錬成の悪魔   作:お父様

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 前回はちょっと短かったかな…あとアルビノ美女+あの一枚だけ身に纏うやつ(語彙力)はいいですよね


ページ1.鋼鉄の少女

「ふむ…これが現世の空気か」

 

 カビと埃の染み込んだ扉を開いた先、そこに見える緑と青の世界。

 暗くない、血の匂いもない、悪魔は自分のみ、くだらない嗜虐に序列の歪みもない。

 ここが、人間のいる世界。

 ――ここが現世。

 

(マナ)も澄んでいる、それに生命の声も…」

 

 以前から何となくは予想していたものの、実際の景色を見たことでサタナキアの中にはある感動が生まれた。

 先にこちらに来たであろう同胞もそうだが、この世界を自分よりも早く堪能した先人に少しの妬みすらも覚える。

 悪魔故の莫大な魔力、そして感知能力によって半径数百メートル以内の魔法生物を観察し、サタナキアは人間の世界の考察を進めようとした。

 だが――

 

「む…誰もいない……?」

 

 自分の周りに、生物が一匹もいないことに気づき、サタナキアは首を傾げる。

 今更だが、サタナキアは分類上"最上位悪魔"と呼ばれる存在である。

 はるか古代より冥府に生まれ落ちてから、今まで生き続けた超越者であり無法そのもの。

 その魔力量、そして何より数え切れないほどの年月を冥府、()()()()()生きてきたことによる濃密な死そのものの気配。

 それが一切隠されずに、今もこうして垂れ流されているのだから当然ではあるのだが…

 しかしこれでは思うように行動ができない、それを見越したからこそある行動に出た。

 

「っと、こうか……」

 

 生まれて初めて、サタナキアは溢れる魔力量を抑えるという行為を試行錯誤し、少しづつではあるがそれを成していく。

 人間と違い悪魔にとって、魔力は力そのもの、人間が着飾り、己の力を証明するのと同じように…悪魔にとっても、わかりやすい魔力の差とは、そういう事なのだ。

 人間でいう貴族や王族が、わざわざ汚い衣服を身に纏うようなことをしないように、本来の悪魔には絶対に考えつかないこの奇行。

 これもまた、サタナキアという悪魔が悪魔の常識が通じない、摩耗する程に特別な生き方をしたということでもある。

 

「よし、これでいいだろう」

 

 サタナキアの今の姿は、14から15歳ほどの人間の少女そのものではあるが、その肉体構造は悪魔らしい改造が施されている。

 悪魔故の莫大な魔力、そして力そのものにすら耐えうる特別仕様、これは魔法に精通し、錬成魔法という創造のために生まれたかのような魔法の賜物。

 だが逆に言えば、()()は誤魔化すことはできず――

 

「やぁ、久しぶり」

 

 サタナキアの背後、そこから放たれる底なしの(プレッシャー)

 だがサタナキアは、顔色を変えることなく、かつての()()のその声に、応えた。

 

「お前…アドラメレクか?」

「うん。それにしてもサタナキア、キミ随分変わったね~~?」

 

 サタナキアが振り向いた先、そこに腰かける少年。

 だがその背中には純黒の翼、そして同族であることを証明する角も。

 数百年…数千年ぶりの、頂上の悪魔たちの邂逅。

 それが、今起きていた。

 

「いやはや驚いたよーー?突然計画にない悪魔の気配を感じたと思ったらキミで、しかもそんな見た目なんだからさ~~」

「お前がいるということは…」

「そ、ルチフェロも近いうちに来るよ。残念な事にね」

「…最悪だ、出る時期を間違えたか…?」

 

 ルチフェロ。その名前を聞いた瞬間、サタナキアの表情がこれでもかと歪んで吐き捨てるように愚痴を吐く。

 アドラメレクと呼ばれた悪魔は、そんな彼の姿を興味深そうに観察して。

 一つ聞く。

 

「一応聞くけど、僕たちに付いてくる気はある?」

「………」

 

