錬成の悪魔   作:お父様

13 / 14
 タイトルの時点で次回のネタバレ。
 感想評価気軽にお願いします。


ページ12.マイゴ

 翌日の朝。

 灰色の幻鹿アジト、その窓際にて。

 サタナキアは手元で広げられている、ある魔法新聞の一面を見つめていた。

 

『鋼鉄の戦姫、ダイヤモンド軍を圧倒!』

 

 風景転写魔法。

 それはその名の通り、視界に映る光景の一瞬を"保存"し、物に転写することが出来る魔法。

 魔法による安定した発行速度、クオリティの高さから、こうして魔法新聞は、王族貴族関係なく、クローバー王国の民にとっての、生活必需品となっていた。

 サタナキアは一枚ずつ、舐め回すようにじっくりと、魔法新聞に書かれている情報や、焼き付いている写真を楽しんでいた。

 

「やはりアシエ…お前は面白いな」

 

 魔法による代物とはいえ、写真は写真。

 そこから得られる情報や、背景のより細かな情報には限度は存在する。

 直接目で見る。魔力を感知するといった、実体だからこそ感じられるモノや気配、それを知覚するのに制限が掛かろうとも、充分過ぎる程に、写真の中の少女は、強く輝いていた。

 

「知り合いなのかい?」

「あぁ、私が現世に来て、本当の意味で最初に出会った人間だよ」

「そういえば、試験会場でも一緒にいたっけ」

 

 自分を除いて、建物の中にはサタナキア以外誰もいないからか。

 ユリウスはいつも外に出る時の、あの大人の姿ではなく、彼本来の、子供の姿のまま、微笑ましそうに見守っていた。

 

「20…30……パッと見ただけでもかなりの数だな。これを全部下したのか」

 

 ダイヤモンド王国の誇る、最強の一角である"八輝将"。

 その正体に気づくことなく、サタナキアはただ、魔導士としての仕事を全うする為、そしてユリウスの期待を裏切らないよう、殺生をせずに追い返した。

 サタナキアは、彼らに名乗ることもなかったし、向こうもまた、こちらに名を名乗ることはなかった。

 キテン近くの国境での、観衆のいない場所での戦闘、それらの要素から、サタナキアの活躍は、誰にも見られることなく、そのまま闇に葬られると。

 アジトに帰るまでは、そう思っていた。

 ユリウスと再会し、そして数分経ってからなんと、彼の口から出てきたのは、ある会合への誘いだった。

 

『サナ。君も祝賀会に出てみないかい?』

 

 その申し出は、見事にサタナキアの予想を裏切った。

 あの場で、サタナキアが無意識のうちに助けていた、クローバー王国の人間たち。

 彼らは、ダイヤモンドから助けてくれた…それのお礼がしたいと、騎士団本部に連絡をし、結果として、サタナキアの容姿が、魔導士内で共有されることになった。

 人の悪意。それは冥府にいた時からもう、全てを知り尽くしたと、そう思っていた。

 だがどうやら――人間が持つ善意。それへの知識は全くなかったらしい、サタナキアはそう感じた。

 

「昨日の話の続きだ」

 

 サタナキアと向かい合うように、ユリウスは座りながら言葉を続ける。

 あまり公には言えないが、そもそもダイヤモンド王国とクローバー王国は、険悪とは行かないまでも、決して良好とは言えない関係性。

 ダイヤモンドからの差し金…密偵がいい例だが、そんな人間が年に、それこそ酷い時には、半年に一度のペースで捕らえるような時期さえあった。

 それでも、互いに大きな争い――戦争が起こっていないのは、互いにとって、不安要素が多すぎるから。

 まずダイヤモンド側からすれば、クローバー王国と唯一友好関係を築いている、ハート王国からの増援の可能性が。

 クローバー側からすれば、今も尚不気味に、沈黙を貫いているスペード王国の動き。

 こうして互いに、全力を出すとは行かないまでも、決して軽くない損害を負う程の戦い。それの規模が大きく、悪化しない理由がこれである。

 つまり、クローバー王国も。

 ――決して綺麗な手段に拘っている訳ではない。

 

「昨日の夜、ダイヤモンドに潜んでるうちの魔導士が、新しい情報をくれてね」

 

 ――クローバー王国が送り出した密偵。

 ユリウスだけでなく、魔法騎士団全体に、サタナキアの偉業が、知られるようになった理由こそが、その報告の内容。

 ――"八輝将"が一人、粘液魔法のヤーゴスが一時、戦闘不能状態に陥ったというもの。

 そしてそれを引き起こしたのは、一人の魔導士であると――

 

