主人公が曇らされてばっかりの世界に、一般通過過負荷(マイナス)が、ダイナミックエントリー! 作:霓霞霖
All is fantasy.
コツコツと、足音を鳴らす。暗闇の中、2人分の足音が鳴っている。
2人は歩く。暗闇の中を、頼りない蝋燭の明かりを頼りに、2人は目的地を目指す。
「どないして俺がこない面倒な事せなあかんねん」
「件の下手人を尋問しろと、総隊長から指令が降ったからですよ。
「そないな事は分かっとるわ、
暗闇の中を歩いているのは、護廷十三隊五番隊現隊長・平子
平子は降された指令に不満を漏らし、部下はただ事実を述べる。それが却って平子の不満を煽っていた。
「俺が訊きたいんは、どうして五番隊の隊長が尋問に失敗した二番隊の尻拭いをせなあかんのかっちゅう話や」
そう。平子が不満を持っていたのは、そんな指令が降された事実ではない。本来自分が担っていないはずの仕事を、本来その仕事を担っている者たちに代わってやらされている事実である。
「『二番隊の尻拭い』と言うのは語弊があります。何せ、五番隊にお鉢が回ってくる以前に、一・三・四番隊にお鉢が回っていたのですから」
「せやから、何で尋問素人にやらせとんねん!二番隊に続けさせればええやろ!」
最初に尋問した二番隊を除いて、一番隊から順にお鉢が回ってきている現状。それは平子にとって、なおさら不満でならない事だった。専門家にできない事を素人連中に期待し、無駄に時間を割かせるなど、時間の浪費でしかないと、平子は考えているのだ。まぁ、本音は仕事を増やされたところにあるのだが。
その本音を見透かしている部下は、そんな平子に嘆息する他ない。
「……下手人の要望だから、という話です。各隊隊長・副隊長と定期的に話をさせてくれなければ、いますぐにでもこの『無間』から脱獄し、再度
「囚人の要望聞くなんちゅうやっちゃが、護廷十三隊に居るとは思わへんかったわ。そもそも、『無間』からどう脱獄する気なんや」
確かに件の下手人は
しかし、その下手人は既に捕らえられたのだ。ここ、真央地下大監獄最下層・第8監獄『無間』へ。ならば、相手の要望を呑む程の恐怖を抱く必要はないと、平子は思っていた。
今、その下手人の下に辿り着いたこの瞬間まで。
「平子、『シンジ――」
「なっ」
蝋燭の明かりで照らし出された下手人の姿に、平子は驚愕した。
『無間』へと投獄された者はその罪状に応じた拘束を施される。
ならば、口も塞がれているはずであり、声を発するなんて事はできるはずがない。というか、それどころの話ではない。
色が抜け落ちたような白髪、しっかり見えているのか疑わしい糸目、不気味な弧を描く口、少年のような若さを感じさせる顔、何処ぞの学生を思わせるブレザー制服にローファーという姿を、件の下手人は曝している。おまけに、何処から持ち込んだのか、執務机に肘を突き、顔の前で指を組んでいる。
簡潔に記そう。
件の下手人は、全ての拘束から逃れ、自由の身となっているのである。
そんな想定を越えてきた下手人が、また口を開こうとしている。平子は驚愕、それと恐怖で、ただその言葉を待つしかない。
「――エヴァに乗れ』」
「…………は?」
おかげで、と言えば良いのか、その下手人の意味不明な発言を耳にした事により、驚愕と恐怖から平子は解放された。代わりに今度は困惑で固まる事になるのだが。
「『乗らないなら帰れ』、なんてね」
「……エヴァって、なんやねん」
困惑状態でも、いや、困惑状態だからこそツッコミどころを逃さないのは、関西弁キャラの宿命だろうか。そういう事にしておこう。
「ガンダムみたいなものだよ*1」
「……ガンダムってなんやねん」
「『俺がガンダムだ』、なんてね」
「……お前に乗っかればええんか?」
「馬鹿を言わないでよ、男に乗られる趣味はないさ。あ、美女なら大歓迎だけどね。望めるなら僕のビームサ―――」
「言わさへんで!意味は全く分からへんが、下ネタなんは分かった!」
「ナイスツッコミ。これだから関西弁キャラの前でボケるのは止められない。ま、関西弁キャラの前以外でもボケるんだけど」
「……何なんや、こいつ」
頭は回り出したが、困惑は解けず、頭痛までしてくる平子だった。
「……隊長。あまり会話には付き合わず、早くこちらの話を進めた方が良いかと」
「そ、そうやな……。そうしよか……」
「お、次のコーナーに行くのかい?じゃあここは雰囲気を変えるため、BGMも変えよう」
