絶対に死にたくない転生者vs死後に魂を持っていくタイプのサキュバス   作:ぺとら

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シリアスが書けないので「とりあえず完結させよう」で作った習作です。一話あたりも短めですぐ終わります。

ここ数年スコップが錆びついているのでよそ様と設定丸被りしてたら優しく教えてください。


第一話 死後の世界はクソ

死後の世界には何があるんだろう?

 

誰だって思う。

 

天国と地獄は存在するのだろうか。

三途の川を渡るのだろうか。

意思はどこにあるのか。

 

魂の行方はどこにある?

楽園か、極楽か。

 

あるいは、まったく未知の『カミサマ』がいて、手慰みに俺たちをどこか異世界へ転生させてくれるのかもしれない。

命のやり直し。なんなら最強の特典まで付けてもらって、一度の死を無かったことにして輝かしい生をやり直すのだ。

 

 

誰も知らないから、何だって言える。

どんなことでも想像出来る。

 

薄暗い灰色の人生を、死という転換点を通して再スタート。

強くてニューゲームを出来るなら誰だってやりたがるし、だからこそ皆が憧れる。

 

 

かく言う俺も、その手の妄想をした事が無いと言えば嘘になる。

 

たいして華やかでもない人生を送ってきた自覚はある。

だからこそ、生まれ直してやり直したいと思ったし、未知の異世界で冒険したいとも思った。そこにチートな能力が付随してくるとなお良いな。

 

そうでなくても、『死』そのものにも興味があった。

苦しいんだろうか。悲しいんだろうか。辛いんだろうか。痛いんだろうか。逆に気持ちいい、なんてことも有り得るかもしれない。

 

さすがに自死を選ぶほどでは無かったけれど、知的好奇心を抱いていたことは確かだ。

 

 

 

結論。

 

死後の世界には、何も無い。

 

 

 

「嫌だ、嫌だ、嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

喉がはち切れるぐらいには叫んだ。

 

だけど、何も無い。

 

「たっ、助け、助けてくれ!!」

 

存在しない誰かに助けを請い、四肢を千切れるぐらいに振り回した。

 

だけど、何も無い。

 

「なんでっ、なんなんだよこれ!!」

 

自分の声も聞こえない。

手足の感覚も無い。

なんなら、意識すらも真っ暗で、今にも閉じてしまいそう。

 

 

俺を構成するものがじわじわと闇に飲み込まれていく過程で、ようやく理解した。

 

死ぬとは、こういうことなのだ。

 

何も無い。

死後の世界も神様も閻魔様もいない。

先祖も親も、誰もいない。

 

でかい怪獣の腹の中で消化されるみたいに、つま先から少しずつ闇に咀嚼されていくのが死の正解。

 

きっと、皆が叫んだのだろう。

俺のじいちゃんもばあちゃんも、友人も、家族も、好きな奴も、嫌いな奴も、皆等しくみっともなく手足を振り乱し、泣き叫びながら抗って、そして飲まれたのだ。

 

「そんな、そんなのって無いだろ……!!」

 

体の感覚が無くなった。

視界なんてとっくに閉じ切っている。

 

思考にモヤがかかったような気がして、それが情動すら失われかけているのだと認識した時、俺はとうとう発狂しそうになった。

 

もっとも、発狂出来るようなリソースなんて残されていなかったんだけど。

 

「嫌だ、嫌だ、嫌だ……」

 

俺は芋虫みたいにもがいた。

それほどに、この果てのない闇に溶かされて無になるという終わり方が嫌だった。

 

死ぬのはいいんだ。前世に未練なんて無いから。

それでも、こんな凄絶な終わり方なんて、誰だって望んでいない。

 

「死にたくない、死にたくない、死にたくない……!」

 

頭のモヤが広がっていくにつれて、自分が何を嫌がっているのかすら分からなくなる。

それでも俺は、駄々をこねる子供のように暴れていた。

 

「しにたくない……しにたくないよ……」

 

たぶん、体が残っていたら泣いていたんだと思う。

そんな『悲しい』という感情すら溶かされて、最後に残った怒りと恐怖という感情すらも同様に消えかける。

 

「しにたくない」

 

『それ』が消えたら、これだけ生き汚く足掻いた俺も終わりだという確信があった。

 

「しにたく、ない」

 

どうせ消えてしまうなら、せっかくだから最後に爆発させてやりたい。

そんな反骨心じみた思いつきが湧いて出た。

 