「一番酷い怪我で骨折。それに他の魔導士も、裂傷こそあれ、命に別状はなかった…」

 

 僅かに、身長の足りないユリウスは、サタナキアを見上げる形で、満足そうに笑って。

 

「これも、成長なのかな?」

「…どうかな」

 

 サタナキアは、新聞を読む為に、しばらく放置していたカップを手に取って、言う。

 口元に運び、温くなってしまったコーヒーの、落ちてしまった味に顔を顰めて。

 

「……祝賀会、か」

 

 サタナキアは、目の前で説明を続けるユリウスを見つめ、耳を傾けて考える。

 ダイヤモンド王国の作戦。今までのちょっかいとは違い、今回の彼らは、間違いなく一線を超えた悪辣なものであった。

 今までのセオリー通り、もしも今回、彼らの陽動にまんまと引っかかってしまった場合。

 彼らが国境付近から放とうとしていた、"圧縮型魔導大砲"の威力次第で、キテンに悲惨な破壊跡が刻まれる未来すらあった。

 陽動としてやって来た、大量のダイヤモンドの魔導士も、決して有象無象と侮れない戦力で、しかもこの陽動部隊の中にも、もう一人"八輝将"が混じっていたという話も聞く。

 ただの陽動に、わざわざ"八輝将"を使う筈がないだろう――その甘えを、見事に今回、ダイヤモンドに突かれてしまったのだ。

 ここまでくれば分かるだろう、遠距離での狙撃、それの阻止と言ってしまえば簡単なことだが。

 サタナキアは今回、かなり優秀な働きを見せている。

 だからこそ、ユリウスは今回の祝賀会に、魔導士『サナ』が呼ばれる価値があるのだと、そう断言してくれているのだ。

 

「うむ…………」

 

 正直、サタナキアは気乗りしない。

 そもそもの話、自分がダイヤモンドの本当の狙い、そしてヤーゴスを撃破できたのは、ただ本当に運が良かっただけ。

 運よく、別の仕事でキテンの近くを訪れ、そしてたまたま、魔法を発動する際の、微弱な(マナ)の波動、そしてヤーゴスたちの気配を見つけられたのだから。

 ダイヤモンドからすればたまった話ではないが、サタナキアはあくまでも、自分が仕事をできた理由を、偶然だと切り捨てている。

 

 自分の実力、知恵で彼らを見つけ。

 目的を暴き、退治したのなら喜んで賞賛されよう。

 しかし、自分は今回。ただ運が良かっただけ。

 

 そのような理由で、賞賛されるのは納得が行かない。

 祝賀会への誘いという栄光へ、僅かに湧いた執着を切り捨てるように。

 サタナキアはグビッと、温くなったコーヒーを全て飲み干してから。

 

「すまないが、今回は遠慮させてもらう」

「うーん…面白い魔法もたくさん見れると思うけどな」

「確かにそれは魅力的だが…」

 

 頬杖をついて、残念そうに言うユリウスを後目に、サタナキアは朝食の準備に取り掛かる。

 右手にパンを握り、左手で魔法による加熱――魔炎魔法による調理の時間。

 概念すら燃やす、冥府でも滅多に見れない希少な技能を、たかがパンを焼く為だけに使う光景。

 今でこそ慣れたものの、そのシュールすぎる光景に、ユリウスは最初、手を叩いて笑っていたのを思い出す。

 

「でも、君のお気に入りの人間、アシエ・シルヴァが来るらしいよ?」

「…………」

 

 ピタリと、動きを止め。

 サタナキアは久しく会っていない、最後に会った際の、試験会場で見たあの顔を思い出す。

 沈黙。それは行くか行かないかの天秤であり。

 サタナキアとしての、運で手にしただけの功績にあやかるのか?というプライドの葛藤。

 そんな選択の苦渋。沈黙の時間が数十秒。

 それを見たユリウスは、トドメとばかりに最後の一押しとして。

 

「それに王族にしか振る舞われない豪華な食事が」

「行く」

 

 言い切るよりも前に。

 サタナキアは目を輝かせて断言した。




 一話の受肉する前の、冥府にいた頃のサタナキアを見返してみたら、今とテンション違い過ぎて笑っちゃうんすよね。
 こいつ…人間生活エンジョイしてやがる…
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。