仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ 千年超越大戦 ツルギ×マイヤ 作:大ちゃんネオ
ある月夜の晩。
人の街を破壊し尽くした瓦礫の城で、その女は琵琶の音色をかき鳴らしていた。
妖しく、美しい音色。
『やはりお前の琵琶は素晴らしい』
琵琶の音色に聞き入っていた異形が言った。
銀の屈強な肉体を持ち、黒き蛇をその身に宿すその異形の名は化神バケゲンブ。
『バケゲンブ様……。ありがたきお言葉でございます……』
『バケマムシ。人の世は諸行無常と言うそうだ。意味が分かるか?』
『どれだけ強大な力を持つ者も、いつかは衰え消えていく……』
『そうだ。教養のある女はいい女だ』
『いえ……。私には、もったいないお言葉……』
『そんなことはない。我は嘘は言わぬ。────バケマムシよ、我に諸行無常という言葉はない。未来永劫、我は我。いずれこの陸奥国。いや、日ノ本を治めたとしても、それは変わらない。我の力は永遠のものとして、君臨し続けるのだ』
バケゲンブは盃の酒を飲み干す。
己が野望の火を更に滾らせるために。
『バケゲンブ様には、それが可能でございます……。いずれ、バケゲンブ様が永遠を手になされましたら、その時はこのバケマムシを、どうかお側に置いてくださいませ……』
『……ハッハッハッ! よもや、お前にそれを言わせてしまうとは! 一生の不覚よ!』
バケゲンブは盃に酒を乱暴に注ぐと、これまた乱暴に酒を飲み干した。
そして、バケゲンブはバケマムシを抱き寄せる。
バケゲンブは月を見上げ、想いを告げた。
『バケマムシよ、我と永遠に在れ』
『……ッ! バケゲンブ様……! 誠に、嬉しゅうお言葉でございます……! このバケマムシ、貴方様のお側に、末永く……』
ここから、バケゲンブの躍進が始まった。
凄まじい勢いで力をつけ、勢力を拡大したバケゲンブは陸奥国の半分を穢れで満たすほどとなり、堅獄鬼将バケゲンブとして人からも化神からも恐れられる存在となるのであった。
しかし、諸行無常という言葉はバケゲンブも例外ではなかった。
炎の中、バケゲンブと蝶の戦姫が対峙する。
炎はバケゲンブを捕らえて離さない。
『おのれおのれおのれ!!!! 舞夜よぉぉぉ!!!!!』
「化神バケゲンブ! この美羽が封印する! ハアッ!」
槍の一突きがバケゲンブの胸を穿つ。
バケゲンブの身体から穢れが吹き出て、槍の刃へと吸い込まれていく。
『美羽ぇぇ!!!! 我は必ずや蘇る! 必ず! 永遠をこの手にぃぃぃ!!!!!!』
バケゲンブが刃へと封印され、炎の中に一人佇む戦姫。その名は御伽装士舞夜。
『バケゲンブ様ぁ!!! おのれぇ!!!!』
バケマムシが炎の中へと飛び込み、マイヤへと刀を振るう。
だが、バケマムシは槍の一振りで倒されるのであった。
『あ、あぁ……バケゲンブ、様……。私も、お側に……』
消え行くバケマムシ。
だが、一欠片の穢れがバケゲンブを封印した槍の刃へと取り憑き消滅するのであった。
そして千年後。
封印が解かれ、復活したバケゲンブは現代のマイヤ、夜舞薫と歴代の英霊、バケガラスの手によって完全に討ち取られる。
しかし、この時に復活したのはバケゲンブのみではなかった……。
その日は雨だった。
大粒の雨が、大きな戦いの跡を濡らし続ける。
大きく抉れた大地は規制線が張られているが、その中に一人の女の影があった。
花魁のような着物姿の女が。
悲しい……悲しい……。
────どうしてですか。
悲しみは雨となって降り続ける。
この雨は私の涙。
降れ、降れ、降れ。
私の想いを受け取れ。
「許さない、マイヤ……!」
バケゲンブ様を封印したどころか、殺したマイヤを許してはおけない。
許さない、許さない、許さない。
私の悲しみを、恨みを受け取れ。
「ちょっと! そこは立ち入り禁止だぞ!」
雨を凌ぐ服を着た人間。
邪魔だ。
腕を伸ばし、人間の首に蛇が噛み付く。
「うっ、うあぁぁぁ……」
人間は口から泡を吐いて倒れた。
我が猛毒は人間など一瞬で死に至らしめる。
「人間風情が……」
