仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ 千年超越大戦 ツルギ×マイヤ   作:大ちゃんネオ

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呼応

 夜舞神社の参道は戦場となった。

 無数の魔人メタロー達とそれに立ち向かう鏡の騎士たる仮面ライダーによって。

 それぞれのライダーの契約モンスターも総動員でメタロー達を迎え撃つ。

 ツルギは太刀を召喚し、ランスメタローと打ち合っていた。

 

「……!」

 

『ぬうッ!? 噂通りの剣の冴え。見事!』

 

「……」

 

『言の葉を刃に乗せるクチか!』

 

 ランスメタローの言にいちいち反応することなどなくツルギは魔人と斬り結ぶ。

 ランスメタローと主に戦うが、他のメタローが乱入してくればそれらを斬り捨てる。

 ランスメタローと何度も激しい打ち合いをして、鍔迫り合いに持ち込む。

 

『チッ……。刃にも言葉が乗ってねえ。おっかねえ野郎だ! ところでお前達、どうやってこの世界のこの時代に来やがったんだ?』

 

「なに……?」

 

『お前達まさか俺達のに巻き込まれた感じか? そういえば、お前の世界襲って撤退した奴等拾ったからそん時かもな』

 

 ランスメタローの考察は合っていた。

 ツルギの世界を襲い、撤退したメタロー達に巻き込まれる形でツルギ達はこの時代にやって来たのだ。

 それを、近くで聞いていたグリムが反応する。

 

「じゃあ、あなた達を利用すれば……」

 

『帰れるかもな! もっとも、帰すつもりはないぜ! この時代で誰に知られることもなく死んでいきな』

 

「やーなこった!」

 

 レイダーがメタローの一体をランスメタローに向かって投げ飛ばす。

 だが、ランスメタローはツルギとの鍔迫り合いを中断し投げ飛ばされたメタローを片手で受け止める。

 

『大丈夫か? しっかり頼むぜ』

 

『す、すまん……』

 

「お? 意外と優しいの君?」

 

『仲間を見捨てたりするのは俺の主義に反する。ましてや同胞を殺したりなんかな』

 

 槍を肩に乗せて、軽口を叩くかのように言った。

 なるほど、これはこの部隊の指揮を任されるだけあるとツルギは内心でこのランスメタローを評価した。

 

「何故美羽さんを狙う」

 

『仕事だからだ。満足いったか?』

 

「……ッ!」

 

『なにッ!?』

 

 ツルギの太刀がランスメタローの顔面を切り裂いた。

 あまりの速さにランスメタローの反応は遅れたが、ギリギリ倒される寸前のところで回避し、命を留めた。

 

『貴様ぁ!!!』

 

「……」

 

 ツルギは太刀をだらりと下ろしながらランスメタローへと距離を縮めていく。

 一歩ずつ。

 激しく火花散る戦場を、悠々と。

 ランスメタローの槍は既に見切った。

 あとは、斬るのみ。

 

『でやぁぁぁ!!!!』

 

 槍を振りかざすランスメタロー。

 だが、ツルギの斬の方が速かった。

 横一閃。

 ランスメタローの胴を断ち切る剣が閃く。

 しかし、ランスメタローは笑っていた。

 

『俺は、死すとも……任務は……!』

 

 宙を舞うランスメタローの上半身。その手には槍が未だに握られ、美羽に向けて槍を投擲。

 槍が放たれると共にランスメタローは消滅するが、その槍は消えず。

 美羽の命を奪おうと翔る。

 

「しまっ……!」

「美羽さん!」

 

 ツルギは駆ける。

 美羽を救おうと。

 しかしこのままでは間に合わない。

 ならばと身体は自動的にデッキから一枚のカードを引いていた。

 そして、一陣の風が吹く────。

 

「ッ……」

 

 突然の強風に目を瞑る美羽。

 風が止み、目を開けるとそこには先程の姿とはまた違ったツルギの姿があった。

 烈風なる風の力を得た、ツルギサバイブである。

 

