錬成の悪魔 作:お父様
あと、朝ランキングを確認したら、まさかの原作ブラクロが5位にいるという光景が…感慨深い……
数秒の沈黙。
それを破ったのは、サタナキア。
「………人違い?」
自分で言っておいて、おそらく違うとは気づいていた。
しかしそれでも、つい口からその言葉が出てしまうくらいには、目の前の光景は、摩訶不思議なもので。
案の定、クスリと笑って、ユリウスは訂正した。
「いや、本人だよ。私は確かに…ユリウス・ノヴァクロノだ」
「……」
錬成魔法で弄ったとはいえ。
今は人間にして、齢15の身体を持つサタナキア。
そんな彼の目の前にいるのは、どこからどう見ても、そんなサタナキアより肉体年齢は下の少年。
あの日、試験会場で見た時は確かに、大人の姿をしていた筈だが――
「……魔法騎士団の?」
「うん」
「…灰色の幻鹿の?」
「ユリウスだよ」
「魔法騎士団団長の?」
「ユリウス・ノヴァクロノだね」
「…おぉ」
こちらを見上げるユリウスの、自分より頭一つ分は小さい、その少年の身体を見下ろしながら、サタナキアは考える。
人間の…平均的な貴族のと比べても魔力量が凄まじく多い。確かにこれだけあれば…見た目さえ上手く誤魔化せば、誰も彼の正体が子供だとは見抜けないだろう。
思えばあの日、試験会場にいた他の団長と比べても、決して劣らぬ魔力の質とは思っていた。
――だが逆に考えて。
今、この時期で"こう"なのだから、あと数年成長し、経験を積んだ場合は一体どうなるのか――
「…魔導書が授与されるのは15からだろう?人の目もある、魔導書の問題はどうしてるんだ?」
「それなら、ほら」
サタナキアの疑問に、ユリウスは一枚の紙を、目前に掲げて示した。
ユリウスのと同じ、波長を持つ
たった一枚。
表紙のない、彼だけの特別な魔導書。
本来であれば、ありえない形状のそれは――
「良いか悪いかは分からなかったが、私は
「――…」
魔導書には種類がある。
ハートも、ダイヤも、スペードも、魔導書という括りに当てはまっているのなら、表紙は必ずそこにある。
だが、今サタナキアの目の前にある、ユリウスが持つ魔導書には、それがない。
――正確には、
「君なら多分知ってるだろうけど。時間魔法の本質は、"時を奪う"もの」
異質な魔導書、それへ視線を注ぎ続けるサタナキアに、ユリウスは語った。
「"未来を奪う"力。それを持って生まれた私は、何を成すべきかを考えた」
「……」
背中を向け、「ついてきて」と言ってから、ユリウスは壊れた扉を潜る。
サタナキアは素直に、その背を追いかけることにした。
外は、彼が想像していたよりも、人が少ない。
『灰色の幻鹿』の拠点は、他と比べれば王貴界に近い方ではあるものの、あくまでも所属は平界。
朝からの騒音…サタナキアの着地による突風、その建築物への被害は、そこまで騒がれてはいなかった。
いつの間にか、ユリウスの肉体年齢は、試験会場で見た時と同じ、大人のそれへと変わっていた。
「何故か、
「……」
レンガの街並みを、二人は歩き続ける。
ユリウスが身に纏う、魔法騎士団であることを示すローブと、人目を引く、サタナキアの容姿。
まだ朝早くで、数人程度の規模ではあるが、こちらに向けられる、好奇の視線。その数々。
それを感じながら、サタナキアはユリウスの言葉に耳を傾け、考える。
(おそらくもう一人…アスタロトか、
ユリウスは「最初からあった」と言ったが、サタナキアからすれば、それはありえない話だった。
何故なら、サタナキアの嗅覚は既に、ユリウスの力の源が、彼元来のものではない、悪魔由来のものだと見抜いていた。
『ユリウスの時間魔法』ではなく、『"悪魔憑き"の時間魔法』――それが、あの魔導書の正体。
サタナキアは、そう推測した。
(考えられるのは…時間魔法で一度、身体の時間を進めて、そして魔導書が授与される年齢になる。そして魔導書を早期入手してから、また元の年齢に戻ったか…だな。これなら理論上、齢15でなくとも魔導書を手に入れられる……)
根拠もない、ただの妄想に過ぎないが、一番考えられる中でそれらしい理由。
自分が、それも自分の中にいる何者かを、疑われていることなど知らないユリウスは。
静かに振り向き、微笑みながら問う。
「君は、自分のことが分からないと、そう思ったことはあるかい?」
「…――」
――自分のこと。
不意に問われた、曖昧過ぎるその言葉。
サタナキアは、頭の中で整理していた、ユリウスへの疑惑を一旦停止し、その問いを真面目に受け止めた。
腕を組み、考え……
「…うむ」
数秒の熟考。
「……」
目を閉じ、更に熟考。
そして更に数秒が経ってから、サタナキアはユリウスを見つめ返し、一言。
「…………忘れた、な」
「忘れた?」
「あぁ、忘れた」
――あの、屈辱の日。
自分という、『サタナキア』という名の全てを支えていた、『最強』の称号を凌辱され、強奪され。
成す術もなく、あっという間に落ちぶれ、栄光を失った時。
それに関しては、今でも忘れない。忘れられる訳がない。
ある程度、悪魔としての悪辣さが鳴りを潜め、丸くなった今でさえ、現魔王…ルチフェロへの復讐心が途絶えることはない。
必ず殺す。その思いは、彼が滅びるまで永遠に消えることはないだろう。
それが、元魔王としての――
「忘れたんだ、もう」
――今、それ以外は?
