仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ 千年超越大戦 ツルギ×マイヤ   作:大ちゃんネオ

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千年

 夜の帷が下りた頃、それは聞こえてきました。

 悲痛な、後悔。

 知ってしまったがゆえの絶望。

 

『千年も……千年も私の子供達にバケゲンブの封印という名の呪いをかけてしまった……! 縛りつけてしまったんだ私は……!』

 

 ああ、ある意味ではそうなのかもしれません。

 けれど、私は毅然とそれを否定しなければなりません。

 夜舞家の子孫の末席として、バケゲンブを打ち倒した者として、呪いから飛び立った者として。

 布団から起き上がり、舞夜の怨面を手の平に乗せて話しかける。

 

「美羽様……」

 

『薫……』

 

「美羽様……。それは、違います……」

 

『何が違うというの! 私は千年もの時を、あなた達を……』

 

 伝わってくる、悲しみが。

 私達を憐れんでくださる美羽様の想いが、血を震わせる。

 美羽様の千年にかける想いを、この夜舞家千年の血が流れる私が受け止めます……!

 

「たしかに、我等夜舞……美羽様の子々孫々は千年間この地に根付くことになりました……。ですが、それは絶望によるものとは誰一人として受け止めてはおりません……」

 

『え……。なんで、どうしてよ……! 恨んでいるでしょうこの私を!』

 

「恨んでなどおりません! 誰一人、誰一人としてそのようなことは、決して」

 

『何故そう言い切れるのよ!』

 

「……私は、前に仰いましたが歴代のマイヤ達と共にバケゲンブと戦いました。英霊舞夜……私が、皆様の想いを受け継ぎ得た力。あの時、あの瞬間、誰もがこの地のためと……夜舞家の悲願をと、希望を持って、希望のために戦っておられました……。誰一人として、美羽様への怨嗟など持ってはいなかったのです」

 

 でも……と美羽様はまだ信じてはおられない様子。

 ですが、あと一押し。希望を持たせて……。

 ぎぃという音。 

 おばあ様が、入ってこられました。

 

「おばあ様、入られる時はノックなり一声かけるなり……」

「失礼するよ」

「今言っても遅いのです」

 

 そんなことは知らんといった顔でおばあ様は私の隣に正座して傍らに書物を置きました。

 そして、おばあ様も怨面に向かって語りかけました。

 

「美羽様。私、薫の祖母のセンと申します。割り入って失礼とは存じますが、どうかお話を聞いてください」

 

『なによ……』

 

「美羽様。美羽様はバケゲンブを封印なされた後もバケゲンブをこのまま討ち取ることが出来ぬかと研究なされていましたね」

 

『どうして、それを……』

 

「倉に書物が残っていたものゆえ……。そして、これを美羽様の子が。またその子が……と、その研究を引き継いでいたのです」

 

 おばあ様が持ってきたもの。

 それこそご先祖様達が受け継ぎ代々託してきたもの。

 バケゲンブを討つための方策を考察したもの。

 

「私自身も、私の娘……薫の母である楓もバケゲンブを討つ方法を見つけようと、生み出そうと躍起になっていました。いつか、バケゲンブを完全に打ち倒さんと。我が代にてそれを成すのだと。……我が子の代には、引き継がせないと」

 

『……ッ!』

 

「まあ結局は我が孫、薫がそんなもの知らぬといった顔でバケゲンブを討ったのですが」

 

 おばあ様。

 余計なことでございます。

 それに、その書なら私も目を通したことがございます。

 

「しかしこれも、血の積み重ねがあったゆえの事だと私は考えております」

 

『血の、積み重ね……?』

 

「左様。美羽様を始めとした夜舞家、マイヤのバケゲンブを打ち倒さんという想いが刃となり鍛えられる……。それまでにかかった時間。それが千年なのです。我が子の代には、引き継がせないという想い。しかし、それでも成せなかった。ならば、我が子にこそと希望を託していったのです」

 

『希望を……』

 

「そうでございます美羽様。私はたしかに、おばあ様から……お母様から希望を託されたと思っております。ゆえにバケゲンブを討てたと……。美羽様の想いも理解いたします。ですがその想いは希望となって、たしかに千年後(現代)まで受け継がれているのです!」