「燐……」

「美羽さん……。よかった、無事で……」

 

 風の力で加速した燐はランスメタローの槍を切り捨て、美羽を救った。

 そして、ツルギサバイブは戦場へと今一度向き合い太刀型召喚機スラッシュバイザーツバイを手にメタロー達へと殺気を放つ。

 鋭く、切り裂くような殺気。

 それを浴びせられたメタロー達は一目散に逃げ出して、戦闘は終了した。  

 ツルギサバイブはスラッシュバイザーツバイを鞘に納めると変身を解除し、メタロー達が逃走した方向へと目を向ける。

 

「メタロー……。一体、何が目的で美羽さんを……」

「燐!」

 

 美羽が燐に駆け寄り、申し訳なさそうな顔を浮かべた。

 

「ごめんなさい……。私も変身していれば……。つい、貴方達の戦いに見入ってしまって……。やっぱり、強いのね、貴方達」

「いえ、そんなことは……。それより、美羽さんこそ大丈夫ですか? 怪我とか……」

「ないわよ。何かされる前に、来てくれたからね」

 

 そう言って、美羽は笑みを浮かべた。

 その笑みにホッと胸を撫で下ろした燐は美羽に微笑み返すと美羽はそっぽを向いてしまった。

 それに少しばかり傷付く燐であったが、ふと、何か小さく音が聞こえた気がした。

 よく耳を済ますと、それは会話をしているようで音の出所を探る。

 すると、それは美羽の胸元辺りから聞こえてくるようであることに燐は気付いた。

 

「あの、美羽さん。何か聞こえませんか?」

「え……? そういえば、何か……ん? これは、怨面が……」

 

 美羽が取り出したものは待機形態となっている舞夜の怨面。

 ほのかに光を放ち、確かに音を発していた。

 燐は怨面に耳を近付けると、そこからは────。

 

『……りがと……ます……』

『……え、……ない……』

 

「え……今の声……」

 

 燐は怨面から聞こえてくる会話のうち、一人の声に聞き覚えがあった。

 もう一度、よく耳を澄ませ確かめる。

 

『……ぎさま……のせか……』

『そう……めんらい……ツルギ』

 

「美玲先輩の声だ……。美玲先輩聞こえますか! 美玲先輩!」

 

 燐は怨面に向かって叫ぶ。

 突然のことに美羽は驚くが、燐は気にせず怨面に呼び掛けた。

 そして────。

 

『ん……? どこ……るの……!』

 

「怨面です! そっちにありませんか!」

 

 とにかく分からないが、こうして怨面から美玲の声がするなら向こうにも怨面があるかもしれないと叫ぶ。

 そして、向こうにもそれは存在したようで美玲の声が明瞭となる。

 

『燐! 聞こえる!? 燐!』

 

「はい! 聞こえてます美玲先輩!」

 

 こうして、千年の時を越えて繋がる。

 舞夜の怨面が結ぶのだ。己が使用者の血脈を、歴史を守るために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜が明けた頃、薫は目を覚ました。

 万全の状態ではないが、それでも幾分か体調はマシ。

 起き上がると、すぐに真姫が気付いて食欲の有無などを確認し咲希達を呼びに行った。

 少量のお粥を食しながら、薫はこれまで起こったことや美玲達のことを知り礼を述べた。

 

「みんなを助けていただいて、ありがとうございます」

「気にしないで」

「それで、剣義様は別の世界から来たものだと……」

「そうよ。仮面ライダーツルギ。それが剣義様の正体」

 

 そうですか……と薫。

 突拍子のない話ばかりであるが、それらをしっかりと咀嚼し事実として受け止める。

 夜舞家現当主としての器は大きく、深いものであった。

 そんな中、美玲は自分を呼ぶ声が聞こえたような気がした。

 

『えま……か! ……れ……ぱい!』

 

「燐……? どこにいるの燐!?」

 

