仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ 千年超越大戦 ツルギ×マイヤ   作:大ちゃんネオ

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深紅

 爆炎の中に立たされる仮面ライダー達。

 窮地だが、それでも怯むことはない。

 

「どうすりゃいいんだよあのデカブツ!」

「私達に任せて!」

「ああいうデカブツとは戦い慣れてるから」

「怪獣バトルの始まりと行こうか」

「いいねぇ、デカブツと闘うのも好きだよ!」

 

【ADVENT】

 

 召喚されし契約モンスター達。

 青き翼ガナーウイング。

 紅蓮鰐グランゲーター。

 帝白鯨テラーディープ。

 緑腕猩ガッツフォルテ。

 

 そして……。

 

「あの姿を相手にするなら!」

「こちらの姿で参ります」

 

 ツルギ・千蝶と剣ノ舞夜は鏡界の龍刃を鞘に納め、ツルギサバイブとマイヤ・アカツキへと姿を戻した。

 

「いくよ、ドラグブレイザー」

 

『ゴアァァァァァ!!!!!』

 

 サバイブの力に呼応し、空を飛ぶドラグスラッシャーの姿が変化する。

 聖剣嵐龍ドラグブレイザーへと。

 

「これは……」

「すっげぇ……」

 

 巨獣達の激しい戦いに目を奪われるマイヤ・アカツキとリンガ。

 そこへセンの叱咤が飛んだ。

 

「これ! お前達も戦え!」

「げっ……婆さん……!」

「私達もいきますよ、樹羅ちゃん」

「お、おう!」

「薫、英霊舞夜だ! 私も行く!」

「分かりました」

 

 マイヤ・アカツキは禍穿天照槍禍穿天照槍(がせんてんしょうのやり)を振るい、唱える。

 夜舞家千年の時を繋ぐ、大秘術。

 

「当代マイヤ 夜舞薫が奉る────。

 

 其は魔を祓う風、其は魔を断つ雷、其は魔を討つ炎。

 

 遥かなる古より魔を滅す血脈よ。

 

 今宵、時の大河より浮上し、再び夜に舞う蝶となれ。

 

 ────英霊舞夜ッ!」

 

 黄金の輝きに包まれ、マイヤ・アカツキの隣に34人のマイヤが並び立つ。

 夜舞家千年を彩る、英霊となりし歴代のマイヤ達。

 

『な……なんだあれは!?』

 

「我等が名は舞夜。あなた方、化神を滅する夜の蝶でございます」

 

 薫の言葉で一斉に構える歴代マイヤ達。だが。

 

「きゃ~薫~!」

 

 マイヤ・アカツキに抱きつく一人のマイヤ。

 34代目マイヤ。つまるところ薫の亡き母、夜舞楓である。

 

「お、お母様……。く、苦しいです……」

 

 薫とは違い、背も高く豊満な肉体でマイヤ・アカツキを包み込む。

 

「ま、マジで薫のお母さんなのか……?」

「え、リンガ? え、もしかして樹羅ちゃん? 大きくなったわね~!」

「ぐえっ!」

 

 リンガにも抱きつく楓マイヤ。

 懐かしい、昔もこうしたわねととにかくリンガを撫でるが時と場所を考えなければならない。

 

「こら楓! 戦いの最中だぞ! 後にしろ!」

「は~い。それじゃあ薫、今宵も行きましょう」

「はい!」

 

 そして、再会はもうひとつ。

 

「────燐」

「美羽、さん……」

「千年ぶりね」

 

 穏やかな声色で、ツルギサバイブに美羽のマイヤが語りかける。

 

「そうですね、千年ぶりです。それと、ありがとうございます。デッキを、残してくれて」

「ええ……。それじゃ、薙ぎ倒しちゃいましょうか」

「はい!」

 

 ツルギサバイブと美羽マイヤが駆け出す。

 襲い来る火球をツルギサバイブが斬り捨て、二人の背後に爆炎が咲く。

 

「……ばか」

 

 矢を飛ばし、ツルギサバイブが往く道を援護するアイズが怒りを少しだけ籠めて呟いた。

 そう、少しだけ。

 少しだけ。

 

