錬成の悪魔   作:お父様

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 この作品の時系列はガバガバです(ここ重要)
 なんかここおかしくなーい?ってなっても「ルシウスが時間魔法でうまい事やってる」って事にしてください()
 あと昨日感想結構もらえて嬉しかったです。


ページ7.朝飯前

 長い、永い時を生き続け。

 同族を屠り、王座に君臨する事幾星霜。

 最初こそ、万にも匹敵する有象無象の軍勢と、優れた個々が、ぶつかり合って血肉を弾かせるあの日。

 冥府ではその日、血の流れない時などなかった。

 

 魔王。冥府の頂点を意味する称号。

 

 必然的に、そこに座ることになった。

 その時は自覚していなかったが、どうやら自分は、悪魔の中でもそれなりに強い方ではあったらしいと、当時は他人事のように思っていた。

 サタナキアは、そこからずっと退屈だった。

 

 ――王になったからといって、誰かが褒めてくれる訳でもない。

 

 王になったから、魔王という称号を手にしただけで、現世に行けない事に変わりはなく、ずっと冥府の、薄暗い、薄汚い空間に縛られ続ける。

 そこからは、思い返すのも苦痛だった。

 

(思えば、この時点で予兆があったんだな)

 

 精神が摩耗する程の退屈。

 上層の、自分より遥かに弱い低級の悪魔たちは毎日、ずっと飽きもせずに同族で殺し合っている。

 自分より弱いものを見つけ、甚振る。

 甚振られた弱いものは、更に弱いものを甚振る。

 飽き飽きした、くだらない争いを遠目で見続ける日々。

 

 だが、それは終わった。

 

 かつての、忌々しい敗北と屈辱の記憶。

 滅多に来客の来ない、冥府の第7階層、そこに現れた、新たな悪魔――

 

『頭が高い』

 

 一瞬だった。 

 抵抗すらできず、いつやられたかの認識すらできず。

 たった一撃。…否、指を振るっただけで、自分が成す術もなく敗北したと。

 恐ろしい程に、冷静に現実を受け止めていた。

 

 

 

 

 いつしか、目が覚めた時。

 目の前に広がる景色が、かつての居場所であった第7階層ではないことも。

 冥府に新たな魔王が生まれたこと。

 自分が既に、負け犬の一人に過ぎないものに成り下がったのだと、思い知った。

 だが、今にして思えば――

 

(むしろ、あの日に落ちぶれることができたから…)

 

 自分はこうして、人間と触れ合う事が――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ――!」

 

 悪魔は、眠ることはない。

 仮に目を瞑って、意識を失うとしても、それは人間が普段からよく行う『睡眠』ではない、ただそれに寄せただけの、上辺だけの真似事だ。

 その日にあった出来事、そして過去の出来事も合併し、記憶を整理する為のものとは違うのだ。

 だが今、サタナキアは夢を見た

 夢。人間にのみ許された、生物としての生理現象。

 それを見ることができたのは、受肉し、人間の身体を得ることができたからか。

 もしくは――

 

「…そういえば今日か」

 

 魔法騎士団入団試験、それが終わり、サタナキアは『灰色の幻鹿』に身を置くことが決まった。

 そして、魔法騎士団に入団した魔導士の住居は、必然的にその、入団した団の拠点に移ることとなっている。

 基本、ほとんどの魔導士は箒を使って空を飛ぶ。一般人であればそれなりに、腕の立つ魔導士であれば、それこそ疾風の如き速度に至る。

 つまり、単純な魔法の実力によって、箒の速度は大きく変わるのだ。

 入団予定の魔法騎士団、その拠点から近い場合はまだいい、だが試験は厳しく、好みの団に入れるかどうかは、貴族や魔力量に優れた平民といった、逸材の人間にかかっている。

 

 話を戻し、移動距離の話をするとしよう。

 

 灰色の幻鹿拠点、そして平界ネアンは、街を四つ挟んだ凄まじく遠い場所に存在する。

 侵略国家ダイヤモンド、未だ沈黙を保ち続けているスペード――

 彼らへの抑止力。それも相まって、魔法騎士団は一日でも早い活動と、戦力の増強を求めている。

 つまり本来であれば、サタナキアは試験終了日、その後すぐ、ユリウスの後をついていって、拠点に到着しなければいけなかったのだ。

 いくら優れた実力を、実技試験で放ったとはいえ、『サナ』はまだ新人の魔導士に過ぎない。

 魔法騎士団のルールに反し、一日だけ、教会に戻ることを許された。その理由は、たった一つ――

 自室の扉を開け、教会の廊下を歩き続ける。

 朝の七時。教会の教育が行き届いているのもあって、子供たちは全員、既に起床済みで、『灰色の幻鹿』のローブを身に着けた、サタナキアを見て瞳を輝かせた。

 わらわらと集まり、子供たちは、サタナキアが着ているワンピースの袖を引っ張って。

 

