仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ 千年超越大戦 ツルギ×マイヤ 作:大ちゃんネオ
その竜、ドラグスラッシャーは気高く吼えた。
邪なる存在に向けて。
『ゴアァァァァ!!!!!!!』
『くっ……。分が悪い……』
バケマムシは無数の蛇となって霧散。
リンガが追うも、逃げ切られてしまった。
「────綺麗」
咲希はドラグスラッシャーに見惚れていた。
純白の身体に走る金のラインが煌めき、高貴なる印象を抱かせる。その、美しいものに手を伸ばして……。その手を、アイズが掴んだ。
「えっ」
「無闇に触らない方がいいわ。全身刃物みたいなものだから」
「あ、はい……。すいません……」
咲希が素直に謝ったのでアイズは咲希の手を離す。
その様子をちらと見ていたドラグスラッシャーは歩いて、自分が出てきた池の水面からミラーワールドへと戻っていくのであった。
そして敵がいなくなったのでリンガ、アイズ、ヴァールは変身を解除して顔を合わせた。
「その……何から言えば良いかだけど、とりあえず助けてくれてありがとう。オレは三葉樹羅。リンガだ」
「……咲洲美玲。仮面ライダーアイズよ」
「私は神前射澄。仮面ライダーヴァールだ。よろしく」
自己紹介をした三人。
だが、樹羅は聞き慣れない単語を二人が言っていたことに反応した。
「えっと、仮面ライダーって、なんだ?」
「ん? 君も仮面ライダーじゃないのかい?」
「え!? いや、オレは御伽装士、だけど……」
今度は美玲と射澄が知らない単語が出てきたと二人は顔を見合わせた。
御伽装士とは何かと射澄が訊ねようとした時、咲希が薫の名を叫んだ。
「薫! 目を覚まして薫!」
「師匠!」
「……ひとまず、あっちが優先ね」
「あ、ああ! すぐ近くが家だからそこまで運ぶ! あんたらも来てくれ!」
樹羅が意識を失った薫を背負い、夜舞邸へと駆け出す。
軽そうとはいえ、人を背負ってしっかり走れるその身体能力に二人は驚きを隠さなかった。
「すごいね、人を背負って階段を駆け上がるなんて。女の子なのに」
「ええ、そうね……。ん? 射澄、今なんて」
「人を背負って階段を駆け上がる」
「そのあと」
「女の子なのにね。……美玲、気付かなかった?」
「……女顔とは思ったけど、まさか女だったなんて……」
嘘でしょと、美玲は目をぱちくりさせた。
夜舞邸に到着すると、なにやら屋敷の中が慌ただしい様子でいた。
そんなところに薫が意識を失い運ばれてきたものだから更に大変である。
薫の付き人である真姫がこちらに運べと指示した部屋では、薫の祖母であるセンもまた寝かされていた。
夜舞家付きの医者である清水も来ており、とにかく切迫した状況であると全員が理解した。
四人は一度部屋から出て、廊下で話す。
「真姫姉……。ばあさんまでああなってるって、一体何があったんだよ!」
「分からない……。突然、苦しみ出されて清水先生にも来てもらったのだが身体には何も異常がないと……。まさか、薫様までこんなことに……。……ところで、そちらの二人は?」
真姫が少し離れたところに立っている美玲と射澄について尋ねる。
聞かれた樹羅と咲希、勝人は困った顔で、首を傾げながらとりあえず。
「えっと、その……仮面ライダー? とかいう人達で、なんか御伽装士みたいなのに変身出来て……。とりあえず、助けてくれたから悪い人達じゃないぜ」
「う、うん! あとなんか白いドラゴンもいて助けてくれて!」
そんなことを急に言われて素直に飲み込める人などいないだろう。
怪しげな目線を二人に向けた真姫だったが、庭の景色を眺める射澄が口を開いた。
「あれはドラゴンじゃなくてワイバーンだね。どちらかというと。ドラゴンにもなるんだけど。とまあ、そんなことは置いといてだ。貴女が話の分かる人、ということでいいかい?」