構っている暇はない。
今はただ、復讐だ。
復讐に生きる。
復讐を果たし、そして復活させるのだ。
「
海辺に佇む洋館は、最近主を失くし朽ちていく一方であった。そこに住むものがいなくなると、家というものは途端にその寿命を全うしようとする。
「しけちまったな」
主のいなくなった洋館に一人の来客がいた。
その巨漢の名はアロンダイト。
数多の世界を襲撃する魔人教団。その幹部たる死奏剣の一人。
彼はこの洋館の主と友であった。
その友と二つの世界を恐怖に陥れたが、彼等の計画は破綻し友は死んだ。
仮面ライダーによって。
「誰だか知らないが、何の用だ?」
アロンダイトが誰かに話しかける。
すると、部屋のありとあらゆる隙間から蛇が現れ、蛇は一ヶ所に集まると人の身体を成す。
だが、それは人ではなく化神バケマムシ。
「お初にお目にかかります。我が名はバケマムシ。感傷に浸っているところ申し訳ございません……」
「そんなんじゃねえよ。酒を漁りに来ただけだ。ここにはいい酒が眠ってるが、もうそれを呑む奴はいねえからな。もったいないだろ?」
「そういうことにしておきましょう……」
「んで、何の用だ。化神さん」
「バケゲンブ様を倒した御伽装士への復讐を手助けしていただきたいのです」
バケゲンブ。
アロンダイトはその名を友、バケヒエンから聞いたことがあった。
古の化神。
この国の北の大地を蝕んだ穢れ。
御伽装士により封印されたと聞いていたが、この女は倒されたと言ったことがアロンダイトは気になった。
「忌々しきマイヤの一族……! 現代のマイヤがバケゲンブ様を殺したのだ!」
「ああ、ひとまず落ち着いてくれよ。倒したってことはバケゲンブの封印は一度解かれたんだな?」
「バケゲンブ様は軍勢を率いて再び現世に君臨なされた……。なのに私はバケゲンブ様のお力になれず……。ゆえに誓いました。復讐を!」
「なるほどねぇ……」
アロンダイトは正直言って、この話に乗り気ではなかった。
女の情念から来る復讐の末路がどういったものになるかをおおよそ理解していたからだ。
それに、魔人教団が絡むメリットや理由も今のところない。
アロンダイトの個人的見解としては、断るつもりだ。
バケマムシの力もアロンダイトには及ばない。断ったことで逆上したバケマムシに襲いかかられても問題なく対処出来る。油断などではない、絶対的な力の差がある。
だからこそバケマムシも自分に話を持ちかけたのだろうがと全てに合点がいった。
「悪いが……」
断る。
そう言おうとした瞬間であった。
魔人教団の首魁ネメシスの声がアロンダイトの脳内に響いた。
バケマムシを助力せよと。
「断るのですか」
バケマムシが睨み付ける。蛇の瞳で。
「そのつもりだったが、気が変わった。魔人教団はお前さんに協力する」
「そうですか。感謝いたします。……ところで、貴方達は世界を移動出来るのだとか」
「ああ。あらゆる世界、どんな世界も行き放題よ!」
「では、時はどうでしょう?」
時。
その単語にバケマムシの思惑があるとアロンダイトは感じ取った。
「何を考えている」
「マイヤの一族の消滅。それだけでございます」
蛇は笑う。
己が野望、これならば確実にあの一族を消し去れると確信して。
復讐に穢れた毒牙が、牙を剥く────。
魔人教団。
世界を越えて襲来する、名のとおり魔人達の集団。
そんな脅威と対抗するために戦っている。(他にもモンスターとか別の世界のこととかもあるけど)
学校が休みの今日、僕達は集まる。
遊びに行くのではない。
もし魔人教団が現れたらすぐに対処出来るように仲間で集まっておいた方がいいということで、それぞれの家から大体同じくらいの距離にある公園に集合の予定。
10時集合で現在9時45分。
時間は余裕あり。
『おはようございま~す』
スマホで時間だけ確認してスリープにすると、暗転した画面に眠そうなキョウカさんの顔が。
ビデオ通話してるみたいだ。
「キョウカさん、おはよう。眠そうだね」
『夜型なので朝に弱くて……ふわぁ……』
夜型か。だからライダーバトルは夜が多い……のか?