無意味だと自制する心すら消えていた以上、俺がそれを止める道理もない。

 

「死にたく、ねぇぇぇぇっっ!!!」

 

一暴れ。

みっともない叫び。

 

これを最後にして俺を構成する全てが分解される、そんな瀬戸際で。

 

 

なにか、触れてはならないものを、『俺』の一端が蹴飛ばした気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

転生した。

 

端的に言えば、そういうことになる。

 

目覚めた時、俺の視界いっぱいにどこかの天井が映った。

あいにくと「知らない天井だ」などとユーモアに富んだ冗句を飛ばす余裕もなく、その時の俺は、ただ眼前に広がる色付いた世界に安堵して、ひたすら泣いた。マットレスの柔らかさに感動して泣き、風が木々を揺らす音に喜んで泣き、鼻を擽る甘い香りに驚いて泣いた。

 

俺はさぞかしよく泣く子だと思われていたことだろう。

 

 

俺は、さる商家の次男に生まれていた。

それも、いかにも中世ヨーロッパじみたレンガ造りの街並みが広がり、魔法文化が栄え、魔物と冒険者がシノギを削る異世界である。

 

生まれてから数年、見て、触れて、感じるもの全てに安堵し、そしてそれら全ての価値に感動し、本来の赤子とまるで変わらない好奇心旺盛な様相で育った俺は、物心つく頃になってようやくその事に気がついた。

 

奇しくも、この俺が異世界転生の実在を証明したのだ。

鼻高々なような気恥しいような、そんな気分。

 

おまけに、俺は王都に本店を構え、貴族や王家相手にも商売を行うかなりの規模の家の次男坊。

前世の知識も合わせれば、俺の今世の人生が安泰であることは間違いない。さらには知識チートなんてやってみせて、我が家をさらに繁盛させるのもいいかもしれない。

 

世界を見て回るのだ。

あんな暗闇と虚無しかないクソッタレ地獄なんて忘れて、何よりも美しい世界を愛でるのだ。

 

今ならその価値がよく分かる。俺の視界は輝いている。

将来には期待しかない。素晴らしい人生を送ろう。無駄のない少年期を過ごし、大人になったら旅に出よう。様々な国をめぐり、たくさんの人と知り合って、多くの良いことをするのだ。時には苦難が待っていても良い。苦しみすらも人生を彩ってくれる。

 

そうして、そんな人生の果てに──

 

 

 

人生の果てに。

 

待っているものは。

 

 

「死?」

 

 

ヒュッ、喉が鳴る。

頭のてっぺんからつま先に至るまで、全身という全身に寒気が走った。

 

そうだ。

人は死ぬ。生き物はみんな死ぬ。絶対に死ぬ。死ぬ、死ぬ、どうせ皆死んで、そして最終的に消える。あの、無限のような深い闇に飲み込まれて。

 

「……だ」

 

たぶん、俺はあの時の大暴れが原因で転生したんだと思う。

この転生が極めて奇跡的な幸運によるものであると、当事者である俺は直感的に理解していた。

 

ならば、俺はその幸運をもう一度再現できるか?

 

「…ゃだ」

 

無理だ。出来るわけがない。

 

いや、それどころか、あんな恐ろしい場所に、二度と行きたくない。

生きたい。俺は行きたくない。死にたくない。

 

「いやだ!!!」

 

前世の地球では、極めて高水準に達した技術で以てなお不老不死は実現できていなかった。

 

だが、異世界ならば。

 

「……あるはずだ」

 

この世界には人がいる。魔法がある。魔物がいる。龍がいる。悪魔がいる。たぶん、神もいる。

 

ならば、きっとどこかにあるはずだ。

 

「見つけてやる」

 

死なない方法。

 

不老不死を手に入れる方法。

 

二度と、あんな暗い世界に行かなくてもいい方法。

 

「絶対に見つけてやる」

 

幸いなことに、俺の立場は恵まれている。

 

金があり、子供ゆえに時間があり、リソースは極めて多い。

 

 

楽しむなんて二の次三の次だ。不老不死を手に入れることが出来たなら、時間なんていくらでもある。

 

何をしてもいい。どんな手でも使う。

俺は一度死んだのだ。ならば、今更それ以外の何を恐れようか。

 

「絶対に死んでやるもんか」

 

俺を動かしていたのは、怒りと恐怖。

奇しくも、それは最後まで俺に残されていたものと同じだった。

 

 

 

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