 アドラメレクはルチフェロ、そしてもう一人の、ある悪魔憑きと親密な関係にある。

 こうして現世に顕現しているということは、最低でもルチフェロの計画の一つに深く関わっているということでもある。

 悪魔には序列がある、悪魔の王であるルチフェロは絶対、それに抗うことは――

 

「ない、()()()

「………良いぼかし方だ、キミが羨ましいな」

「そっちこそ、精々頑張れ」

 

 アドラメレク、サタナキアの間でしか成立しない含みのある言い方。

 だが両者は満足そうに笑った、それは互いに似た者同士であるからか、それとも――

 

「あー、そうだサタナキア」

「なんだ」

「キミ、受肉した時に思いっ切り(マナ)垂れ流してたでしょ、そのせいで人間が来るよ」

「ほう、それは…」

 

 先ほどから向けられている視線、敵意には既に気づいていた。

 気づいていてなお無視をしていたが…しかしアドラメレクとの会話によって、それらが更に一段上のレベルへとなったのを感じた。

 アドラメレクは飛び立つ。

 

「お前と話したおかげで、見事に和解の余地なしだ、感謝する」

「どうもーー…で、実際は?」

「肩慣らしには丁度いいだろう、それに人間たちの情勢も知りたい」

「そっか、じゃあね~~~」

 

 その言葉を最後に、凄まじい速度で飛行を再開し、アドラメレクはあっという間に姿を消した。

 飛び立つ同胞の背を見守りながら、しばらく時間を無駄に消費してから、やっと茂みから音が聞こえた。

 

「なんだ…この魔力は…!?」

「あ…悪魔…っ……!悪魔がなんでここに!?」

「は…早く応援を…!」

「………っ」

 

 数はざっと30ほど、何より人間らしく全てが弱い。

 勿論それはサタナキア…悪魔からすれば弱いというだけで、同じ人間の中では"強い"に分類されるのは確かだ。

 

「…人間か」

 

 しかし、それでも決して忘れてはならない。

 

「そうだな、検証には丁度いい…」

 

 たとえ露悪的でなくとも、暴力的でなかろうと。

 

「………来い」

 

 ――悪魔は、悪魔でしかないということを。

 

 

 

 


 

 

 

 

 クローバー王国平界、その辺境の村の更に奥。

 幸か不幸か、それ故に魔法騎士団の中でも、この異変に気づけたのはほんの数十名のみだった。

 遠征による小規模の隊、ただし間違いなく全員が魔法試験を突破し、国と民のために力を振るう矛にして盾。

 

「あ、グ…」

「ひっ…やだやだやだやだやだやだやだやだっ!」

「………ぁ、が…」

 

 皆が強く、そして信頼できる仲間たちと切磋琢磨し、更に上を目指して抗ってきた。

 誰にも負けない、国と民へ矛先を向ける敵を打ち倒すため、決して許されぬ敗北。

 

 しかし、今はどうだ?

 

 皆がひれ伏し、いずれ来るであろう終わりに恐怖し、涙を流しながら震えている。

 今この場において、絶対的強者である純白の化身は、今も観察を続けながら立っている。

 まるで聖女のように一枚の布を纏い、そして長く美しい髪が魔の流れによって揺れ動いている。

 だがそれだけ、それ以外の全て、身に纏う気配と死の気配が、どうしようもなく怖くて仕方がない――

 

「ぅおおおおおおおおおお!!」

 

 男は力を振り絞り、己の全魔力を拳に乗せる。

 最後の足掻き、決して賢明とは言えない愚かで惨めで、しかしどこまでも"勇気"に満ちたその一撃。

 ボロボロの身体を引きずるその様子を、目の前の悪魔は邪魔しない。

 

「…?なんだ、それは」

 

 たったそれだけ、その一言で終わらせていいものではなかった。

 男の全力、命そのものの一撃を顔で喰らい、しかし悪魔は文字通り微動だにしない。

 何もしていない、ただ立っていただけだ、しかしそこには決して努力では埋められない差が、純粋で純烈な魔力量の差があった。

 

「あ、あ…」

「なんだ、と聞いているのだが…?」

 