『目覚めのために燐くんにクイズです』
「唐突」
『問題。今日の私の朝ごはんはなんでしょう?』
目覚めのためのクイズって、僕が答えるのか。
普通は頭を働かせて起こすためにキョウカさんの方が解答者になるべきではなかろうか。
まあいいや。
え、キョウカさん朝ごはん食べるの?
いや一応は人なんだから食べるのだろう見たことないけど。
ミラーワールドにあるもの……。
いや待てよ。
「ヒント欲しいな」
『ヒントですか? 仕方ないですね~。ヒントは……えーっと、その……』
……考えてないのか。
というか、出せないのか。
「答えは何も食べてない」
『正解です! 記念にこちらをプレゼント~』
スマホの画面から一枚のカードが出てきて手で掴んだ。
赤黒い渦を巻く絵柄。
カードの名前は……。
「SEAL……。封印のカードって、これ意味ないよ僕には」
封印のカードは特殊なカードで、持っているだけで効果を発揮するカードだ。
文字通り、モンスターを封印することが出来る。
あとはモンスターから身を守る、お守りのような効果がある。
だが僕は仮面ライダー。
このカードを持っていても意味がないのだ。
『いま渡せるものがそれだけだったんです』
「いらないから押し付けたんじゃないの」
追及するとキョウカさんは「二度寝します~!」といってスマホの画面から消えた。
まったくもうと呆れると同時に集合場所の公園に着いてしまった。
いつも集まる東屋には既に誰かいるようだ。
あれは、美也さんだな。
「おはよう美也さん。早いね」
「あ、おはよう燐くん! へへ~一番乗りだよ!」
ドヤァと胸を張る美也さん。心なしか髪のお団子もドヤってる気がする。
感情と連動している……?
「射澄さんはそろそろ着くって」
「そっか。美玲先輩も10時には着くってさっき連絡あったよ」
「みんな時間通りに集まれてヨシだね!」
「あはは。僕達は早すぎたぐらいだけどね」
美也さんとテーブルを挟み向かい合い、美玲先輩と射澄さんが来るまで雑談。
同じ学校で一年生同士。
共通の話題は多く、話すのに困らない。
美也さんも明るくてお喋り好きな性格だし楽しく話せるのが個人的にも救われるというかなんというか。
こう……僕の世界のライダー達は大体話が通じないから。
ムゲンさんは独特なこと言ったりはあるけど常識あるしジョーク挟んで話すから面白いし、恵理也さん……はちょっとギリギリアウトなセーフみたいな感じ。
とりあえず他の世界のライダーとはそれなりに話せるのに僕の世界のライダーときたらみたいな感じなので、話が通じるっていいなとか最近思ってる。
「ちょっと君達~!!!!!!」
雑談の最中、そんな声が響いた。
僕らとは関係なくあってくれと願ったけど駄目だった。
聞き覚えのある声過ぎた。
「ね、ねえ燐くん……」
「知らんぷりでやりすご……」
「バ ト ル !」
駄目だった。
遅すぎた。
声が聞こえた時点でさっさと逃げればよかった。
いや、声が聞こえた時点でもう逃げられない距離だったのだろう。
「あの、おはようございます喜多村さ……」
「バトル!!!」
喜多村遊。
僕らと同じ聖山高校に通う二年生の先輩。
喧嘩ばっかりしてる不良として有名。
そしてそんな人がライダーバトルに関わらないわけがなかった。
それにしても、いよいよバトルのことしか考えられない頭になってしまったか。
前までもそうだったかもしれないけど、以前は言語機能はしっかり働いていたから本当に来るところまで来てしまったんだなといった感が強い。
「……はっ! ここはどこ! 私は喜多村遊! それが分かればとりあえずオッケー! そしてここにいるのは仮面ライダー。つまりバトル。というわけでお姉さんとバトルしようよ後輩達!」
「やりません」
「やりません」
「先輩の命令は絶対だぞ! 体育会系!」
「僕は文化部なので……。というわけで美也さん頼んだ。剣道やってたでしょ」
「ええっ!? それは中学までだって! 今は帰宅部だし!」
美也さんに押し付けようとしたけど駄目だった。
しゃーない。
「お願い! バトルして! あ、あれ! お金、お金払うからお願い!」