 

 言い切った瞬間、己が揺らぐ。

 倒れてしまいそうになったのを、おばあ様が支えてくださいました。

 おばあ様だって、同じだというのに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 怨面の光が消える。

 薫達との交信は終わってしまった。

 

「……千年。随分と、遠くまで届いたものね」

「それは、希望だからですよ。美羽さん」

 

 独白のように呟くと、これまで黙っていた燐が口を開いた。

 

「きっと、絶望だったらもって百年ぐらいだと思います。希望だったから、前に向こう、前に進もうって意志だから千年も時を重ねることが出来て、薫さんに届いたんです。美羽さんだって、そうだと思います。毎晩遅くまで、色々調べものしたりしてたじゃないですか」

 

 見られていたのかと思い、顔が熱くなる。

 ただ、それもそうか。

 燐達はずっと私を守ってくれていたから……。

 

「美羽さん、顔を上げてください。前向いて、前へと進んで……今を精一杯生きましょう。そうしたら未来が待ってるんです……って、偉そうなこと言えるような立場じゃ全然ないんですけど」

「そう、ね……。燐に言われる筋合いはないわね」

 

 そんなバッサリ切り捨てなくてもなんて、燐の泣き言を聞いた。

 ふふ、バーカ。

 

「薫も、センも、そしてあなたもよ燐。私をその気にさせた責任はちゃんと取りなさいよね」

「へ……?」

「だから、今を精一杯生きろってやつ。あなたもよ燐。あなたも、あなたの今を精一杯生きて」

「美羽さん……。ふふ、はい」

 

 穏やかに、燐は返事をした。

 そして、何かを思い出したようで懐から私があげた貝殻を取り出した。

 

「これ、あげます」

「あげますって、返すの間違いじゃなくて?」

「いいからいいから。どうぞ」

 

 なんだというんだと貝殻を手に取る。

 別に、おかしなところは……。

 貝殻の中を見て気付いた。

 これは……。

 

「お世話になってるので、感謝の気持ち……ということで。美羽さんの目と同じ綺麗な紅色だなって思って……。って、どうしたんですか美羽さん!? 泣くなんて嫌でしたか……?」

 

 燐に言われて気付いた。

 私は、泣いていた。

 だって、私の目を綺麗だなんて言って……!

 

「本当に……本当にあなたは……!」

「えっ、えっ! ごめんなさい! 本当にごめんなさい!」 

「もう……! ……ふふっ。ふふふっ……」

 

 地べたに頭をすりつけて謝る燐に思わず笑ってしまった。

 もう、笑わせるのは卑怯でしょ。

 

「えっと……? え、もしかして怒ってない……?」

「そうね……その質問をする燐に怒るかもしれないわ」

「じゃあしません!」

「あ、それはそれで怒るわ」

「どうしろって言うんですか!?」

 

 笑った。

 とにかく笑った。

 ああ、そうだ……。

 願わくは、こうして貴方とずっと笑っていたい。

 貴方と共に、いたい……。

 けど、それは駄目なのよね。

 貴方の今は、今でないから。

 ああ、どうしてかしら。

 神様、今ばかりはあなたを怨ませて。

 私を燐と同じ時代に生まれさせなかったあなたを。

 私を燐と違う世界に産み落としたあなたを。

 

「あはは! 燐は女心を勉強なさい! 多分無理だと思うけど」

「そんなことないですって! そのうち分かるようになりますって」

「それはそれで癪」

「もうなんなんですか……」

 

 もう本当に、こんなに笑ったのは人生初めてってぐらい笑いが止まらない。

 神様がこれまでの私の人生辛いことと幸福なことの釣り合いを急に取りに来たみたい。

 さっき怨ませてって言ったからかしら?

 でも赦さないわ。

 赦してほしければ、いつか輪廻の果てに────。

 

 ひどい悪寒がした。

 これは、いけない────!