『……めん……す! っちにあ……!』

 

 突然、声を上げた美玲に皆驚くなか薫が静かにと音を立てないよう指示する。

 そして、薫が気付いた。

 この声は、自身が首にかけているネックレス。

 怨面から響いてくることに。

 

「怨面からです……!」

「燐! 聞こえる!? 燐!」

 

『はい! 聞こえてます美玲先輩!』

 

 はっきりと、燐の声が響く。

 千年の時を越えて。

 美玲は涙ぐむが、今はそれどころではないと話を進めた。

 

「燐、今どこにいるか分かる?」

 

『今、夜舞神社にいます! 魔人教団に襲われて撃退したばっかりです!』

 

「やっぱり魔人教団が関わっていたか……。燐くん。私の声も聞こえるかい?」

 

『射澄さん! はい! 聞こえてます!』

『え! 射澄さん!? おーい! 私もいますよー!』

『いえーい! こっちで楽しくやってるよ~!』

 

 燐以外にも美也、遊の声が聞こえて射澄は安堵から頬を緩ませた。

 

「燐くん。君達は今、千年前……平安時代にいってしまったということは分かるかい?」

 

『はい……。細かい時代までは分からないんですけど、とりあえずタイムスリップしてしまったというのは』

 

「燐。まず簡潔に話すわ。夜舞神社にいるということは夜舞という人物が近くにいる?」

 

『……それなら、私よ。夜舞美羽と言うわ』

 

 美玲と射澄には聞き覚えのない声。

 しかし薫はこの声を知っていた。バケゲンブ討伐の際に英霊となって現れた美羽の声を聞いていたからだ。

 

「夜舞美羽……。単刀直入に言おう。君の命が狙われている」

 

『ええ、それは分かっているわ。ついさっき狙われたばかりだから』

 

「そうか。君の命が狙われて、君の子孫に影響が出ている。夜舞家の歴史が不安定な状態にあるんだ」

 

『私の、子孫……?』

 

「ああ。千年後のね。現代ではバケマムシという化神がバケゲンブの仇を討とうと暗躍し、魔人教団と手を組んだ。夜舞家を消そうとね」

 

 夜舞家を消すという言葉に美羽は息を飲んだ。

 美羽は自分自身が死ねばどうなるか重々理解しているのだ。

 封印したバケゲンブが復活してしまうと。

 それだけはなんとしても避けなければならないことだ。

 

「燐くん、聞こえるかい。現代の方ではそういう事情になっているんだ。だから、君達は夜舞美羽を護衛するんだ。魔人教団に夜舞美羽の命が奪われたら現代はどうなってしまうか分からない」

 

『分かりました! 美羽さんを守ります』

 

「燐……。なんとか、貴方達が帰ってくる方法も探してみるわ。だから、絶対に……帰ってきて……」

 

『美玲先輩……。必ず、必ず帰ります。信じて待っていてください』

 

 その力強い言葉に、聞いていた者達は覚悟を感じた。

 ある種、安心感と言ってもいいだろう。

 必ず帰ってくる。

 美玲と射澄以外からしたら声しか知らぬ少年のことだが、彼は強いのだと。

 理解させられたのだ。

 

「あの……」

 

 薫が、怨面に向かって話しかけていた。

 

「貴方様が、剣義様でございますね……」

 

『あはは……。あんまり、慣れないんだけどその呼び方は……。燐でいいよ、御剣燐。それが、僕の名前』

 

「承知いたしました……。燐様……」

「様もやめた方がいいわ。それと、貴方と同い年よ、燐は」

 

 美玲の言葉を聞いて薫は目を丸くした。

 しかし、一つ上の美玲に先輩とつけていたのだからそうなのだろうとすぐに理解した。

 

「燐さん……。私は、当代夜舞家当代。夜舞薫と申します……。どうか、美羽様を……夜舞の血を、お守りくださいませ……」

 

『……分かったよ、薫さん。美羽さんも守って、君達のことも助ける』

 