「まあまあ美玲。昔の女を気にしても仕方ないだろう」

「射澄」

「なんだい」

「今の言葉、めちゃくちゃ腹が立った。帰ったらスイパラ奢りなさい」

「……太るから止めといた方がいいんじゃ」

「やけ食いしなきゃやってらんないのよ」

 

 射澄は悟った。

 この怒りの炎はしばらく鎮まることはないだろうと。

 無数のスイーツでも駄目だ。

 人柱が必要だ。

 御剣燐という名の。

 

「ああもう!」

「まったく、恋する乙女は怖いよ。見てる分には面白いからいいけどね!」

 

 いよいよ我慢ならないと駆け出す美玲の背中を見つめ、射澄はぼやく。

 

「射澄さんスイパラ奢ってくれるんですか! ごちになります!」

「やっふー! スイパラ~!」

「君達の分は奢らないよ。当然だけど」

「ケチ~!」

 

 ケチと呼ばれても気にせず無視する。

 この話を続けていては本当に奢らされかねないと。

 無視してバケオロチに向けてテラーディープと共に水流を放つ。

 

「燐!」

「美玲先輩!」

 

 先陣を切るツルギサバイブと美羽マイヤにアイズが追い付く。

 

「貴方の隣は、譲らないから」

「美玲先輩……」

「あなたがミレイね。燐の側室の」

「えっ!?」

「は?」

「冗談よ!」

 

 美羽の言葉はとんでもない爆弾の導火線に火をつけたようなものではないかと燐は内心ひどく恐怖した。

 冗談だと即座に言ったが、冗談で済むのかと。

 だが、すぐにそんなことを心配している場合ではなくなる。

 バケオロチが生んだ化神の軍勢が押し寄せ、ライダー達はその迎撃に当たる。

 

「────ぜあぁぁッ!!!」

 

 鞘に納めたスラッシュバイザーツバイを抜き放つ。

 居合。

 五体の化神を纏めて斬り伏せ、更に風の刃が数多の化神達を切り裂いていく。

 

「はあッ!」

 

 アイズは弓を分離させ双剣へと持ち替え、刃に青い炎を灯し迫る化神を切り伏せる。

 

「化神、覆滅!」

 

 美羽マイヤは舞うように徒手で化神を圧倒。

 手刀は紫光の刃となって、化神を両断。

 

 そして、ツルギサバイブがスラッシュバイザーツバイを納刀すると同時に化神達は爆発し滅せられる。

 爆炎を背にして立つ三人の姿は勇ましい。

 だが、まだまだ化神は現れる。

 

「ファイナルベントで吹っ飛ばしてやる!」

「お団子君ステイ。むやみやたらに大技を今撃っては駄目だ」

「化神の奴等、あの渦からわんさか出てきやがる……」

 

 リンガはバケオロチが発生させた穢れの渦を睨み付ける。

 化神はあの渦から次々と現れる。

 この場にいる化神達を倒しても、化神が尽きることはない。

 

「あの渦を破壊します! 英霊達よ!」

 

 薫の声に英霊マイヤ達が頷き、黄金の光となってマイヤ・アカツキに力を与える。

 黄金のマイヤ・アカツキ。

 その名も英霊襲(えいれいがさね)

 

「はっ!」

 

 光の蝶の羽を羽撃かせ黄金の軌跡を描き、黄金の蝶の群れと共に天高く飛び上がるマイヤ・アカツキ。ひらりと宙で一回転。

 美しく、優雅に。

 優雅だったからこそ、その加速はより鋭く。

 蝶の羽ばたきから、流星の如く。

 

「退魔覆滅技法! 千蝶一蹴・英霊襲ッ!!!」

 

 穢れの渦を蹴り貫くマイヤ・アカツキは勢いそのままに地上の化神達をも滅する。

 着地したマイヤ・アカツキの隣には英霊マイヤ達が並び立ち、その威光を示すかのよう。

 

「渦が破壊された!」

「これでもう増援は来ないってわけだ!」 

「残りの雑兵は我らが仕留める!」

 

 英霊マイヤ達はまだ健在の化神達の殲滅にかかった。

 

『馬鹿な!? こんな容易く……!?』

 

 おののくバケオロチ。

 これを好機とデッキからカードを引き抜くライダー達。

 一斉に自分達の切り札を発動させる。

 

 先陣を切るは仮面ライダーレイダー。

 契約モンスターであるガッツフォルテがレイダーを振り回し、勢いよく投げ飛ばす。

 

「おりゃあぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 砲弾の如くバケオロチに向かっていくレイダーの拳がバケオロチの頭部を打つ、打つ、打つ打つ打つ打つ!