元魔王、現魔王。強者のプライドとしての問題を別とするなら。
今の自分には、一体何が残っているのか。
今までずっと、他者の魔法を解析し、模倣し、身に着けては時間を潰してきた。
だが、
「私が、魔法騎士団に入ったのは…人間を知りたかったからだ」
――まずは、知ろう。
知って、触れて、未知を知り。
未知に触れて、触れられて、その上でもう一度、考えてみよう。
遠い未来、幻想の夢でみた、『もしも』の可能性である、ルチフェロの打破。
仮にそれに成功して、その後自分は、どのように生き続けるというのだろう。
――今の、この考えに至るまでの、自分のオリジン。
「私は何の為に生まれたか。仮にそれが、王になる為だったとしてだ。もう既に私は、その座を奪われた敗北者だ」
「…王、か」
「王ではなく、そして生物元来の欲求ではない…正真正銘の、自己が望む生き方を、私は知りたくて
「…やはり、君は人間ではないんだね」
「――あぁ」
既に、周りに人はいない。
ユリウスはそれを、その原因である彼の行動を見逃しつつ。
それでも尚、彼の答えを待っていた。
目に見えない結界が、人払いの力が、本来人が溢れかえっている筈の、街中で二人きりという、静寂の間を作り出す。
「絶望、憎悪」
――ドス黒い、邪悪な
そんな、負の
飛行の際、鳥類を模して作ったのとは違う。光を飲み込むような、邪悪な翼。
「不実や終焉と、昔からの付き合いだった…ある同胞はそう自称していた――」
目元からまるで、ひび割れのように広がる紋様。
眼球の全てが赤く染まり、翼をはためくと共に、一瞬で、その変化は終わりを告げた。
翼を仕舞い、負の
「ん……私は悪魔。悪魔サタナキア、そういう生き物だ」
「そうだろうとは思ってたけど、こうして目にすると、何だか感慨深いものがあるね」
「……?感慨深い?」
心底不思議そうに、サタナキアは首を傾げて。
「悪魔は悪いんだぞ?」
「………」
「人間は、悪魔と仲良くしたら駄目なんじゃないか?」
「…――――」
こてんと、そう言うサタナキアの顔には、冗談の色は見えなかった。
言わんとすることは、「悪魔は悪い奴」、「魔法騎士団の団長が、悪魔に入れ込んでいいのか?」と、あまりにも至極真っ当なこと。
一言半句、反論の余地もない。
だがそれを、よりによって、当人である悪魔が言っているのだ。
それも、大真面目に。
ユリウスは、とうとう我慢ができずに吹きだした。
「――ハハッ、やっぱり君は変わってるね」
――だから受け入れたんだけどね。
そう言って、ユリウスはサタナキアに向けて、手を差し出した。
「お互いに、自分探しの長い旅になりそうだね」
「……?」
じっと、サタナキアは差し出されたその手を見つめる。
その後、ユリウスの顔を見て、また再び、差し出された手に視線を移す…その繰り返し。
「…??」
「手を握るんだよ」
「…ぁ、握手か」
ユリウスに言われて、ようやくサタナキアは、その行動の意味に気づき。
差し出された手に、自分の手を合わせた。
「本で見た。これが"握手"…何とも言えない気分だ」
「教会の子とはしないのかい?」
「…?歩く時、はぐれないように手を繋ぐのとは違うのだろう?」
「…なら、これからも知っていかないとね」
僅かな違和感を覚えながらも、ユリウスは言う。
柔らかい、温かい手。
この、どこからどう見ても、触っても未だに、彼女が悪魔であると、ユリウスは信じられない気持ちだった。
にぎにぎと、興味津々に指を広げたり、閉じたりするその仕草も、一見すると、ただ浮世離れした少女のそれにしか見えない。
「友情や愛情…親愛やそれ以外の意味。手を繋ぐ行為にも、様々な種類があるんだよ。これは、『これからよろしく』っていう握手だ」
「…そうか、ところで一ついいか?」
「うん?なんだい?」
訝し気に、何かを思い出している最中なのだろう。
サタナキアは、空いた左手で顎を摩り、そして。
「歩く時に、子供たちとはぐれないように手を繋ぐって言ったろう」
「え、うん」
「私が街を歩く時、その帰りに。教会の子供がよく、私の腕を引っ張って教会に向かうんだ」
「………」
――歩く時、はぐれないように手を繋ぐ。
先ほど、サタナキアが言っていた言葉。
はぐれないように。私の腕を引っ張って――
ピースが嵌まり、ユリウスは先ほど感じていた、僅かな違和感の正体に気づく。
――苦笑い。
「これは、どういう意味なんだ?」
「…迷子にならないようにだね」
「マイゴ?」
「後で教えるよ」
最初の、凄まじい突風と共に降り立つ場面といい。
まずはこの悪魔に、王族貴族の礼儀より優先して、一般常識を覚えさせようと思った。
「…全ては予知通り」
「憂いなく、全ては望み通りに、順調に進んでいる」
「でもやっぱり、君は相変わらず扱いづらい」
「――でも、逃がしはしない」
「君さえいれば、あらゆる儀式の…それこそ『クリフォトの樹』すらも、君単独で補える」
「君さえ手中に収めれば…――残りは消化試合だ」
その気になれば一人で『クリフォトの樹』を作れる元魔王様。
…の筈なのに、何故か2話前からポンコツっぷりが垣間見える。こ…こんな筈じゃ…最初の頃の威厳はどこへ…