錬成の悪魔   作:お父様

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 お久しぶりです、ブラクロ熱が再開したので書きました。


ページ6.入団と住居

「では番号001の受験生、前へ」

 

 紆余曲折あった実戦試験も終わり、いよいよ魔法騎士団入団の要となる結果発表が始まった。

 サタナキアの番号は103のため、呼ばれるのにかなり時間がかかる、つまりは暇なのだ。

 他の受験生は勿論、自分が受かっているのか等の不安でそれどころではないのだが、サタナキアは知ったことではない。

 もう披露済みなのもあり、魔炎魔法によるカモフラージュも必要ない。

 錬成魔法による(マナ)の操作による一人遊び、サタナキアはそれに没頭する。

 

(言霊魔法は相変わらず、渦はそんなに…羅針盤魔法は結構面白かったな…)

 

 錬成魔法はあらゆる魔法、物質に変換ができる。

 しかし何でもできるとはいえ、それはあくまでも自身の知識に基づいた魔法の範疇でしかない。

 こうやって今、黄金比とも呼べる魔の属性比率、何万何億通りの設計図を覚えられるのは悪魔だからこそであり、そしてそれを最初に生み出したのは人間であること。

 結局は真似事なのだ。

 人間という種族が生まれると同時に作り出した属性と、長い年月で作り上げた魔法技術の数々や罠魔法といったものまで。

 受肉に五つ葉の魔導書といい、悪魔とは最初から最後まで結局、人間から何かを奪わないと生きていけないのかと、自虐を含めた笑いをサタナキアは零した。

 

「〜〜…〜〜〜」

 

 魔力を練り、暇潰しの一人遊びに没頭すること、数十分。

 そうして――

 

「――番号103の受験生、前へ」

「…おっと」

 

 待ちくたびれた自分の番。

 それが呼ばれたことに気づき、サタナキアは魔力を発散させて歩き出す。

 その時、周りの雰囲気がざわっ!と変わった事に、彼は気づかない。

 

「………?」

 

 上にいる魔法騎士団、九人の団長から見下ろされながら、彼はこてんと首を傾げる。

 試験会場の全域を覆い尽くす程の規模、更には団長にも匹敵する程の、精密性。

 ただ魔法の巨大さに圧巻された一般人とは違い、鍛えられた武人とも呼べる魔法騎士団は、サタナキアの持つ異質さ、そして危険性のある実力を、見極めようと視線を注ぐ。

 それは、優秀な若い芽を見る、今までの優しい視線ではない。

 最悪、このクローバー王国の敵となるかもしれないのだ。そんな危険人物を、()()()()()()()()()()の視線。

 ただユリウスのみ、彼だけが、今まで通りの優しい目をしている。

 

「………」

「………」

 

 八人の団長、その険しい視線に、サタナキアは晒される。

 野次馬たちも、今までのとは違う異質な気配に、思わず息を飲み、じっと視線を、団長たちと同じように、サタナキアに向けていた。

 空気が凍るような、冷たい気配。

 数秒。

 時間にしてそれだけ。しかし野次馬たちからすれば、体感で数十秒にも匹敵する程の、濃密な一瞬であった。

 

「………?」

 

 こてんと、サタナキアは再び首を傾げる。

 その仕草は、何故こうして自分が見られているか…の疑惑ではなく、「もしかして不合格なのか…?」という、的外れな心配からであった。

 再び、沈黙。

 

「……あわわ」

 

 不味い、まさか不合格になるとは思わなかった――

 勘違いを拗らせ、顔だけは無表情のまま、内心ではかなり焦っているサタナキアは、見た目に合わない声を漏らす。

 それを合図に、フッと静かに、ユリウスが笑った。

 

「ごめんね、少し緊張させちゃったみたいだ」

 

 灰色の幻鹿団長、ユリウス・ノヴァクロノ。

 彼の言葉を区切りに、張り詰めた空気が解けた。

 彼が他団長に、意味を含めた視線を向け、そして片手を上に――

 

「……む」

 

 挙手、その行動が示す意味。

 サタナキアは冷静に、こちらをじっと見つめるユリウスの、その顔を同じように、じっと見つめ返す。

 

