錬成の悪魔   作:お父様

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 昨日ブラクロを最新話まで追いました。いやぁやっぱり面白い、あとアネゴレオンは相変わらずで笑っちゃった。
 あと、朝ランキングを確認したら、まさかの原作ブラクロが5位にいるという光景が…感慨深い……


ページ8.未来への投資

 数秒の沈黙。

 それを破ったのは、サタナキア。

 

「………人違い?」

 

 自分で言っておいて、おそらく違うとは気づいていた。

 しかしそれでも、つい口からその言葉が出てしまうくらいには、目の前の光景は、摩訶不思議なもので。

 案の定、クスリと笑って、ユリウスは訂正した。

 

「いや、本人だよ。私は確かに…ユリウス・ノヴァクロノだ」

「……」

 

 錬成魔法で弄ったとはいえ。

 今は人間にして、齢15の身体を持つサタナキア。

 そんな彼の目の前にいるのは、どこからどう見ても、そんなサタナキアより肉体年齢は下の少年。

 魔導書(グリモワール)が授与される年齢、それを下回る容姿。

 あの日、試験会場で見た時は確かに、大人の姿をしていた筈だが――

 

「……魔法騎士団の?」

「うん」

「…灰色の幻鹿の?」

「ユリウスだよ」

「魔法騎士団団長の?」

「ユリウス・ノヴァクロノだね」

「…おぉ」

 

 こちらを見上げるユリウスの、自分より頭一つ分は小さい、その少年の身体を見下ろしながら、サタナキアは考える。

 人間の…平均的な貴族のと比べても魔力量が凄まじく多い。確かにこれだけあれば…見た目さえ上手く誤魔化せば、誰も彼の正体が子供だとは見抜けないだろう。

 思えばあの日、試験会場にいた他の団長と比べても、決して劣らぬ魔力の質とは思っていた。

 

 ――だが逆に考えて。

 時間魔法(アスタロト)を宿した人間が、その程度の規模で収まるはずがない。

 

 今、この時期で"こう"なのだから、あと数年成長し、経験を積んだ場合は一体どうなるのか――

 

「…魔導書が授与されるのは15からだろう?人の目もある、魔導書の問題はどうしてるんだ?」

「それなら、ほら」

 

 サタナキアの疑問に、ユリウスは一枚の紙を、目前に掲げて示した。

 ユリウスのと同じ、波長を持つ(マナ)を纏っているそれは、一枚の魔導書。

 たった一枚。

 表紙のない、彼だけの特別な魔導書。

 本来であれば、ありえない形状のそれは――

 

「良いか悪いかは分からなかったが、私は()()だったんだ」

「――…」

 

 魔導書には種類がある。

 ()()()()()()()、それぞれの国の名を冠する模様…この国ならば四つ葉の模様が、魔導書の表紙に刻まれ、塔に保管されている。

 ハートも、ダイヤも、スペードも、魔導書という括りに当てはまっているのなら、表紙は必ずそこにある。

 だが、今サタナキアの目の前にある、ユリウスが持つ魔導書には、それがない。

 ――正確には、()()()()()のか。

 

「君なら多分知ってるだろうけど。時間魔法の本質は、"時を奪う"もの」

 

 異質な魔導書、それへ視線を注ぎ続けるサタナキアに、ユリウスは語った。

 

「"未来を奪う"力。それを持って生まれた私は、何を成すべきかを考えた」

「……」

 

 背中を向け、「ついてきて」と言ってから、ユリウスは壊れた扉を潜る。

 サタナキアは素直に、その背を追いかけることにした。

 外は、彼が想像していたよりも、人が少ない。

 『灰色の幻鹿』の拠点は、他と比べれば王貴界に近い方ではあるものの、あくまでも所属は平界。

 朝からの騒音…サタナキアの着地による突風、その建築物への被害は、そこまで騒がれてはいなかった。

 いつの間にか、ユリウスの肉体年齢は、試験会場で見た時と同じ、大人のそれへと変わっていた。

 

「何故か、()()()()()()()魔導書、特異な時間魔法。ずっと考えた、私は()()()()()

「……」

 

