安易な薬に頼らない   作:カンキツf

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安易な薬に頼らない②

 

「と言うわけで、長良さんが明石の作った惚れ薬を飲んでこんなことになってしまったのでこれからどうするか考えたいと思います」

 

 鎮守府内に複数ある会議室の1つに明石と大淀、長良と阿賀野に彼女達の姉妹、そして走り込みに参加していた駆逐艦が集まっていた。

 

「大淀さん」

「はい夕雲さん」

「なにを言っているのかよくわかりません」

「私もわかりません」

 

 夕雲と身のない会話をしつつも大淀は手元のバインダーに意見として一応書き込んでいく。

 

「大淀」

「はい五十鈴さん」

「この会議の趣旨と目的は?」

「長良さんがもしこのままなら主に水雷戦隊、その中でも特に十戦隊の業務に支障が出るかと……。なので明石の解毒薬が完成するまでの対策をどうすべきかの意見を皆さんに頂きたくて……。あと問題無いと思いますが他にも飲んだ人がいればややこしいことになるので隔離ということで集まってもらっています」

 

 惚れ薬が解毒されるまでの長良自身の扱いと、長良が主に担当している艦隊業務の穴埋め、万が一他の人が薬を飲んでいた場合の混乱を避けるための隔離の3点を大淀が説明する。

 

「……なのでまず第一に今の長良さんをどうするかですが……意見ある人いますか?」

 

 大淀がそう言うと真っ先に阿賀野が手を上げ、全員の視線が彼女に集まる。迷いなきその行動に嫌な予感を感じつつも大淀が口を開く。

 

「……はい。では阿賀野さん」

「別になにもしなくていいじゃない、阿賀野はこのままでもオッケーよ?」

 

 満面の笑みで会議の趣旨を全否定する阿賀野に眉を顰める大淀だがとりあず意見としてホワイトボードに書き込んでいく。

 

「ええ……では他に意見のある……人……」

 

 大淀が言い切る前に彼女の視界にはビシッと音が出そうなほどに力強く、とても綺麗な挙手をする長波がいた。その姿勢には一種の美しさすら感じさせるほどだった。

 

「……長波さんの意見は?」

「阿賀野の意見は認められない。解毒薬が出来るまで隔離しとくべき」

「えー……とりあえず長波さんは反対と……解毒薬生成までの隔離を望むと……」

「違う。断固反対。今すぐ解毒してくれ」

「えー……反対ではなく断固反対と……早急の解毒を望むと……」

 

 長波の言葉を繰り返しつつ阿賀野のときと同様にホワイトボードに書き起こしていく。

 

「え〜、長波ちゃんは反対なの〜?」

 

 長良の頭をさすりつつ阿賀野が間延びした声を上げる。そんな阿賀野に長波は冷ややかな視線を向ける。

 

「当然だろ。こんな洗脳みたいなこと反対に決まってる。今すぐ正気に戻さないと」

「え〜……そこまで悪く言わなくたって……」

 

 長波の物言いが気に入らないのか不満気に口を尖らせる阿賀野。そんな阿賀野に長波は冷ややかな視線を向けているのだが、気づいているのか、気づいていないのか、その間も阿賀野の両手は長良を撫で続けていた。阿賀野が長良の頭をさすると、長良は嬉しそうに目を細める。

 

「阿賀野〜♡」

「長良さんおっきいわんちゃんみたいで可愛い〜!♡」

 

 阿賀野の言う通り大型犬のようにじゃれついてくる長良に、これまた大型犬とじゃれつくように長良の頬を撫でる阿賀野に周囲の呆れた視線が集まる。彼女達の言動に気を取られ、長波の歯軋りの音に誰も気づかなかった。

 

「阿賀野。ウチの姉を犬扱いしないでくれる? 後、長良も犬みたいなことしないで」

 

 一応長良の異変ということで姉妹を代表して招集された五十鈴が2人に苦言を呈する。

 

「犬!? 呼んだか五十鈴!」

「呼んでない」

 

 五十鈴の言葉に反応した、この場に呼ばれていない筈の初月が顔を出すが、五十鈴の一言にあっさりと切り捨てられる。

 

「残念だったにゃ〜初月〜」

「あんたも呼んでない」

 

 そして、これまたこの場に呼ばれていない筈の多摩が意気揚々と登場するが、またも五十鈴が一言で切り捨ててしまう。

 