「とても、心強いお言葉……。やはり、貴方様は……私の……」

 

『話に割り込んでごめんなさい。薫と、言ったわね』

 

「はい……」

 

 突然、薫と燐の会話に割って入る美羽。

 その声はどこか固く、緊張しているようにも聞こえた。

 

『薫……。千年後の未来までバケゲンブの封印は……』

 

「はい……守られておりました……。ただ、化神によって破られてしまいましたが、私や歴代のマイヤのお力で、バケゲンブを討つことが出来ました……!」

 

 薫は出来る限り力強く、誇るようにバケゲンブ討伐のことを美羽に話した。

 かつて、美羽が託した想いを遂げたのだと。

 だが……。

 

『そうなのね……。分かった、ありが……』

 

 美羽が言い終える前に、怨面にわずかに灯っていた光が消えた。

 交信は途絶えてしまったようだった。

 

「……千年の時を越えるという奇跡は、舞夜にとっても大変なようで……」

「ずっと交信が出来ていれば良かったけど、仕方ない。また、交信出来るようになるかもしれないしね」

「そうね。ひとまず、あなたも休んでなさい」

「はい……。そうさせて、いただきます……」

 

 薫の方も少し無理をしていたようで、布団に横たわるとすぐに眠りについてしまった。

 睡眠を邪魔してはいけないと、美玲達は部屋を出る。

 

「……そのさ、これからオレ達はどうすればいいんだ?」

「樹羅ちゃんはともかく、私は本当に一般人だから何にも出来ないですし……」

「おれも……」

 

 樹羅と咲希、勝人はやるべきことを見失っているようだった。

 あまりの事態に、先行きが見えなくなってしまうのは人間として当然のことである。

 

「バケマムシは仇を討つと言っていたね。ましてや、バケゲンブを葬った夜舞薫のことは何よりも憎くて堪らないはずだ。だからきっと、夜舞薫のことは自分の手で始末したいと思うだろうね。復讐とは、そういうものさ」

「つまり……直接手を下すために、また現れるかもしれないってことか」

「ああ。だから私達は現代の夜舞家当主を護ろうじゃないか」

 

 射澄の言葉に、樹羅は光明を見出だした。

 自身が成すべきことを見つけた彼女の顔は晴れやかだった。

 

「おれも師匠を守る!」

「バカ。子供に何が出来んだよ」

「はは、そう言わずにだ。勝人君と言ったね? 君は師匠の近くの警備だ。頼んだよ」

「うん!」

 

 射澄の言葉に目を輝かせ、勝人は部屋へと戻った。

 しかし、まだ咲希の表情は暗いものである。

 そんな咲希に、美玲が語りかけた。

 

「あの子のこと、大事なんでしょう」

「はい……」

「傍にいてあげなさい。表には出さないでしょうけど、不安だろうから」

「傍に……? でも、それだけでいいんですか……?」

「いいのよ、それで。誰かが傍にいるだけで、人は強くなれるわ」

「……はい! 私、薫の傍にいます!」

 

 そう言って、咲希もまた薫が寝ている部屋へと戻った。

 そして三人は、ひとまず自分達も少し休もうと与えられている部屋へと戻るのだった。

 その道中。

 庭を映すガラス戸には寛ぐドラグスラッシャーと、ドラグスラッシャーにちょっかいをかけるアリスの姿があった。

 

「……そういえば、なんでドラグスラッシャーだけ現代にいるんだろうか?」

「言われてみれば、そうね」

 

 二人はその謎に行き着いた。

 何故か、現代にいるドラグスラッシャー。

 燐は千年前にいるのだからドラグスラッシャーも千年前にいるべきではないのだろうか?