 バケオロチは殴り飛ばされ、その隙に第二、第三の攻撃が始まる。

 

「さぁて、大波を起こそうか」

「濁流つきですよ!」

 

【FINAL VENT】

 

【FINAL VENT】

 

「ふっ、はぁぁぁぁ!!!!!」

「たあっー!!!」

 

 ヴァールとグリムのファイナルベントが発動。

 大鯨テラーディープと紅い鰐グランゲーターが大波、濁流と共に現れ、ヴァールとグリムはそれぞれのモンスターの背に乗りバケオロチへと吶喊。

 巨大なモンスターの突進とそれぞれの武器、トライデントと双剣による斬撃がバケオロチに叩き込まれる。

 

「鱗牙ッ! 逆鱗咆哮ッ!」

 

 リンガの全身の鱗が逆立っていく。

 鋭く、攻撃的な姿。鱗牙・逆鱗咆哮へと変化。

 リンガの全身から蒸気が立ち込め、漲る力が今、炸裂する!

 

「退魔覆滅技法! 飛爪森羅(ひそうしんら)ッ!!!」

 

 鋭さを増した爪を横薙ぎに振るい切り裂かれる大気が斬撃波となってバケオロチの胴体に巨大な五つの裂傷を刻み込む。

 技を放ったリンガは元の姿へと戻ると、その横をアイズが駆け抜けていった。

 

「終わらせるわ」

 

【FINAL VENT】

 

 バックルからカードを引き抜いたアイズは弩型の召喚機へカードを挿入し、バケオロチへと向かって疾駆。

 両足には鉤爪型の武装が装着され、アイズの契約モンスター、ガナーウイングがアイズに追随しその背に装着されるとアイズは大地を蹴り、飛翔。

 アイズの肩越しにガナーウイングのニ門の砲が火を吹き、バケオロチの頭部を狙い砲撃しながらアイズは急降下。

 青い炎を纏った脚が、バケオロチの顔面を蹴り飛ばす。

 

『ぐあぁぁぁぁ!?!?』 

 

「こいつまだ耐えるの!?」

 

 五人の必殺技を受けてなおバケオロチは健在。

 確実にダメージは入っているが、怨みを晴らすことへの執着が驚異的な耐久力を生み出していた。

 空へと舞い上がり、再び火球による攻撃をしようとするバケオロチであったが、ドラグブレイダーの背に乗ったツルギサバイブとマイヤ・アカツキが追撃。

 バケオロチの口から放たれる業火を回避し、ドラグブレイダーとツルギサバイブ、マイヤ・アカツキはそれぞれの得物に力をこめる。そして、一斉に放つ斬撃波がバケオロチの背に命中。

 体勢を崩し、落下していくバケオロチ。地面に叩き付けられ、細長い巨躯を震わせながら地面を這い、鎌首をもたげ、着地したツルギサバイブとマイヤ・アカツキを見下した。 

 

『何故だ……何故だ! 何故、何故届かない! 我が怨みは! 千年怨み続けたのだぞ!!! それが何故!?』

 

「そんなものが届くものか!」

 

『なに!?』

 

「あなたが積み上げた千年の怨みなど……。我らが積み上げた千年の希望に。我らがこれより紡ぐ未来に、傷一つつけることなど出来ません!」

 

『おのれぇぇぇぇぇ!!!!!!』

 

 バケオロチの口腔に滾る、紅く怨みの念が滾る炎。

 喰らえば死は確実と思わせる迫力。

 だが、仮面ライダーは退かない。

 

【FINAL VENT】

 

