仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ 千年超越大戦 ツルギ×マイヤ   作:大ちゃんネオ

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凶剣

 Tマーダーと名乗った存在。

 こいつも、魔人教団が……。

 僕のデータを元に造られたというが、それはどうやら本当のようだ。

 黒いツルギ、刃と向き合った時と同じような殺気を感じる……!

 

「美羽さん下がっていて! 変身!」

 

『ふふっ❤️ パパと斬り合うの楽しみ~!』

 

 Tマーダーも白い太刀を構え、駆け出す。

 斬り結ぶ、斬り結ぶ、斬り結ぶ。

 その中で僕は戦慄した。

 太刀筋が僕のものだと。

 だが僕よりも速く、重く、巧い。

 

『もっとスピード上げていくよ~! ほらほらほら~!』

 

「ッ!?」

 

 Tマーダーの剣閃は宣言通りに速さを増す。

 ついていくので、精一杯だ……!

 そして、何度かの打ち合いの末にTマーダーの太刀の切先が、胸部装甲に一筋の傷を描いた。

 

「くっ……」

 

『あれれ~? どうしたの~? パパもっと出来るはずだよね~?』

 

 煽りには乗らない。

 落ち着け、落ち着いて対処するんだ。

 あのスピードに対応するには……。

 

【SWORD VENT】

 

 空から降り注ぐ二振りの短剣ドラグダガー。

 リーチは短くなるが、剣速を取るならこれだ。

 

『あ~ずっる~い! ティーも剣変える~! ────モード・キリングリッパー』

 

 Tマーダーの肉体にモザイク状のエフェクトがかかると鎧を脱ぎ捨てたかのような軽装となり、前腕と足にはギラつく刃が備わった。

 手の中で白いナイフを弄ぶと、一気に間合を詰めて斬りかかってくる。

 

『あはは~❤️』

 

「こいつ、ソードベントまで……」

 

『うん、そうだよ~❤️ パパとお揃い嬉し~い❤️ だ、か、ら、パパを殺させて❤️』

 

 嵐のような斬撃を掻い潜る。

 先程の太刀での打ち合い以上の速度。

 一瞬でも気を抜けば、死ぬ!

 防御方法を読まれているかのような、やらしい攻撃。

 回避先を読まれているような、刃の流れ。

 距離を離しても、ぐんと一気に間合に入り込むTマーダーは粘りついてくるかのようだ。

 それでいて、ナイフの切先はこの心臓を狙ってくる。

 防戦一方。

 くそ、状況を覆せない!

 こうなれば……!

 

【ADVENT】

 

「ドラグスラッシャー!」

 

『ゴァァァァァ!!!!!!』

 

 飛来するドラグスラッシャーが翼から斬撃波を放つ。

 Tマーダーへの直撃コース。

 だが、何故避けない……?

 

『あはは~❤️ おいで、ワイバーンエッジ❤️』

 

 高速で飛来してきた何かがドラグスラッシャーの斬撃波からTマーダーを守護した。

 それは、銀に輝く機械の飛竜。

 

『キュオォォォンッ!!!』

 

『ワイバーンエッジはあっちの子と遊んでてね~❤️』

 

 迫り来るワイバーンエッジという名の機械竜。

 翼の刃でドラグスラッシャーに斬りかかる。

 ドラグスラッシャーは高度を上げてそれを回避。飛竜同士の空中戦が繰り広げられる。

 だが、ドラグスラッシャーは押され気味だ……!

 

『う~ん。ナイフ飽きちゃった。こっちに変えよ~❤️ モード・ブレイキングカリバー❤️』

 

 そう言うと再びTマーダーの身体をモザイクが覆うと今度は堅牢な鎧を纏ったかのような姿に。

 だが、なによりも目を引くのは右手が引き摺る無骨な大剣。

 自分も大剣を扱うが……Tマーダーは軽々と大剣を右手で振るってみせた。

 この時点で、僕以上のパワーを誇ることを見せつける。

 とにかく、回避するしかない!

 当たったら即死だ。

 

「燐! 私も行く! オン・ビシャテン・テン・モウカ! 変身!」

「美羽さん!? 駄目だ来たら!」

 

 変身した美羽さんがこちらに向かって駆ける。

 美羽さんを守らないといけないのに……!

