絶対に死にたくない転生者vs死後に魂を持っていくタイプのサキュバス   作:ぺとら

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完結優先なのでサクサクです。
展開が速すぎるように感じるかもしれませんがご容赦ください。


第八話 賢い判断

最近、クソサキュバスの距離が近い。

 

元々物理的な距離はめちゃくちゃ近かったし、なんなら今も馴れ馴れしく腕を組んでわざとらしく無駄にデカい乳を押し付けて来ているが、それはそれとしてなんだか距離が近いように感じる。暑苦しい。

 

「離れろ、邪魔だ」

「いやん、そんな無下にしないで」

「腕が痺れる」

 

なんというか……元から無かった殺意が、さらに少なくなったように感じる。

 

これは困った。

クソサキュバスはこんなナリでも俺の命を狙う悪魔、すなわち最大の警戒を払うべき相手。今だって、押し付けられる胸に興奮を示し、組み伏せようとすれば俺の命は一瞬で掻き消えるであろう。

 

しかし殺意が無ければ常時の警戒を捻り出すのも一苦労だ。

この女は一流の暗殺者の才能がある。誇るといい。そして俺のそばに寄るな。怖い。

 

「調子はどう? あの呪いみたいな魔導具は外した?」

「問題は無い。そしてあれは呪いではない」

 

いつぞやの邪神の魔導具で俺がダウンして以来、この女はずっとこの調子だ。

2日と少しで復活したが、それからこの女はやけに俺の魔導具を奪い取ろうとしてくる。怪しい。

 

というかあの時よく俺は無事だったな。

 

完全に無防備だった俺を、なぜかこの女は襲わなかった。理由は分からない。誓約がなんかこう、いい感じに働いているのか? あるいは既に布石は打たれているのかもしれない。怖い。

それからは焦りすぎていたと自制し、慎重に行動するようにしているが、いよいよクソサキュバスの目的も分からなくなりつつある。未知は恐ろしいものだ。

 

「おっと、死ね」

 

クソサキュバスを押し退けて、現れた魔物をなます切り。

 

何を隠そう、ここはダンジョン内である。

なのに後衛のクソサキュバスは前衛の俺に密着してくる。死にたいのか? それとも殺したいのか? 恐らく守ることにも限度があることを理解していないのだろう。

 

「……バカが。下がっていろよ」

「あらまぁ、失礼ね。それに引き際は弁えているわよ」

 

ほらね、と言いながら放たれた魔法は、俺の顔面のすぐ横をすり抜けて飛んで行き、新たに現れた魔物を貫いた。

 

……なるほどな。

 

「危ねぇだろ。殺す気か?」

「いったぁ!? この私が誤射なんてする訳ないじゃない!!」

 

頭を抱えて涙目で喚いている。

が、悪魔という種族はこの程度ではまるでダメージを受けないことはとっくの昔に知っている。

 

俺も人間にしてはかなり強くなった方だが、コイツぐらい耐久力があると手加減の必要が無くて気が楽だ。最悪殺してしまってもそこら辺からひょっこり生えてくるという安心感もある。

 

人が死ぬのはもうたくさんだ。俺は絶対に死にたくないが、かといって誰かに死なれるのも目覚めが悪い。夢に出る。寝ないが。

 

「──死ねッ!!」

「あっぶなぁ!? 何するのよー!?」

 

突如現れた巨大な竜を、大振りな一太刀で両断する。

巻き込まれかけたサキュバスが抗議のパンチを入れてくるが、地味に痛い。

 

問題ないだろう、どうせ死んでも生き返るんだ。

 

「……そう考えると、相方が不死と言うのも悪くはないな」

「あら?」

 

うっかり死んでも、復活するから悩む心配はない。自分が生き残れば、すぐに会える。

何かの弾みで殺してしまっても、復活するからそこまで後悔する必要は無い。問題は当人の感情だが、そもそも人間の価値観に依らない悪魔が相手だから、痛む心は何もない。

 

気が楽だ。

 

「へー」

 

そう言うと、クソサキュバスは変な目で俺を見る。

何か言いたげな生暖かい目だ。気色悪い。

 

「昔のあなたなら自爆戦法を取らせられるから、とでも言いそうだったから」

 

丸くなったわね、などと言われたが、なるほど盲点だった。

 

「自爆攻撃か。アリだな」

「ちょっと、冗談だって!」

 

死なずの悪魔による自爆魔法を用いた攻撃。

何度でも何度でも繰り返すことが出来るそれは、確かに非常に強力だ。

 

そうやって俺が悩んでいると、クソサキュバスは()()()()と俺の思考を止めにかかる。

 

やめろ。俺の頭を抱えようとするな。蹴り飛ばすぞ。

 

「……フッ」

「鼻で笑った! どういう意味!?」

 

自爆。

確かに強いかもしれないが、実用はしないだろう。

 

死ぬのは、怖いことだ。

例え無限に思える命のストックがあろうと、それを無駄にするのは、よくない。

 

それに。

 

「あんな(ドラゴン)相手に、とても自爆が有効だとは思えんな」

「……き、効くわよ! たぶん! きっと!」

 

何回も繰り返せば!