「あ、ああ……。薫様の付き人、五十鈴真姫だ」
「よろしく。堅苦しいのは無しにして話させてもらうよ」
「……長くなるから、出来れば座って話がしたいわね」
美玲のその遠慮なしとも取れる言葉で一同は屋敷の応接室へと移動した。
和とは打って変わって洋装の部屋。
ソファーに座り、紅茶を飲みつつの話となった。
そして、美玲達側の事情をかい摘まんで説明する。
別の世界から来たこと。
鏡の中の世界、ミラーワールドで戦っていること。
あの竜、ドラグスラッシャーはこちらの世界の存在だということ。
「べ、別の世界とか信じられねえんだけど……」
「ああ……」
「信じてもらわないと困るわ。見たでしょう、私達が変身した姿を。この世界とは別の技術で造られたものでしょ」
テーブルの上にデッキを置いて美玲が言った。
確かに、あれはこの世界とは違うものだと樹羅と咲希は納得するほかなかった。
「それで、どうして二人はこの世界に来たんですか?」
咲希がそう問い掛け、美玲が答えようとすると部屋に誰のものでもない声が響いた。
『この世界に来たのはその二人だけじゃないですよ~』
「誰だ!?」
警戒する真姫と樹羅。
そんな二人にひとまず警戒しないでほしいと射澄が言って宥めた。
そして、ガラス戸を見てと美玲が指差すとそこには謎の少女がいた。
ここにはいないはずの少女。
しかし、鏡には映っている。
『こんばんは~。私はアリスといいます。以後お見知りおきを~』
「ほ、本当に鏡の中にいるのか……?」
「ええ。そいつは鏡の世界、ミラーワールドの存在。……ところでアリス。どこをほっつき歩いてたの」
『ちょっとこの世界のことを調べてまして~。あの薫っていう子とおばあさんの状況、分かりました』
アリスのその言葉に真姫達は食いついた。
「薫に何が起こってるの!?」
『端的に言えば、存在が消えかかっています』
「存在が、消えかかるって……もっと詳しく言え!」
『きゃー怖~い。そんな風な口の聞き方する人には何も教えませ~ん』
「んだと!?」
アリスの態度にキレた樹羅はガラス戸を殴り付けようとする。
真姫がそれを制止し、樹羅は椅子に座らされた。
だがまだ興奮気味の樹羅はアリスを睨み付けている。
そんな様子の樹羅とは対照的に落ち着いて紅茶を飲み、カップを置く美玲が樹羅に声をかけた。
「あれにいちいち腹を立てても仕方ないわ。あれはそういう奴だから」
「なんつー性格悪い奴とつるんでんだよあんたら!」
「別につるんでないわ。そもそもあいつ、敵だから」
美玲のその一言が、樹羅達を更に驚かせる。
敵とはつまり、どういうことなのか。
「私達の世界では、仮面ライダー同士で殺しあってるのよ」
「最後の一人になれば、願いを叶えられるという触れ込みでね」
「なん、だよ……それ……」
樹羅は人一倍ショックを受けていた。
というのも、仮面ライダーというものも御伽装士と同じく人間を守るための存在だと思っていたからだ。
「じゃあ、美玲さんと射澄さんも殺し合いを……?」
「美玲はともかく、私は違うよ。燐くんに感化されてね、戦いを終わらせるために戦っている。もちろん、人も守っているよ」
「よかった、射澄さんはそうなんですね……。でも、美玲さんは……」
「……何をしても叶えたい願いがある。だから戦ってる。けど、ひとまずは燐や射澄と一緒に戦ってるわ。……それで、あの二人が消えかかってるって、なんなのアリス」
逸れていた話題を美玲が戻した。
改めてアリスに問うと、アリスは素直に答える。
『あの二人、夜舞家と言いましたか。その夜舞家の歴史が消えかかっているんです。何者かが過去に介入して、歴史を歪めようとしている。その影響が二人に出たようです』
「そんな……! もし夜舞家の歴史が消えちゃったらどうなるの!?」