「お金!?」
「それはまずいですって! なんか変な風に見られちゃいますって!」
「お願いだからライダーバトルさせてよぉぉぉ。ほんと、あの、月額制で、そっちの言い値でいいから。ライダーバトルサブスクみたいな感じでさ。一番高いプランで加入するから! アンリミテッドみたいな!」
「そんなやばいサブスクありませんから! そんなのにお金払うぐらいなら動画配信サービスとかに加入してください! お家で大人しく見ててくださいよそれで!」
いやぁぁぁと泣き崩れる喜多村さん。
ほんと、どうしたんだこの人は……。
「ううっ。ライダーバトル禁止されてからなんか調子出ないんだよぉ。モンスターとかメタロー? 相手はあんまり楽しくないからさぁ。お願い! 一回だけ! 殺しもしないからさ! ね?」
魔人教団の襲来によってライダーバトルは禁止され、今はメタローを倒すことが最優先となっている。
キョウカさん……。アリスもそう宣言したのでライダーバトルは最近は起こっていない。
そのせいでこの人は不調らしい。
「……どうする燐くん?」
「殺しもしないって絶対信用ならないからね。絶対殺る気になるからこの人」
「大丈夫! 燐くん相手なら殺すつもりでかかってもなかなか殺せないから!」
「ほらー」
どうすればこんな戦うことが生き甲斐みたいな人が生まれるんだろう。
絶対に生まれる時代間違えてるって。
「ふんだ。こうなったら拗ねるから私。戦ってくれない後輩君達が悪いんだぞ~」
「あなたが戦わないことが社会的正義に繋がると思うので喜んで僕達は悪になりますよ~。必要悪です」
「なんか燐くん私に当たり強くない? 前の可愛い感じはどこに行ったんだ!」
「話が通じない人には当たり強くなって当然です」
「ま、まあまあ燐くんもムキにならないで。あ~でもなんでもいいから喜多村さんの欲求を叶えてくれることないかな~」
『くくくっ! この世界、今日こそ落とすぞ!』
「……美也さん」
「いや私のせいじゃないからね!?」
世界最速を記録したんじゃないかというレベルのフラグ回収。
メタローの集団だ。
カニっぽいのと、犬っぽいのと、魚っぽい奴等。
「ほら喜多村さん。戦えますよ」
「えーライダーじゃないの~」
「喜多村さん」
「燐くんおっかないからやる気でた! というわけで変身!」
「変身っ!」
「変身!」
三人同時に変身し、並び立つ。
三対三。イーブンだ。
『我が名はクラブメタロー!』
『ドッグメタロー!』
『バルブメタロー!』
「おーおー元気だねぇ。私は仮面ライダーレイダー! いっくよ~!!!」
「仮面ライダーグリム!」
「……」
「あれ、燐くんは名乗らないの?」
「……やらないよ」
「ちょっとー! 恥ずかしいでしょ!」
メタローに向かい駆け出すと美也さんがそんなことを言いながら追いかけてきた。
僕は魚っぽい、バルブメタローと名乗ったやつを相手に決めた。
……バルブって、なんだ?
『来いッ!』
「鯉?」
あ、言われてみれば鯉っぽい。
ヒゲあるし。
……刺身にしてやる。
バルブメタローが跳び跳ね、襲いかかる。
回し蹴りでそれを迎撃。
撃墜したバルブメタローの背中をスラッシュバイザーで斬りつけ、蹴り飛ばす。
ゴロゴロと転がったバルブメタローのところへ、レイダーに投げ飛ばされたドッグメタローが重なる。更に、グリムの契約モンスターであるワニ型モンスターのグランゲーターの尻尾に弾かれたクラブメタローが重なって三段重に。
そこへ、矢が飛来する。
青い炎を纏った矢。
「美玲先輩!」
遠くに見える二種の青。
美玲先輩が変身する仮面ライダーアイズと、射澄さんが変身する仮面ライダーヴァールだ。
『くう……撤退するぞ!』
クラブメタローが指示を飛ばす。
させるかと駆けるが、メタローが出す時空を越える空間の歪みが現れ……。
「で、でかくないか……?」
これまでのメタローのものとは違う、巨大なゲート。
これは一体……。
『む!? なんだこれは!?』
巨大なゲートにメタローも驚愕していた。
どういうことだ?
奴等と把握してないのか?