(…まぁ、合格できるならそれでいいだろう)

 

 ユリウス…否、ユリウスの"中"にいるものが気がかりだが、背に腹は変えられないだろう。

 それに、今こうしている間も、ユリウス以外で挙手している者は一人もいない。

 サタナキアの異質な魔力。それは『サナ』という、人間への擬態を持ってしても誤魔化し切れない、悪寒の走る代物。

 実力、容姿は充分過ぎる程に持っている。だがそれでも、人間としての本能が、彼女を受け入れることを否としていた。

 

 ユリウスが唯一、サタナキアに対し、敵対の意識を見せないのは。

 

 彼が大の魔法オタクだからでも。

 彼が心の清らかな、差別意識のない善人だからでも。

 ましてや『サナ』の正体に気づいたからでもない。

 

(おそらくはアスタロトの影響か…私に対しての危機感が鈍っている)

 

 ――サタナキアは逆に、ユリウスの温かい笑みを冷たく切り捨てる。

 たとえ人間の身体に抑え込まれようとも、長く生きてきた冥府の香り、それは一朝一夕に何とかできるものでは無い。

 サタナキアでさえ、この半年で魔力の漏出を完全に制御できるようにはなったが、未だに悪魔としての気配…"香り"は断つことができていないのだから。

 

(私以外にも悪魔がいたらどうしようかと思ったが…軽く調べた限りでは、ユリウスの中以外には誰もいない…そこは幸運だったな。最初こっちに来たアドラメレクは別だが)

 

 それにサタナキアの見る限り、肝心のユリウス自身がそれに気づいていない。

 中に悪魔がいるにも関わらず、既に正体の割れている自分に対し、あのような視線を向けるのか。

 悪魔の香りを残しつつも、その仕草や表情はどこまでも人間であり、違和感が留まることを知らない。

 その答えはつまり、彼は自分の中にいるモノを知らないという事――

 

(……まぁ、可哀想だが私には関係ない)

 

 僅かな倦怠感、そして期待を込め。

 サタナキアは――サナは今から入団する騎士団の名を、口にした。

 

「――"灰色の幻鹿"で」

 

 

 

 


 

 

 

 

 ――平界ネアン。そこにある教会。

 サタナキア…人間『サナ』が一時的に、魔法騎士団入団試験の日まで身を置いていた場所。

 戸籍もなく、人間の知り合いも、王族のアシエしかいないという、あまりにも世を生きるのに不便な状態。それが半年前の彼であった。

 悪魔に食事はいらないし、汚れや生理的欲求による弊害はない。あるのは"退屈"という名の毒だけだ。

 

 人という命。以前にそれへ向けていた、曖昧な興味。

 それはアシエ・シルヴァという少女によって、業火の如き勢いで、より強い思いへと変貌した。

 

 最初、現世に現れた際にあった、あの小屋では満足などできる筈もない。

 己の持つ知識、模倣した魔法を惜しみなく使って、彼は自分の欲望を満たせる場所、それを()()()()血眼になって探し、ようやく見つけた。

 それが、ここ平界にある――

 

「"人間は、魔神に滅ぼされるかに見えた"」

 

 子供たちの声がする。

 教会の中、そして野外を元気に走り回る、その声に耳を傾け、彼は一冊の本を読む。

 それは、教会のシスターがよく、子供たちに読み聞かせる昔話。

 一本の巨大な木。おおよそ子供では到底届かない、地上から十数メートルは離れた枝に腰かけ、彼は時間を潰していた。

 

「"それを救ったのは、たった一人の魔導士だった"…」

「――またそんなところにいるのかい、サナ」

 

 地上から聞こえる声。

 本を閉じ、サタナキアは声の主を見下ろしながら、答える。

 

「テレジア」

 

 テレジア・ラプアール。

 この教会の責任者でもあり、この町一番の年季、そして実力を持ったシスター。

 サタナキアがふわりと、重力を無視した動きで上から舞い降りると、テレジアは肩をすくめて、ため息を吐いた。

 

「いつから帰ってたんだい?」

「ついさっき、歩くのが面倒で少し"飛んで"きた」

「…………」

 