 

そんな言葉を聞いていると、ますます使う気が無くなってくる。

 

というかこの女は自爆をしたいのかしたくないのか、どっちなんだ?

出会った当初は飄々としていた気がするが、今では見た目相応の、言ってしまえば人間の生娘みたいな言動をしやがることがある。

 

……まぁ、些事か。

 

 

──ガァァアァァァアアァァァッッッ!!!

 

 

びりびりと空気を震わせる強烈な咆哮。

強烈な殺意をいっぱいに湛えた龍は、まさしくこのダンジョンのガーディアン。

 

神の力に相応しい守護者だ。

 

「関係ない、殺す」

「相変わらずね」

 

俺が前。クソサキュバスが後ろ。

 

いつもの布陣で、いつものように。

 

 

「死ねッ!!」

「炎よ!」

 

いつものように。

 

「な、なにっ!?」

「うそっ硬すぎっ!」

 

……いつものように。

 

「クソがッ!!」

「アッツイ!!」

 

……いつもの、ように。

 

 

「…………おい、クソサキュバス」

「めちゃくちゃ強いわねコイツ」

 

 

いつものようには行かないようだ。

 

翼を片方と片目を潰したが、未だ健在。

というか余計に怒り狂って手が付けられない。怖い。

 

一度後退し、二人で策を練る。

 

「高位種族特有の魂に直接響く攻撃よ。バチくそに痛いわ」

 

若干焦げた羽からプスプスと煙を燻らせるクソサキュバスがボヤく。

魂が強い種族は防御無視の確定ダメージらしく、道理で掠っただけの一撃が痛いワケだ。

 

ただの人間の俺はもとより、このサキュバスも無限に命のストックがあるとはいえ本体はそれなりの強さでしかない。

 

「速攻でカタをつけろ、ってことか」

 

神の力のダンジョンだけに、神からの試練とでも言いたいのか?

 

舐めやがって……

 

 

単体で完成された種族、龍。

不老だとか、ご長寿だとか、もっとも神に近い種族だとか色々言われているのが腹が立って仕方がない。

 

何が高位種族だ。そう思うと今も俺を見下しているかのように思えてきた。許せん。

お前、そうお前だクソトカゲ。俺に羽根もがれた分際でよくこの俺を見下せたな。ぶち殺してやる。

 

 

──龍は超強い種族で、一説では不死の生物とも言われている。

しかしそれは間違いで、実際は寿命がめちゃくちゃ長く、それでいてめちゃくちゃ強いため天敵が存在せず、外的要因で死ぬことなどないため凡百な人間からそう思われているだけらしい。

 

クソサキュバスが言ってた。

 

 

ならば、めちゃくちゃ強い龍よりも強い超攻撃でぶった斬れば、殺せる。

 

……めちゃくちゃ業腹だが。

 

「おい」

「アレね」

 

ツーカーみたいになってるのも腹が立つ。

俺の思考を先読みするな、クソサキュバスめ。

 

 

最初の十三度の試行と、それ以来続く数年の長旅の結果、いつぞやの『誓約』について判明したことかいくつかある。

 

まず、前提条件として、クソサキュバスは強化魔法を使える。治療魔法も使える。というか支援系魔法の適性がやたら高い。お前は僧侶か?

そして、魂から造りが違う高位種族(悪魔)の魔法の効果は人間のそれと比べ物にならない。

 

結果、クソサキュバスが全力を出して俺に強化魔法を付与すると、人間()の体が出力に追いつけずに負傷する。

 

エルフと人間の混成パーティだとありがちな例らしい。なんでそんなこと知ってるんだ。

 

 

そして、どうもその負傷はクソサキュバスからの攻撃として扱われるらしく、俺に強化を盛ったクソサキュバスはその瞬間に爆発する。

 

つまり今まではクソサキュバスも全力で俺を強化していなかったワケだ。

しかし、それでは勝てない。手加減などと悠長なことはしていられない。

 

ならばどうする?

 

「契約破棄。この話は白紙だ」

「追放かしら? 追放かしら!?」

 

……そういえばこの女、魔界ではそこそこの家の出身とか言ってたな。

 

ともかく、これで誓約も制約も消えた。

誓約は双方の同意でのみ取り消せる。今がその時だ。

 

「いいわ、やっちゃって」

 

全身に力がみなぎる。

クソサキュバスの魔法は暖かく、力強い。

 

軋む全身が、俺の武器だ。

 

「よし、死ね」

 

 

 

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