「なんで来たのよ……あんた達は関係ないでしょ」

「いや、僕は十戦隊に所属してたことがあるから関係あるぞ」

「多摩も長良と同じ十一水戦で旗艦をやってたから関係あるにゃ」

 

 一応の理由付けをしてくる多摩と初月に閉口する五十鈴。その様子に得意げな初月と多摩が口を開く。

 

「で、なんの話してたんだ?」

「なんでなんの話か分かんないのよ!」

「なんか長良がどうこう……って部分しか聞こえてこなかったにゃ」

「はあ……」

 

 よく理解しないまま入ってきた初月と多摩にため息をついて五十鈴が説明を始めた。

 

「……とりあえず、話を進めましょうか……。他に意見のある人は?」

 

 話をしている五十鈴達を尻目に、大淀が会議を続けるためそう発言すると、浦風と夕雲がほぼ同時に手を挙げる。

 

「では浦風さん、夕雲さん。意見をどうぞ」

「……まあ、どちらかと言えばウチも反対じゃ」

「私も反対ですね……」

 

 大淀に促された2人が意見を言う。

 

「え〜なんで〜!」

 

 夕雲と浦風の意見に阿賀野が不満気に口を尖らせる。そんな阿賀野に微妙な表情となりつつも浦風と夕雲はそれぞれ口を開く。

 

「……ウチはそがいなんで阿賀野さんが喜んでいる姿を見るのが悲しいけえ……」

「私もです。正直見てられません……」

「え……」

 

 予想外に哀れまれ、目を丸くする阿賀野。

 

「薬でええようにしてお終いなんてダメや思う」

「まるで洗脳みたいじゃないですか。怖いです」

「え、え……」

 

 2人の意見に困惑した声を漏らす阿賀野に夕雲と浦風は畳みかけていく。

 

「そんなんで満足なんて悲しゅうないんか阿賀野さん!」

「そうですよ! 虚しくならないんですか阿賀野さん!」

「いや、え……」

 

 詰め寄ってくる2人の圧に思わず身体を仰け反らせる阿賀野。何故かそうだそうだと言わんばかりに拳を突き上げる長波。しどろもどろになっていると阿賀野はハッと何かに気づき咄嗟に口を開く。

 

「阿賀野が飲ませたんじゃないからね!? 長良さんが偶然飲んじゃっただけだからね!?」

「あ、なんじゃそうじゃったんか」

「びっくりしましたよ〜」

「もう!」

 

 阿賀野の言葉に詰め寄っていた勢いがパッと消え、笑顔を浮かべる夕雲と浦風。不満気に唇を尖らせる阿賀野。会話に一区切りつき、互いにクールダウンが始まると、阿賀野がまたも何かに気づいた。

 

「見てたでしょ!? 長良さんが飲んでるところ見てたでしょ2人とも!? 大淀さんの話も聞いてたでしょ!?」

「いや〜すまん阿賀野さん……」

「面白くてつい……」

「もお〜〜〜!」

 

 からかっていたことを謝罪する浦風と夕雲に不満たっぷりの声を吐き出す阿賀野。しかし、2人もただからかうだけの為に手を上げたのではないようだ。改めて意見を述べる為、浦風と夕雲が喋り始める。

 

「うちは別に長良さんと阿賀野さんがくっつくこと自体はどうだってええんじゃが」

「どうだってよくねえよ」

 

 聞き捨てならないとばかりに話途中の浦風へツッコミを入れる長波。

 

「そうですね、私も別に長良さんと阿賀野さんがくっつくだけなら一向に構いませんが」

「構わなくねえよ」

 

 夕雲にも同様のツッコミを入れるが2人は意に介さず、言葉を続けていく。

 

「……仮に、阿賀野さんの言う通り何もせずにしたとして、長良さんいつもの生活送れるんですか?」

「え?」

 

 夕雲の言葉が意外だったのか、阿賀野が声を漏らす。

 

「今の長良さんにいつも通りの出撃とか訓練とか遠征とか出来るんか? なんか怪しい気がするんじゃが……」

「え〜! 考え過ぎだって〜! 絶対そんなことないから〜!」

 

 続く浦風に阿賀野は笑い飛ばすようにして手を振るが、浦風と夕雲は怪訝な表情を崩さない。

 