下手人はあくまでボケ通すつもりで、ラジオ番組を真似るように何処からともかく音楽を流す。見れば、そこには蓄音機があり、そこから穏やかで、しかし荘厳さはない大衆音楽のようなそれを響かせている。
「……もうツッコまんで。ツッコまへんけど、ええ曲やな。なんて曲なん?」
「『hotgooっていう曲だゾ』、なんてね」
「hotgooか。今度現世へ行った奴に
「ごめん、今のなしで。……明確な曲名はないよ。ただ、『ジャズ』ってジャンルの曲だね。現世ではまだ流行ってないんじゃない?」
嘘と見抜いてもらえない嘘は止めると、密かに心に誓う下手人。そのミスを反省するように、素直に真実を伝えた。その態度で、さっきのはこっちに通じないネタだったんだろうなと、察する平子である。
「なら、そのレコードもらえへん?」
「『悪いな、○び太。このレコード1人用なんだ』、なんてね。『次にお前はっ――」
「3人で聞いとるんやけど」
「――3人で聞いとるんやけど――」
「―――と言う!』なんてね」
「はっ!ついツッコんでしもた!」
「驚くところそこですか……?」
「いかん、相手のペースや。流れを引き込まな。……という事で、そのジャズ言う曲をローズ*2に耳コピさせてくれ」
「引き込むべき流れはそっちですか……?」
最早ツッコミ役がボケ役に回り出したので、仕方なくツッコミ役に回る部下である。
「良いけど。次に彼の順番が回ってくるのはいつかなぁ。ま、次が回ってくるまで、彼に聞かせた『
「……この仕事ん後のローズが発狂しとった原因、それやないやろな」
「『知らん、そんな事は俺の管轄外だ』、なんてね」
平子含むローズと親しい者たちが、何かに憑りつかれたように楽譜を書きなぐっては奇声を上げるローズの姿を目撃したとか。そんな中、それでもローズが聞かされた曲の耳コピを完遂させたのは、また別のお話。
そして、下手人としてはそんな話、知ったこっちゃない。まぁ、『音楽得意ならこれを耳コピしてみてよ』と、嬉々としてそれら楽曲の耳コピを強要したのは何を隠そう、この下手人なのだが。
「隊長、そろそろ尋問をすべきかと……」
「……せやな。ほな、名前から改めて聞こか」
部下に呆れられながら注意された事で、平子は正気に戻ったと言うか、後で総隊長辺りにどやされるのを恐れて職務に戻った。
「
「名前以外聞いとらんし、おそらく名前以外嘘やろ」
そろそろ『なんてね』という言葉の前文が何かのネタである事に気付いた平子。そもそも何か文章がおかしかった年齢の下りから、平子は下手人・カイ*4の言葉を聞き流していた。英断である。
「酷いなぁ。永遠の17歳ってのはある意味間違いじゃないし、血液型がAB型なのは偽らざる真実だよ」
カイは全く信じてもらえない事に悲しみ、絶やさぬ笑みに少し苦みを混ぜた。
そう。カイという男がABの血液型を持ち、そして17歳で肉体年齢が止まっている永遠の17歳である事は、まぎれもない事実なのだ。
「……年の事が本当やとして、なんでお前は年を取らんねん」
「君たちがそれ聞く?魂魄のポテンシャル次第で外見年齢ずっと20歳だったりする君たち死神が?」
「質問しとるんはこっちや。なんで、死神でもないお前がずっと17歳なんやってな」
平子はカイを睨む。
死神には年を経る毎に霊圧を受け止める器が自然と強化されるが、その限界値が決まっている、魂魄のポテンシャルとでも呼ぶべきモノがあるのだが。その限界値に達するまで、死神は外見的に成長する。
そういうルールがあるために、その限界値が達すると外見的な成長が止まり、以て20歳の外見を何十年、何百年、下手したら何千年と保つ事がある。逆の例ではあるが、魂魄のポテンシャルが非常に高いため、外見年齢が老人のそれまで成長した者、護廷十三隊一番隊隊長にして総隊長、
ただし、前述の通り、これは死神のルールだ。死神以外には適応されない。死神ではないカイには、適応されないのだ。
「はいはい、ちゃんと会話のキャッチボールをしろってね。でもね、それでもあえて質問を返すよ。どうして僕が、年を取るなんて現実を受け入れなきゃいけないの?」
「現実逃避しとれば、年を取らないっちゅうんか?夢のある話やが、そんなん只人ができる訳あらへん」
「そうだね、まさしくユメだ。でも、僕ならできる。『
カイは笑みと、不気味さを深めた。
平子はその不気味さに思わず顔を顰める。平子は、本能的な忌避感に襲われたのだ。