「サナねーちゃんおはよー…」

「あぁ、おはよう」

「あっローブ!サナおねえちゃんお仕事!?」

「あぁ、仕事だ」

「ただ出るだけだろう、サナ」

 

 ふんすと得意げな顔を見せるサタナキアとは逆に。

 背後から、一連の流れを見守っていたテレジアは、呆れたように肩をすくめて。

 

「全く、長い事魔導士の後輩は見てきたけど、初日からサボる娘は初めてだよ」

「む…」

 

 実際、よくユリウスも許可したものだと、テレジアは言う。

 サタナキアは、どう返したものかと首を傾げて、うんうんと唸っていた。

 ぽんと、頭に手が置かれる音がして。

 

「ほら、さっさと行っておいで」

「…あぁ、分かった」

 

 わしゃわしゃと頭を撫でられながら、サタナキアは教会を出る。

 振り返れば、教会にいる全ての子供たちが、彼の背中を見守っていた。

 悪い気はしない。むしろ少し、調子が出てきたくらいだ。

 

「一応聞くけど、箒は?」

「……いや」

 

 ――半年。

 現世に君臨し、人間の営みを間近で眺め、そして共に生き続けて、得た見識。

 それは人間の常識、貴族や王族といった社会構造だけでなく、単純な魔力、(マナ)の情報解析も当てはまる。

 魔法属性。それの基本は四つだが、この世界には無限に近い数、様々な種類の魔法が存在する。

 人間という、圧倒的な数を誇る種族だからこそ、その無限に近い数の(マナ)、構造の情報を持ち、垂れ流しながら、街の至るところに溢れかえっている。

 テレジアの言葉に、サタナキアは基礎的な魔力操作、そして悪魔の基本能力であるそれを――

 

「錬成翼魔法…錬成空気魔法×錬成大気魔法……」

 

 練り上げた(マナ)、それが目に見える形で具現化する程に、物質化という現象を果たす程に凝縮される。

 そして、まるで黒のワンピースから直接生えるかのように、ワンピースの色にも劣らぬ、真っ黒な鳥類の翼が出現する。

 

「――"黒魔空翼(デビルズ・シモン)"」

 

 それと同時に、翼に纏わりつくのは、二種類の空気。

 空気魔法と大気魔法。これは一長一短、細かな差異から相互関係な場合が多い魔法属性の中でも珍しい、ハッキリと上下関係が定まっている魔法の一つ。

 大気とは、この星の地表を覆う気体のことを指し、空気間の分子運動や呼吸器官へのダメージ、その凶悪性は、大気魔法に分が上がる。

 では空気はどうか?

 空気とは、一般的に「身近に存在する大気」や「一定量の大気のまとまり」という意見が多く見られるが、それはあくまでも物理に限った話。

 魔法としての「空気」、それは一体、大気とはどのような違いが存在するのか?サタナキアは永い冥府の生活の中、これをずっと考え続けた。

 そして至った結論。それは「あるものを使う」、そして「新たに作り出す」といった違い。

 下位互換。魔法の世界にそんなモノは存在しない。

 ――ならばいっそ、両方同時に使ってしまえばいいのだと、そう結論付けた。

 

(羽と羽の間に、燃料として窒素を貯め込むのは大気魔法、その後翼全体をコーティングするように、空気魔法で周りの酸素を操って凝縮――)

 

 ――一つだけ訂正するならば。

 彼は別に、今から国を出て旅行する訳でも、ましてや戦いに出るつもりでもない。

 出勤という、クローバー王国に住む人間のほとんどが行っていることを、悪魔が真面目に取り組んでいるだけである。

 気のせいでなければ、目の前の空間が歪んで見える程の、凝縮された運動エネルギーの波動。

 しかもタチの悪いことに、人間なら誰でも、言葉にせずとも理解できる、肌で感じる魔力の波ではなく、物理現象に伴ったものであるということ。

 つまり、この魔法の危険性は、見ただけでは判別できない――

 

「よしできた」

「ぉおお!サナねーちゃんすっげぇ!」

「キレー!」

 