 ツルギサバイブはカードを切る。

 切り札、ファイナルベントをスラッシュバイザーツバイの鞘にあるカード挿入口に装填。

 スラッシュバイザーツバイの刃が嵐を纏い、ドラグブレイダーの背に備わる二本の剣、そして口にも同様に白い竜巻が巻き起こる。

 

「退魔覆滅技法……!」

 

 マイヤ・アカツキは槍をバケオロチへと向けると刃が展開し、刃の中央に備わる陽真珠が太陽のように燃え盛り、光を放つ。

 

『死ねぇぇぇぇ!!!!!!!』

 

 バケオロチ渾身の一撃。穢れ、怨みを滾らせた紅い炎が放たれる。

 それと同時に、ツルギサバイブとマイヤ・アカツキもまたそれぞれの技を撃ち出す。

 

「ぜあぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 スラッシュバイザーツバイを振り下ろし、ドラグブレイダーと共に四つの竜巻を繰り出すツルギサバイブのファイナルベント。ドラグブレイドホワイトストームがバケオロチの炎と拮抗。

 否、竜巻が炎を絡め取り、白い竜巻は深紅の炎を纏っていく。

 

「日輪光流破ッ!!!」

 

 禍穿天照槍から放たれる光の奔流がドラグブレイドホワイトストームの竜巻を貫き、バケオロチは光を見た。

 己が炎を纏いし竜巻と、太陽の如き光。

 その二つが、バケオロチの肉体を切り裂き、焦がしていく。

 

『まだ……まだ、私は……』

 

 バケオロチの黒き巨躯は塵となって消滅していく。

 だが、まだ最後の抵抗をと辛うじて怪人態となったバケオロチが光と竜巻の中、大太刀を手にした。

 

『死ね……マイヤ……。ツルギ……!』

 

 大太刀から最後の一太刀を浴びせようと振り上げるバケオロチ。

 しかし、バケオロチは最期の瞬間に目を見開いた。

 風と炎と光を突き破り、ツルギサバイブとマイヤ・アカツキがバケオロチの眼前に現れる。

 二人の仮面ライダーは互いの背を預けるようにして、正義の風、炎、光を纏い────ダブルライダーキックを放った!

 

「ぜあぁぁぁぁぁ!!!!!!」

「はぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

『なに……!?』

 

 咄嗟に大太刀で防御の構えを取ったバケオロチであったが、ダブルライダーキックの前に大太刀は容易く砕け散り、二人のキックがバケオロチの胸を蹴り飛ばす。

 空に舞う、バケオロチの身体。

 ツルギサバイブとマイヤ・アカツキはバケオロチへ背を向け着地。

 

『バケゲンブ様……。今、おそばに……』

 

 遺言は届かない。

 バケオロチは、明けの明星と散っていく。

 長い戦いの終わり……。

 仮面ライダーの勝利だ────!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 変身を解いた瞬間、視界が揺らぐ。一瞬、身体中から力が抜けてしまったのだ。

 それでも、支えてくれる人がいた。

 

「大丈夫でございますか?」

「薫さん……。ありがとう。流石にちょっと、疲れちゃって」

「あのTマーダーだっけ? あいつとの連戦からこれだもん仕方ないよ」

「ああ。それに、私達は都合上、こんな長時間戦わないからね」

 

 そう口にする美也さんと射澄さんの顔にも疲労が見えた。

 

「いや~久しぶりにお腹いっぱいって感じだな~。でもやっぱりもうちょっとヤり合いたかったかも」

 

 遊さんは通常運転。

 

「薫は大丈夫か?」

「はい……。これといって、特に……」

 

 この背の高い金髪の人は誰だっけ……。

 

「樹羅だよ!」

「心を読まれた……!?」

「顔に書いてあんだよ……。御伽装士リンガだ。覚えとけよ」

「あ、うん……。僕は御剣燐です……」

「ふふ……。リンガと、リンさん……」

 

 名前が似ていると、薫さんはどこか嬉しそうに笑っていた。

 

「燐、大丈夫?」

「美玲先輩……。なんか、自分が思ってる以上にボロボロですけど、まあ、なんとか」

「そう……。一旦休んだ方がいいわね。ねえ、夜舞────」

 