 

『え~。パパとの戦い邪魔しないでよ~。え~い!』

 

 横薙ぎに振るわれる大剣。

 美羽さんを狙った斬撃。

 自然と手が動いていた。

 

【SWORD VENT】

 

 大地に突き刺さる大剣ドラグバスターソードがTマーダーの大剣を防いだ。

 大剣を弾いた隙にドラグバスターソードを空かさず振るう。

 遠心力を利用した横薙ぎ。

 だが、これは容易くTマーダーの大剣で防がれてしまった。

 

『え~。パパの腕力ってそんなものなの~? 剣もティーの方がおっきいし~。なんかがっかりかも~。けど安心して❤️ ティーはパパのこと大好きだよ❤️ 殺したいくらいに❤️』

 

「くっ……。こんな物騒な娘、もった覚えないんだけどな……」

「娘……?」

「違いますからね……!」

 

『あ~~~! パパ女の人とお話してる~❤️ もう~! ティー怒ったんだから!』

 

「ッ!? ヤバ……!」

 

『え~い!』

 

 振り下ろされる大剣。

 とてつもないエネルギーを秘め、放たれた斬撃は森に巨大な切傷を刻み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうすれば、勝てる。

 どうすれば、奴を上回れる。

 いや、分かっていることだ。

 御剣燐の全てを捧げよ。

 いいや、言葉が違ったな。

 

 御剣燐を、斬り捨てよ。

 

 人間性を、感情を、心を。

 剣を振るうのに不要なものは全て削ぎ落とし、自分自身が剣となるのだと────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『けほっ、けほっ。あはは~❤️ やりすぎちゃった~❤️ パパ~? 生きてるよね~パパ~? 死んじゃったなんて言わないよね~? ────あ、パパ見っけ❤️』

 

 Tマーダーは土煙の中、ツルギを見つけた。

 しかし、ツルギに動きはない。

 立ち尽くす。

 ただ、ぼうと立っていた。

 その手に、太刀を携えて。

 

『あはは~❤️ パパ、ようやく本気になってくれた~❤️ それじゃあティーも~❤️ ────モード・スプリームセイバー』

 

 Tマーダーの姿が最初に現れた基本にして至高の形態、スプリームセイバーへと変化する。

 二人は互いに間合へと接近すると、腰を深く落とし構える。

 居合。

 それが、一の太刀。

 

『いくよ~❤️』

 

『────』

 

 振り抜かれる二つの太刀がぶつかり合い、その衝撃で漂う土煙が吹き飛び晴れるほど。

 

「くっ……。燐……?」

 

 土煙の中、ツルギ達を見失っていた美羽だったが土煙が晴れたことで二人の姿を見つけた。

 美羽ですら目で追うのがやっとなほどの速度で振るわれる斬撃。

 二人が立っている場所は生と死の境界線。

 戦場という意味ではなく、あれは魔境。

 何か一つでも間違えば、簡単に死へと急転直下。

 およそ、人が立っていていい場所ではない。

 たとえ、戦士であっても。

 あそこは人を人で失くしてしまう。

 

「燐!」

 

『────』

 

「燐……!」

 

 呼び掛けてもツルギにはまるで聞こえていないようだった。

 斬り合いに全てをかけているような、自身の命など度外視したかのような戦い。

 美羽には、今のツルギが燐には見えなかった。

 あれは、あれは……。

 

『うんうん❤️ それでこそパパだよね~❤️ 人類を護る剣。それを殺すのがティーの役割なんだからそう来なくっちゃ❤️』

 

 Tマーダーの太刀の切先が、ツルギの左頬を薄く切り裂いた。少しずつ、少しずつであるがツルギの装甲に傷が刻まれていく。

 

「人類を護る剣……? それが、燐なの……?」

 

 美羽は駆け出していた。

 あそこに、燐を立たせてはいけないと。

 燐を、人に繋ぎ止めるためにと。

 

「燐!!!」

 

 斬の嵐の中に飛び込む美羽。 

 自分の命も顧みず。

 横からツルギに抱き着いて、死地からツルギを追い出した。

 

「燐! しっかりなさい!」

 

『────あ……美羽さ……ッ!」

 

 燐としての意識を取り戻した瞬間であった。

 美羽を庇い、ツルギの腹部にTマーダーの太刀が突き刺さった。

 Tマーダーはすぐに太刀を抜いて、刃を濡らす鮮血を眺める。

 

『きゃ~❤️ きれ~い❤️ パパのだから余計に綺麗に見えちゃうな~……あ?』

 