 先ほどからずっと、サタナキアの作り出した黒翼は勿論。

 空中で今も尚、作り続けられている大気と空気、その二種類の魔法が織りなす小さな竜巻に、子供たちは呑気に歓声を上げている。

 が、それらの異次元さを、元魔導士としての直感で全て察したテレジアだけが、引き攣った顔で固まっていた。

 そんなことは露知らず、サタナキア振り向いて、どこかの本で知ったのだろう、慣れない、ぎこちない動きで指を振って。

 

「ちゃお」

 

 ボンッ!と、目の前で小さな爆発が起こると共に、サタナキアは空高く跳び、そしてしっかりと翼で飛ぶ。

 あっという間に、サタナキアはキランッと、一筋の光を残し、彼方へ消えた。

 「まだ朝なのに流れ星が見える」と、騒いでいる住民の声がする。

 

「シスター、おねーちゃんって凄いね」

「……あぁ、ホンットに」

 

 朝から胃が痛くなった。

 テレジアは今日、最初のため息を吐いた後、仕事を始める準備に取り掛かった。

 

 

 

 


 

 

 

 

 距離にして数十km。

 熟練の魔導士でも、全速力で箒を動かしても最低、十数分はかかるであろう長旅も、サタナキアからすれば一瞬。

 空気に関する魔法を二種類、それを惜しみなく全力で、速度の上昇だけでなく、減速の原因にもなる空気抵抗の問題を解消する為にも利用している。

 その為、サタナキアにとっては最高速度こそが平常運転。

 悪魔の動体視力を超え、空や地上の風景が、まるでパスタのように伸ばされる感覚を味わいながらも、サタナキアは無表情のまま、空を駆ける。

 この間、約七秒。

 

「…灰色の幻鹿…灰色の幻鹿……」

 

 引き延ばされた時間の中。

 まるでレストランの看板を探すかのように、サタナキアは自分が所属する予定の、魔法騎士団の名を口で反芻しながら、視線を地上の、あらゆる建物に向けていた。

 しかし、それを続けたのは最初の数回だけ。

 

「…魔力を辿った方が早いな」

 

 そうと決まれば。サタナキアは一度集中する為に、両目を閉じて、全力の魔力感知を行った。

 悪魔という生き物にとって、この街の一帯を対象に、特定個人の魔力を選別・特定し、場所を割ることは()()()

 そうして、サタナキアはすぐに、あの日既に"解析"した、ユリウスの魔力を見つけた。

 

「…そこか」

 

 そして、方角を少し変更し。

 そのままサタナキアは、翼で身体を抱きかかえるような体勢、更には足と地面に垂直なる姿勢のまま。

 一気に高度を下げ、滑るようにブレーキをかけて着地――

 

 ――ガッシャァアアアンッッ!!!!

 

 …周りの硝子と目前の扉を、着地の衝撃でぶち壊しながら、着地した。

 

「ん…と、お邪魔しま――」

「…………」

 

 カランッ……ゴトッ――

 寂しい音が一つ、ギリギリ持ちこたえていた扉の接合部分、それが自重で崩れ落ちる音と共に、砂埃が消えていく。

 そして、『灰色の幻鹿』拠点、その食堂にあたる場所で、丁度オムライスを口に運ぶ途中だった――

 

「……あれ?」

「あちゃー…」

 

 ()()()()()()()()()()()姿()

 今のサタナキアよりも、魔導書(グリモワール)が授与される齢15よりも下の姿の。

 丁度()()()の、幼いユリウス・ノヴァクロノがいた。




 サタナキア
年齢:???
身長:???
誕生日:???
星座:???
血液型:???
好きなモノ:魔法を使うこと、人間と会話をすること
嫌いなモノ:ルチフェロ

 かつて冥府の支配者だった存在であり、元魔王。
 後に誕生した最強の悪魔ルチフェロに手も足も出ず敗北し、そのまま王の座を奪われて逃げるように隠居。
 悪魔本来の姿は、ルチフェロより一回り大きい二対の翼と三本の角に捻じれた四つの目。と結構グロテスクな見た目であり、受肉後とのギャップがえげつない。
 喧嘩を売られない限り殺しをせず、癇癪を起こして暴れることもないので悪魔からの評判は割といい方。
 なお逆に、ルチフェロは魔王になっても死ぬほど嫌われている。


 …こいつその気になったら透過魔法と鎖魔法の組み合わせ一人でできるんだよね……
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