『大変なことになったかもしれない』それが冷蔵庫を開いた明石の脳内で最初に浮かんだ言葉だった。
「……ねえ大淀。この冷蔵庫にあったペットボトル……」
「ああそれ、ちょうど走り込みしてる子達がいたから差し入れに出しましたよ」
「……そー……なん……だー……」
「……またなにかやったの……?」
顔をしかめた大淀の声掛けに、明石は冷蔵庫を開けたまま動くことができなかった。
「惚れぐすり~……?」
大淀が懐疑的な視線を隣を歩く明石に送る。大淀が差し入れたペットボトルの中には明石の作った惚れ薬が混入していたものが一本だけあったらしい。惚れ薬の効果は明石曰く、飲んでから10分後に初めてみた人を好きになるというものだ。薬混入が判明した時点で効果が出ている時間をとっくに過ぎていたので2人は惚れ薬を飲んだであろう人物をさがしていた。
「なんでそんなものを?」
「徹夜が続いてて……つい……面白がって……」
「なんで冷蔵庫に?」
「常温だと効果が無くなるから……それにすぐ取り出せば問題無いかなって……」
「すぐ取り出せてなかったように見えるけど?」
「力尽きて寝てた……」
「はあ……」
「ごめ〜ん……」
ため息を吐く大淀と申し訳なさそうに手を合わせる明石。明石の勢いだけの作品の暴走でトラブルになったことは過去にいくつか存在し、中には鎮守府の存亡を脅かしそうになったものまである。そのトラブルに毎回前線で対処したのが大淀なのだ。
「でも惚れ薬なんて色々と疑わしいというか……」
「まあ適当に作ったから本当に効果あるかどうかわからないけど、もし万が一があったらね……」
そんな会話をしつつ軽巡寮の廊下を曲がった先だった。
「…………」
「…………」
廊下の真ん中で仰向けに寝転ぶ阿賀野とそんな阿賀野に抱き着いている長良の姿だった。
「ねえ大淀あれって……」
「いやどうでしょう……あの2人は定期的に面白合体してますから……」
「定期的に面白合体してる!? なにそれ、それはそれでおかし……」
「阿賀野、好き」
2人の疑問に答えるかのように長良が声を発する。
「やっぱり……」
「いやでも長良さんって結構簡単に好きとか言わない?」
「阿賀野、大好き」
「…………」
「…………」
「阿賀野、愛してる」
抱きついたままピクリとも動かずに愛の言葉を囁く長良。そんな長良を阿賀野はゆっくりと優しく抱き返して、満足そうに目を閉じた。
「……早く見つかってよかった」
「……そうですね」
脳内に浮かぶ面倒ごとを一旦飲み込み、2人は一応前向きな言葉を発するのであった。