『夜舞家の歴史がそもそもなかったことになる。だから、あの二人は存在しなかったこととなり誰からの記憶も消えて、夜舞家に連なる歴史も消えて、現在が書き換わる』
「ああもうわけ分かんねえ! 歴史が消えるとか現在が書き換わるとか! もっと具体的に言えよ!」
「……バケゲンブが、封印もされず、倒されることもなくなってしまう……?」
「ッ!? それは……」
真姫の言葉に顔を青ざめる樹羅と咲希。
よほどのことがあるのだと、そのバケゲンブなる存在について三人に訊ねた。
「バケゲンブとは、なんだい?」
「夜舞家初代美羽様が封印した伝説級の化神。千年前、陸奥国を支配したこともあったという……」
「それが最近封印が解かれて蘇ったんだけど、薫が倒して……。でももし薫が、夜舞家がなくなったらバケゲンブが!」
「現代まで生き残る可能性がある……ということか……」
もしかしたら、別の御伽装士がなんとかするかもしれないが。
しかしそれも仮定の話。
千年前から生き延びた場合、化神の特性上現代ではもう誰も手が付けられないほどに強化されてしまう。
ゆえに、夜舞家が狙われたのではないか。
「あのバケマムシとかいう化神。バケゲンブの仇って言ってたしな……」
「だが過去に介入するなんて、そんなこと化神に出来るのか……?」
悩む樹羅と真姫。
化神の能力は様々であるが、過去に介入して歴史を書き換えるなど埒外にも程がある。
埋まらないパズルのような思考に陥る二人に、美玲がピースを差し出した。
「魔人教団……」
「魔人……? なんだそれは」
「私達の、いや、私達の世界だけじゃなく様々な世界を侵略する軍勢だ。確かに、奴等なら過去に介入というのはあり得そうだね。それに、きっと私達側の事情とも大きく関わってくる」
「そうだ……。なんであんたらはこの世界に来たんだ? 目的があって来たんだろ?」
樹羅が身を乗り出して二人に聞く。
射澄はそれに、図書室から借りた民話集を取り出してあるページを開いた。
「剣義様……? これがなんだって言うんだよ」
「剣義様達は、鏡の中から現れた」
「私達は鏡の中で戦ってる」
「ま、まさか……」
「ああ、そのまさかだ。剣義様は私達の世界の仮面ライダー。仮面ライダーツルギだ」
森の中を女達が歩いていた。
女達は近くの村のもので、夜舞神社に用があり向かっている途中であった。
そんな女達を、謎の黒い靄達が襲う。
『穢れ……穢れを集めて肉を得るのだ……』
「走って! 夜舞神社まで行けば巫女様が助けてくれるわ!」
女達は走る。
だが、森の地面は荒々しく走り難い。
やがて、女達の中でも最も若いまだ少女と言ってもいいぐらいの子が足を取られて転倒してしまった。
起き上がって、すぐに走り出そうとするが時既に遅く靄が迫っていた。
女達は助けられないと目を伏せる。
そんな女達の間を駆け抜け、白刃が迸った。
『ぬおぉぉ!!!』
「え……?」
邪な末期の叫び。
少女の目の前に、白い着物の男が立っていた。
その手には淡雪のような美しい白い太刀を持ち、次々と靄を切り裂いていく。
「あれは……」
「神の剣よ……」
「じゃあ彼が」
「ツルギ様……」
「ぜあぁぁぁッ!!!!」
最後の靄を切り捨てた男、御剣燐は太刀を鞘へと納めると転んだ少女のもとへ向かい、手を差し出した。
「大丈夫?」
「は、はい! ありがとうございます!」
少女が深く礼をすると、他の女達も集まって同じように深々と礼をした。
「本当にありがとうございます! ツルギ様!」
「あー、その、もう大丈夫ですから……。あとその呼び方はちょっと……痒くなるんで、背中」
「背中が……。サナ、ツルギ様の背中を掻いて差し上げて!」
「はい!」
「え、いや、そういうことじゃな────」
隣村の人達を夜舞神社まで送り届けて、ひとまず休憩。