 

「バケゲンブの封印が、解かれようとしている……!」

「美羽さん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 平和な村は一瞬にして地獄と化した。

 逃げ惑う人々の悲鳴、焼ける家の崩れる音。

 魔人は闊歩し、化神が荒れ狂う。

 

『あひゃひゃ。旨そうな童だぁ』

 

「おっとう! おっかあ!」

 

 化神が子供に牙を剥く。

 だが、その牙は届かない。

 豪腕によりへし折られた。

 

『あがぁぁぁ!?!?』

 

「お前ら……。流石の私もキレたよ」

 

 仮面ライダーレイダーが化神の首を掴み上げ、殴る、殴る、殴る、殴る。

 ボロ雑巾のようになった化神を投げ捨て、次へ。

 修羅の如しレイダーが魔人を、化神を屠っていく。

 

「来ぉいッ!!!!!! 私が相手だ!!!!!! 誰一人生かして帰すなんてことはしない!!!! 地獄送りだッ!!!!!! うおおおおお!!!!!!!!!」

 

 魔人の群れへと突撃するレイダー。

 どれほどの攻撃を受けようと、怯まず。

 どれほど数がいようと関係ない。

 殴り倒し、殴り倒し、殴り倒し。

 殺したと思ってもまだ息がある奴がいようものなら確実に葬っていく。

 

「きゃあああ!!!!!」

 

 聞こえた悲鳴に反応し、襲われている子供と母親の元へ跳ぶ。

 親子を襲うメタローを押し倒しマウントを取るとひたすらに殴り続けて爆発。

 

「ふう~。大丈夫?」

 

 穏やかな声色で親子の無事を問うレイダー。だが、親子の恐怖の目はメタローだけでなくレイダーにも向けられていた。

 

「ば、化物……!」

 

 母親はそう言って子供を抱え走り出した。

 取り残されたレイダーはただぼうと立ち尽くすのみ。

 

「化物、か……」

 

 棒立ちのレイダーを周囲のメタロー、化神達が狙う。

 この戦場でそんなことをしては格好の的となる。

 そして、一体の化神がレイダーに向かって背後から飛び掛かった。

 しかし。

 

『ぎゃっ!?!?』

 

 まるで力の入っていない体勢から放たれた恐るべき速度の裏拳が化神の顔面を潰した。

 

「化物……上等ッ!!!」

 

 仮面の下、遊は目を見開き笑みを浮かべると再び暴力の嵐となって異形を討ち滅ぼしていく。

 笑いながら。

 闘争に狂う少女の笑い声が、異形達へのレクイエム。

 ここは、地獄変。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜舞神社へと続く石階段では仮面ライダーグリムが防衛戦を行っていた。

 神社に逃げ込んだ人々も多く、なんとしてもここは死守しなければならない。

 契約モンスターである巨大な赤いワニ、グランゲーターも召喚しその大顎で異形共を噛み砕く。

 更に、グリムはカードの効果で周囲を浸水させて自身とグランゲーターに有利なフィールドとする。

 また、水が張られたことで足を取られる異形達。

 

『相手は小娘一人だぞ! 何をしている!』

 

「はっ! 小娘舐めんな!」

 

 異形を撫で斬り、蹴り落とし。

 絶対に、絶対にここは死守すると固く誓う。

 

『あはは~♥️ お姉さんも剣士なんだ~。じゃあ、ティーとヤろう♥️』

 

「なに、こいつ……!」

 

 異形の群れを割いて現れる白き凶剣Tマーダー。

 モード・スプリームセイバーの姿でグリムへと斬りかかる。

 

「速っ!?」

 

『この程度で驚いてもらっちゃ困るな~。ほら! ほらほらほらほら♥️』

 

 Tマーダーの剣に次々と後退していくグリム。

 頭上の優位を得ているというのに。なんとかして押し返さなければと思うがTマーダーの登場に化神もメタローも勢いづいてどんどん防衛線が下がっていく。

 

「くっ……うおおおお!!!!!!」

 

 気合の叫びを上げ、これ以上下がらないと踏みとどまる。

 それを見たTマーダーは感心し、更に剣速を上げた。

 

『すごいすご~い♥️ けど、ティーには及ばないかな~』

 

「しまっ……!?」

 

 双剣を交差させ受け止めたTマーダーの太刀の刃が横を向く。

 滑るように左の剣を払いのけ防御は瓦解。

 左へ振り抜いた太刀の刃が返され、一閃。

 

「きゃああッ!?」

 