 

「こっちに来た時に分かれたとか?」

「ふむ……。しかし、モンスターとそんなに離れてライダーシステム的に大丈夫なのだろうか?」

 

『恐らく、大丈夫ではないはずですよ』

 

 ドラグスラッシャーを木の枝でつつくアリスが答えた。

 

「どういうことだい?」

 

『契約によってモンスターの力を得ることで、はじめて仮面ライダー足ると言えます。そのモンスターとここまで離れてしまっては契約が切られたとなってもおかしくありません。あと、モンスターのカードを奪われるなどすればそのライダーはブランク体になってしまいますから』

 

「なるほど……。さっき、燐は魔人教団と戦ったって言ってたわよね」

「ああ、事も無げにね。ドラグスラッシャーがいないとなればいくら燐くんとて苦戦は必至。しかしあの様子であればドラグスラッシャーは向こうにもいると考えるべき……」

「……なんだか、妙なことになってない?」

「ああ。千年前の顛末が、全て分かればいいのだけれど……」

 

 射澄のぼやきは虚に消える。

 ぼやいてばかりはいられない。

 

「私は剣義様の話をもう少し調べてみるよ。ここには昔の書物もあるようだし、もっと詳しく書かれたものがあるかもしれない。その方面から三人を助ける手段がないかアプローチしてみる」

「そうね……。私も手伝うわ」 

「ありがとう。考えを纏めるのに、話相手がいると捗る」

「知ってるわ」

 

 それなりに長い付き合いの二人。

 互いのことなど大体分かると微笑み、行動に移すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔人教団の夜舞美羽暗殺計画のトップに、いつの間にかアロンダイトがされていた。

 バケマムシからこの話を受けたのと、この世界についてある程度の知識があるからと、そういうことになってしまっていた。

 元より気乗りしない計画ゆえ、アロンダイトは現地に赴くなどはしないで朽ち果てゆく洋館の中で退屈そうにグラスを傾けるのみ。

 そんなアロンダイトのもとへ、千年前に送り込んだメタローが切羽詰まった様子で現れた。

 

『アロンダイト様! 緊急の報告がございます!』

 

『なんだ? どうせ失敗したとかなんだろ』

 

『はっ……。しかし、それだけではなく……』

 

『なら早く言ってくれ。緊急なんだろ』

 

『はい……。千年前にですが、別の世界の仮面ライダー……ツルギとその仲間達がおりまして……』

 

 その報告に、アロンダイトは少し興味を持った。

 ツルギといえば、同じ死奏剣の一人ツムカリがご執心中のライダー。ツルギに敗北してからというもの、剣の修行に励むなんてことをしている。

 そんなツムカリを退けるほどのライダーが何故。

 

『ああ? なんであの世界の奴でもないツルギなんてのがいるんだ? ましてや、千年前に』

 

『それが……ツルギの世界を侵攻していた同胞達が撤退する際に我々と偶然合流しておりまして……。その際に、ツルギ達も巻き込んでしまったのかと……』

 

 部下からのそんな報告にアロンダイトは目頭を押さえてしまった。

 なんという……なんという……この、やり場のない感情。

 どうしてそう仮面ライダーという輩はそうなのだと思わざるにはいられない。

 幾度も、自分達魔人教団の妨害をしてきた仮面ライダーであるが、まさか全く関係ない世界のましてや千年前にまで首を突っ込むとはどんな運命力だと。

 

『あー……なんだ。ツムカリの奴が執心してるもんだから俺ちゃんもやり合いてえな~とは思っちゃいたが、生憎今はまだ本調子じゃねえし、そこまであの女に義理を立ててやる必要もねえからなぁ……』

 

 どうしたもんかと考えながらグラスの氷を回す。

 そんな時、第三者が現れた。

 

『じゃあ~、私がパパを殺しに行ってあげる』

 

『あん? なんだお前は』

 

 それは、影の中に身を置いたままだった。

 闇の中に一点、ぼうと煌めく緑光が怪奇的。

 報告に来ていたメタローのすぐ傍であるが、メタローはその存在が近付いてきていたことにさえ気が付かなかった。

 

 そして、自身が斬り捨てられたことにも気付かなかった。

 

