絶対に死にたくない転生者vs死後に魂を持っていくタイプのサキュバス   作:ぺとら

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第五話 シミったれパーティ

 

「雷よ」

 

黄金の閃光が迸り、竜を焼く。

 

堅牢な鱗を炭になるまで焦がし尽くし、柔らかな肉を露出させる。

厄介な鎧が消失したのならば、それは俺の間合いだ。

 

「死ね」

 

肉を切れば死ぬ。

血を出せば死ぬ。

 

ならば死ね。俺を殺そうとしたのだから死ね。

 

 

その一心で剣を振るっていると、情けない呻き声と共に竜が沈黙する。

 

可哀想に。

この竜が財宝の番人などで無ければ、生きていけたというのに。

 

「さぁ、魔導具を頂きましょ」

 

認めるのは癪だが──クソサキュバスと俺の相性は、なかなかに悪くない。

 

近接専門、剣を振るうしか脳が無い俺と、あらゆる魔法を万能に使いこなすクソサキュバス。

今までもさしたる不足を感じたことは無かったが、このサキュバスとパーティを組んで以来、何かと『便利』を感じる場面が多い。

 

高位種族の中でも割と高位などというふざけた名乗りは、あながち間違いでも無かったのか。

 

「あらあら、これは……嘘を見抜く霊薬ね。効果時間は半刻といったところかしら」

 

おまけに、鑑定の技術まで持っている。

なるほど確かに、神の力の結晶を見定めるなら、より神に近しい高位種族の方が適しているのは理にかなっている。

 

「うふふ、人間の王族相手にならよく売れるんじゃない? 下手にこんなモノを流すと疑心暗鬼になって……ふふ、ヒドイことになりそうだけど」

「その手の代物は面倒だ。ギルドの連中も揉め事を嫌がって買い取らないから、俺の家に持っていけ」

 

 

ともかく、わざわざ鑑定の必要が無くなったことで、俺の冒険は更に先鋭化していた。

 

「ふふふ、お疲れ様。今晩は久しぶりに、どう?」

「久しぶりも何も一回もヤッてないだろ」

 

往来で下品なハンドサインを浮かべながらそんなことを言うので、頭をぶっ叩いて黙らせる。

ここしばらくは、そんなやり取りの繰り返し。

 

今のところ、交わした契約は守られたままだった。

 

 

 

俺は、クソサキュバスを連れ立って冒険を続ける。

クソサキュバスは、俺を堕とす。

 

何も問題は無い。

 

強いて言えば青い顔をした国の人間が何度も何度も押しかけて来たが、面倒なのでクソサキュバスに押し付けようとしたらいつも大慌てで帰って行った。

しばらくすると来なくなった。その代わり、パーティ申請を依頼しても誰も受けてくれなくなった。

 

クソサキュバスが思ったよりも使えたので問題は無かったが。

 

 

「次はどこに行くの?」

「国境を越える。入口を巨大スライムが密封している未踏破ダンジョンだ。付き合え」

「モチのロンよ」

 

 

クソサキュバスは、相も変わらず魅了を試し続けているようだ。

俺が頑なに屈しないので、最近では向こうもヤケになってきているような気がしないでもない。

 

 

「なんだ、今の投げキッスは。魅了のつもりか?」

「……並の生物なら、とっくに精神崩壊している筈なのだけれど」

「黙れ。俺を殺しかけたことを忘れたか」

 

 

ダンジョン。ダンジョンだ。

あらゆるダンジョンを目指せ。

 

必ず、必ず見つかるはず。

絶対にどこかにあるはず。

 

 

そうやって世界を巡る俺の目的を、クソサキュバスは不思議と聞いては来なかった。

遠慮していたのかもしれない。らしくもないが、このクソ女はその辺りは妙に人間味があった。

 

 

「酷い怪我。早く帰って休まないと」

「怪我、怪我だと? 舐めるなよ人外如きが」

「心配してあげてるんだけど……」

 

 

ふと、この女とのパーティは悪くないな、などと思うことがある。

たいてい次の瞬間には自身の頬を殴り飛ばすのだが。

 

その度に絆されてるんじゃねぇよという自戒を刻む。

馴れ合い、舐め合い、実に結構。しかしクソサキュバスは俺の命を狙っていると公言して憚らない以上、俺はこいつに最大限の警戒を払う義務があり、必要とあらば殺し尽くすことも視野に入れる必要があるのだ。

 

例えどれほどの時間を必要としようが、最優先は生き残ること。次に、不老不死を求めること。

これだけは譲ってはならない。これ以外の規範は必要ないのだ。

 

 

そうやって自身に刻み込んだ戒めの傷を、最初の頃は回復薬を塗りたくって治療していたが、ある時からクソサキュバスが回復魔法を使ってくるようになった。

 

「あなたが怪我してばかりだから覚えたのよ、感謝してちょうだい」などと腹立たしいことを言ってくるが、こればかりは役に立つから我慢した。

 

 

「私、これでいて魔界の侯爵家の生まれなのよ。エリート様なんだから」

「そうか」

「ツレないのね。あなたはどこの出身なのかしら?」

「その情報は必要か?」

「ほんと、つまらない人なんだから」

 

 

そうやって忙しない日々を送っていると、俺もどんどん成長する。

この世界で成人とされる年齢を超え、前世で成人とされた年齢を超え、若い体は厳しい旅路に適応して変化していく。

 

クソサキュバスは姿が変わらないが、俺はそうも言っていられない。

三十路を超えれば否応にも老化という二文字が付き纏う。厳しいダンジョン攻略において、それは命取りだ。

 

今はまだいい。

俺は更に強くなる。もはや殺せない存在はいなくなり、俺の旅路を阻む者は消える。

 

 

しかし──いつか、限界が来るのではないだろうか。

 

不老不死の力。

荒唐無稽なそれを探し求めて、しかし何も見つからず、無念と苦悩の中で、再び()()世に引き戻される。

 

 

あぁ、嫌だ。嫌すぎる。

 

考えないようにしつつも、思考の片隅では決して心中の焦りを忘れられなかった。

 

 

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