 防衛戦崩壊。

 倒れたグリムを無視してTマーダーはいよいよ鳥居を潜って境内へと侵入した。

 

「待、て……!」

 

『お姉さんにはもう興味ないかな~』

 

 ばいばーいとTマーダーはバケゲンブの封印とやらを探し始める。

 そして化神、メタローもまたTマーダーに続こうとし……。

 

「退魔覆滅技法!」

 

『あん?』

 

「翔槍蝶閃!」

 

 閃く、一条の紅。

 厄除の槍が無数の異形達を貫き、天へと翔けていった。

 

「大丈夫美也!?」

「美羽さん……。なん、とか……」

「無理しないで。燐も来たから少し休みなさい。私はバケゲンブの封印を守る……!」

 

 グリムを抱き起こし、マイヤはそう伝えるがグリムは立ち上がる。

 

「こんなとこでへばってられない! 影守美也は……人を守るために戦うんだから! うおおおお!!!!!!」

 

 グリムは駆け出す。

 Tマーダーへと向かって。

 たとえ、何度斬り捨てられても立ち上がるつもりだ。

 誰も死なせないために。

 

「美也さん……! 僕も人を守るために!」

 

 グリムに続き、ツルギもまたTマーダーへと向かっていった。

 再戦、次こそはという想いを今は捨てる。

 人を守るために戦う。

 リベンジだとかそんなことは一切頭にない。

 

『あ~パパ~♥️ お姉さんと二人で遊んでくれるの?♥️』

 

「パ、パパぁ!?」

「あいつ、僕のデータから生まれたんだって」

「なるほど。似てると思った!」

 

『二人でお喋りずるいな~。ティーも混ぜて~♥️』

 

 斬りかかるTマーダーを回避しツルギは太刀を、グリムは両手剣を手にして二人で迎え撃つ。

 だが、やはりTマーダーは強い。

 二人の剣をものともせず、寄せ付けない。

 息のあった連携もすぐに崩されてしまう。

 

「燐くんサバイブ!」

「ああ!」

 

『なにそれ~?』

 

 サバイブを使おうとするツルギだったがTマーダーがそれを許さない。

 

『もう。純粋に剣だけで勝負しないといや! いや~!』

 

「ぐあッ!?」

「うぅッ!?」

 

 これまでで最速の居合がTマーダーより放たれる。

 二人同時に切り裂かれ、変身が解除される。

 

『ふふ~ん♥️ パパ~これからバケゲンブってのを復活させるんだって❤️ 見ててね❤️ ティーがやっちゃうから♥️』

 

「よせ……!」

 

 立ち上がり、Tマーダーを止めようとするが膝から崩れ落ちてしまう。

 先程の一撃がかなり効いているのだ。

 

「美羽、さん……! くそッ!」

 

 呼び出したスラッシュバイザーを杖代わりにして立ち上がりTマーダーを追い、美羽のところへ向かう。

 美羽はバケゲンブが封印された槍の刃が祀られている本殿にいた。

 刃が納められている木箱には護符が貼られているが黒く変色しつつあった。

 

「くっ……。バケゲンブめ、穢れに反応して……!」

 

 村を襲撃する数多の化神達の穢れ、そして人々の恐怖や絶望を糧にしてバケゲンブは封印を破ろうとしていた。

 

「やらせないわ……。ここでこいつが復活したら最悪よ……」

 

『そうだね♥️ 最高に最悪だね♥️』

 

「ッ! お前は!?」

 

 太刀を弄びながら現れたTマーダーは余裕あり気に歩き、美羽へと近付いていく。

 そして、消えた。

 あまりの速さに消えてしまったかのように見えたのだ。

 放たれた突きを美羽は寸前で回避するが、突きの余波が衝撃となって美羽を襲う。

 バランスを崩し、転倒した美羽は刃が納められた木箱を離してしまった。

 

『壊しちゃう♥️』

 

 宙を舞う木箱に突きを穿ち、木箱は粉々に砕け散る。

 中に入っていた刃に直撃こそしなかったが、太刀が刃を掠め、欠けてしまった。

 その欠けから溢れ出る黒い靄、穢れ。

 

「しまった!?」

 

『なにこれ~!? 気持ち悪い! 嫌だティー帰る!』

 