 レンガの街並みを、二人は歩き続ける。

 ユリウスが身に纏う、魔法騎士団であることを示すローブと、人目を引く、サタナキアの容姿。

 まだ朝早くで、数人程度の規模ではあるが、こちらに向けられる、好奇の視線。その数々。

 それを感じながら、サタナキアはユリウスの言葉に耳を傾け、考える。

 

(おそらくもう一人…アスタロトか、()()()()か?あの魔導書の違和感は…)

 

 ユリウスは「最初からあった」と言ったが、サタナキアからすれば、それはありえない話だった。

 何故なら、サタナキアの嗅覚は既に、ユリウスの力の源が、彼元来のものではない、悪魔由来のものだと見抜いていた。

 『ユリウスの時間魔法』ではなく、『"悪魔憑き"の時間魔法』――それが、あの魔導書の正体。

 サタナキアは、そう推測した。

 

(考えられるのは…時間魔法で一度、身体の時間を進めて、そして魔導書が授与される年齢になる。そして魔導書を早期入手してから、また元の年齢に戻ったか…だな。これなら理論上、齢15でなくとも魔導書を手に入れられる……)

 

 根拠もない、ただの妄想に過ぎないが、一番考えられる中でそれらしい理由。

 自分が、それも自分の中にいる何者かを、疑われていることなど知らないユリウスは。

 静かに振り向き、微笑みながら問う。

 

「君は、自分のことが分からないと、そう思ったことはあるかい?」

「…――」

 

 ――自分のこと。

 不意に問われた、曖昧過ぎるその言葉。

 サタナキアは、頭の中で整理していた、ユリウスへの疑惑を一旦停止し、その問いを真面目に受け止めた。

 腕を組み、考え……

 

「…うむ」

 

 数秒の熟考。

 

「……」

 

 目を閉じ、更に熟考。

 そして更に数秒が経ってから、サタナキアはユリウスを見つめ返し、一言。

 

「…………忘れた、な」

「忘れた?」

「あぁ、忘れた」

 

 ――あの、屈辱の日。

 自分という、『サタナキア』という名の全てを支えていた、『最強』の称号を凌辱され、強奪され。

 成す術もなく、あっという間に落ちぶれ、栄光を失った時。

 それに関しては、今でも忘れない。忘れられる訳がない。

 ある程度、悪魔としての悪辣さが鳴りを潜め、丸くなった今でさえ、現魔王…ルチフェロへの復讐心が途絶えることはない。

 必ず殺す。その思いは、彼が滅びるまで永遠に消えることはないだろう。

 それが、元魔王としての――

 

「忘れたんだ、もう」

 

 ――今、それ以外は?

 元魔王、現魔王。強者のプライドとしての問題を別とするなら。

 今の自分には、一体何が残っているのか。

 今までずっと、他者の魔法を解析し、模倣し、身に着けては時間を潰してきた。

 だが、()()()()が、本当にしたいこととは何なのか――

 

「私が、魔法騎士団に入ったのは…人間を知りたかったからだ」

 

 ――まずは、知ろう。

 知って、触れて、未知を知り。

 未知に触れて、触れられて、その上でもう一度、考えてみよう。

 遠い未来、幻想の夢でみた、『もしも』の可能性である、ルチフェロの打破。

 仮にそれに成功して、その後自分は、どのように生き続けるというのだろう。

 ――今の、この考えに至るまでの、自分のオリジン。

 

「私は何の為に生まれたか。仮にそれが、王になる為だったとしてだ。もう既に私は、その座を奪われた敗北者だ」

「…王、か」

「王ではなく、そして生物元来の欲求ではない…正真正銘の、自己が望む生き方を、私は知りたくて現世(ここ)に来た」

「…やはり、君は人間ではないんだね」

「――あぁ」

 

 既に、周りに人はいない。

 ユリウスはそれを、その原因である彼の行動を見逃しつつ。

 それでも尚、彼の答えを待っていた。

 目に見えない結界が、人払いの力が、本来人が溢れかえっている筈の、街中で二人きりという、静寂の間を作り出す。

 

「絶望、憎悪」

 

 ――ドス黒い、邪悪な(マナ)が、透明な結界に溢れかえる。

 そんな、負の(マナ)と共に、サタナキアの背中から突き出すのは、二対の黒い翼。

 飛行の際、鳥類を模して作ったのとは違う。光を飲み込むような、邪悪な翼。

 