 メタローは胸部のあたりからずり落ちて、床に胸像となって置かれる。

 

『お前は……なるほど。新型か』

 

『ふっふ~ん。そうだよ! パパを殺すために生まれたのがティーなんだから!』

 

『ハハッ! 面白え。存分に暴れて来な!』

 

 うん!と元気に返事をするとそれは影の中から消え去った。

 魔人教団が鍛えし凶刃が、解き放たれる────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 美羽さんを三人で護衛することになり、それから魔人教団の襲撃は何度かあったが全て退けている。

 三人で交代しながら護衛についているんだけど、そもそも美羽さんだって御伽装士。そんじょそこらの奴に負けるような人ではない。

 美羽さん自身も魔人教団と戦って返り討ちにするのだ。

 だから安心……とはならない。

 人は思っている以上にあっさり死んでしまうのだ。

 それをライダーバトルを通して実感しているからこそ、気が抜けない。

 とはいえ、休むべきとは休まなくてはいけないので今日もこうして森の中で見つけたお気に入りの場所で、風に揺れる木々の声を聞きながら穏やかに眠りに……。

 

「ん? 見ない人だな」

 

 道すがら、村の人ではない荷物を抱えた男を見つけた。

 旅人、的な?

 

「あ、どうもどうも旦那! 見ていかないかい? いいもの売りますよ!」

 

 どうやら、いわゆる行商人というやつのようだ。

 なに売ってるんだろう。

 気になるな。この時代の文化的なところで。

 そういえば美羽さんからいくらかお金を渡されてたからちょっと買い物してみよ。

 

「なに売ってるんですか?」

「わたしはね、いろ~んなところに行って、その土地のこれぞという物を仕入れましてですね、売り歩いているんですよ。旦那なんて色男だからこれなんてどうです?」

 

 行商人が見せてきたのは、なんかちっちゃい壺に入った赤いやつ。

 塗料?

 

「紅ですよ紅! 京の都で貴族も使うほどの逸品でして、これを贈れば旦那~。女もイチコロってやつですよ! どうなんです? 意中の人とかいるんでしょう!」

「あはは……ま、まあ……」

「お安くしますよ旦那。わたしはね、旦那の恋を応援いたします」

 

 それはどうもと、つい買ってしまった。

 うーん、上手く乗せられた気しかしない。

 商売上手め。ただ騙されたとかそういうわけではなく、物は本物のようで綺麗な紅色。

 とはいえどうしたものか……。

 

「そうだ、お世話になってるし美羽さんにあげよ」

 

 紅といえば美羽さんの目の色でもある。

 きっと似合うに違いない。

 ただこの壺でというのはなんだか味気ないような気がする。

 

「あらぁツルギ様どうかしたの」

 

 悩んで道に突っ立っていたら今度はコトさんという村のパワフルなおばちゃん的な人に声をかけられた。

 そして目敏くこの紅に目をつけられた。

 

「あらあらどうしたのこの紅いい色じゃないか。もしや、美羽様?」

「あ、はい……。日頃のおれ……」

「やだもう! やっぱりそうなんだね!」

 

 バシッと力強く背中を叩かれる。

 あの加減、加減してください。

 めちゃくちゃ痛いです。

 

「それで、なにをそんなに考え込んでたんだい?」

「いや、なんかこれで渡すのも味気ないなって……」

「ああそれならねツルギ様。貝殻に入れてあげるんだよ。貝紅って知らない?」

 

 貝紅……。

 貝殻に入れるのか……って、そういえばちょうどいいのがあった。

 美羽さんからお裾分けされたこの貝殻にっと……。

 

「やだいいじゃないか! 羨ましいわぁ私も若い頃は旦那から……」

 

