クローバー王国にとっての、魔法騎士団団長のような、そして彼ら以上に、侵略という戦事に特化した、非道の強さを持つ者たち。
その悪名。そして強さは魔導士に限らず、クローバー王国に住む人間なら、恵外界に住む下民ですら知っている程。
――あまりにも。
――あまりにも
「ひっ…!?」
「おっと…」
震える身体に鞭を打ち、何とか立ち上がる。
彼らの内心、それを占めるのは、もはや自暴自棄に近い形での、生存本能が織り交ぜになった打算。
一斉に。――全員で一斉に国に向かって駆け出せば。
先ほどのように、たとえ魔力弾を放たれようと、必ず討ちそびれる者が現れる。
――そんな、希望とは言えない哀れな夢想は、一瞬で終わりを告げる。
「――逃がさんよ」
――粘液創成魔法・ミュカスネイル。
カタツムリのような形に変形した、八輝将の一人が放つ魔法。
相手の
逃げの選択、それをみすみす残す程、彼女は甘くはない。
「全く、これだから若いのは困るわい」
見た目にそぐわぬ、老獪さを滲ませた喋り方。
粘液を放出した元凶、八輝将の一人である、
「今頃、クローバー王国は捨て駒の対処に夢中。まさかこうしている間に、ここから『キテン』を
「ッ――!」
「逃げられると思ったか?このヤーゴスから本気で」
ヤーゴスと名乗った魔導士は、そのまま粘液を、指を動かして操作し、一か所に纏めて拘束を続ける。
準備は終わり、前方に小さく見える『キテン』以外、何も見えない拓けた場所。
通信用の魔道具を取り出し、ヤーゴスは喋る。
「準備完了。これから"圧縮型魔導大砲"の準備に取り掛かる」
――ダイヤモンド王国の作戦。
陽動という遠回りこそあれ、それの本質は単純…シンプルで悪辣なもの。
"圧縮型魔導大砲"…その名前だけで、今からダイヤモンド王国がしようとしている事が、嫌という程に理解できてしまう。
クローバー王国の魔導士たちは、喉を震わせ、そして怯える。
(不味い…!こんな長距離から…!しかも他の団員たちは陽動に引っかかってる…!キテン近くならまだしも、なんでこんな遠くから……!)
せめて。
せめて彼らが、キテンのすぐ近くに降り立ち、そして戦事を仕掛ける程に、
希望のIFに縋ることしかできず、男たちは絶望したまま、目の前で着実に進んでいく、破壊兵器の創造を見る事しかできない。
(クソッ…なんで、俺は今日この仕事なんか選んじまったんだ…!)
あまりにも――
男は、あまりにも遅すぎる後悔と共に、己の不運を呪う。
こんなことなら、何も知らないまま、責任なんて背負わないまま、無垢な日々を過ごしておけばよかった。
敵の粘液魔法で、
いや、仮に自分が全盛の力を持っていたとしても、目の前にある、巨大な破壊兵器を、どうにかできる筈もない。
鋼魔法、鎧魔法、岩石魔法に氷魔法。
"圧縮型魔導大砲"を形成するのは、あらゆる硬質に特化した魔法が組み合わさった、複合魔法による絶対的な耐久性。
クリアなその表面は、あらゆる
そして当然のように、これは人間の腕力では、どうすることもできない硬さを秘めている。
男の後悔と共に、とうとう目の前で、"圧縮型魔導大砲"とやらが完成してしまった。
そして、それに膨大な魔力と、そして形成された魔法の弾丸が込められ――
「エッエッエッ…ダイヤモンドが誇る科学者の力…存分に見せて貰おうかねェ」
もうすぐ。
目の前で広がるであろう爆炎。デモンストレーションで確認した、あの破壊の力が、とうとうクローバーの、忌々しい民たちに向けられる。
王国の資源など、今のヤーゴスの頭には何もない。
純粋無垢な――「これからどうなるのか」という、子供のような好奇心が、その破壊活動を後押しする。
発射まで、あと――
――錬成魔法。
「"魔王の霊前"」
ズンッ――!
息が詰まりそうになる――そんな言葉では到底足りない、底なしのプレッシャー。
それと同時に、"圧縮型魔導大砲"に込められていた魔法弾丸が、
硬直し、視線だけを震えながら向けるヤーゴス。
彼女の隣。そこにいつの間にか立っていた少女。それがふわぁ…と、可愛らしい欠伸をしているのが見える。
――いつの間に。
そんな、至極真っ当な疑問は、それを遥かに凌駕する――原始的感情が塗り替える。
恐怖。――最後にそれを覚えたのは、一体何十年前か。
ヤーゴスは今、摩耗した記憶、身体が放つ、強烈な怯えの感情という名の訴えを、固まった身体で何とか押し留めた。
「…あれ、壊すぞ」
ふわり――
まるで、妖精のように飛翔する少女を、男たちは呆然と見つめ、魅了される。
ヤーゴスもまた、"圧縮型魔導大砲"に危機感なく近づく少女に、何も手を出せず、無言で見つめていた。
大砲の頂点、そこに少女は降り立つと共に、じっとその表面を観察し。
ゆっくりと、右足を上げて――
轟音と共に、"圧縮型魔導大砲"が地面にのめり込む。
砂埃が舞い上がり、あらゆる魔法を受け流す、加工された大砲の表面が、醜い凹凸で染め上げられた。
そして、地面に大砲の先を埋め、浮き上がった後方部分目掛けて。
変わらず、空中に留まったままの少女は、右手を軽く握り――
「せいっ」
ドゴア――ッ!
欠片すら、文字通り塵すら残すことなく。
ただの打撃一発で、ダイヤモンドの選ばれた科学者の、叡智の結晶たる"圧縮型魔導大砲"が、この世から一片も残さず消え失せた。
――魔法を反射する道具。
それへの対処法は、たった一つ。
たった一つのシンプルな答え。
――魔法を使わず、一撃で殴り潰す。
これだけだ。
そう、今日この日。
この日はあまりにも、彼らにとって――
――あまりにも、
魔王の霊前
重力や夢、運命のような概念を除いた魔法を分解・魔そのものに錬成するエリアを作る(魔法ゼロ、拳のみ、勝者あり)。
勿論ルチフェロには一切効かないので、仮に使っても邪魔だゴッ太郎されてサタナキアは即負ける。ルチフェロは強い。
一撃で殴り潰す
悪魔の身体能力=持ってる魔力量なので。
薄幸そうな見た目してる癖に、こんなんでも冥府No.2のフィジカルゴリラだったりする。