錬成の悪魔   作:お父様

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 私は悪魔だから人間のことがよく分からなくて"人間を知る"ために現世に来たんだ、その途中で魔法騎士団を知ったんだよ
 ちなみに王族は基本的に試験は受けないらしいです(21巻にて)


ページ3.魔法騎士団

 ――私は今、何をしているのだろうか。

 

「齢15になってから魔導書を…というとお前は…」

「えーっと…3ヶ月前に貰ったばかり、そして魔法騎士団の入団試験が…」

「ふむ…」

 

 少女は、アシエ・シルヴァは冷静に思考を続けつつも、一方でやはり、今の自分が置かれた環境に困惑したままであった。

 魔法騎士団。それも団長や"魔法帝"レベルが対処する程の凶悪な生き物である悪魔、それにまんまと丸く収められ、この不可解な現状にへと繋がる。

 人間と悪魔、本来相容れない存在の二人が、こうして同じテーブルで茶を飲んでいる。

 それが、やはり今でも意味が分からない。

 

「ふむ、やはり人間に混じるなら魔導書は必要か…」

「…………」

 

 蛍タンポポの舞う3月、齢15になる少年少女を集め、持ち主の魔力を高める必要不可欠なもの――魔導書が与えられる授与式がある。

 しかし既に今年のは終わっており、残るメインイベントは魔法騎士団の入団試験。

 人間を知る、意志の強さと鋼の心を知るためには絶対に通るべき道であるものの、同時に"紛れる"ために必要なのは――

 

「魔導書は錬成魔法で何とかしよう、少し面倒だが魔法を行使すると同時に、ダミーの魔導書を操作するのを癖付けなければな」

「………」

 

 面倒臭そうに呟きながら、右手で宙に文字を書くかのように動かしながら魔法を行使。

 大気に漂う魔とサタナキア自身の魔力を黄金比で練り合わせることで、まるで本物のように精巧なダミーを作りあげた。

 真っ黒な表紙の上を走る人体の神経のような赤い線。

 禍々しくも気品すら感じる、正に悪魔に相応しい魔導書だった。

 

「主に使うのは…この身体にある魔炎魔法とするか、まぁ少し心もとないが…使える部類ではあるからな、これで人間のフリをするとしよう」

 

 サタナキア本来の魔法は錬成魔法であり、いくら受肉した際に手にした力…肉体元来の魔法であろうと。

 彼からすれば、所詮付け焼き刃でしかない魔炎魔法は、非常に扱いづらく、非合理的な選択である。

 だが、それでも並の魔法騎士団を、それこそ国を落とせるほどの莫大な出力と魔力量を持っているからこそ、その経験の浅さすら無視できる。

 人間ではない、悪魔だからこそできるゴリ押し。

 

「魔法騎士団とやらに応募するには、何かしらの地位がいるのか?」

「別にないわ、貴族が受かりやすいのは事実だけど…平民も選ばれる時は選ばれるし」

「だが戸籍がないとなると…そうだな記憶喪失ということにでもするか、いざという時は必要な知識以外を魔炎魔法で燃やして…」

 

 ――悪魔は、人を弄ぶ。

 まともな自我もない下位や中位の悪魔とは違って上位の悪魔は交渉の余地がある。

 退屈な冥府、そこから抜け出すため、人間の身体を媒体に他の人間を甚振ることも、長く生きたからこそ冷静に優劣を付け、己の欲求に従い力を貸す。

 悪魔は悪魔でしかなく、しかし上位のものになればなるほど、人間と積極的に関わろうとする。

 

 決して油断はしない、アシエはそう心に刻む。

 

 ――そして、あっという間に3ヶ月が過ぎた。

 

 

 

 


 

 

 

 

 ――魔法騎士団、入団試験当日。

 今思えば、自分はとんでもないことをしたのだと痛感してしまう。

 あの"契約"の話を終え、王国へ帰ったアシエを待っていたのは、母含む親族一同からの、凄まじい勢いの言及。

 あの日、自分は魔力が完全に枯渇し、気絶して一日過ぎていた。その事実に、アシエはその時になって、ようやく気づいたのだ。

 何とか誤魔化すことは出来たものの、謹慎として試験の日まで、アシエは家族から城を出ることが許されなかった。

 その間、あの悪魔がどのような行動を起こしているかは把握出来ておらず、言い様のない焦燥はあった、だが調べる限り不審な失踪や事件などは起こっておらず、ちゃんと"契約通り"に静かに過ごしていたことは確かだろう。

