錬成の悪魔   作:お父様

11 / 14
 最新話まで追ってる人はいいけど。
 ブラクロ最近読み始めました!って人は本作を読んで「ルシウスって誰だよ」ってなってるんですかね?


ページ10.不運

 最後に彼らが、ダイヤモンド王国がクローバー王国に牙を剥いたのは、4年も前のことだった。

 戦力、作戦。戦いの決着をつける二つの要素は互いに互角で、これまでの長い膠着状態の歴史の中、何度も両国は痛み分けをし、睨み合う日々。

 唯一の幸運。それはクローバー王国のとは違い、資源に恵まれていないダイヤモンドの大地は、一つの軍隊を結成するのにさえ、長い時間を必要とすること。

 もしダイヤモンドの地に、クローバー王国のとそう変わらない資源が眠っていたならば、今頃クローバー王国は、純粋な兵力差によって敗北は免れなかっただろう。

 ダイヤモンド王国は今日、この日までずっと。

 民の不幸を代償に、クローバー王国に匹敵する、強大な力を求め、人材の育成の為、非道にも手を染める。

 

 それでも、彼らが資源を食い潰しながら、侵略行為を辞めようとしないのは。

 

 幾度の敗北を味わおうと、決して止まらない彼らの原動力は。

 人の持つ――

 

「撤退!撤退ーっ!」

 

 魔導士たちの叫び声。

 それが響くのは街『キテン』から離れた場所にある、国境近く。

 ダイヤモンドの兵士が、時折敵情視察のために訪れる光景がよく見られるここで、戦いの火蓋が切って落とされる。

 本来であれば。

 普段なら、この国境付近を訪れるダイヤモンドの兵士は――

 

「た、たす…け……!?」

 

 一人、背を敵に向けて逃げる魔導士の悲痛な叫び。

 それを狙って、ダイヤモンドの兵士が放った魔力弾。それが男の背を穿ち、そして命を奪う。

 背を向ければ、そのまま死が確定する。

 それを理解して尚、それでも彼は、逃げることを我慢できなかった。

 彼のそんな行動を、憶病だと、情けないと侮辱できる者など、ここにはいない。

 実際、彼だけに限らず、国境付近の見回りを続けていた、残る十数名の魔導士たちも、皆腰が抜けて、蹲っている。

 防衛戦の要となるキテンならまだしも、ここからキテンの間には、かなりの距離がある。

 何故キテンのすぐ近くではなく、わざわざ遠回りに、国境付近に姿を見せたのか……

 

 ――陽動。

 

 先ほど、通信用の魔道具から流れてきた、他部隊からの連絡。

 それは、丁度ここ『キテン』のある国境の正反対…ハート王国とクローバー王国の国境、そこにダイヤモンド王国の兵士が現れたというもの。

 ――罠。

 きっとクローバー王国に残っている魔導士たちは、ダイヤモンド王国が今回、今までのように馬鹿正直に攻めるのではなく。

 これまでの国境とは違う位置から攻め、作戦を変えてきたと思い込んでいるだろう。

 ――それこそが罠。

 彼らは今も、そのまっすぐな戦争のやり方を変えている訳ではなかった。

 

「なん、で……」

 

 ただの、ほとんど暇つぶしに近い形の、楽な仕事ではなかったのか。

 今日たまたま、国境付近のパトロール活動を割り当てられていた、クローバー王国の魔導士の一人が、震える声で叫ぶ。

 彼らの絶望の原因。

 それは今まで、呆然と傍受していた日常が崩れたことではなく。

 目の前に立つ彼らの、その正体を知っていたから――

 

「なんで…なんで"八輝将"がここにいるんだよ――!?」

 

 ――"八輝将"。

 ダイヤモンド王国が誇る、選ばれし最強の八人の魔導士。

 クローバー王国にとっての、魔法騎士団団長のような、そして彼ら以上に、侵略という戦事に特化した、非道の強さを持つ者たち。

 その悪名。そして強さは魔導士に限らず、クローバー王国に住む人間なら、恵外界に住む下民ですら知っている程。

 ――あまりにも。

 ――あまりにも()()()()()()()

 

「ひっ…!?」

「おっと…」

 

 震える身体に鞭を打ち、何とか立ち上がる。

 彼らの内心、それを占めるのは、もはや自暴自棄に近い形での、生存本能が織り交ぜになった打算。

 一斉に。――全員で一斉に国に向かって駆け出せば。

 先ほどのように、たとえ魔力弾を放たれようと、必ず討ちそびれる者が現れる。

 ――そんな、希望とは言えない哀れな夢想は、一瞬で終わりを告げる。

 

「――逃がさんよ」

 

 ――粘液創成魔法・ミュカスネイル。

 カタツムリのような形に変形した、八輝将の一人が放つ魔法。

 相手の(マナ)を弱める粘液が、触手のように四方八方に伸び、その場に居たクローバー王国の魔導士、全員の身体を拘束する。

 逃げの選択、それをみすみす残す程、彼女は甘くはない。

 

「全く、これだから若いのは困るわい」

 

 見た目にそぐわぬ、老獪さを滲ませた喋り方。

 粘液を放出した元凶、八輝将の一人である、()()()魔導士は、邪悪な笑みを浮かべる。

 

「今頃、クローバー王国は捨て駒の対処に夢中。まさかこうしている間に、ここから『キテン』を()()()()にするとは思うまい」

「ッ――!」

「逃げられると思ったか?このヤーゴスから本気で」

 

 ヤーゴスと名乗った魔導士は、そのまま粘液を、指を動かして操作し、一か所に纏めて拘束を続ける。

 準備は終わり、前方に小さく見える『キテン』以外、何も見えない拓けた場所。

 通信用の魔道具を取り出し、ヤーゴスは喋る。

 

「準備完了。これから"圧縮型魔導大砲"の準備に取り掛かる」

 

 ――ダイヤモンド王国の作戦。 

 陽動という遠回りこそあれ、それの本質は単純…シンプルで悪辣なもの。

 "圧縮型魔導大砲"…その名前だけで、今からダイヤモンド王国がしようとしている事が、嫌という程に理解できてしまう。

 クローバー王国の魔導士たちは、喉を震わせ、そして怯える。

 

(不味い…!こんな長距離から…!しかも他の団員たちは陽動に引っかかってる…!キテン近くならまだしも、なんでこんな遠くから……!)