 こうして、コトさんの話に少し。いや、かなり付き合ってあげてからようやく森に向かうことに。

 あぁ……コトさんのおかげで疲れた。

 眠い。

 歩きながらでも眠れそう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 札に筆を走らせる。

 護符。魔除けのお守りだ。これを求めに近隣の村の者がやってくることはよくある。

 わざわざ遠くから来ることもある。

 以前は国府多賀城からやって来た遣いの者までいた。

 そのおかげで、資金繰りには困っていないのだけど……。

 

「はあ……。流石に疲れたわね。遊、悪いけど肩を揉んでくれない?」

「ええー。なんでそんなこと~。大体、肩揉め~なんておばあちゃんかよ~」

「なっ! 燐は自分からやってくれたわよ!」

「私は燐くんじゃないのでやりませ~ん」

「この……ちょっとぐらいいいじゃない!」

 

 はいはい、仕方ないな~と遊は重い腰を上げて私の後ろに。

 そして肩に遊の手が乗って……。

 

「痛だだだだ!?!? ちょっ! ちょっと! やめ、やめなさい!」

「なんでさ。やってくれって言ったりやめろって言ったり~。どっちなのさ~」

「そういう問題じゃないこの馬鹿力! 加減ってものを知らないの!?」

「むふー。大体、誰かの肩を揉むなんてやったことないから分からないぞ」

「ああそうですか。このバカ猿……」

「むっ! 今バカ猿って言った!?」

「ええ言ったわよ。バーカバーカ、猿女!」

「むきぃ!!! バカじゃないぞ! ……私の相棒は!」

「自分のことを否定しなさいこのおバカ!」

 

 ああ、もういいと拝殿から出る。

 この猿と一緒にいたら余計に疲れるわ。

 もう護衛を交代してもらおう。

 美也は……畑仕事の時間ね。忙しいでしょうから、燐に頼むわ。

 ええ、そう燐に。

 ……別に燐がいいから燐にしたってわけじゃない。

 美也は忙しいだろうけど、どうせ燐は暇してるから選んだだけ……って、何をそんなに理由付けしているんだ私は。

 

「おーい、どこ行くのさ~」

 

 後方から遊の声。

 一応、護衛の仕事はするつもりがあるらしい。

 ……そこはちょっと認めてやってもいい。

 あと遊も強い。

 

「燐のとこ。肩揉んでもらうの」

「ほほ~ん。いや~お熱いですな~。肩揉み(意味深)。ぶふぅ!」

「あんたが何言ってるか全然分からないけど失礼なこと考えてるってのは分かったわ」

 

 本当に遊は……。

 燐と美也が真っ当過ぎてなんでこいつと一緒にいるのかさっぱり分からない。

 それより、燐を探して……。

 

「あ、ねえちょっと。燐を見かけなかった?」

 

 通りがかりの村長に訊ねた。

 

「ツルギ様ですか。ツルギ様なら、森の方に向かって歩くのを見かけましな。なんでも、絶好のお昼寝場所があるとか」

「まったく……暇さえあれば昼寝なんだから……」

「まあまあ美羽様。きっとツルギ様もお疲れなのでしょう。それに、似合うではありませんか」

「……似合う?」

 

 妙な視点だ。

 昼寝が似合うなんて、あまり言われて良い気分にはならない気がする。

 

「いやはや、人は見かけによらないと言いますか……。ツルギ様は穏やかでお優しい方でございますが、戦いとなれば正しく剣の如き鋭さで敵をあっという間に斬り伏せる……」

 

 そうねと同意する。

 あの優男な見た目とは裏腹に、陸奥国。いや日ノ本でも一番ではないかという剣の腕を持つのだから人というものは分からない。

 今まで、どのような戦いを繰り広げてきたのだろう……。

 

「ですが、儂にはそれが痛ましく思えてならないのです」

「痛ましい……?」

「はい。きっと、本当のツルギ様はああしてお昼寝なされている時のお姿が真のツルギ様なのでしょう。穏やかで、暖かい……そのようなお人です。きっと」

 