 

「あいつは……」

 

 会場をぐるりと見渡せば、自分と目の合った者は凄まじい勢いで視線を逸らすか、含みのある笑顔で挨拶を返すかの二つ。

 平民、貴族…更に平民と続いて下民、王族貴族…王族……

 目眩がする程の人混み、その中に。

 

「………あっ」

 

 いた。

 数人程度で作られた平民の波の中、あの悪魔はそこにいた。

 どこから調達したのか、初めて会った時の翼、肉体にも負けない純黒のワンピースと、そして腰まで伸びた雪のように真っ白な髪。

 まるで人形のような美しさと恐ろしさ、同時に人間を魅惑するオーラ。

 人間を遊ぶためだけに生まれたような存在、それにふさわしい出で立ちと言えるだろう。

 

「おい…あれ知ってるか?」

「知らねー…でもどこかの貴族の娘…とかじゃねぇか?」

「きれー…どこ出身なんだろうなあいつ」

「お近づきになりたい…」

 

 その正体が悪魔であるとも知らず、顔を赤くする男たちに呆れのため息を漏らしながら、アシエは()()に向かって歩き出す。

 自分が話しかけてもいいのか、話してみようかと悩んでいた平民の数人は、こちらに向かってきた少女の正体に気づき、顔を真っ青にした。

 

「おい!あの紋様…王族じゃ…!」

「マジかよ…しかもシルヴァ家だ…!」

 

 一歩近づく度に距離を離し、そして目をつけられないように小声で会話をして様子を見る。

 そうして自然と出来上がった輪、皆が成り行きを見守り、どうなるかと意識を向ける中。

 

「久しぶり、元気そうで何よりだわ」

「あぁ、そちらこそ」

 

 まず最初の驚愕、王族である筈のアシエがまるで対等な相手であるかのように柔らかい態度で話すこと。

 次の衝撃、それは少女であるとはいえ王族の、アシエ・シルヴァという格上の存在に対し、同じく気さくに返事をした純白の少女。

 純白の少女、いや悪魔のサタナキアは、同時に周りから注がれる畏怖の視線に首を傾げて。

 

「…?私は何か間違えたのだろうか」

「………さぁ?」

 

 僅か3ヶ月ではあるが、サタナキアは自分の手の届く範囲ではあるが人間界のことをそれなりに調べ尽くした。

 人間の寿命から営み、番いから社会の基礎構造に至るまでを独学で。

 その中にあった「人間は知人同士挨拶を交わす」というものに、今の状況が該当するため返事をしただけだ。

 王族との格差というものはまだ理解出来ていなかったのだろうと、アシエは察して耳打ちするように話しかけた。

 

「それより、あなた魔導書は…問題ないわよね?」

「あぁ、中の文字と連動した動きに至るまで、全て問題なしだ」

「あと、絶対にやり過ぎないように」

 

 わかった?と念入りに聞くと、サタナキアは相変わらずの無表情のまま「わかった」とだけ返して、再び上を見上げる。

 魔力感知のこともありアシエも直ぐにそれに気づいたが、どうやらサタナキアは誰よりも先にそれを知っていたらしい。

 ――試験会場の最上階、そこからこちらを見下ろす九人の魔導士たち。

 

「――どうやら今回も、面白い魔法が揃っているみたいだね」

 

 紫の鯱、銀の鷹に赤の獅子、灰色の鹿…

 サタナキアの目は、九人の魔導士たちが肩に付けているローブ、それをじっと見つめて。

 

「魔法騎士団…か」

「では、試験を始めよう」

 

 灰色のローブを身に付けた男がそう宣言すると共に、突如試験会場の地面が隆起し、動き出す。

 その突然の変化、何よりあれほどの距離がありながら、ここまで正確な魔法が出せるものかと何人かの人間は驚愕し、冷や汗を流している。

 一方。

 