この時代、交通手段といえばもっぱら徒歩だしこの辺りの地形はいわゆるリアス式海岸というやつで、海岸線はめちゃくちゃ入り組んでいる。
そして険しい無数の山々。
そんなだから隣村と言ってもだいぶ離れているのだ。
二日ほどかけてこっちまでやって来るまでにもいろんな危険はあるし、あの化神という怪物までいるのだ。
この時代、ハードモード過ぎる。
こっちに来て数日。
今は夜舞神社で美羽さんのお世話になっている。
未来から来たという突拍子もない話を美羽さんは信じてくれて受け入れてくれた。
美羽さんが受け入れるならと村の人達も僕達を快く受け入れてくれて、今は村の人達と共に生活している。
ただ何もしないで暮らすのは流石にいけないので、僕はああして近隣の化神を退治している。
「あ、燐くーん!」
農作業を手伝っていた美也さんが僕に気付いて手を振っている。
美也さんは神社のお手伝いに畑の手伝い。子供達の面倒を見たりと忙しそうだけど楽しそうに暮らしている。
どうやら今から休憩らしい。
「お疲れ」
美也さんのもとへ行くと、村の人達が僕に手を合わせて拝んできた。
どうやら美羽さんが僕達のこと、取り分け僕を神だとか神の遣いやらと言うらしくすっかり村の人達は僕のことを神様だと思い込んでいる。
ていうかさっきの女の人達もなんかそんなこと言ってたぞ。
え、もしかして隣村までこの話が伝わってる!?
「燐くんもお疲れ。さっき女の人達連れてたけど、なに? 落としたの? やるぅ!」
「違うって。森で化神に襲われてたから助けただけ」
「つまり落としてんじゃん。みんなのピンチに颯爽登場! 化神を一網打尽に叩き斬る! うん、普通に惚れるシチュエーションだね」
……自分がやっていることをそんな風に言われると途端になんか自分があれな奴に見えてきた。
まったくもってそんなつもりはないと、断言しておく。
本当にそんなつもりはないのだ。
「あ、おーい!」
遠くから響くこの声は喜多村さんだな……!?
「よっす!」
「お、お疲れ様です……。あの、喜多村さんそれは……?」
「え、熊だけど」
喜多村さんは、熊を背負っていた。
ツキノワグマ。
それもかなりのサイズだぞこれは。
村の人達が次々とやってきてはこの異様な光景を眺めている。
……まあ、その、喜多村さんは猟の手伝いを行っている。
しかしまさかいよいよ熊を担いで帰ってくるなんて思ってもみなかった。
「あれ? 喜多村さん、顔に傷が」
「ん? ああこれ? これはねー猟してたら山賊達見つけてさ~ヤっちゃった」
「ええ!?」
「ああいや、殺しはしてないよ? ボコったあとに然るべきとこに突き出してきたから。わっはっはっ!」
快闊に笑う喜多村さんもだいぶこっちの生活をエンジョイしているようだ。
なんというか、この時代に生まれてくるべきだったんじゃなかろうか?
「ああ~これは立派な山の神じゃ!」
「んだ! 早く捌いちまうべ」
「おう! 今夜は宴だぁ!」
そう言いながら猟師さん達と熊を解体しに喜多村さんは行ってしまった。
喜多村さんが獲った熊で今夜は宴会らしい。
まあ、あんなの獲れたらね……。
「すごいのが獲れたわね」
美羽さんもやって来て、やはり喜多村さんの熊に驚いていた。
「美羽さん。なんか、宴会らしいです。今晩」
「良いことね。てか、あの熊獲れたから神社で祈祷しないと」
「え、そんなことするんですか?」
「当然でしょう。山の神なんだから。早く行くわよ」
「行ってらっしゃいです。それじゃあ僕は昼寝でも……」
ふわぁと欠伸をして、昼寝に良さそうな場所を探しに出かけ……。
「なに言ってるのあんたも行くのよ!」
「え? なんで僕まで?」
「どうせ暇でしょ! 知ってるのよ、何もない時はどこぞで昼寝してるの!」
ああ、僕の楽しみが……。
美羽さんに引っ張られて夜舞神社へ。
あ~!