「ちょっと!? 吸い込まれてく!?」
「こ、これはやばいよ!」
「くっ!」
スラッシュバイザーを地面に突き刺し、耐える。
だが駄目だ、吸い込む力は強いし距離が近すぎた。
「うわぁぁぁぁ!!!!!!」
僕、美也さん、喜多村さんの三人はゲートに吸い込まれていく。
しまった……。
「燐!」
「お団子くん!」
美玲先輩と射澄さんの声が最後に聞こえた声だった。
くそ、絶対に戻って……。
燐達はメタローと共に消えてしまった。
「アリス!」
『ふわぁ……。なんですかぁ?』
「なに寝惚けてるの! 燐達を追いかけなさい!」
『は、はいぃ!』
暢気に欠伸なんかしながら出てきて……。
とにかく早く燐達を追わなければ今度はどこに行ってしまうか分からない。
なんとか追跡して連れ戻さないと……。
「落ち着きたまえ美玲。まったく、君はクールなようで激情家なんだから」
「落ち着いていられるわけ……!」
『見つけました! 行きますよ!』
早い。なんて思った頃には既にどこかへと転送されていた。
鏡の空間を抜けて、辿り着いたのは────。
「……田舎ね」
「田舎だねぇ」
見渡す山、山、山。
どこか弛緩した空気。
田舎のバス停の前に私と射澄は立っていた。
バス停の時刻表はすっからかんといった感じで一時間に一本ぐらいしかバスが停まらないらしい。
人も道路の向こう側を歩く、女子高生と思われる三人とその三人のうち誰かの弟だろうかという少年の四人組しか見えない。
車も全然道路を走らない。
のどか過ぎる、田舎。
ここに、燐がいるの……?
むかーし、むかし。この町には悪さをする妖怪がいました。
妖怪は嵐を起こして町に人間が住めないようにしていました。
そんな時、美羽という巫女が現れて妖怪を封印しました。
妖怪が封印されたことで嵐は止み、人が住めるようになりました。
美羽は夜舞神社を建てて、この町で暮らすようになり、町の人達と共に暮らすようになりました。
「めでたし、めでたし……」
ぱちぱちと、子供達が拍手をしてくださいました。
紙芝居を読み聞かせるなんて、初めての体験でしたので緊張しましたが上手くいったようです。
「みんな面白かったかなー? 実はね~薫お姉ちゃんはこの美羽さんの子孫なんだよ~!」
隣にいた咲希が謎のドヤ顔を浮かべながら、そんなことを言いました。
すると、子ども達の注目の的が一気に私に。
紙芝居を見ていた時以上の、子どもらしい元気さで私に詰め寄ってきました。
「ほんとなのー!?」
「すげえ!」
「お姉ちゃんも妖怪とたたかえるの~?」
「あの、その……皆さん座って座って……」
「うん! 実は薫お姉ちゃんも日夜悪い妖怪と戦うおとぎッ!?!? んー!?」
慌てて、樹羅ちゃんと勝人と私で咲希の口を塞ぐ。
危ない危ない。
小さな子ども達の前なのでまだ良かったですが、御伽装士は世に隠れるもの。
バレてはいけないものなのです。基本的に。
「そ、それじゃあ今日はこれでおしまいだから! またな!」
「皆さん、さようなら……」
「んー!!!! んんんー!!!!」
咲希の口を塞いだまま、公民館の図書室から出る。
図書室から出たところで咲希の口から手を離すと、咲希は「ぶはっ」と息を吐いた。
「もうなにするのさー!?」
「それはこっちの台詞だ! オレ達はバレちゃいけないの知ってるだろ!」
「そうでございます。不用意な発言は慎んでくださいね」
「はーい」
「まったく咲希姉はドジだな」
「なんだって勝人~?」
勝人と喧嘩を始めそうな咲希を連れて、公民館の職員さんに挨拶を。
今日はボランティアで学童の子ども達のお世話に来ていたのです。
貴重な体験になりました。
帰路につき、いつもの道を四人で歩いていると咲希がまだ納得のいかない様子。
「どうしたんです?」
「むう。そんなに隠してなきゃ駄目なの御伽装士って」
「当たり前だ。化神は穢れから生まれるもの。穢れってのは恐怖とかも含まれるんだ」
「化神の存在を認知して、その存在に怯えるということは化神の発生に繋がりかねません。ですから、化神の存在はひた隠しにされ、同時に私達御伽装士の存在も秘匿されているのです」
私達の存在が知られることと化神の存在が知られることは等号で結ばれる。
ゆえに、御伽装士は歴史の影に潜み戦ってきたのです。
そう説明したのですが、咲希はまだ不服なよう。
「そうかもしれないけどさ、夢がないじゃん」
「夢?」
思わず、そう聞き返した。
