絶対に死にたくない転生者vs死後に魂を持っていくタイプのサキュバス   作:ぺとら

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第二話 クソッタレ冒険者稼業

どの世界でも似たようなもので、いの一番に不老不死を求めるのは王族や、それに連なる高貴な連中だ。奴らは不老不死の為なら水銀のような劇毒でも容易く飲み、その結果バタバタと死んでいく。

 

その結果としてテロや反乱が起きていては話にならないが、少なくとも俺は不老不死を求める理由に共感できた。

 

もっとも、俺は死にたくないだけで、権力やら何やらにはたいして興味は無いが。

 

 

この世界には魔法が存在し、前世での科学や工学技術の代わりのように研究が進められている。

前世でも様々な発見をもたらし、歴史的なブレイクスルーのキッカケになったことも少なくない錬金術だが、面白いことにこちらの世界ではさらに複雑な様相を醸し出していた。

 

まぁ、魔物やら魔力やらドラゴンやらが実在して、なおかつある程度は手が届くというのならさもありなんといった感じか。

 

 

たいした学のない俺にとっては前世の科学技術と今世の魔法技術に優劣をつけるなど出来ないが、実際問題として、不老不死という話は前世よりも現実的であるらしい。当然のことながら、比較的という修飾は必要になるが。

 

魔法技術も万能ではないということだろう。

 

 

我が家は王家にも商品を卸す大商人だから、当然のようにその手の話も舞い込んでくる。

 

眉唾物であろうとそういった品の噂が出ると、王族を筆頭にこぞって金持ちが押しかけてくるのは愉快な光景だ。

残念ながら、今のところ成果はゼロのようだが。

 

 

俺が商売人のネットワークにちょいちょいと手を出し、方々から話を聞くところによると、どうもそういったアイテムはダンジョンなる場から産出するようだ。

 

魔物が存在し、冒険者が存在する剣と魔法の世界ならば、やはりそこにダンジョンも必須なのだろうか。

 

 

転生者的思考をグルグルと回しつつ情報収集を続けると、なんとなく話の流れが理解出来た。

 

この世界にも創造神話が存在する。

信仰心なんてこれっぽっちもない俺はいまいち覚えていないが、確かギリシャ神話みたく様々な神が存在し、彼ら彼女らが世界をコネコネして創ったというものだ。どうもそれは事実のようで、教会の勢力はかなり強力だし、なんなら神託を降ろす神も実在する。

 

つまり、この世界は神の力が色濃く残留しているのだ。

その力は時に世界を歪め、ダンジョンというある種の秘境を形成する。

 

そこは強力な魔物が存在し、地形すら意思を持つ危険な世界。

しかしダンジョンの最奥には神の力の結晶が存在し、それは人智を超えた力を授けるらしい。

 

それがマジックアイテムだとかなんとか。

 

 

実に結構。

 

創造神クラスの力を秘めたダンジョンともなると不老不死の力が眠っていておかしくは無いが、そもそもそのレベルのダンジョンは見つからなかったり、道のりが極めて過酷で道中で力尽きたり、どうにか侵入しても序盤も序盤で全滅するのが常だとか。

 

『勇者』だとか『聖女』だとか、いわゆる神の祝福を受けた連中ならあるいは。

 

 

なるほど、冒険者の数が増え続けるワケだ。

 

魔物退治や便利屋稼業ではたいした稼ぎにはならないが、ある程度の強さを保証された冒険者は管理組合から許可を得て、ダンジョンに潜ることが出来る。

そして無事に成果を持ち帰れば、人生を優に遊んで暮らせる程の一攫千金だ。夢に溢れている。

 

俺の両親は商人でありながら身内には甘い。

きっと、商家を継がない次男坊がニート暮らしをしていようと養ってはくれるだろう。

 

俺に一攫千金の必要は無い。

しかし、不老不死の力が眠るのも、やはりダンジョンだけだという確信がある。

 

 

当然ながらダンジョンとは危険な場所だ。

聞いた話によると、上から三つめの難易度とされるダンジョンであっても、生還率はなんと脅威の30%である。冒険者はたいてい5人程度のパーティを組むらしいので、額面通りに受け取れば一人が無事に帰って来れるかどうかということだろうか。

 

ダンジョンの難易度と得られる報酬の希少さは比例する。

俺が狙うものが最高位のそれであることは、想像に難くない。

 

当然、俺も冒険者家業に足を突っ込むのなら、その危険の坩堝に身を投げることになる。そうなれば、死ぬ可能性も当たり前のようにある。

いっそ、死なない可能性を考えた方が早いくらいだ。

 

「死ぬ。死ぬ。死、か」

 

死ぬのは怖い。絶対に死にたくない。

俺は生きるのだ。生き続けて、あんなクソッタレな暗黒にはこの暖かい世界から中指を突き立ててやるのだ。

 

生きていれば、やがて人は死ぬ。

どんなに長生きでも、100年も経てば人間は死んでしまう。

 

魔法技術の発展なんて待っていられるか。

その前に死んでしまう。老いてから後悔しても遅いのだ。

 

だから、やる。

 

「絶対に死んでやるものかよ」

 

剣を抜く。

 

 

恐怖を焚べて力に変えろ。

怒りを燃やして力に変えろ。

 