「……長良さんさっきから阿賀野さんにしか反応しませんよね……」

「ほんでその反応の仕方も同じようなのばっかりじゃけぇ、洗脳みたいじゃ」

 

 自分のことだと言うのに、会議が始まってから今も変わらず大型犬のように阿賀野に擦り寄って甘える長良に顔をしかめる夕雲と浦風だが、阿賀野は2人よりも深刻に考えていないのか、先程と変わらないテンションで不服を伝える。

 

「大丈夫だって〜! 考え過ぎだよ二人とも〜! 明石さんのヘンテコな発明で大騒ぎになったことは何度かあったけど、2人が言うような洗脳みたいなのは無かったじゃん! だから今回も大丈夫だって! ね! そうですよね長良さん!」

「阿賀野〜♡」

「長良さん可愛い〜♡ ……大丈夫ですよね?」

「阿賀野好き〜♡」

「も〜♡ 長良さんったら〜♡ ……あの、大丈夫ですよね?」

「阿賀野大好き〜♡」

「長良さ〜ん♡ ……大丈夫だって!」

「駄目ですね。これは」

「駄目じゃね。これは」

「なんで〜」

 

 自分達の意見が間違いではなかったことを確信する浦風と夕雲と2人の反応に不満気な声を上げる阿賀野。

 

「よし。反対多数で決まりだな。阿賀野の意見は却下」

「ちょっと! まだ全然意見でてないじゃん! 勝手に決めないでよ長波ちゃん!」

「勝手に決めてない。ちゃんと夕雲と浦風の意見を聞いた上で言ってるんだ」

「その2人だけじゃないでしょ〜! ここにいるのは! 五十鈴さんはどうなんですか!?」

 

 助けを求めるように阿賀野が五十鈴の方へ顔を向ける。

 

「五十鈴も長波の意見に同意するわ。長良居てもらわないと困ることって多いのよ」

「えーーーー!!!!」

 

 極めて冷静な口調で言い放つ五十鈴に阿賀野は声を上げる。『意外と自分の意見を取ってくれたりして』という根拠の無い淡い希望を打ち砕かれたからだ。

 

「多摩も右に同じだにゃ。話は殆ど聞いてなかったけどとりあえずそうしとくにゃ」

「僕もだ。正直今どういう話になっているかよく分かってないけど五十鈴と同じってことにしておくぞ」

「えーーーーー!!!!!」

 

 極めて浅い理由で五十鈴を支持する多摩と初月に阿賀野は声を上げる。『そんな適当な理由で乗っかってこないでよ!』という非難の意味を込めて。

 

「お、大淀さんは!?」

「私は意見を纏める役割なので、1つの意見を支持したりはしません」

「くっ……!」

 

 苦し紛れに話を振った大淀にもあっさりかわされてしまい、手詰まりになってしまう阿賀野を見て体勢は決まったと勝ちを確信したように笑う長波。そんな彼女の態度に歯軋りをする阿賀野。

 

「……他に意見のある人いますか?」

 

 阿賀野と長波のやり取りを横目に大淀が呼びかける。すると、今まで発言をしていなかった矢矧が手を挙げているのが視界に映る。

 

「矢矧さん。どうぞ」

「……私も、今の長良さんなんか変だしいつも通り艦隊業務が出来るように見えない。明石さんに解毒薬作ってもらって、それができるまでの間は長良さんに少し隔離されてもらって、十戦隊の業務は私と阿賀野姉が代役をするっていうのがいいと思うわ」

「ちょっと矢矧もなの〜!」

 

 矢矧の意見に不満気な阿賀野。そんな阿賀野に矢矧はチラリと目を向けるとカチリと目線がぶつかり合うと矢矧は数秒、阿賀野を見つめる。彼女のその行為に疑問符を浮かべる阿賀野だが、矢矧は気にせず話を続ける。

 

「頭ではそっちのほうが良いと分かってるけど……心情的には阿賀野姉の意見を支持したいのよ……」

「矢矧……!」

 

 矢矧のその言葉に目を輝かせる阿賀野とは対照的に、多摩と初月以外の全員が目を見開く。

 

「……どうしてそう思うわけ?」

 

 矢矧へ五十鈴が問いかけると、少し考えるような仕草をして口を開く。

 