 

 せめて。

 せめて彼らが、キテンのすぐ近くに降り立ち、そして戦事を仕掛ける程に、()()()()()()()()()()()()

 希望のIFに縋ることしかできず、男たちは絶望したまま、目の前で着実に進んでいく、破壊兵器の創造を見る事しかできない。

 

(クソッ…なんで、俺は今日この仕事なんか選んじまったんだ…!)

 

 あまりにも――

 男は、あまりにも遅すぎる後悔と共に、己の不運を呪う。

 こんなことなら、何も知らないまま、責任なんて背負わないまま、無垢な日々を過ごしておけばよかった。

 敵の粘液魔法で、(マナ)も弱まって、もはやまともに戦うことなどできはしない。

 いや、仮に自分が全盛の力を持っていたとしても、目の前にある、巨大な破壊兵器を、どうにかできる筈もない。

 

 鋼魔法、鎧魔法、岩石魔法に氷魔法。

 "圧縮型魔導大砲"を形成するのは、あらゆる硬質に特化した魔法が組み合わさった、複合魔法による絶対的な耐久性。

 

 クリアなその表面は、あらゆる()()()()()

 そして当然のように、これは人間の腕力では、どうすることもできない硬さを秘めている。

 男の後悔と共に、とうとう目の前で、"圧縮型魔導大砲"とやらが完成してしまった。

 そして、それに膨大な魔力と、そして形成された魔法の弾丸が込められ――

 

「エッエッエッ…ダイヤモンドが誇る科学者の力…存分に見せて貰おうかねェ」

 

 もうすぐ。

 目の前で広がるであろう爆炎。デモンストレーションで確認した、あの破壊の力が、とうとうクローバーの、忌々しい民たちに向けられる。

 王国の資源など、今のヤーゴスの頭には何もない。

 純粋無垢な――「これからどうなるのか」という、子供のような好奇心が、その破壊活動を後押しする。

 発射まで、あと――

 

 

 

 

 ――錬成魔法。

 

 

 

 

「"魔王の霊前"」

 

 ズンッ――!

 息が詰まりそうになる――そんな言葉では到底足りない、底なしのプレッシャー。

 それと同時に、"圧縮型魔導大砲"に込められていた魔法弾丸が、()()された――!

 硬直し、視線だけを震えながら向けるヤーゴス。

 彼女の隣。そこにいつの間にか立っていた少女。それがふわぁ…と、可愛らしい欠伸をしているのが見える。

 

 ――いつの間に。

 

 そんな、至極真っ当な疑問は、それを遥かに凌駕する――原始的感情が塗り替える。

 恐怖。――最後にそれを覚えたのは、一体何十年前か。

 ヤーゴスは今、摩耗した記憶、身体が放つ、強烈な怯えの感情という名の訴えを、固まった身体で何とか押し留めた。

 

「…あれ、壊すぞ」

 

 ふわり――

 まるで、妖精のように飛翔する少女を、男たちは呆然と見つめ、魅了される。

 ヤーゴスもまた、"圧縮型魔導大砲"に危機感なく近づく少女に、何も手を出せず、無言で見つめていた。

 大砲の頂点、そこに少女は降り立つと共に、じっとその表面を観察し。

 ゆっくりと、右足を上げて――

 

 轟音と共に、"圧縮型魔導大砲"が地面にのめり込む。

 

 砂埃が舞い上がり、あらゆる魔法を受け流す、加工された大砲の表面が、醜い凹凸で染め上げられた。

 そして、地面に大砲の先を埋め、浮き上がった後方部分目掛けて。

 変わらず、空中に留まったままの少女は、右手を軽く握り――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せいっ」

 

 ドゴア――ッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 欠片すら、文字通り塵すら残すことなく。

 ただの打撃一発で、ダイヤモンドの選ばれた科学者の、叡智の結晶たる"圧縮型魔導大砲"が、この世から一片も残さず消え失せた。

 ――魔法を反射する道具。

 それへの対処法は、たった一つ。

 たった一つのシンプルな答え。

 

 ――魔法を使わず、一撃で殴り潰す。

 これだけだ。

 

 そう、今日この日。

 この日はあまりにも、彼らにとって――

 ――あまりにも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()




魔王の霊前
 重力や夢、運命のような概念を除いた魔法を分解・魔そのものに錬成するエリアを作る(魔法ゼロ、拳のみ、勝者あり)。
 勿論ルチフェロには一切効かないので、仮に使っても邪魔だゴッ太郎されてサタナキアは即負ける。ルチフェロは強い。

一撃で殴り潰す
 悪魔の身体能力=持ってる魔力量なので。
 薄幸そうな見た目してる癖に、こんなんでも冥府No.2のフィジカルゴリラだったりする。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。