 美玲先輩は、薫さんを呼んだつもりだったのだろう。

 しかし、今、ここには。

 

「「「「「「「はい」」」」」」」

 

 夜舞さんが、35人もいらっしゃる。

 全員が返事するものだから、流石の美玲先輩もぎょっとしていた。

 薫さんの力で現世に蘇った英霊の皆さん。

 戦いが終わって、皆さん変身を解いている。

 ……美羽さんは……。

 

「あ、あの!」

「はい?」

 

 美羽さんを探していると、美羽さんに似た女性に声をかけられた。

 いや、みんな大体美羽さんに似た女性か……。

 でも、そう、美羽さんとは違って人当たりが柔らかそうな雰囲気がするというか、子犬っぽい感じがする。

 

「私、二代目舞夜の夜舞千代と申します」

「二代目……って、ことは美羽さんの娘さん?」

「はい! 剣義様でいらっしゃいますよね!」

 

 その質問には苦笑いで答えた。

 やはり、慣れない。

 様付けで呼ばれるような人間じゃないので、僕は。

 

「母上からお話は何度も聞きました!」

「そ、そうなんですね……」 

 

 ぐいっと近付いてくる二代目の千代さん。

 なんだか、少しずつヒートアップしていっているような。というか、興奮しているような……。

 

「単刀直入にお伺いいたします!」

「は、はい……」

「ずばりですねぇ……私の父上であらせられますか!?」

 

 その瞬間、世界の時が止まったかのようであった。

 なんだ、なんだって?

 誰が、誰の、父親だって?

 

「剣義様のお話をされる母上のお顔はいつも優しくありながらも寂しさを帯びておりました……。これはつまり! 母上と剣義様は特別なご関係にあった! ……のではないかと推察! 母上はこの事についていつもはぐらかしておりましたので……。どうなのですか父上!?」

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください! そんな、僕は違っ……」 

「ふむ……。顔立ちは確かに燐くんに似ているねぇ」

 

 射澄さん!?

 

「雰囲気もなんかぽいよね~」

 

 美也さん!?

 

「ていうかさ、燐くん。美羽さんと……」

「え?」

「は?」

「ほ?」

「……なに?」

「ああ~。そりゃあもう、神社で昼間から美羽さんと……。って、女子に言わせるの?」

「ヤってたヤってた」

 

 美也さんが躊躇った言葉を、喜多村さんは遠慮なく言ってのけやがった。

 

「何の話!?」

「神社で昼間から!? 父上と母上そんな背徳的な……!」

 

 おかしいおかしい!

 話がおかしな方向に広がっていっている!

 夜舞家の皆さん方もすごいざわついてる!

 

「そういえば、美羽様の伴侶については記録になかったねぇ」

 

 薫さんのおばあさんが思い出したように言った。

 

「……燐さんは、私のご先祖様ということでよろしいでしょうか?」

「よろしくないよろしくない!」

「こらー! 男としてちゃんと責任を取るべきじゃないかなー!」

「責任もなにもないですって!」

「父上~~~!!!!!」

「だから違いますって!」

 

 抱きついて泣きつく千代さんを引き剥がそうとする。

 けどなんだこの人! 見た目のわりに力が強くて剥がせそうにない!

 困っていたら、これまた美羽さん似の右目を髪で隠し、口元は首巻きで覆った青年が千代さんを引き剥がしてくれた。

 

「あー、すんません。お袋、父親を知らずに育ったんで父性に飢えてて……」

「お袋……ってことは、三代目?」

「っす。三代目マイヤの夜舞遊羽(ゆうは)っす。……お祖父様って呼んだ方がいいっすか?」

「よくないです」

 

 こんな大きな孫なんて僕は知らないぞ!