 刃に流れ滴る血が、紫色の光となって蝶となる。

 また、Tマーダーが突き刺したツルギも無数の蝶となった。

 そして、蝶は羽ばたきTマーダーのもとから去っていく。

 

『あはは~❤️ パパ、女とトーヒコー? 仕方ないな~。次はちゃ~んと殺すね、パパ❤️』

 

 狂気を口走るTマーダーは森の中へと消えていった。

 ツルギをも圧倒する剣を持つTマーダー。

 果たして、彼女を討ち取ることは出来るのだろうか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「剣義様……。御剣燐とは、どのようなお方なのでしょうか……」

 

 外の景色を眺めていた薫が呟いた。 

 やっぱり、気になるよね。

 薫にとってのヒーロー、剣義様だもん。

 その正体がまさか別の世界からやってきた高校生で仮面ライダーという戦士だなんて、ちょっと情報量が多すぎる。

 

「声を聞いた感じは、優しそうな感じだよね」

「はい……。穏やかな方のようでした……。しかし、ひとたび剣を執れば剣豪の如き……。ふふ、気になってしまってしょうがありません……」

「美玲さんに聞いてみる?」

 

 そうしてみましょうかと、薫が返事をしたので美玲さんを呼びに行った。

 客間で射澄さんと共にお昼ご飯のおにぎりを食べていたので、食べ終わってから二人に薫の部屋へ来てもらい、御剣燐とはどういう人物か尋ねると少し意外な答えが返ってきた。

 

「そう、ね……。普通の人よ、普通の」

「普通、ですか……?」

「そうだね……。どこにでもいる男子高校生。私もそれが一番しっくり来るかな」

 

 二人とも、同じ答えであった。

 

「でもでも、仮面ライダー? として、戦ってるんですよね?」

 

『それはあくまで、巻き込まれてしまったからです』

 

 うわっ!と思わず驚いた。

 姿見の中から、アリスという少女が私の質問に答えていた。

 ……やっぱり、鏡の中にいるなんてホラー。

 

「あんたが巻き込んだ、の間違いでしょ」 

 

『好きで巻き込むわけないじゃないですか! 何回巻き戻してもツルギになる燐くんの運命力のせいです……』

 

 後半は小声で呟いていたので聞こえなかった。

 

「……巻き込まれたのなら、何故、仮面ライダーを続けているのでしょう?」

 

『え? それは……モンスターとの契約がありますから……』

 

「アリス。彼女が聞きたいことはそういうことじゃないわ。……どうして、あんなに積極的に戦っているのか。そういうことでしょ?」

「はい……。普通の少年が戦いに巻き込まれてしまった……。漫画などではよく聞きますが、実際にそれが起こってしまったのなら……」

 

 きっと厳しく、辛い運命を歩んでいるのではないか。

 薫はそう顔を曇らせていた。

 ……ああ、そっか。

 薫は生まれながらにして人を護るために戦うことを運命づけられているから、気にしてしまっているんだ。

 本来であれば自分が守るべき普通の人。

 だから、心配になって……。

 

「って、私も薫に巻き込まれたようなもんじゃん! 私の心配は!?」

「咲希は巻き込まれに来たのでしょう」

「うう……かもしれない……」

「それに、咲希は私が守りますから心配はしていません」

 

 薫がさらっと言ったものだから、反応が遅れた。

 ちょっと、顔が熱い。

 

「まあ、そうね……。私も、燐には戦ってほしくはないわ。けど、燐は人を守るってすごい、真っ直ぐだから……」

「人を守る……」

「ああ。燐くんのそれは信念だね。正しく、剣のような」

「なるほど……。人を守る。それは御伽装士の基本にして最重要項目。夜舞家においても代々固く、言い聞かされること……。ですが、もしかしたら……」

「もしかしたら? なに薫?」

 

 窓の外、空を見上げた薫は微笑む。

 そして何かを、誰かを想うように告げた。

 

「人を守る……。夜舞家に伝わるそれは、剣義様……御剣燐さんの、お言葉かもしれません……」

 

 

 

 

 薫はもう寝るというので部屋から出て、美玲さん達と一緒にいた。 

 美玲さんと射澄さんは倉の書物から剣義様関係のことを調べていて、剣義様……じゃない。御剣燐くん達を救う手がかりなどがないか一生懸命調べている。

 そのお手伝いをと私も手を挙げたのはいいんだけど……。

 