「不実や終焉と、昔からの付き合いだった…ある同胞はそう自称していた――」

 

 目元からまるで、ひび割れのように広がる紋様。

 眼球の全てが赤く染まり、翼をはためくと共に、一瞬で、その変化は終わりを告げた。

 翼を仕舞い、負の(マナ)を抑えて、サタナキアは欠伸を噛みしめ。

 

「ん……私は悪魔。悪魔サタナキア、そういう生き物だ」

「そうだろうとは思ってたけど、こうして目にすると、何だか感慨深いものがあるね」

「……?感慨深い?」

 

 心底不思議そうに、サタナキアは首を傾げて。

 

「悪魔は悪いんだぞ?」

「………」

「人間は、悪魔と仲良くしたら駄目なんじゃないか?」

「…――――」

 

 こてんと、そう言うサタナキアの顔には、冗談の色は見えなかった。

 言わんとすることは、「悪魔は悪い奴」、「魔法騎士団の団長が、悪魔に入れ込んでいいのか?」と、あまりにも至極真っ当なこと。

 一言半句、反論の余地もない。

 だがそれを、よりによって、当人である悪魔が言っているのだ。

 それも、大真面目に。

 ユリウスは、とうとう我慢ができずに吹きだした。

 

「――ハハッ、やっぱり君は変わってるね」

 

 ――だから受け入れたんだけどね。

 そう言って、ユリウスはサタナキアに向けて、手を差し出した。

 

「お互いに、自分探しの長い旅になりそうだね」

「……?」

 

 じっと、サタナキアは差し出されたその手を見つめる。

 その後、ユリウスの顔を見て、また再び、差し出された手に視線を移す…その繰り返し。

 

「…??」

「手を握るんだよ」

「…ぁ、握手か」

 

 ユリウスに言われて、ようやくサタナキアは、その行動の意味に気づき。

 差し出された手に、自分の手を合わせた。

 

「本で見た。これが"握手"…何とも言えない気分だ」

「教会の子とはしないのかい?」

「…?歩く時、はぐれないように手を繋ぐのとは違うのだろう?」

「…なら、これからも知っていかないとね」

 

 僅かな違和感を覚えながらも、ユリウスは言う。

 柔らかい、温かい手。

 この、どこからどう見ても、触っても未だに、彼女が悪魔であると、ユリウスは信じられない気持ちだった。

 にぎにぎと、興味津々に指を広げたり、閉じたりするその仕草も、一見すると、ただ浮世離れした少女のそれにしか見えない。

 

「友情や愛情…親愛やそれ以外の意味。手を繋ぐ行為にも、様々な種類があるんだよ。これは、『これからよろしく』っていう握手だ」

「…そうか、ところで一ついいか?」

「うん?なんだい?」

 

 訝し気に、何かを思い出している最中なのだろう。

 サタナキアは、空いた左手で顎を摩り、そして。

 

「歩く時に、子供たちとはぐれないように手を繋ぐって言ったろう」

「え、うん」

「私が街を歩く時、その帰りに。教会の子供がよく、私の腕を引っ張って教会に向かうんだ」

「………」

 

 ――歩く時、はぐれないように手を繋ぐ。

 先ほど、サタナキアが言っていた言葉。

 はぐれないように。私の腕を引っ張って――

 ピースが嵌まり、ユリウスは先ほど感じていた、僅かな違和感の正体に気づく。

 ――苦笑い。

 

「これは、どういう意味なんだ?」

「…迷子にならないようにだね」

「マイゴ?」

「後で教えるよ」

 

 最初の、凄まじい突風と共に降り立つ場面といい。

 まずはこの悪魔に、王族貴族の礼儀より優先して、一般常識を覚えさせようと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…全ては予知通り」

「憂いなく、全ては望み通りに、順調に進んでいる」

「でもやっぱり、君は相変わらず扱いづらい」

「――でも、逃がしはしない」

「君さえいれば、あらゆる儀式の…それこそ『クリフォトの樹』すらも、君単独で補える」

「君さえ手中に収めれば…――残りは消化試合だ」




 その気になれば一人で『クリフォトの樹』を作れる元魔王様。
 …の筈なのに、何故か2話前からポンコツっぷりが垣間見える。こ…こんな筈じゃ…最初の頃の威厳はどこへ…
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