絶対に死にたくない転生者vs死後に魂を持っていくタイプのサキュバス 作:ぺとら
ご期待に添えるかは分かりませんがもう全部書き終わっちゃってるのでこのまま突っ走ります。
ダンジョンを攻略し続けて……何年だ?
忘れた。
今までに攻略したダンジョンは……何個だ?
覚えていない。
入手してきた魔導具は……何種類だ?
どうでもいい。
その結果、手に入れた不老不死への手がかりは……ゼロ。
クソみたいなこの世界には、クソみたいなダンジョンしかねぇ。許せねぇよなぁ。
最近では俺のダンジョン攻略も効率化が進んできた。
神の力の結晶は必ずダンジョン最深部に存在し、それを守護するガーディアンが存在する。
ならばそれ以外は有象無象のカスである。
クソサキュバスに覚えさせた強化魔法でブーストし、道中を全て無視してガーディアンを瞬殺する。これが一番早い。
そして俺には、それが出来る。
その必要がある。
「今日の成果は……へぇ、面白いわね。『致命傷を一度だけ肩代わりする指輪』と。致命傷ってどのくらいを想定しているのかしら?」
「寄越せ」
「いやん、強引ね」
俺は必要のない物には興味がない。
しかし、少しでも死ぬ可能性を減らせるのなら、それは俺の物だ。
口先だけ抵抗するクソサキュバスから指輪を強奪し、俺の手に装備する。
何やら目敏いクソサキュバスが寄ってきた。
「あら、その腕輪も魔導具なのね?」
「そうだ。そして寄るな」
……腕輪。俺の生命線。どうしても手放せない魔導具。
入手して以来、決して手放していないために体の一部かと錯覚するほど馴染んだ愛用品。
この女に弱みを見せるようで気に入らないので知られたくなかったが、大量の魔導具を見極めてきた為に目が肥えているクソサキュバスは、一目で効果を見抜きやがる。
「へー、『不眠症になる』ねぇ。……あなた、コレ呪いの装備じゃないの?」
邪神の類いの、だとかなんだとか言っているが、そんなもの全て承知の上だ。
ピーチクパーチクうるさいので無視することにした。
やかましいことこの上ないクソサキュバスだが、俺はコイツを犬とか猫とか、とにかく獣畜生だと思っている。
その心は、最初はやんややんやと騒ぎ立てるが、無視し続けるとそのうち諦める、だ。
「ねー休憩しましょうよー」
「お前、夢魔の癖に休息が必要なのか? ならばそこらでくたばっていろ、俺は先に行く」
「……なるほど、ぜんぜん休まないと思ったら、そういうこと」
……時々、このサキュバスが俺に向けてくる、観察するかのような目が嫌いだ。
親愛でも殺意でもなく、媚びを売るでもなく、どこか超然とした目線が俺を射抜く。
上位者気取りか、クソ悪魔め。
「次だ。邪神の力が観測されるダンジョンが見つかったらしい、気合いを入れていけ」
「たった今、邪神の産物と思しきモノを見てしまったから、複雑な気持ちなんだけど」
「知るか」
不老不死の力。
創造神クラスの力でも無ければ生み出し得ない力だが、冷静に考えると邪法も邪法である。
なんせ生命の倫理に真正面から喧嘩を売り、命の営みに対して堂々と中指を突き立てるようなものだからだ。
ならば、そんな混沌としたものを産み落とすのは邪神なのかもしれない。
そんな気がしてきた。
きっとそうだ。
邪神こそが不老不死の道。
ならば目指すは邪神への道。
聞くところによると、邪神は邪教に対して頻繁に神託を下ろすらしい。
ならば、趣向を変えてダンジョンではなく邪教徒を叩くのもありかもしれない。
そうだ、不老不死の力を独占する邪教徒ども。俺の敵。許せない。
奪い返してやる。その為には、皆殺しだ。うかうかしていられないな。
「まずはダンジョンだ」
◇
危ない人だなぁ、と思った。
「死ぃねぇぇェェッッ!!」
喉がはち切れるのではないかと思うほどに絶叫しながら、人型の化け物に真正面から斬り掛かる姿。