昼寝~!
「あ! 美羽様!」
神社へ向かう途中、子供達が美羽さんを見つけて集まってきた。
何か話があるらしい。
「ん? な~に?」
「これ! 浜で拾ってきたの!」
女の子が見せてきたのは貝殻であった。
すごい、結構綺麗なものなんだな。
「綺麗ね」
「うん! 美羽様にあげる!」
「いいの? せっかく拾ってきたものなのに」
「美羽様にあげるために拾ってきたんだもん!」
「私達もういっぱい持ってるから!」
「そう……。ありがとう、大切にするわ」
子供達から貝殻を受け取った美羽さんは笑顔でお礼を述べる。
子供達は「今度はツルギ様の分も拾ってきてあげる~!」と言いながら走り去った。元気だなぁ。
「よかったですね」
「そうね。……これあげる」
美羽さんが僕にひとつ貝殻を手渡してきた。
二枚貝。
蛤か?
「え、貰ったものなのにいいんですか?」
「二人でいて一人だけ貰うって、なんか不公平じゃない」
「今度僕の分拾ってくるって言ってましたよ。だから……」
「ああもういいでしょ。気持ちの問題よ気持ちの」
そんなやり取りをしながら歩いていたら夜舞神社に到着した。
二人で拝殿に入ると、美羽さんは神棚の前に台を置いて、神棚の中に手を突っ込んだ。
……結構、奥深いんだな。
「よいしょっと……」
美羽さんは神棚の奥から何かを取り出した。
箱だ。
すごい綺麗な装飾。
螺鈿細工だ。
舞い散る花びらと共に舞う蝶が象られている。
すごいな……。前に博物館で見た国宝級とかになってるようなものと遜色ない。
「美羽さん、それは?」
「これは玉手箱みたいなものね。大事なものを仕舞ってるの。宮大工に頼んで神棚にちょっと仕掛けを作ったの。それで隠してる」
いたずらっぽい笑みを浮かべる美羽さん。
宝物を大事にしてるのもそうだけど、わざわざ大工さんに頼んでそんな仕掛けを作ってもらうのもなんだかちょっと子供っぽい。
もちろん、いい意味で。
「見る?」
「え? 隠してるんじゃ……」
「隠してるけど……。まあ、あなたになら良いわって感じ」
さいですか。
それではせっかくなので拝見と。
さっきの貝殻と、綺麗な石と、何かの枝と……。
「美羽さん。これ、もしかして全部子供達から貰ったもの……ですか?」
「そうだけど。悪い?」
睨まれたので否定する。
いや、睨まれなくても否定したけど。
「いえ……。その、子供が好きなんですか?」
「そうね、好きよ。子供は未来の象徴だもの」
子供は未来の象徴、か。
たしかにそうだよなぁ……。
なんて感心してたら猟師の皆さんが外まで来たようだ。
美羽さんは箱を神棚の奥に仕舞って、祈祷の準備に入った。
拝殿に熊が置かれて、神棚に向かって二礼二拍手一礼。
祈祷と言っても長々とやるようなものではなく普通のものでそれだけ。熊は運び出されてこれから解体される。
そうしたら熊の肉をお供えしてまた拝むんだとか。
あと、個人的に意外だったのは意外と肉を食べるんだなということ。
肉食が禁止されるのはもっと後なのか。
「ふう、今日は忙しいわね」
拝殿で今は美羽さんと二人だけ。
言葉通り少し疲れた様子でいて、肩を回しながらそう言った。
さっきの女の人達も来ていてから、今度はこれ。
それ以外にも美羽さんは村のいろんなことに関わっているので忙しいのだ。
夜は御伽装士という戦士となって化神と戦うこともあるし。
……よーし。
「美羽さん、ちょっとそこに寝てください」
「ね、寝る?」
「はい。うつ伏せで」
「何をする気? ……まさかあんた!?」
「? なにって、マッサージ……じゃ伝わらないか。ええと、按摩です」
「……そ、そうよね按摩よね。分かってたわよ!」