 ……。

 村長と別れて、森の方へ向かい歩き出す。

 穏やかで、暖かい人……。

 村長の言葉には、同意しかない。

 燐は本来はきっと戦いをする人ではなかったのだろう。

 それが、何かの因果であれだけの剣の腕を持たなければいけなくなった。

 確かに、村長の言うとおりだ。

 もしも、それが本当だとしたら、痛ましい……。

 

「お、燐くんいた」

 

 遊が言ったとおり燐がいた。

 遠くからでも分かるぐらい、気持ち良さそうに。

 森の中、少しだけ開けた場所。

 お天道様の光が優しく射し込み、花々が美しく咲き誇る場所。

 大きな木に寄りかかって、燐は寝ていた。

 その光景が、あまりにも美しくて────。

 

「おーい! 燐くー……ふごっ!? ふがふが!」

「ちょっと! 燐が起きるでしょ!」

 

 まったくこいつは空気が読めないの!?

 遊の口を押さえて、静かになってから手を離してやった。

 

「はあ……。あんたもういいわよ離れて」

「え、護衛はー? あっ……。にしし、あとはどうぞお若い二人だけで」

「はあっ!? な、なに言って!?」

「昨夜はお楽しみでしたね~!」

「ちょっと!? なんのことよ!?」

 

 遊はそう言いながら走って村の方へと戻っていった。

 まったく……。

 ……よし、行ったな。

 燐に近付く。

 本当に、気持ち良さそうに眠っている。

 そんな燐の隣に腰を下ろす。

 

「すう……すう……」

「ほんと、ムカつくぐらい気持ち良さそうな寝顔……」

「ん……みれぇせんぱ……」

 

 燐がその名を口にした時、胸がぎゅっと締め付けられた。

 あの時、怨面が千年後の未来と繋がった時。燐を焦がれるような声でその名を呼び、燐もまた彼女を慕っているようであった。

 恋仲、なのだろうか……。

 って、何を気にしているんだ私は。

 そんなの、私には関係のないことで……。

 

「美羽さんを守ります」

 

 燐がそう言った時、私の胸は高鳴った。

 嬉しかったのだ。

 誰かから守られるということが。

 いや、違う。

 燐から守られるということが、嬉しかったんだ。

 

「美玲先輩……。必ず、必ず帰ります。信じて待っていてください」

 

 燐がそう言った時も、私の胸は締め付けられた。

 いつの日か、彼は私の元から去ってしまうのだと。

 それが、堪らなく怖かった。

 

「……ああ、私は貴方のせいでどうにかなってしまいそう。ううん、もうどうにかなってるのよ、燐……」

 

 自分の中で渦巻くこの恋慕。どうしてくれようか……。

 そうと燐の頬を撫でる。すると、燐は飛び起きて傍らに置いていた太刀を即座に抜刀、構える。

 ……さっきまでとは打って変わって、冷たい表情。鋭い視線。

 凛々しいと表現出来なくはないが、それでも燐には似合わない怖い顔。

 

「誰だ!」

 

 声を張る。

 勇ましい声。

 その声に反応する者は……現れた。

 森の闇の中から現れたそれは、燐の甲冑と同じ白。

 だが、恐ろしい白だ。

 燐の白が気高さ、高潔さを表すのであればあれは虚無だ。

 何もない白。

 飾り気らしい飾り気のない白い鋼の身体。

 燐の兜と同じような三本の角を持つが、こちらは禍々しさを醸し出すように捻れている。

 なによりも、緑色に光る単眼はこちらの全てを見抜くようで底知れない恐ろしさがある。

 

『ふふ~ん。はじめまして、パパ』

 

 それは、幼い女子のような無邪気な声色で話し出した。

 その見た目とは似合わぬ……異質。

 

「は……?」

 

 燐はその声、言葉に呆気に取られているようだ。

 

『私はね、パパの戦闘データから生まれたの!』

 

「僕のデータ……」

 

『私の名前はTマーダー! パパ専門の殺人剣だよ❤️ ティーって呼んでね❤️』

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