火を目の前にした獣が抱くような、避けなければ自分の生命にかかわると鳴らされる警鐘。社会の異分子に出会った時のような、同じ空間に居るだけで感じる異物感。
できるならば今すぐにでもここを離れたい。そんな欲求を、平子は強い理性で跳ね除ける。
「……『マイナス』っちゅうんは何や。……お前は、何者なんや!」
「人間だよ」
カイは目を見開く。見せ付けた真っ黒の瞳には、純粋な思いが煮詰まっている。
「社会不適合者で、いじめられっ子で、人格破綻者で、負け犬で、社会全体のためにはさっさと消えた方が良い存在だけど――」
社会に適応できず、周りから虐められ、『普通』という存在になれず、勝つ事が許されない運命を背負わされ、社会に、いや、世界に存在を否定されているのだとしても――
「――僕は、人間だよ」
――それでも、自分はエゴを抱えて生きる生き物であると、その瞳は主張している。
「……隊長」
「……なんや」
「斬魄刀から、手を放してください」
「っ!」
平子は、部下から指摘されて初めて、自分がいつの間にかに斬魄刀を抜こうとしていた事に気付いた。
いつの間にかに、理性が忌避感に負けていたのだ。気が狂いかけていた、と言う方が正しいかもしれない。忌避感の原因を避けようとするのではなく、排除しようと本能的に動きかけていたのだから。
「……なるほど。……こら続けられんはずや」
平子はここに来て、カイの尋問役を順々に回している事へ納得を示した。
こんな奴への尋問を、毎日続けられる訳がない。この短時間で本能的な忌避感を抑えていた理性が限界に来ているのだ。こんなのを毎日続けていたら、気が狂ってしまう。
だからこそ、総隊長は尋問役を順々に回す選択を取った。決して、下手人の脅しに屈した訳ではない。それが最良の選択というだけの話だ。
「……最後に聞かせてや。お前が生き続ける動機はなんや。どうして生きよう思た」
再度気を引き締め、理性を取り戻した平子は問った。その存在理由を、至上命題を。
「さすが平子真子、良い質問だ。だから、その質問にはしっかり答えよう」
「僕は、完膚なきまでの敗北がしたいんだ」
「『完膚なきまでの敗北』、やと……?」
その答えに、平子はカイが理解の埒外に居る事を直感的に理解した。
交わらないのだ。此方と彼方の常識が、価値観が、世界観が。
それはそうだ。プラスとマイナスは、イコールにならない。交わる点は、
「隊長、尋問役を交代します」
「交代かい?そいつは良い。僕は五番隊副隊長・藍染惣右介くんともお話がしたかったんだ」
「お望み通り、僕が次の相手を務めるよ」
部下は平子の肩を引いて下がらせ、カイの目の前へと出た。
しかし、その部下を、カイは嘲笑う。
「冗談は顔だけにしてくれよ。僕は、『藍染惣右介』を指名したんだ」
「……そんなっ、まさか、藍染様の『鏡花水月』が効いていない!?」
部下は、動揺を露にした。
「落ち着きなさい」
第三者の声が、穏やかで平静なそれが、藍染の部下に掛けられた。
その声の主は、暗闇からゆっくりとその姿を現す。
「あ、藍染様……!」
「君は私の変わり身を続けなさい」
「はっ」
主の指示に従い、藍染の部下は藍染のなりすましを再開する。
藍染の部下は『鏡花水月』、その完全催眠にあやかり、藍染本人のように平子と会話している。
「やぁ、惣右介くん」
「カイ、私を試したね」
そうしてカイと藍染は、平子のすぐ傍で2人だけの密談を始めたのだった。
「止めてくれるかな、カイ。君のエミュは私には辛い」
「……『
○名前:
○性別:男性(気分次第で性転換もできるが、元々が男性であるし、滅多に性転換はしない)
○年齢:永遠の17歳(実際に生きている年数は300年を越えている)
○人物説明:『めだかボックス』の能力を持っているが、出身は『めだかボックス』ではなく、『めだかボックス』が漫画として存在する世界。他に『
色が抜け落ちたような白いウルフカット、17歳らしい若々しい童顔、現実が見えていないような糸目、常に不気味な笑みを絶やさない口という容貌に、何処の高校のとも言えないブレザー制服にローファーという装いをしている。
完膚なきまでの敗北をしたい、という望みを叶えるため、自分を打倒し得る存在の居ない故郷世界を早々に見限り、異世界、というかフィクションの世界へと転移した。転移は今回で2回目。1回目は前作である。
性格は、筆者自身も『見ての通り』としか表現できない。強いて無理矢理表現するなら、狂人である。