キレ気味に言われながらうつ伏せになる美羽さん。
何にキレたかはさておき、マッサージしてあげれば許してくれるでしょ。
これでも結構、自信はあるのだ。
まずは肩周りから。
ぐいぐい。
「んっ……」
一瞬で分かった。
すごい、凝ってる。
「うわ、すごいですね」
「そ、そんなに……?」
「はい。すごいです。重点的にやっていきますね」
ぐいぐいと。
「んんっ……。じょ、上手ね……」
「えへへ、母さんによく頼まれてやってたので」
「そう、なの……ん……」
そう、母さん。たまに父さんにもやってあげていたので自然と腕が上がっていた。
あと運動部の友達にたまたま頼まれてやってあげたら上手いと評判になり、結構学校でもマッサージしてあげることが多いのだ。
聖高の凄腕マッサージ師の異名を持つほどだったりする。
「……燐は、母親が恋しくならない?」
ふと、どこか寂しそうな声色で美羽さんが僕に聞いてきた。
うつ伏せだから表情は見えないけれど、なんとなく寂しそうな顔をしている気もした。
「……確かに、今はすっごい離れちゃってますからやっぱり家族が恋しくなります。だから、ちゃんと未来に帰らないとって」
「……そう」
そこからしばらく黙ってマッサージを受け続ける美羽さん。
だから僕も黙って手だけを動かし続けた。
「……私は、血の繋がった家族というものを知らないの」
「え?」
「私の目、赤いでしょう。だから、私は生まれてすぐに殺されるところだったらしいわ」
「そんな……。目が赤いってだけで」
「人は、自分とは違うものを恐れるもの。ただ、私の母は私が殺されるのを良しとしなかった。私を連れて逃げ出して、私の育ての父に預けたの」
「そう、だったんですね……」
言葉に詰まる。
なんて返したらいいか分からない。
そもそも、僕なんかが何かを言ってもいいというものでもないだろう。
「だからずっと私は母のことを想って……。ごめんなさい、つまらない話をしたわね」
「いえ、そんなこと……。けど、どうして僕に?」
「……なんとなく、貴方には話してもいいかなって。村の人達も信頼してるし、なによりあの晩、私を助けてくれたのは貴方だから……」
「いえいえ。こちらこそ、身元不明の者を三名も受け入れてくれてありがとうございます」
「気にしないで。お互い様でしょ。……ねえ、もし良かったらこのま……っう~~!? ちょっ、そこ!?」
あ、すごいとこ見つけた。
とんでもない凝りだ。
これは解さないとまずいぞ。
「んっ! んっ~! ちょっ、そこ……!」
「気持ちいいですか?」
「そ、それはそ~~っ!? なん、だけ……んんっ! まって! い、一回とま……!」
気持ち良さそうだ。
うんうん。
効いてるらしい。
このまま続行だ。
「まって……ほんと、だめ……燐……こんなのしらな……っ~~!」
「あはは、もっとしてあげますね~」
夜舞神社の石階段を駆け上がって、燐くんを呼びに来た。
さっき美羽さんに引っ張られていたからきっとここのはず。
「燐くーん! ちょっと男手が欲しいから手伝ってだ……」
「まって……ほんと、だめ……燐……こんなのしらな……っ~~!」
「あはは、もっとしてあげますね~」
……え?
ちょっと、これは、え、なんですか。
ここ神社ですよね。
聖域ですよ聖域。
聖の字が違う「せい」になってませんか。
というか燐くん君は美玲先輩じゃないの!?
ちょっとまってちょっとまってよ!
大体そんな、美羽さんとくっつくってまさか燐くんこの時代に残るつもり!?
いやいやそれはだめでしょ!
止めなければ……!
いやけど愛し合う二人を止める権利なんて私には……!
