絶対に死にたくない転生者vs死後に魂を持っていくタイプのサキュバス   作:ぺとら

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第十一話 諦めもつく

なぜだか知らないが、今回のダンジョン攻略は俺よりもサキュバスの方が気合いが入っていた。

 

「さぁ、行くわよ!」

 

開幕一発、ダンジョン入口を盛大に吹き飛ばした。

 

「まだまだ!」

 

時の神、その魔法。

それは対象の時間を止めたり、強制的に老化させたりと極めて強力だ。

 

きっと俺一人では為す術なくくたばっていたことだろう。

 

「私たちを止められると思わないことね!」

 

しかし、サキュバスは別だ。

 

本体を別次元に置く彼女は時間を停められても気にしない。

極めて長い寿命を持つ彼女は、人が老いて死ぬ時間を経ても平然としている。

 

そして、今までに多くの命を奪い、その『時間』を内に宿す彼女は、時の神のダンジョンにおいて無類の力を発揮する。

 

「消えなさい!」

 

迫り来る魔物を蹴散らし。

 

「死になさい!」

 

四方から襲い来る獣の群れを蹴散らし。

 

「退きなさい!」

 

なだれ込む竜の群れを片っ端から撃ち落とし。

 

「邪魔!」

 

罠を見つけると、一切躊躇することなく魔法をぶっぱなす。

 

そうするとどうなるかって?

罠が消し飛ぶんだよ。ダンジョンの一部と共に。

 

ふつう、ダンジョンへの過度な破壊行為はご法度だ。

 

生き埋めになる可能性だってあるし、ダンジョンの『再生』に巻き込まれるとただでさえ複雑なダンジョンで更に迷子になってしまうから。

 

 

しかしイケイケなサキュバスをそれとなく諌めると、迷うことのない彼女は極めてまっすぐな瞳で断言した。

 

「大丈夫よ、私がいるわ」

 

あまりにも自信満々で断言するものだから、そこまで言われたら俺も剣を握らずにはいられない。

 

聖剣、あの嫌な出来事を思い起こさせる『正義』の魔導具。

でも、大丈夫。俺ならきっと、暗い気持ちを勇気で律し、剣を片手に踏み出せる。

 

 

なんで俺がこんな目に、という行き場のない怒りがある。

俺の命を狙う怪物共が恐ろしい、全てが敵のダンジョンは恐ろしいと泣き叫ぶ恐怖がある。

 

そのふたつだけが俺の芯であり、だからこの二本の足さえあれば、立っていられる。

 

 

あの女が跳ね回り、凶悪な魔物相手に大立ち回りをしている姿を見ていると、俺の内に情動の炎が滾るのを感じた。

それに抗ってはならない。煮え滾る炎に身を任せ、理性を投げ捨てなければならない時もあるのだろう。

 

獣を斬る、ゴブリンを潰す、竜をぶち殺す!

 

「強化寄こせ、サキュバス!」

「そう、それそれ! あなたの魂輝いてるわ!」

 

嬉々として俺に強化魔法をぶつけてくるサキュバスは、何をそんなに喜んでいるのかよく分からない。

だが、使えるものは使うのが俺のやり方だ。そしてサキュバスは非常に便利なので、疑問に思うことはあれど拒絶することはない。

 

サキュバスは迷宮に閉じ込められても大丈夫だ、と言った。

ならば、その言葉を信じてやろう。もしもダメなら、何がなんでも欺瞞の対価を払わせてやるまで。

 

「デカいの喰らわせるぞ!」

「待ってました!」

 

魔物、魔物、魔物!

ザコの有象無象どもが俺の道を阻むんじゃねぇよ!

 

テメェらといちいち付き合ってやる時間は無いのだ。

ダンジョン内壁を全て破壊し、生き埋めにする! その上で俺たちは先に進む!

 

「──死ねぇぇぇッ!!!」

 

 

 

 

──Guuuaaaghhhhhhh!!