 結婚だってまだだってのに……。

 

「美玲……? 大丈夫……?」

 

 その瞬間、背筋がひやりとした。

 美玲、先輩……。

 

「……別に、なんともないから。ちょっと……目にゴミが……入った……だけ……」

 

 美玲先輩が、両手で顔を覆っていた。

 隠しきれない、啜り泣く声。

 美玲先輩に寄り添う射澄さん達の非難の目が僕に向けられるが、そんなもの向けられようが向けられまいが、罪悪感が、その、とても、すごい。

 

「美玲先輩本当に違いますから! 違うんです何もかも!」

「父上!!!!!!!」

「だから違うって!!!!」

「男なら認めるべきじゃないっすかねぇ。お祖父様」

「父上~~~!!!!!!!」

「ちょ、ちょっとちょっと子孫ども全員黙りなさい!」

 

 それは、今までどういう心境でいたか分からない美羽さんの声であった。

 英霊の皆さんをかき分けて僕達の前に立つ美羽さんが声を上げた。

 

「まったく……。はい子孫達は去る! 死人がいつまでも現世にいるもんじゃない!」

「母上~! 父上にもっと甘えたいです~!!!」

「いい大人がなに言ってんの」

「うぅ……母上相変わらず厳しい……」

 

 美羽さんの鶴の一声で、歴代のマイヤの皆さんは消滅していった。

 ほとんどの皆さんが、どこか不服そうにしながら。

 

「じゃあね薫、樹羅ちゃん。あ、竜くんにもよろしく伝えといてね~」

「……薫の母さん、変わんねえな」

「亡くなったからといって、人が変わるということもないでしょう……」

 

 あちらはあちらで妙なやり取りをしている。

 ……そっか、薫さんのお母さんは亡くなっているのか。それはきっと悲しくて、寂しいことだろうけれど、この夜舞家千年の想いが彼女に味方している。

 重い責任もあるだろうけれど、なによりも頼もしい味方である。

 それが、彼女の強さなのだろう。

 

「はあ……。まさか千代があそこまで……寂しい思いをさせたのは事実だけど……」

「あの、美羽さん」

「……ちょっと待ってなさい」

 

 美羽さんはそう言うと、泣いている美玲先輩へと歩み寄ると耳元で何かを囁いたようだった。

 すると、両手で顔を覆っていた美玲先輩がはっと顔を上げた。一体、何を言ったのだろうか。

 

「それでね、図々しいとは思うし貴女の心境を考えると信用してはもらえないと思うんだけど……。少しだけ、燐と二人になってもいいかしら。亡霊の最後の願いを……叶えさせてほしいの」

「……分かりました」

「────! いいの?」

「……今、燐の一番近くにいる者の余裕です」

「ありがとう。あ、そういえばね……」

 

 再び、美羽さんはこそこそと周りに聞こえないよう美玲先輩の耳元で話した。

 すると、また美玲先輩の目が見開いて、一瞬僕の方を見るととても含みのある表情を浮かべた。

 ふーん、と。余裕ありげというか、僕の弱みを握ったぞとでも言いたげな。その顔を向けられた側からすると、何かとても恐ろしいことが起こってしまった気がする。

 

「それじゃあ、燐を少し借りるわね」

「はい。どうぞ」

「ありがと。じゃ、燐。ちょっとついてきなさい」

「え、あ、はい……」

 

 美玲先輩の顔を窺う。

 いつも通りの無表情だが、なんだか複雑な表情が織り込まれているような気がする。

 戻ってきたら、色々と覚悟しなければいけないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「変わらないわね、ここは」

 

 夜舞神社の長い石段を上り詰め、境内を眺める美羽さんは嬉しそうだった。

 たしかに、ここはほとんど変わらない。

 千年という月日で修理したり、建て直したり、新しく生まれたりしたものもあるけれど、それでもここは千年間ずっと守られ続けてきた。

 美羽さんが唯一、現代でも落ち着ける場所だろう。

 

「さてと、あまり時間もないものだし……」

 

 美羽さんは石段に腰を下ろすと、左手でぽんぽんとその隣を叩いた。

 座れという意味だ。

 正直な話、この階段を上るのにもかなり体力を使ったので座るのはありがたい。

 ぽんと美羽さんの隣に座ると、沈黙が続いた。

 

「……」

「……」 

 

 時間がないと言ったのは、美羽さんの方だ。

 しかし、美羽さんは視線は落ち着かず、何か言葉を発しようと口を開いては閉じてを繰り返していた。

 こうなれば、僕から切り出すのがいいだろう。

 