 悪魔は、サタナキアはただ堂々と立っていた。

 魔導士たちの猛攻も、叫びも、あらゆる全ての攻撃にも抵抗せず、ただ立っていた。

 離れすぎた魔力差、それに最初の一人が気づくまで、数分間魔法による弾幕が場を埋め尽くしていた。

 一人気づいて、その後数秒で二人が攻撃を止めた、そのまま全ての動きが止まるまで十数秒。

 サタナキアは、何もしていない。

 

「興味深い、先ほど魔法騎士団と言っていたか」

 

 絶望し、ただ壊れた男の肩に手を置き、そのローブをはぎ取る。

 小さなほつれがいくつも存在するものの、魔法による補強もあってかその頑丈さは見た目以上。

 ただの布、だがそれがこの人間たちの"強さ"を支えているものの正体なのだと、サタナキアは推測する。

 人間のことが知りたい、しかし今はこちらの方が興味深い。

 

「そうだな、差し詰め次は…」

 

 

 

 

 その時。

 サタナキアは今日、初めて防御のために魔法を発動した。

 

「………?」

 

 ほんの一瞬、時間にして一秒にも満たない空白の虚無、そこを狙った計算の一撃。

 目前に訪れた鋼鉄の槍、それこそ好奇そのもので。

 

「錬成分解魔法・再構成(レナトゥス)

 

 サタナキアに近づく度に、その槍先が崩壊し、そして()()()()()へと還っていく。

 そしてそれを触媒に、魔は先ほどよりも重く、硬く鋭い鋼鉄へと変化を遂げ、その持ち主に矛先を向けた。

 標的は、顔をフードで隠した謎の人間。

 

「何者だ?」

 

 地面が抉れ、風圧で鼓膜が破れそうなほどの衝撃が辺りを埋め尽くす。

 しかし彼女は、少女はその不快感を埋め尽くすほどの覚悟を、意志の強さを見せて叫んだ。

 

「ここは私が。皆は早く逃げて」

 

 フードで隠れていた顔が露わになり、その少女の顔を皆が見る。

 サタナキアは少しの感嘆を、そして魔導士たちはそれを上回る驚愕を。

 

「あ、なっ…あなたは…!」

「何故貴方がここに!?ここは平界の…」

 

 その少女は気高く、美しく。

 銀色のその髪も、芸術品のように輝くその顔も、そして悪魔ほどではないものの、強大な魔力そのものも。

 サタナキアは、今までの人生で一番の好奇を。

 

「お前の、名前は」

 

 同時に、サタナキアは悪魔としての片鱗を見せる。

 服が同化し、身体の一部として取り込まれると共に翼が生える。

 二対の翼、それが影より黒く、闇より深く光を飲み込み、そしてほとんど隠れていた悪魔本来の魔力、その端くれが零れだす。

 だがそれだけで、他の魔導士は皆が失神し、そして泡を吹きながら痙攣する。

 

 一人だけ。

 

 圧倒的な存在感に押されても尚。

 しかし少女は、歯を食いしばりながら立っていた。

 

「……っ!」

「………もう一度、問う」

 

 赤く光る瞳が、更に黒くひび割れて輝きを増す。

 悪魔としての力、悪魔の邪悪なオーラを更に強く、まるで何かを確かめるかのように問う。

 背は今のサタナキアと同じ、しかしサタナキアと違って歳は見た目通り、おそらく大目に見て15だろう、何の経験すら積めていない子供だ。

 ――しかし、少女はやはり変わらない。

 

「…えぇ、ちゃんと答えてあげるわよ…!」

「…いい。ではこちらも、名乗り返さねば無作法だな?」

 

 その銀色も、美しく気高い在り方も。

 身に纏う鋼鉄も、サタナキアは決して忘れない。

 

「――アシエ・シルヴァ、その名を刻んで消えなさい、悪魔…!」

「サタナキア、()()()()7()()()の主だ、人間」




 錬成魔法
本編では唯一〇〇〇が使っていた魔法、できることが多すぎて退屈しないから好き(サタナキア談)らしい
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