俺にはそれしか残っていないのだから。

 

 

自分にそう言い聞かせて、俺は今日もダンジョンに行く。

 

 

 

 

 

 

冒険者互助兼ダンジョン共同管理協会。

外部内部共に長ったらしいと不評で、冒険者からはもっぱらギルドと呼ばれている施設。

 

魔物の討伐も、ドブさらいも、荷物運びも、護衛任務も、猫探しの依頼もこのギルドで統括されている以上、荒くれ者揃いの冒険者たちも必然的にギルドでたむろすることになる。

 

タダで居座られるだけではかなわないので、せめて金を落としていけと併設された酒場。

普段は品性の欠片もない雑多な喧騒で溢れるその場が、しかし今日だけは別種の囁きで満たされていた。

 

筋骨隆々、傍らに物騒な武器を備えて離さない彼ら彼女らの視線の先には、一人の男。

 

「今日の成果だ」

 

ガラガラガラと、余りにも杜撰な仕草で広いカウンターが埋め尽くされる。

 

剣。器。宝石。装飾品。小手。瓶。

ありふれた品々は、しかしその内に秘める力がそれらがダンジョン内から回収されてきた魔導具(マジックアイテム)だということを如実に示している。

 

「え……あ、はい! ありがとうございます!……どうしましょうか」

「鑑定に回してくれ。買取の準備も」

「……えっと、どれを」

「全部だ」

 

魔導具は貴重だ。

鑑定されて初めてその効能が確認され、そうやって初めて価値が決まる。

 

しかし、魔導具の鑑定は非常に高度な技術(スキル)を要求されるものだ。

そして冒険者にとって一番身近な鑑定の場であるギルドは、鑑定料を()()ことで有名だ。

 

これは、冒険者というある種の戦力を抱えたギルドが強力な魔道具まで所有してしまうことを避けるための措置と噂されているが、ともかくギルドの鑑定は法外な手数料を持っていくことは内外問わずに有名な話であり、だからこそ魔導具を回収できるほどの能力を持つ冒険者は自身のツテで売り払うのが常だ。

 

それを、全売り。

 

「ぜ、全部ですか」

「パーティから了承は得た。文句があれば付き合おう」

「めめめ、滅相もない! すぐに取りかかります!」

 

魔導具の鑑定なんて滅多に取り扱わないギルドの受付嬢は見事に慌てふためいている。

 

「可哀想に。魔導具の鑑定なんて滅多に無いからやり方なんて分かんないだろ」

「あの子、まだ新人ちゃんじゃねぇか。厄介な奴の対応しちまったなぁ」

 

受付嬢の慌てようも、酒場からの囁き声も無視して、無表情で我関せずといった態度を貫く男。

 

 

 

──その男はかつて、突然現れた。

 

質の良い服で身を包み、汚れひとつない清潔な格好で、その時はまだ幼さの残る顔立ちの少年だった。

 

明らかに上流階級の人間だと分かる姿。

荒くれ者のようで実は諜報にも長けているキレ者揃いの冒険者の手にかかれば、素性を洗うことなど朝飯前である。

 

そして判明した事実は、彼がさる大商会の次男坊であるということ。

 

おおかた金持ち息子の道楽だろう、と冒険者共は失笑を漏らした。

野心溢れる貴族や商人が冒険者になろうとするのはありふれた話である。そして、すぐに姿を見なくなるのも。

 

 

どうせすぐいなくなる。

どれ、死ぬか逃げ出す前にちょっかいでもかけて有り金差し出させてやるか。厳しい社会の洗礼だよお坊ちゃま。

 

 

そんな軽い気持ちで彼の前に立ち塞がった冒険者は、すぐにその認識の誤りを正した。

 

仄暗い瞳は無表情のようでいて、底知れぬ苛立ちを湛えていた。

あくまで色を見せない顔は、それでもなお障害物を押し退けるだけの圧に満ちていたのだ。

 

目論見叶わず退いた冒険者を、誰も責めなかった。

 

 

その判断が正しかったとばかりに、男はみるみるうちに功績を積み立てていく。

 

鬼気迫る姿で魔物を狩り、あっという間にダンジョンへの挑戦資格を得た。ギルドの長い歴史の中でも類を見ない速度でのダンジョンソロ踏破。必要なパーティがあらばすぐさま声をかけ、必要ならば金も品も惜しまず、そして目的を果たせば惜しむ暇もなく次のダンジョンを探し、新たなパーティへ。

 

ただそれだけを繰り返して得た魔導具を筆頭とする様々な財を、どれもギルド、あるいは実家に売り払い、金さえもどこかで散財しているのだという。

 

 

あっという間に高みへと登り詰めた男へ、命知らずがこんな質問を投げた。

 

なぜそんなにダンジョンにこだわるのか。

 

男は珍しく微笑み、こう答えた。

 

曰く、死が恐ろしいのだと。

 

 

冒険者稼業でもっとも死にやすい場所のひとつであるダンジョンに、死を恐れて潜っている。

矛盾を孕んだ回答は、常人には理解出来ない価値観で生きているのだと知らしめるのに十分だ。

 

やがて人々は男の行動規範について考えるのをやめ、いつ死ぬのかを賭けて遠巻きに眺めるようになった。

 

 

 

 

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