「……もし長良さんが阿賀野姉といてくれるならお世話のあれこれが楽になったり阿賀野姉のいろいろが改善するチャンスかもと……ふと思ってしまいまして……」

「え?」

「ああ、そういうことね。気持ちは分かるけどウチの姉は矯正器具じゃないわよ」

「え、え?」

 

 自分を挟んだ頭越しで行われる会話に困惑の声を上げる阿賀野。

 

「すいません……」

「いいわよ。大変ね」

 

 そして何故か労う形で着地した2人の会話と雰囲気に阿賀野はゆっくりと話し始める。

 

「……え、つまり矢矧は結局どっちの立場なの?」

「浦風達と同意見よ」

「あーーー!!!」

 

 結局自分と別の立場だった矢矧に叫ぶ阿賀野。

 

「ねえ長良さん!」

「ん? どうしたの〜阿賀野〜」

「長良さんはどうなんですか!? どっちの意見なんですか!?」

「阿賀野と一緒にいたいよ〜」

「長良さーん!!!」

 

 長良の一言に歓喜する阿賀野。そんな彼女達に向けられる周囲の視線は冷ややかだった。

 

「そりゃ長良さんはそう言うじゃろ」

「そういう薬を飲んでる訳ですからね」

 

 冷めた口調で言い放つ浦風と夕雲をキッと睨みつける阿賀野。

 

「もー! なんなのみんな! 私の味方が長良さんしかいないー!」

 

 そう叫んで長良のことを抱きしめる阿賀野と気持ちよさそうに目を細めてすりすりと頬ずりをする長良。そんな2人に微妙な視線を向ける者と興味のない視線を向けるものと、憎々しい視線を向けるものが一名。

 

「……そういうわけなんで阿賀野さん。長良さんのことを離してください」

「えーやだー!」

 

 大淀の要求に阿賀野は拒絶の意思を突きつけ長良を抱く腕の力をより強める。長良の口から「ぐえ」という音が出る。

 

「阿賀野姉……長良さんはぬいぐるみじゃないから……」

 

 矢矧が見かねて声を掛けるが阿賀野には届いていないのか、それとも届いた上でわざとやっているのか、長良を締める力を緩めない。まるで子供のように駄々をこねる阿賀野に呆れた視線が集中する。

 すると、コンコンとノック音がしたかと思うとドアが開き、今回の騒動の発端である明石が顔をのぞかせる。

 

「明石さん。解毒剤できたんですか?」

 

 夕雲のその質問に答えることなく部屋へ入る明石。彼女のその行動に嫌な予感を感じ取ったのか、数人が顔をしかめて明石の言葉を待つ。

 

「作り方分かりません」

 

 開口一番そう言い放つ明石。次の瞬間には大淀と長波が音を立てて拳を固めていた。

 

「あああ! 待って待って待ってください話を聞いて!」

 

 慌てて両手をブンブンと振る明石。そんな彼女に冷ややかな視線を送りつつも拳を下ろす大淀と長波。2人の圧に気圧されつつも明石は一旦咳払いを挟んで口を開く。

 

「え~とですね……私も色々調べてたんですよ……まず惚れ薬をなにで作ったのか洗い出しました……」

「それで?」

 

 明石の言葉に大淀が冷たく聞き返す。明石は話を続ける。

 

「するとですね……元となった薬品とそれの減り具合を鑑みた結果。かなりの粗悪品ということが分かりました……」

「で?」

 

 説明する明石に長波が冷たく聞き返す。明石は話を続ける。

 

「え~……すっごく単刀直入に言うとですね……」

 

 明石の次の言葉をその場にいた全員待つ。

 

「そろそろ効果切れます……それ……」

 

 明石がそう言った瞬間、幸せそうに閉じられていた長良の目がパチリと見開かれる。

 

「なにしてんの阿賀野……」

 

 阿賀野に抱きかかえられていた長良がそう言って阿賀野と密着していた身体を離す。

 

「……え? なにここ? なんの集まり? なんで長良ここにいるの?」

 

 周囲を見渡し、湧き上がる疑問を次々と口にする長良。その様子に安堵する長波、呆れたように息を吐く五十鈴達に、既に興味をなくしている多摩と初月、そして面白くなさそうに口を尖らせる阿賀野、悲喜こもごもの様相が展開される中、当の長良だけは呆けた顔をしていた。

 