 

化け物の言葉にならない悲鳴が響き、俺の鼓膜をぐちゃぐちゃにする。

 

空気を伝う波は穴という穴から体内に侵入して骨を砕き、内臓を破り、脳を掻き混ぜた。

 

「ぐはっ」

 

血を吐く。

一瞬で視界が真っ赤に染まり、意識が遠のきそうになる。

 

しかし全てが途絶えるその寸前に、サキュバスのよく通る声が響くのだ。

 

「まだまだ!」

 

心地よい魔力が全身を駆け巡れば、あらゆる負傷は過去のものだ。

傷は消える。血は戻る。かつてないほどにハッキリとした意識は、むしろ負傷によって冴え渡っている。

 

「助かった! 次はもっと早く治せ!」

「安心しなさい、絶対に死なせないから!」

 

ダンジョンの守護者。

 

絶対的強者として君臨するそいつはあまりにもおぞましく恐ろしいモンスターだが、当然の事ながら俺には及ばないカスだ。

俺の四肢を捥ごうが、サキュバスは俺の腕を生やすだろう。俺の脳が散ろうが、サキュバスはそれを掻き集めて元に戻すだろう。

 

そして肝心のサキュバスは、どれだけ攻撃しても瞬時に虚空から生えてくる。決して死なない。

 

 

そうだ。ようやく理解した。

 

俺が死を恐れなければ、そしてサキュバスが側にいるのならば、俺は決して死ぬことは無いのだ。

俺が彼女を信頼している限り、彼女は至高の能力でもって俺に応えてくれる。俺が恐れるのは死ではない。

 

もはやこの場において、死は克服されて久しい。

 

「お前の攻撃は効いていない! 俺の強化だけしていろ!」

「なんで時の神の魔物が魔法無効なのよ! おかしいでしょ!」

 

知ったことか。

 

魔物がなんだ、神がなんだ。結局は雑魚だ、雑魚しかいない!

 

「死ね、死ね、死ねぇぇぇッ!!」

 

斬って斬って切りまくる。

俺に出来るのはただそれだけで、それが出来れば十分だと、知っているから。

 

「俺の為に、死ね!!」

 

なにやら怪しい怪光線が俺の下半身を持っていき、痛みを通り越して瞬時に意識が落ちそうになる。

 

「まだまだ!」

 

腕なんだか足なんだか触手なんだか分からない魔物の一部が、大きくうねって俺の頭を消し飛ばす。

 

────(治しちゃうわよ!)

 

視界が蘇る。

 

意識の断絶は無く、冷静な頭が「頭を潰された」という事実を正確に認識し、よくもやりやがったなと恐怖を上回る怒りを再燃させる。

 

 

──AahhhhhhooooooAaHHhhhhHhh!!

 

 

化け物が、一丁前に怯えているかのような悲鳴を吐いた。

 

恐怖? その程度の恐怖で、そして外敵へと抱く怒りで、この俺に勝てると思うなよ!

 

「────ッッッ!!!」

 

全力で叫んだら喉が弾けたが、気にしなかった。

 

サキュバスの強化魔法で向上した身体能力にものを言わせ、極めて乱雑に剣を叩きつける。

腕が千切れても、胴が捻れても、腕を振るうのは決してやめなかった。

 

ただこいつを殺すと、怒りと恐怖が叫ぶままに動いていた、

 

 

 

「…………ハッハッハ」

 

二度、同じ轍は踏まない。

 

「ハッハッハ!」

 

殺し、殺し、完璧に殺し尽くして、復活も出来ない、攻撃も許さないほどのミンチにした。

それでもなお飽き足らず、痕跡を残さないほどの猛攻を叩き込む。

 

 

「……魂が完全に滅んだわ。流石にもう復活しないわよ」

 

 

サキュバスの言葉を受けて、ようやく剣を下ろす。

 

敵は死んだ。ダンジョンは俺の手に落ちた。

ならばやることは決まっていて、たったひとつだけ。

 

「…………これが?」

「ええ。不死のポーション、ってところかしら」

 

魔導具、時の神の結晶。

 

俺が求めるもの。俺に救いを授けるもの。

 

「神託では、持って帰ってこいって言ってたんだっけ?」

「知るか」

 

これは俺のものだ。

 

時の神がなんだ。神託がなんだ。

魔導具は見つけたものにその権利が帰属する。神がそれを否定するのなら、俺が神を殺す。

 

そうだ、不死なんて世界に争いをもたらすもの、存在しない方がいい。

例え世界に追われる身になろうと、俺がここで消費してやることに感謝すべきなのだ。

 

「……ようやく、なのね」

 

勢いよく、呷る。

 

 

 

 

 

「────俺の魂を、持っていってくれ」

 

 

 




城之内、死す!
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