 Tマーダーは自身に纏わりつく靄を払い、ゲートを作って撤退。

 黒い靄の流出は激しく、靄は化神やメタローを捕食していく。

 バケゲンブ復活のための礎となれと。

 

「美羽さん……!」

「燐!」

 

 黒い靄を切り裂き、燐は美羽と合流した。

 どうすればいいと燐は尋ねると美羽は目を閉じ、自分自身に言い聞かせるようにこれからすべきことを告げる。

 

「まず、バケゲンブの封印を張り直すわ……。これは私の役目。燐、あなたはここにいて……。私のことを、守って」

「……分かりました。美羽さんのこと、絶対に守ります」

 

 力強く、燐は美羽を守ると誓う。

 スラッシュバイザーを握り締め、剣に。

 心に。

 美羽を、人を守るという信念を貫く。

 

「燐、ありがとう」

 

 燐の背にそう伝えた美羽は刃を奉り、厄除の槍を呼び出し構える。

 そして、舞いを始める。

 夜舞神楽。

 バケゲンブ封印の際に用いた技。

 美しき蝶の舞。

 祈る。

 平和を。

 夢を。

 未来を────。

 

「美羽さん……」

 

 燐はその舞に目を奪われていた。

 舞に、美羽に。

 この世ならざる、美しさ。幻想に心を囚われる。

 だが、美羽を守るとこの身は誓った。

 あの美しいものを守るのだと。

 

 徐々に黒い靄は消え去っていき、再封印の儀は成功に見えた。

 

『……ハネ……』

 

(!? この声は……!)

 

『ミハネ……美羽ぇ!!! 許さぬ、許さぬぞ! 今こそ復活しお前の肉を喰らう!』

 

 刃より響く怨嗟はバケゲンブのもの。

 ほぼ消え去った黒い靄だったが、これまで以上の穢れが刃から溢れ出る。

 その衝撃で美羽は倒れる。

 

「美羽さん!」

「くっ……。今の私じゃ……!」

 

 美羽の神通力はTマーダーとの遭遇戦やこの戦いの中で消耗していた。

 万全とは言えない状態ではあったがそれでも封印は可能だろうと計算し実行に移したが、バケゲンブの力。怨みは美羽の想像を越えるものであった。

 駆け寄る燐が美羽を抱き起こす。

 

「そんな……私はやっぱり……」

「美羽さん! まだ何か手はあるはずです!」

 

 そうは言ったが、燐自身にもこの事態をどうにかする方法など思い付いていなかった。

 

「何か手が……!」

 

 封印を張り直すには……。

 封印……。

 

「そういえば……!」

 

 デッキから取り出した一枚のカード。

 自分には必要ないだろうと思っていたもの。

 キョウカから渡されたSEAL、封印のカード。

 

「美羽さんこれも封印の力です!」

「これも……?」

「出来るか分からないですけど、賭けてみるしかありません!」

「……分かったわ。二人でやるわよ」

 

 立ち上がる美羽と燐。

 美羽は再び夜舞神楽を演じ、燐は封印のカードを刃へと向けた。

 舞は穢れを浄化し、封印のカードは穢れを吸い込んでいく。

 

「上手くいってる! これなら!」

 

『我が怨み……我が怨みはこんなものでは……!』

 

 再び溢れる穢れ。

 それにも負けじと二人は封印を執り行う。

 しかし、ここに来て封印のカードは限界を迎えようとしていた。

 

「そんな……!」

「あともう一押しなのに……!」

 

 美羽はとにかく舞い続けながらも考える。

 あと一押し、何か出来ないかと。

 

「力を……!」

「力……」

 

 燐はデッキを手にし、見つめた。

 力。

 自分が望んだもの。

 誰かを、大切な人達を守る力。

 もしも今、ここでバケゲンブを復活させてしまったら。

 最悪の想像が頭を過っていく。

 ゆえに、決意した。

 最後の一押し、最後の斬。

 どうなるかは分からない。まったく上手くいかないかもしれない。

 それでも、やらない理由はない。

 力が足りないというのなら。

 

「変身ッ!」

「燐!? 何を!?」

「はあぁぁぁッ!!!! ぜあぁぁぁッ!!!!」

 