「そういえば、古文で書かれてるんですよね? 読めるかなぁ……。いや、読めないわ……」

「ふふ、夜舞家は意外とデジタル化されていてね。実はここにある書物はアーカイブ化されて現代語訳もされているんだよ」

 

 それも薫のおばあちゃんの要請で行われたらしい。  

 ちょっと意外。いや、かなりだ。

 だって、すごい機械とかデジタルとか嫌いそうな感じの人なのに。

 そういえば前に、スマホのこと聞かれたっけ……。

 新しいもの好きなのかもしれない。

 

「じゃあ、なんで現物も持ってきているんですか?」

「趣味だから」

「え」

「半分本当で半分冗談よ。そいつ、本の虫だから」

「そう。そしてもう一つの理由は現物だからこそ気付く仕掛けとかあったりしないかなと思ってね。こう、透かせば文字が浮き出る……とかね」

 

 なるほど……。

 タブレットが私の分も渡されて、調査開始。

 剣義様の伝説と近い時期の記録や美羽様に関する記述などに目を通していく。

 うーん……それっぽいのはないかなぁ……。

 これも違う、これも違うとやっていたら目が疲れてきた。

 

「あー……」

「少し休みたまえ。長丁場だからね」

「はい……。射澄さんは何か発見とかありました?」

「発見、というほどじゃないが気になる点がひとつ」

「なんですかなんですか!」

 

 こういう状況にあって、少しでも前に進めそうな情報は精神の栄養になる。

 

「これ、恐らく一番古い剣義様に関する記述なんだけれど……」

「なんだけれど?」

「剣義様の容姿がやたらと細かく記されていてね。他の二人に比べて」

 

 え?

 なんだそりゃ。

 そう思わずにはいられないけど、射澄さんのタブレットを借りて見ると、確かにやたらと容姿について細かく書かれている。それもすごい褒めてるような書き方だ。

 やれ背が高いだか、目鼻立ちは整ってやら、瞳は金剛石のようだの……。

 

「……ねえ、それ」

 

 これまで黙って作業していた美玲さんが口を開いた。

 

「なんだい?」

「……多分、いや恐らく確実になんだけど……」

 

 ちょっと歯切れの悪い美玲さん。口にするのを躊躇っているというか、なんとも妙な顔をした後にため息をついて言葉を続けた。

 

「それ、多分美羽が書いたか書かせたのよね」

「そうだね。その可能性が一番高い」

「なら、そうね……美羽、燐に惚れてるわ。それ」

 

 え?

 射澄さんとハモった。

 

『私も、同意見です……』

 

「わっ」

 

 突然、スリープしたタブレットの画面に現れたアリスという少女も美玲さんと同じような顔をしていた。

 

「……二人がそう言うなら、きっとそうなんだろう」

 

 射澄さんも妙な納得をしたので小声で訊ねた。

 

「あの、燐くんさんって、モテるんですか?」

「そうだね……。少なくとも、そこの二人は好意を寄せているよ」

 

 ええ!?と思わず声を上げそうになった。

 口をおさえて、ああそうなんだそうなんだと心の中で納得した。

 だからあんな顔したんだ。

 

「そういえば、前に燐くんの手相を見たんだけど。あったんだよ」

「あったって、何がですか?」

「女難の相」

「あー」

「運命的に女性関係のしがらみが多くなるようだね。まあ最も、燐くん側にも多少責任があったりするんだけど……。さらっと可愛いとか言ったり、さらっとプレゼントを渡したり、勘違いする女性は勘違いしてしまうんだよ」

「あー……」

 

 だからきっと、美羽様にもそんなことを……とまで言って射澄さんは口を閉じた。

 どうしたのかと思ったら、美玲さんが睨み付けていた。

 その、ごめんなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 情けないことに、美羽さんに肩を貸してもらって歩いていた。

 しばらく身を隠そうという美羽さんの提案で、近くにあるという洞穴に向かって歩く。

 Tマーダー……。

 僕のデータから生まれた僕を殺すための存在……。

 僕は、そんな奴に勝てるのか?

 僕の太刀筋は全て読まれている。太刀筋だけじゃない。防御も回避も何もかもがあいつには手に取るように分かるようだ。

 どうすれば、どうすれば勝てる。

 

「……着いたわ。足下気を付けて」

「はい……」

 

 洞穴の少し奥まったところで座り込む。

 ようやく、息をしっかり整えることが出来る。

 しかしこの後はどうする。

 もしも、Tマーダーが村で暴れたりしたら……!