夢というものがこの話とどう繋がるのか、私には分からなかったのです。
樹羅ちゃんも同じようでした。
「この町にはヒーローがいるよっ! みたいなさ。元気付けられるじゃん」
「バーカ。ヒーローがいるってことは悪役がいるってことだ」
そう言って、樹羅ちゃんは咲希にデコピンをした。
その行動はともかく、言動には賛同する。
「ヒーローがいる夢より、悪役がいることの恐怖が勝るとも限りません。ヒーローというものは、それこそ紙芝居や物語の中だけで充分なのです」
「そっかぁ……」
ようやく納得してくれた様子の咲希は何か閃いた!といった様子で私に問いかけました。
「ねえ、薫にとってのヒーローっているの?」
「私のヒーロー……?」
「師匠のヒーローおれも気になる!」
「そう! 私のヒーローはもちろん薫だよ!」
「おいオレは?」
「樹羅ちゃんはまだまだだよ」
べぇと舌を出して樹羅ちゃんを挑発する咲希。それに乗っかって咲希と口喧嘩を始める樹羅ちゃんを横目に、私は咲希の質問の答えを考えていた。
私の、ヒーロー……。
歩きながら考える。
「私にとっての、ヒーロー……」
「結構悩むね」
「はい……。なかなか、難しい質問です……」
「ん? いるだろ薫にとってのヒーロー。ほら、小さい時によくオレに聞かせてくれただろ」
「そうですね……ふふ。やはり、あれでしょうか……」
樹羅ちゃんに言われ、やはりあのお話に登場する英雄だと再確認。
幼い頃にたくさん聞いた、夜舞家に伝わるお話。
その主人公。
「え? なになに? 薫のヒーローどんな人なの?」
「ふふ。実際にお会いしたことはございません。夜舞家に伝わる、昔話に登場する方ですので」
「昔話! どんなどんな!」
「はい……。その名は────」
「燐達を探すのに、なんで公民館」
「正確には、ここの図書室だよ」
射澄に連れられやって来たのはこの町の公民館。
その図書室。
「こんな時に趣味に走らないで」
「違うよ。ちゃんと調べるのさこの町、この世界のことを」
本棚を眺め、あれこれと本を手に取っていく射澄。
更には私に本持ちをさせてきた。いい身分だ。
「さっき確認したけど、スマホはネットが使えない。調べ物が出来ないんだ。だからこうして、本に聞くというわけさ。はい、これも」
「重っ……。ちょっと、日本地図は必要なわけ? あと町の民話集とかいらないでしょ。それより燐達を探して動き回った方がいい」
「いや、そうとは限らない。まずは情報が優先だ。この世界が何から何まで私達の世界と同じとは限らない。まずこの世界の基本的知識を身に付けようじゃないか。それに、燐くん達の気配をアリスが探ってる。探索はレーダーに任せようじゃないか」
この世界の基本的知識って……。私達の世界にもあるような公民館だし、ちゃんと日本だし、言葉も通じるし。
そんな違いはないはず。
文句を垂れながら射澄について歩き、テーブルへ。
本の山を積み上げると、まず射澄は日本地図を開いた。
ページを捲り、捲り……止まった。
「まずひとつ目の違いだ。聖山市が存在しない」
「……大して重要じゃないわ。ほら、次」
「重要じゃないなんてことはない。現地人から出身を聞かれた時に聖山市と言ってはいけないということが分かった。とりあえず、地理的にそうだな。何処から来たか聞かれたら仙台と答えることにしよう」
そんなことどうでもいいでしょうに……。
やっぱり射澄、趣味に走ってるでしょうこれ。
いつもよりテンションが高い。
ほら、民話集なんか読み出してるし……。
射澄に構うだけ今は無駄だと窓ガラスに映るアリスに話しかける。
こめかみに触れながら唸るアリスに。
「どう、燐の居場所分かった?」
『うーん……。それが、どうにも妙と言いますか……』
「歯切れが悪いわね。はっきり言いなさい」
『燐くん達がいた気配はあります……。気配は……』
気配?
つまり、この町にはいたけどもう何処かに行ってしまったということ?
「美玲!」
珍しく、射澄が声を荒げた。
図書室ではお静かにとは射澄の口癖だというのに。
「今度はなに」
「これを見てほしい。アリスも」
見せつけられたのはこの辺りの地域の民話を集めたもの。
その民話のひとつ。
タイトルは……。
「
私にとっての、憧れたヒーローの名前を告げる。
おばあ様や、お母様から伝え聞いた物語の主人公。
「つるぎさま?」
「はい……。夜舞家初代当主、美羽様をお助けした、鏡の中から現れた剣士様でございます」