絶対に死にたくない転生者vs死後に魂を持っていくタイプのサキュバス   作:ぺとら

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第四話 クソサキュバス

 

「死ね」

「危なっ!?」

 

この女は、サキュバスという種族らしい。

ドラゴンやエルフみたいな、人とは違う種族。こことは位相のズレた魔界なる世界に住む、悪魔という存在。

 

現れては殺し続けること七度、ついに俺の剣筋を捉えて回避などという小癪な技を身につけたこの女は、それから追加で十二回の死を通して俺にそのことを伝えてきた。

 

無論、剣で串刺しにして動けないようにした上で、ギルドで裏付けも取ってきた。有無を言わさずに聞き出したので受付嬢が半泣きだったがどうでもいい。

どうやらサキュバスという種族、滅多なことでは現世には顔を出さないのが、現れた時にはとてつもない被害をもたらすのだとか。

 

その能力は、魅了と吸精。

生きとし生けるもの全てからその生命力を吸い取り、糧にするんだとか。

 

かつてとある国の王都に現れた際には、その街の人口の八割を喰らい尽くして去っていったのだとか。

 

なるほど、つまり人間からすれば龍と同じ災害扱い。

あれだけの大騒ぎになるわけだ。

 

 

一方で、一度でも殺せばしばらくは出てこないから安泰だと聞いた。

 

俺が眼前で跳ね回るクソ女の死体を持って帰ってこなかったから確証はないが、今度調査隊を派遣して元パーティメンバーの死体を見分し、吸精による死があったかを確認するらしい。

 

サキュバスの存在が確認出来れば君はさらなる昇級を望めるだろう、と言われたが、それにはあまり興味は無かった。

なんせそのクソ女が生きているからである。うざったいことこの上ない。死ね。

 

「なぜ殺したのに湧いて出る。そもそもなぜ死なない」

「私たち悪魔は魔界に命のストックを蓄えてるのよ。でも、人間如きに一度でも殺されるのは割とショックでね? たいていの悪魔は引きこもるか武者修行の旅に出ちゃうのよ」

 

まぁ私は同族相手だと勝てないようなザコサキュバスだから死に慣れてるけど、などと宣い、ウィンクと共にハート型に固めた魔力が飛んでくる。

恐らくとんでもない魅了効果付きの爆弾だ。

 

物騒なハートごと女を切り捨てる。

 

「私、ザコだけど一度に『稼ぐ』量が多いから復活のハードルも低いのよ」

 

なるほど。

つまりは、殺せば殺しただけ命のストックが増える、ということか。

 

それが『悪魔』なる種族の特性ということか。

……ふむ。

 

「あら、ようやく剣を下げてくれたのね。私のモノになる気になった?」

 

ふざけるな、死ね。

 

女を三枚におろし、再び現れた女に問う。

 

「どうすれば悪魔とやらになれる」

「えぇ……?」

 

そう聞くと、女は不思議そうな顔をした。

 

舐めた言動をする癖に、一丁前に困惑してやがる。死ね。

 

「いくらなんでも、種族を超える変身なんて出来ないわよ? それが私たち(悪魔)のような高位種族なら尚更ね」

「チッ、使えねぇ」

「酷いこと言うのねぇ」

 

()()()()と白々しい泣き真似をする女を見る俺の目は、さぞ冷たいことだろう。

 

悪魔になり、命のストックを死ぬほど蓄えればあるいは、と思ったが、無理ならば仕方ない。

一応この方面でのアプローチも視野に入れてはおこう。

 

「あぁ、それと」

 

思い出したかのように、わざとらしく小首を傾げて女が言う。

何か有益なことでも言うのかとらしくもなく期待した。

 

「私がわざわざストックを犠牲にしてもあなたに会いに来るのは、あなたに一目惚れしたからよ」

 

くだらねぇこと言いやがって。

 

切り捨てた。

 

 

 

 

「えっと……」

 

冷や汗が頬を伝う。

頬を歪ませ、ヘンテコな笑みを浮かべる受付嬢は、ぎこちない表情でそれでも微笑んだ。

 

素晴らしいプロ意識だな。

 

「新しいパーティメンバーだ」

「え、いや、でも」

「何度も言わせるな」

 

引き攣った頬で俺を見る受付嬢は、俺の後ろの女を面白いぐらいに二度見、三度見している。

 

「あらあら、怖いわねぇ。女の子にはもっと優しく接しないと。ねぇ?」

「ア、アハハ……」

 