人間の風習に合わせて言えば、勇者とかになるんだろうか。
それぐらいに勇ましいと思えるような、強い戦士の戦い方。
「いややっぱりアレは勇者じゃないわね」
戦士というものはいつも必死なものだけれど、彼の気迫は度を超えている。
あれは
あの戦い方は、挑戦者のそれと言うよりは追い詰められた獣のもの。そうせざるを得ない状況に追い込まれて、仕方なく牙を抜いた瀕死の獣の、生死を賭けた一進一退の闘争。
私が治癒魔法を身につけてから、彼は捨て身の特攻が増えた。
私が手足の欠損さえ治せるようになったら、彼はそれすらも囮にするようになった。
私が攻撃魔法との同時詠唱を行えると知ったら、彼は自爆同然の巻き添えを命令してきた。
私が悪魔だからいいものの、同じ人間の仲間だったらとっくにノイローゼになって離反されてるわよ。私のありがたさを噛み締めて欲しいものね。もっとも彼にそんなに機知の富んだ情緒を期待できないなんてのは、とっくに理解してるけど。
ゴブリンというかオークというか、オニというのかしら。
強い、強いのだけど、私たちが求める強さからはなんだか道を外れてきているような……
「ハッハッハ、疾く死ね!!」
笑ったり怒ったり、本当に忙しない。
そんなでも剣筋はブレないのだから別に構わないんだけど、見ている側としては恐ろしいやら冷え冷えするやらで気持ちいいものでは無いのよね。
「クソサキュバス! 援護ォ!」
「私にも名前はあるんだけど!?」
文句を言いながらバフの魔法をひとつ、ふたつ、みっつ……ああもうめんどくさいから撃てるだけ。
なんだかんだで命令に従っちゃうあたり、まるで悪い男に引っ掛けられちゃった初物の乙女みたいね。
「ふはっ、ははは、死んだ、殺した!」
悪い男っていうか、様子がおかしいというか。
ミンチ肉の上で
魔物が原型を留めていないわね……たぶん、『あの時』の私もこうだったのかしら。
我がことながらぞっとする。誰だって死ぬのは嫌だ。十億の命を持つ悪魔でも。
まぁ、今日も無事にガーディアンを殲滅したようで何より。
そして現れる魔導具を、いつものように鑑定するのは私の仕事──
「って、ちょっと待ちなさい!」
魔導具は神の力。その能力は未知数。
装備して始めて効果を発揮するものがあれば、複雑な条件を満たさないと真価を発揮しないものもあり、そして中には、触れるだけで暴発するものも。
ましてやここは邪神のダンジョン、その魔導具なんてどんな悪影響を秘めていることか分かったものではない。
まずは鑑定をして、その能力を確かめてから回収するのが冒険者の定石!
なんで人間のあなたより悪魔の私の方が慎重なのかしら!?
そもそもあなた、普段はもう少し落ち着いているでしょう! 邪神!? 邪神の影響かしら!?
「…………うっ」
「あぁもうっ、言わんこっちゃない!」
なにか禍々しい──あれ明らかに呪いとかの類いよね。
黒いオーラを撒き散らす魔導具に不用意にも接触した彼は、そのまま崩れ落ちる。
まるで夢魔に魂を持っていかれた被害者のようだ。
全身が弛緩し、上も下も意識もなく崩れ落ちる様は今迄散々見てきたからよく分かる。
「ちょっと!」
慌てて駆け寄り、抱き起こす。
「うぅ……」
息は……ある。変な呪いも、付着されてない。
良かった。
この人の命を頂くのは私だ。
誰とも知れぬ魔神の残滓なんかではない。
「まったく……」
この人は、猪突猛進なようでその実慎重なところがある。
勝てる勝負にしか挑まない。
無用なリスクを負わない。
それはつまり、勝てると判断すればどんな危険も無視するということでもあるけれど、こんな不用心な猪武者では無かったはずだ。
しばらく一緒にいるから、なんとなく、ココ最近の彼の変化を把握出来る。
たぶん、焦っている、のかしら。