「……え、惚れ薬?」

「はい……それを飲んで長良さん阿賀野さんにベッタリになってましたよ」

「全然覚えてない……」

 

 大淀から説明を受けるが、記憶がないのか困惑した声を上げる長良。

 

「『阿賀野~』って言ってずっと甘えてたわ。それ以外ほとんど喋ってなかったしね」

「へ、へえ~……」

「なんか怖かったぞ洗脳みたいで。同じことしかやらないし同じことしか言わなかったからな」

「そ……そうなんだ……」

 

 五十鈴と長波の言葉に、信じられないといった感じで言葉を漏らす長良。

 

「しかし……記憶も消えるなんてますます危ない薬感が増しとらんか?」

「確かに……副作用とか大丈夫なんですかね? 長良さん。なんか違和感とかあったりしません? どこか痛いとか違和感があるとか……」

「いや……特にはないけど……」

 

 心配する浦風と夕雲に答える長良。ふと気が付くと阿賀野がふてくされたような表情をしているのが目に入る。

 

「……どうしたの阿賀野?」

「なんでもないです……」

 

 長良の質問に顔を背けてそっけない態度を取る阿賀野。そんな阿賀野の態度に長良は疑問符を浮かべる。

 

「阿賀野姉、長良さんに抱き着かれて満更でもなかったみたいですよ。一人だけ長良さんの解毒に反対してましたし……」

「……そうなの?」

 

 矢矧の一言に、長良は阿賀野の方へ再び視線を向ける。阿賀野は顔を背けたまま動かない。

 

「阿賀野……」

 

 そんな阿賀野を見て長良は声を漏らすとフッと笑って阿賀野の肩に手を置く。

 

「別にこんなの使わなくてもいくらでも構ってあげてるじゃん、走り込みで」

 

 長良のその一言に、部屋にいる全員が微妙な表情になる。全員のその反応に、長良は疑問符を浮かべていた。こうして、明石の惚れ薬騒動は呆気なく幕を閉じた。

 

 

 

 (……上手く誤魔化せたよね?)

 

 解散後、頬に朱を差して長良は廊下を1人歩いていた。薬が効いているときの阿賀野の行動や感情に思いを馳せたまま。

 

 

 

『大変なことになったかもしれない』それが冷蔵庫を開いた夕張の脳内で最初に浮かんだ言葉だっだ。

 

「……大淀さん。この冷蔵庫にあったペットボトル……」

「ああそれ、ちょうど走り込みしてる子達がいたから差し入れに出しましたよ」

「……そー……なん……ですねー……」

「……まさか……!」

 

 彼女の煮え切らない態度に嫌な予感がした大淀が振り返ると、夕張は申し訳なさそうに目を閉じた。

 

「もう! 夕張さんも変なもの作らないでください! 昨日の今日ですよ! なんでそんなもの作りたがるんですか!」

「ごめんなさい……」

 

 怒りを露わにしてペコペコと頭を下げる夕張と一緒に軽巡寮の廊下を歩く大淀。昨日の明石と同じ理由で惚れ薬を作り、昨日の明石と同じ理由で提供されてしまったようだ。

 

「また飲んだ人を探さないといけないじゃないですか! 前回は不幸中の幸いですぐ見つかったからよかったものを……」

 

 そんな会話をしつつ廊下を曲がった先だった。

 

「…………」

「…………」

 

 廊下の真ん中で仰向けに寝転ぶ長波と長波さんに抱き着いている長良の姿があった。

 

「長波ちゃん。好き」

 

 長波さんに愛の言葉を囁く長良さん。

 

「長波ちゃん。大好き」

 

 抱きついたままピクリとも動かずに続けて愛の言葉を囁く長良さん。そんな長良さんを長波さんはゆっくりと優しく抱き返して、満足そうに目を閉じた。

 

「はあ〜……」

 

 そんな光景に、大淀は頭を抱えるのだった。

 

 

 

「と、いうわけで。惚れ薬を飲んだ長良さんが長波さんに惚れてしまったのでこれからどうするか考えたいと思います」

 

 そして、昨日の再現をするように会議室へメンバーが集められる。

 

「別に良いじゃんこのままで。あたしは全然構わないぜ」

「そんなの駄目に決まってるでしょ!!!」

 

 現状維持を提案する長波と、強烈に反対する阿賀野。2人の攻防は薬の効力が切れるまで続いた。

 

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