 駆け抜けるツルギ。

 スラッシュバイザーを抜き、封印のカードを装填。

 

【SEAL】

 

 封印の刃へと剣先を突きつける────。

 

『なにぃぃぃぃ!!!!!!』

 

 穢れは封印のカードだけでなくツルギの剣と鎧。ツルギの力を媒介として吸い取り、あれほど漂っていた邪悪な気配は完全に消え去った。

 そして、ツルギの鎧が砕け散る。

 落ちたデッキは床を滑り、燐も倒れた。

 

「燐!?」

 

 しっかりなさいと美羽が抱き起こす。

 かろうじて意識はあるといった状態の燐は小さく、美羽の名を呼んだ。

 

「あなたまさか……。ツルギの力を封印のために……」

「あはは……。もう、それしかないと思ったから……。村の人達を、喜多村さんを、美也さんを……。美羽さんを、守るために……」

「燐……」

「これできっと、未来も……」

 

 守れた……。

 そう言って、燐は意識を失った。

 

「美羽さん! ……燐くん!?」

 

 本殿へとやって来た美也が美羽と倒れている燐を見つけて駆けつける。

 美羽が気絶しているだけだと教えると、美也は胸を撫で下ろした。

 

「よかった……。化神達も逃げたみたいで、もう無事だと思います。ただ……」

「被害は、大きいわね……」

「はい……。もっと、私が強かったら……!」

「自分を責めないの。貴女達のおかげで、たくさんの人が守られた。礼を言うわ。それに、壊れたのならまた直せばいい。この村だって、そうやって出来たのだから」

 

 バケゲンブにより荒れた土地であったのを耕し、人が住めるようにという想いによってこの村は生まれた。

 だから、次も同じことをするだけ。

 そう言って美也を励ました美羽。そんな二人のもとに遊もやって来た。

 何やら、大慌てで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少しずつ、意識が覚醒していく。

 身体の感覚が再生されて、ぴくりと指先を動かす。

 痛む場所は今はないようだ。

 自分が誰かもよく分かっている。

 御剣燐に異常はないようだと瞼を開く。

 暗い部屋の、知らない天井というありきたりな感想。

 丸型のLEDライトが吊り下げられている。

 

「……は」

 

 飛び起きる。

 自分が寝かされていたのはベッドだった。

 部屋にはテレビもあれば時計もある。

 着ているものも寝巻のようだ。

 デジタル時計が表示している日付は、現代のもの……。

 

「なん、で……」

 

 御剣燐の身体に異常はないが、御剣燐を取り巻く状況は異常だった。

 いや、普通に戻ったというのが正しいのだが。

 

「燐……」

 

 扉を開く音に続いて名前を呼ばれた。

 

「美……! 美玲、先輩……」

 

 目の錯覚か、幻覚か。一瞬、美玲先輩が美羽さんに見えてしまった。

 そんなこと、二人に失礼だ。

 

「燐!」

 

 美玲先輩が抱き付いてきた。

 泣いているのか、そんな音がする。

 美玲先輩にも、すごい心配をかけてしまった……。

 

「美玲先輩、すいません……」

「謝らないで……。今、貴方はここにいるから……」

 

 そうだ、僕はここにいる。

 どういうわけか、現代に戻っていた。

 僕は美羽さんと一緒にバケゲンブを再封印して、それから……。

 ああ、そうか。

 それで意識を失ったんだった。

 

「いろいろと混乱しているだろうから、影守達を呼んでくるわ。色々と聞きたいでしょうから」

「ありがとうございます……」

 

 美玲先輩は美也さん達を呼びに行った。

 本当に、何が起こって現代に戻ってきたのだろうか。

 ふと目に入ったのはテーブルの上に畳んで置かれた着物。

 僕が、着ていたやつ……。

 随分とボロボロにしてしまった。

 返さなきゃなと思っていたのに。

 

「ああ、帰ってきたんだな……」

 

 独白が、着物に染みた。

 目の奥が熱いが、そろそろみんなも来る頃だろうからと笑顔を作れるようにと口角を上げて、確認。

 ベッドへと腰かけると同時に、今風な格好をした美也さん達が部屋に入ってきた。

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