 

「動かないで。怪我してるんだから」

 

 美羽さんに押さえ付けられ、立ち上がるのを止められた。

 くそ……。

 

「すいません美羽さん……。守るなんて言っておきながら、美羽さんに助けてもらうなんて……」

「気にする必要なんてないわよ。ただ、ひとつ言わせて。もうあんなことしないで。あんな戦い方」

「え、いやでも……」

「いいから!」

「は、はい!」

 

 思わず背筋が伸びる。

 まるで軍隊の教官のようだ。

 マムだマム。

 それはそれとして僕も言いたいことがある。

 

「美羽さんこそ危ないじゃないですか。あんな戦いの場に飛び込んで来るなんて」

「馬鹿ね。私が無策で飛び込むわけないでしょ。今こうして生きてるのは誰のおかげ?」

「……美羽さんのおかげです」

「理解しているようでよろしい」

 

 うう、何も言えない……。

 とにかく今回は美羽さんに助けられてばっかりで全然駄目だ……。

 

「痛……!」

 

 少し身体を動かしただけで、身体に痛みが走った。

 やっぱり、それなりに痛めつけられたようだ。この身体は。

 左脇腹のあたりを押さえる。見てないけど多分すごい痣が出来てると思う……。

 

「なにしてるのよ、それ」

「え?」

 

 美羽さんは左脇腹を押さえる僕の右手を指して言った。

 

「なにって、痛いから押さえてるんです」

「それは分かるわよ。そうじゃなくて、その手に持ってるやつ。押し当ててるようだったから」

 

 手に持ってるもの。

 ツルギのデッキだ。

 あ……無意識にやってた。

 

「これ、持ってるだけで傷の治りが早くなるんです。キョウカさんの力で。持ってるだけでいいんですけど、なんかついこうやっちゃうんですよね」

「キョウカ……。また女の名前……」

「……? はい、キョウカさんは女の子ですけど」

「そういうことじゃなくて……。って、別に気にしてないから」

 

 そう言った美羽さんは顔を下に向けて、何か憂うかのような表情を見せた。

 感情がコロコロと、なんだか忙しない。

 さっきまでは僕の方がそうだったのに、なんだか逆転してしまった。

 

「ねえ、あなたはそれで変身して戦うわけよね」

「えっ、はい……。美羽さんも見たとおりです」

「なんで」

「なんで、って……」

「どうして、戦うの。あなたは」

 

 真剣な瞳が僕を貫く。いや、真剣なだけじゃなくてこれは……。

 悲しんでいる……?

 

「……人を守るため、です」

「なんで人を守るの」

「……聞いたら多分、美羽さん僕のこと嫌いになりますよ。だから、言いたくないかもです」

「教えなさい。嫌いになんてならないから」

 

 ……なかなか、頑固だ。

 けど、嫌いになんてならないとか言われちゃうとな……。

 

「……僕は、罪を犯しました」

「罪……?」

「はい。世界には、もう一つの世界があるんです。鏡の中の世界。僕はこの二つの世界を繋げてしまって……。鏡の世界の怪物達が人を襲いはじめて、たくさんの人が犠牲になって……。だから、戦うことにしたんです。一人でも多くの人を助けるために……死んでしまった人達に報いるために、剣を執りました……」

 

 そして、死んだ。

 それは言えなかった。

 

「……あなたは、そうなることを知ってて二つの世界を繋げたわけじゃない。そうでしょう」

 

 美羽さんは大事なことを確認するかのように訊ねた。

 それに、僕は首を縦に振って答えた。

 

「そう、よね……。でなければ、そんなことしないわ……。辛かったでしょう……」

「辛かったのは最初だけっていうか、その、戦いの中で身に付いたんです。なんにも感じなくなる方法っていうか、自分は人じゃなくて剣なんだって、そういう風にすれば辛いとか嫌だとかそんな気持ち感じなくて─────」

 

 暖かいものに包まれる。

 美羽さんが、優しく包むように僕を抱き締めていた────。

 

「美羽、さん……?」

「……貴方は人間よ。きっと、戦いとは無縁の人生を送るはずだった……。ねえ、燐」

「は、はい……」

 

 美羽さんの優しい声と、穏やかな心音。柔らかく確かな熱を持つ身体が、安らかな気持ちを僕に与える。

 ざわついていた僕の心が、波打つ僕の魂が、鎮まっていく────。

 