 再び、ため息。

 

「全く。帰ったなら帰ったって言いな。皆入り口であんたの事を待ってたんだよ」

「…む」

「帰り方まで指図するつもりはないけどね。せめて出る時、帰る時は入り口から。分かったね?」

「…分かった」

 

 サタナキアは人間だが、同じ人間でも、その経験値はテレジアと比べるまでもない。

 それに彼女はシスターらしく、子供たちを清く、正しく導く者でもある為、彼女の言葉は正しい。

 それを分かっているからこそ、サタナキアは反論することなく、静かに頷き、そして自分を戒める。

 しょぼ…と、まるで幼児のような雰囲気を醸し出した途端。

 ぽんっと、頭に手が置かれ――

 

「まっ、とりあえず。――合格おめでとう。サナ」

「……私が受かったこと、もう知ってたのか?」

「これでも元宮廷魔導士だったからね。その手の情報は早く来るのさ」

「…ふぅん」

「さ、今日はご馳走だ。子供たちを呼んできておくれ」

 

 彼女は既に、『サナ』が得体の知れないモノであると見抜いている。

 だがその上で、彼女は『サナという名の孤児』として、自分を扱っているのだ。

 サタナキアにとって、彼女は自分を受け入れた善良な人間、というだけでなく。

 決して侮ることなく、そしてその上で、自分が教会に身を置くことを許してくれた、アシエの次に好感が持てる人間であった。

 

「あぁ、分かった」

 

 だからこそ、彼は従順に。

 この、仮初の家族たちとの交流を、大事にしようと思った。

 

 

 

 


 

 

 

 

 その子が、人間でないことは分かっていた。

 目の前に立つのは、得体の知れない何か――そんな言葉に収まり切らぬ、別の何かであることは、既に理解していた。

 宮廷に仕える事が許される程の血筋、更には魔法騎士団に身を置き、鍛えられた実力。

 魔導士としての本能が、危険信号を発していた。

 人間としての生存本能が、泣き叫びながら警告をした。

 

『――サナ。サナと言う』

 

 教会の前で、じっとこちらを見つめながら立っていた少女。

 子供たち、そして危険察知能力のない、研修中だった他のシスターは、それに気づかない。

 ただ、抑えられた(マナ)を見て、平民か何か。そして魔力量が多いとしか思わないだろう。

 だが、テレジアは違った。

 

 ――澄みすぎた(マナ)。それがテレジアの第一印象。

 ――怪物。それが次に、彼女が下した結論。

 

 魔導士の本能が、ここから逃げろと訴える。

 人間の本能が、もう逃げられないと泣いている。

 ――しかし、それらを凌駕する、シスターとしての教訓。

 こてんと、首を傾げてこちらを見る少女。

 

『…初めまして?』

 

 その言葉が、決心を後押ししたのかもしれない。

 結論から言えば、彼女はあっという間に、教会中で受け入れられた。

 見た目も麗しく、無口ではあるものの、決して不愛想ではないし、むしろ素直。

 言われたことはきちんとするし、朝や夜、食事前の挨拶を一度も欠かしたことはない。

 時折、世間知らずな言葉を紡ぐものの、それすら彼女の魅力となっていて。

 薄い黒のワンピース、そして際どさすら感じる、薄い素材なのも相まって、町の男からよく、声をかけられるようになったらしい。

 勿論、彼女は声をかけられる意味を、よく知らないらしいが。

 

「テレジア」

 

 自分の一歩先を歩くサナ。

 その背中を見つめながら、テレジアは答える。

 

「…なんだい」

「ありがとう。私を受け入れてくれて」

「…………何」

 

 テレジアは、力強い笑みを浮かべて、言う。

 

「私はシスターだからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ!サナおねーちゃん!一緒に遊ぼ!」

「次!俺が魔法騎士団役やる!」

「ズルいぞ二回連続だろ!?魔神役やれよな!」

 

 ただ、テレジアは一つ思う。

 

「サナおねーちゃんは精霊役ね!綺麗だから!」

「馬鹿な…元魔王の私が精霊だと…!?」

(大丈夫かねこの子……)

 

 本当に大丈夫か?と。




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