(なるほど…薄くだけど魔で作った魔法回路を忍ばせてあるのね)

(このレベルか…甘く見て六域か?興味無い)

 

 あくまでも魔法の仕組みを看破したアシエと違い、サタナキアは心底つまらないと欠伸をしながらその魔法を切り捨てた。

 サタナキアのいう六域、それは魔法国家間における個人の戦力を表す、クローバー王国以外で使われる単位"魔導階域"というもの。

 しかしサタナキアから見ればその程度であるものの、実際この魔法を見たほとんどの人間は驚愕していることからも、種族故の価値観の違いという他ないだろう。

 欠伸を隠さないサタナキアの様子に気づいたのか、その灰色のローブを付けた男は笑って。

 

「…どうやら刺激が足りない者もいるようだから、今回の試験は少し特別なものを用意したよ」

 

 会場の地面が再び揺れ動き、まるでパン生地をこねるかのように滑らかなものへと。

 少しづつ変化が早くなり、会場にいる全ての人間が、立ったまま移動した。

 

「なっ…」

「じ、地面が勝手に動…!?」

 

 それぞれが距離を離し、もしくは数人が集まって出来ていた陣形があっという間に崩れ、新たな形に変化を遂げた。

 平民貴族、王族といった壁のない、完全にランダムで決まった配置だ。

 

「今回の仮定は"防衛"だ、敵を倒す…向かうだけが魔法騎士団じゃないからね、でも忘れないで欲しいのは…これはあくまでも試験ということ」

「岩石創成魔法・沈黙の重戦士の群れ」

 

 再び、男の背後に立っていた魔導士が魔法を発動すると共に、試験会場にいた人間、百数名より遥かに多い、岩石で作られた兵隊が直立していた。

 皆が困惑したままの中、サタナキアはやはり眠そうに頭を揺らしていた。

 

「試験終了は、この兵隊の一体でも君たちの防壁を超えて中央に着いたら、仲間と協力するもよし、ただひたすら倒すもよし、動き方は君たちに任せるよ?試験だからね」

「……ふむ」

 

 兵隊の首が動き、今にも歩き出さんと身体を震わせる。

 サタナキアは同時に、魔法騎士団の入団試験における"必勝法"のためにも、行使する魔法の構想を練っていた。

 

(錬成魔法を見られないよう内部で展開、見栄えに効果の両方を充分に発揮するために複合反応を…)

 

 サタナキアが調べた限り、錬成魔法を使う人間は、この世に一人も記録に残っていなかった。

 無限の発展性と希少性を持つ錬成魔法、希少性という点なら魔炎魔法も同じではあるが、発展性を含めると錬成魔法は遥かにそれを凌駕する。

 気づかれれば面倒だ、あくまでも目立たせるのは、公言するのは魔炎魔法。

 

(これならいいか…)

「では、始め――」

 

 瞬間、莫大な魔力がその空間を満たした。

 たった一瞬、全ての人間が息を飲むほど濃密なそれを、しかしまるで自分の指を動かすかのように完全に掌握、そして凝縮。

 

 魔炎魔法による視覚と魔力のカモフラージュ、そこに錬成魔法で作った下地を握る。

 同時に魔炎魔法による全てを燃やす炎を纏い、その上から自分にしか分からないほどに薄く、錬成魔法による物質変換の魔法を絶え間なく循環させる。

 

 あらゆる物質を書き換える錬成魔法と、あらゆる概念を燃やし尽くす冥府の炎。

 その二つが組み合わさった、悪魔だからこそできる魔法。

 

(錬成×魔炎魔法…)

 

 この世の全てを分解する、悪魔による究極の剣。

 その名は。

 

「禁剣レーヴァテイン」

 

 一閃。

 目の前に立っていた岩石の兵隊の一人は、何も出来ないまま、一瞬で溶けて無くなった。




魔炎魔法
 冥府第1階層の最上位悪魔、ナヘマーの魔法。
 文字通り"全て"、概念すら燃やす悪魔の力、ナヘマーは作中にて、自分を閉じ込める実態のない影魔法の棺をこれで燃やし尽くした。
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