悩む私の肩にポンと手が置かれた。
喜多村さんの手だった。
喜多村さんはどこか晴れやかな、清々しそうな顔をして私に言った。
「美也くん。これは、彼の人生だから。私達が口を出しちゃあいけない。邪魔しちゃいけない」
「……そうですね。私、なんか大人になった気がします」
「うんうん。そうだね、大人になるってこういうことさ」
「邪魔しちゃいけませんし、行きましょうか」
そう言って私達は夜舞神社の階段を降りていった。
燐くん。私は君の行く道を応援するよ……!
夜、村近くの森の中に魔人が集結していた。
『ここか?』
『ああ、どうやらそのようだ』
『少々、時間はずれてしまったが関係ない。ここで美羽を殺せばバケゲンブは復活する。そしてバケゲンブの力を魔人教団に……』
怪しき笑い声が響き渡る。
陰謀が、蠢く────。
夜、村長のお宅で宴会。
美羽さんは神社でやることがあるからと欠席。
貴方達だけで行ってきなさいと言われて、村長さんのお家に到着するやいなや、やたら笑顔な村人さん達に出迎えられて待ってましたと言われて案内されたのだが……。
「あの、なんで僕が上座なんですか? なんで僕が主役みたいになってるんですか!?」
「いやぁ、ツルギ様がこの村さいてくれれば安泰だぁ」
「うんうん。美羽様も良いお歳だしねぇ」
なんで美羽さんの名前が出てくるんだ。
なんでみんな僕を温かな目で見つめてくるんだ。
「燐くん。君は愛に生きるんだね……!」
「なに言ってるの美也さん。ねえ! あとそんなにご飯盛らなくていいから!」
「んー。いやーもっと早く気付いてれば、お赤飯にしたんだけどねぇ」
「喜多村さんお赤飯ってどういうことですか? なにかお祝い事があるんですか?」
「もうそんなもったいぶらなくたっていいだろう。さあ、ドドンと発表したまえ!」
発表とは一体何を……?
分からない。
なにも分からない。
これはもしかしてあれか。
日本の因習ホラー的なやつなのか!?
美也さんも喜多村さんも既に取り込まれてしまっているのか……!?
ここまで来てこの手の怪異から逃れたパターンを僕は知らない。
さ、最悪変身して逃げるしか……。
そう思い、懐にしまっているデッキに触れるとドラグスラッシャーの唸る声が聞こえた。
低い、唸り声。
警戒……!
僕が立ち上がると、皆がおおっ!と声を上げるがそれどころではない。
「皆さんはここにいてください! 離れないように! 美也さん、喜多村さん行きますよ!」
「ええっ!? ちょっとどこに!?」
「いいから!」
村長の家から出て、周囲を見渡す。
みんな村長のところにいるから村全体静まり返っている。
……どこから来る。
なにを狙っている。
「────まさか!」
駆け出す。夜舞神社へと向かって。
灯籠の蝋燭が揺らめく。
……嫌な揺らめき方。
「最近、来客が多いわね」
『夜舞美羽、その命貰い受ける』
参道に現れたのは……化神、ではない。
だが、異形だ。
異形が数体。
恐らくこの異形の頭であろう槍を装備した者が穂先を向けてくる。
「私を誰だと思っているの。夜舞美羽、御伽装士舞夜よ! この命を簡単に貰い受けるなど!」
『それは失敬。しかし、その命を貰い受けるが我が使命』
敵ながら、武人然とした奴。
やりやすい相手だ。
舞夜の怨面を手にし、構え……。
「美羽さん!」
「燐!」
『誰だ!』
「ふふーん。通りすがりの仮面ライダー、的な感じだよ!」
「メタロー……! 倒す!」
『なに……? お前達、何者だ!?』
燐達三人が小さな薄い箱のようなものを敵に向かって突き出すと鋼の帯が巻き付けられる。
『変身ッ!』
帯の中央の窪みに箱を入れると、甲冑が舞い踊り三人と重なる。
あの晩、出会った時の姿……!
『お前達……! 仮面ライダー!』
燐は腰に差した剣を抜くと、切先を異形へと向けて普段の燐からは想像もつかない冷たい声音を発した。
「────斬る!」