「改めてですけど、デッキを残してくれてありがとうございました。おかげで助かりました」

「え、ええ……まあ、それはね……」

「あ、あとあの太刀もですね。作ったの美羽さんですよね、あれ」

「な!? なんで分かったのよ!?」

「え、だってあれから美羽さんの感じがしたので……」

「またそういうこと言う……。まあ? 千年後色々と厄介なことが起こるってのは分かってるんだから対策なりはしとこうと思っただけよ。別に他意とかないから!」

 

 それは他意があると言っているようなものではないだろうか。

 そんな言葉が喉元までせり上がってきたが、ぐっと飲み込んだ。

 

「……さっきはごめんなさいね、千代達が。あと、私もちょっと燐をからかうつもりで黙っていたのだけれど……ちょっとじゃすまなくなったわね……。本当に申し訳ないわ……」

「え、ああ……。あれには困りましたけど……。けど、美羽さんに娘さんが生まれて、僕も嬉しいです。旦那さんの記録ないとか言われてましたけど、どんな人なんですか?」

「言いたくない」

 

 即答。

 それに、どこか怒っているようだ。

 記録にないということは、記録したくない人ということでもあるのだろう。

 これは、完全に話題のチョイスを誤った。

 なので、話題を切り換える。

 

「あ、そういえばこれ」

「何よ……って、ああそれ……」

 

 ポケットに入れていたものを取り出し、手のひらに乗せて美羽さんに見せた。

 僕が渡した口紅。

 もうすっかり乾いてしまっているけれど、美羽さんはどうやらこれを使うことはなかったらしい。

 

「せっかくあげたのに使ってくれないなんて。もったいないじゃないですか」

「だって、それは……」

 

 美羽さんは再び口を閉ざしてしまい、視線を落としていた。

 まだ、美羽さんの言葉は引き出せないか。

 ────いや。

 

「すぅ……はあ……。燐、それ渡して」

 

 言われた通り、口紅を入れた貝殻を美羽さんに手渡した。

 すると貝殻は千年前の輝きを取り戻し、中の紅もまた、その色を取り戻した。

 何かの術か、何かの力か、千年前の存在である美羽さんが触れたがゆえか。

 いや、今はそんなことはどうでもいい。

 かつて、薬指のことを紅差し指と呼んだらしい。

 口に紅を差すための指。

 雪のように白く繊細な指に一点、紅が染まる。

 その光景を見ることは、とても罪深いようで、神聖ゆえに見てはいけないもののような気がして。けれど、ずっと見てもいたいような気がして。

 さりとて、あまり見つめるのもやはり失礼だと明けゆく空に視線を移した。

 目を空から動かしはしなかった。

 だって、視線が動き過ぎては男として恥ずかしいから。

 だから、ずっと、空を見ていた。

 ただ唇に口紅を塗るだけというそれだけのことが隣で行われているのに、時間が引き伸ばされてしまったかのよう。あるいは止まってしまったのかもしれない。

 永遠にこの空を見つめ続けていたような気がする。

 

「────燐」

 

 その声が、永遠を終わらせた。

 それは、一刹那に咲いた深紅の華であった。

 その紅は華であり、火でもある。

 この目に焼きついて離れることはないだろう。

 忘却するようなことがあれば、きっと後悔するだろう。

 

「燐……。────」

 

 陽が昇る。

 大海の果てから、黄金の光が夜闇を照らす。

 その眩しさに一瞬目を閉ざす。

 再び瞳を開いた時、そこに、美羽さんの姿はなかった。 

 太陽が彼女を連れ去ってしまったかのよう。

 燐。

 それが、彼女の最後の言葉。

 いや、それは正しくもあり、間違いだ。

 僕の名に続いて、彼女の紅色の唇はたった二文字を告げていた。

 

「────本当に、ありがとう。美羽さん……。あなたのことは、決して忘れない」

 

 あなたが生きた証は、たしかに僕の中に刻み込まれた。

 黄金の夜明けの中で咲いた深紅の華、無垢な笑顔と共に────。

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