「貴方は、剣なんかじゃない。どうか、貴方のままでいて……」

「美羽さん……。それは、どういう……」

 

 美羽さんは僕を抱き締めるをやめて、僕と目線を合わせた。

 紅い、ルビーのような綺麗な瞳が真っ直ぐと僕を見つめてくる。

 

「約束して。今のこと」

「は、はい……」

「……よし。それならいいわ。あと、履き物の紐がほどけてるわよ」

 

 指摘されたので見ると、右足のスニーカーの靴紐がほどけていた。服は着物にしていたのだが、靴だけはこっちの方がいいので着物にスニーカーと不思議な格好であった。

 それより結び直さないと……。

 

「しょうがないわね……」

 

 美羽さんが僕の前に跪くと、靴紐に手をつけた。

 

「え、美羽さん結べるんですか?」 

「結べるに決まってるでしょ。蝶々結びでしょ、これ。得意中の得意よ。私、蝶だから」

 

 ……あ、そういうことか。

 舞夜は蝶の戦士。

 だから得意ってことか。

 

「はい、終わり。滅茶苦茶硬く結んでおいたから」

「えっ」 

「嘘よ。冗談」

 

 さっきから美羽さんに振り回されてばかり。

 というか頭が上がらない。

 尻に敷かれるってこういうことかもしれない。

 

「実を言うとね私、ちょっと嬉しいのよ」

「へ……?」

 

 嬉しい?

 まったくどういうことか理解が出来なかった。

 

「あなたも負けることがあるのね」

 

 微笑みながら、そんなことを言われた。

 

「え……。僕が負けて嬉しいんですか?」

「ふふ、そうね。ある意味ね」

「なんで!?」

「……私、まだ少し燐のことを神様みたいだって思ってたの。なんていうか、ちょっと人とは違う在り方をしている存在みたいな。けど、ちゃんと人間なんだって」

 

 むう……。

 それがどう嬉しいに繋がるのかよく分からない。

 大体僕は負けて悔しいっていうのに。

 これじゃ美羽さんはTマーダーを応援してるみたいじゃないか。

 

「もしかして、拗ねてる?」

「拗ねてません」

「はははっ! あなたも拗ねるのね!」

「そりゃそうですよ。人間なんですから」

「……そう。それでいいのよ、燐」

 

 ふんだ。

 負けて嬉しいなんて言われるとは思わなかった。

 

「はあ……。ねえ、あなたの話を聞いたから、今度は私の話を聞いて」

「はい……。いいですけど……」

 

 何か、改まった態度の美羽さんの横顔を見て話を聞く。

 何の話だろうか。

 

「燐の罪の次は私の罪の話よ」

「え……美羽さんに罪なんて……。一体なにをしたっていうんですか?」

「バケゲンブを封印したことよ」

 

 言葉が出なかった。

 だって、分からなかった。

 バケゲンブを封印したことは美羽さんの功績みたいなもので、それが罪になるなんておかしい。

 

「千年後の未来……薫と言ったわね、私の遠い子孫……」

「はい……。それがなにか?」

「私は……バケゲンブを封印することしか出来なかった。倒すべきはずだったのに……! 私が、弱いから……!」

 

 強く悔いる美羽さんだが、僕にはまだ話が見えていなかった。

 バケゲンブを倒せはしなくとも封印出来たのなら良かったのではないだろうか?

 

「千年も……千年も私の子供達にバケゲンブの封印という名の呪いをかけてしまった……! 縛りつけてしまったのよ私は……!」

「美羽さん……それは……」

 

 どうしよう……言葉が浮かばない。

 僕にはなんて言ったらいいのか分からない。

 いや、そもそも僕が何かを言えるようなことではないのかもしれない。

 これは美羽さんの子孫。夜舞家の血に連なる人にしか……。

 

『美羽様……』

 

 美羽の名を、千年後の子孫が呼んだ。

 再び、舞夜の怨面が光を灯し千年の時を越えたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 計画の変更。

 夜舞美羽の暗殺ではなくバケゲンブの復活を優先せよ。

 

 魔人達に告げられた命令変更。

 魔人は次こそと意気込む。

 

「あはは~♥️ これならパパも出てくるよね~♥️」

 

 凶剣Tマーダーもまた狂喜に刃を振るわせる。

 そしてTマーダーの報告でツルギが深手を負ったとなればと計画は即実行に移されることになるのだった。

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