お前は黙ってろ、と肘を叩き込んだが、小癪にも俺の腕を絡めとって腕を組んできた。

柔らかい感触に一瞬だけ脳が乱されるが、コイツはこの柔らかさで俺を殺そうとしたのだと思い返すと一瞬で冷静になり、つい斬り殺したくなる。

 

「繰り返すが、俺の新しいパーティメンバーだ。冒険者登録をしていないから、さっさと済ませろ」

「えっえっ、でもその人、どう見てもサキュ──」

 

いらんことを言いかけた受付嬢を睨んで黙らせる。

ピィッ! と奇妙な鳴き声を上げて固まってしまった。

 

すると、受付嬢を押しのけるように一人の小太りな男が出てきた。

俺はこの男を知っている。ギルドの長だ。かなりの切れ者で、噂によるとギルド長は仮の身分、本来の任は王都の特殊部隊だとか。

 

どうでもいい。

 

「ウチの新人が失礼しました、慣れていないものでして」

「構わん。それよりこの件を早く片付けてくれ」

「承知致しました。すぐにでも」

 

やはり仕事が早い。

慌てることもなくベテランそのものといった風体だ。

 

素晴らしい。

 

 

冒険者として生きる上で必要な手続きを諸々終わらせて、ギルドを出た。

 

当然のようにクソ女──サキュバスも着いてくる。

非常に不愉快だが、パーティメンバーとして申請を出した以上、路傍で切り捨てるわけにはいかなかった。

 

「……クソが。なぜ俺の命を狙うような輩とパーティを組まねばならん」

「あらあら、まだそんなこと言ってるの? ちゃあんと『契約』したじゃない」

 

俺の顔を覗き込んでくるサキュバスに拳骨を落とす。

痛そうな表情と仕草で悶えているが、どうせ大して効いていないことは分かっている。

 

 

──誠に不本意ながら、このサキュバスクソ女を殺し尽くすことは出来なかった。

 

本人曰く、命のストックはあと数億残っているらしい。

 

どれだけ殺したのか分かったもんじゃないが、それはつまり俺がこのサキュバスを殺すには残り数億回を殺す必要があるということだ。

何度も殺すうちに回避したり防御したりと対策を練ってきやがった以上、どれだけ時間がかかるか分かったものではない。

 

俺の時間は限られている。非常に貴重だ。

なんの益にもならないサキュバス如きに取られていい時間など存在しない。

 

かと言って、俺の命を奪いかけ、更には今でさえ狙ってくるクソサキュバスを放置するなどあってはならない。さっさと魔界に帰れ。

 

 

さぞや渋い顔をしていたのであろう俺に、クソサキュバスは『契約』を持ちかけてきたのである。

 

「私はあなたの命を狙わない。あなたが堕ちるまで誘惑して、あなた自身の口で命を捧げてもらうだけ。その代わり、あなたのそばにいさせてちょうだい。ふふ、私も冒険の力にはなるわよ?」

 

どの口が、と思ったが、無限にも思える命を持つ相手を自由にさせておくよりはマシである。

三度のストックの消費を経て、俺もなんとか自分を納得させた。

 

要は俺がクソサキュバスの誘惑に堕ちなければいいのである。そうすればこのクソサキュバスは俺の命を狙わないのだから。

そして、クソサキュバスが俺を殺そうとしている事実がある以上、俺は決して誘惑などには屈しない。

 

その自信があった。

 

 

悪魔というのは、契約を重視する存在らしい。

 

とても信じられたものでは無かったが、俺たち人間が契約の際に使う魔法を用いた誓約書を持ち出してきたので、仕方がなく乗ってやることにした。

 

これは商人のやり取りはもちろん、他人とパーティを組む際や、時には使い魔契約など、ありとあらゆる契約の場面に用いられる魔導具である。

『契約』の神の賜物で、悪魔のような高位種族の魂でさえも縛り付けるのだとか。

 

試しに『俺に直接的な危害を加えたら即座に死ぬ』という誓約を結ばせて攻撃させたところ、見事に爆発した。汚ぇ。

復活後も誓約が有効なことは、十三度の試行を通してなんとなく把握した。

 

 

こうしてクソサキュバスは俺を攻撃出来なくなったが、俺はクソサキュバスに付き纏われることを許容する羽目になったのだ。

 

 

……数億の命のストック。

 

羨ましくないと言えば嘘になる。

というか、めちゃくちゃ羨ましい。

 

死んでも構わない、蘇ることが出来るという確信は、どれほど素晴らしいものだろうか。

 

「あらあら、そんな情熱的な目を向けるなんて。私に魂を捧げる気になった?」

「黙れ」

 

舌打ちをひとつ。

 

 

 

 

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