主人公が曇らされてばっかりの世界に、一般通過過負荷(マイナス)が、ダイナミックエントリー!   作:霓霞霖

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※ちょっと短め(4000字未満)です。ご了承ください。


10 MEMORY OF UNITY

 それは、カイが『狭間空間』に一時帰宅した日と同日の話である。

 何故、一時帰宅なのか。それは、真央地下大監獄最下層・第8監獄『無間』に収監されているカイを、護廷隊の隊長たちが日に最低1時間、監視しに来るからだ。時間はランダム、当日当番のヒトが決められる。何時間監視するかも、何回監視に来るかも、当番のヒトが気分で決められる。

 これは、脱獄できる事を悟らせたくないカイからしてみれば、どのタイミングで脱獄して良いか、分からなくなる仕様なのである。その事を意図して組まれた決まりかは不明だが。

 

 それで、そんな仕様なのに死神たちと戦った日から12日目に何故脱獄できたかと言えば、今日の当番が十一番隊隊長だからである。

 現十一番隊隊長は鬼厳城(きがんじょう)剣八(けんぱち)、公務すらサボる事で有名な彼だ。

 そう。サボり魔な鬼巌城がカイの監視なんて面倒な仕事をするはずがない。実際、鬼巌城はこの日、カイの監視に来る事はない。

 だから、カイはその事を予想し、監視が居ないそのタイミングを狙って脱獄したのである。

 ただ、そのタイミングを狙っていたのは、カイだけではなかった。

 

「……」

 

 人知れずカイの元に訪れた、藍染惣右介も、人の目がないこのタイミングを狙っていたのである。

 偏に、カイと密談するために。

 まぁ、藍染は今以て誰も座っていない拘束椅子を静かに見つめているだけなのだが。

 時間にしてみれば、その時間がまだ30分に満たないのが、せめてもの救いか。

 しかし、藍染も暇ではない。カイがいつでも好きに脱獄できるという事実を収穫とし、踵を返そうとした。

 その時だ。

 

「『お待たせ。待った?』なんてね。ちなみに、このセリフの僕のイメージはとあるVtuberだよ?まぁ、僕も彼女以外の元ネタははっきり思い出せないんだけどね。彼女が言い始める以前に聞いた覚えがあるんだけど。思い出せないんだよねぇ」

 

「……何処へ行っていたんだい?」

 

 いつの間にかに拘束椅子へと戻ってきて、さっそく意味不明な言葉を吐き連ねるカイ。そんな彼の対処をたった1度の交流で理解した藍染は、その理解を活かしてカイの言葉に付き合わない。内心では『Vtuber』なるモノが気になってはいるが。どうせ聞いても意味がないモノと、藍染は察している。

 

「『狭間空間』だよ、君たちが叫谷(きょうごく)モドキだと思っているあそこね」

 

「『まだバレたくない事がある』と、言っていたね。それの様子を見に行ったのかい?」

 

「そうそう。女の子の姿をした思念珠なんだけど、見た目に違わず目が離せない子でね?後、食糧事情整えないと最悪餓死しちゃうし。とりあえず、今回は食糧事情を解決してきたんだ」

 

「思念珠、か……。得心が行ったよ。それは、発見次第捕縛する対象、場合によって即時殺処分命令が下る存在だ」

 

 藍染は思念珠を知っていた。知った上で、自分の目的には使えないモノとして、興味の対象から外した存在なのである。

 しかし、目の前の男、カイが隠そうとするその思念珠には、興味が湧いている。

 

「何故その思念珠を隠そうと?」

 

「今バレると、どんな影響が出るか分からないからだよ。彼女の存在は、言うなれば野史(やし)だ。正史の方でもあったとされる話ではあるけど、正史では描かれなかった話でもある。虚構と現実の半々って訳さ。そんな話が正史と混ざった時、正史がどうなるか、僕にも分からない。だから、最低限の影響にしたくて、せめて野史通りに交わらせたいのさ」

 

 茜雫が登場するのは劇場版『BLEACH』『MEMORIES OF NOBODY』だ。漫画『BLEACH』には、全く登場していない。

 だが、一護は漫画内でも『MEMORIES OF NOBODY』を記憶している描写があるのだ。

 確かに、そうであっても、いくつか疑問はあれど、大きな違和感はない。漫画の一護が『MEMORIES OF NOBODY』の事を記憶していても、不自然ではないのだ。

 ただやはり、『MEMORIES OF NOBODY』の話は正史ではない。漫画では『MEMORIES OF NOBODY』の内容に触れられていない。

 だから、本格的に漫画『BLEACH』という正史に『MEMORIES OF NOBODY』という野史を混ぜた時にどうなるのか、全くの未知数なのである。

 故に、せめて『MEMORIES OF NOBODY』の時系列に合わせようとする、カイの判断だ。

 ちなみに『MEMORIES OF NOBODY』は時系列的に普通に今から約100年後の話なので、今混ぜたら本当にどうなるのか分からないのである。

 

「……」

 

 最早返答とは呼べないカイの独り語りに、藍染は熟考する。

 藍染は感じていた。カイという者は、夢遊病患者のように自覚のない妄言を吐く事はあるが、嘘を吐く事はないと。吐いても冗談程度のモノだと。

 だから、先程の独り語りも、妄言である可能性はあるが、嘘ではない。カイの視点からすれば、全て真実のはずなのだ。

 そう仮定した上で、藍染は精査している。カイが、何を言っているのか。ずっと精査してきた。

 だから、1つの可能性に、藍染は思い当たる。

 

「……カイ。君は、未来を知っているのか?」

 

 狂った想像であると、藍染自身も自覚している。でも、訊かずには居られなかった。好奇心故に。恐怖心故に。

 

「良い質問だね。だからしっかりと答えよう―――」

 

 藍染は、深淵(カイ)に覗かれる。

 

―――『何でもは知らないわ?知っている事だけ』、なんてね

 

 カイは口の端を吊り上げていた。藍染も思わず、釣られて口の端を吊り上げる。

 藍染は確信した。カイは、上位の世界からこの下位の世界に来たのだと。

 

「……君の故郷に、連れて行ってもらう事は可能かな?」

 

 胸中には、膨れ上がった期待感があった。

 この愚かな世界を、上位から修正できる可能性がある事に期待した。

 しかし、残念ながらその期待は無為になる。

 

「『ムリダナ(・×・)』、なんてね」

 

 わざわざ拘束を脱してから、カイは両手の人差し指で『×』を描いた。

 珍しく、藍染が笑顔で固まっている。

 

「1つ目。僕も帰り方が分からない。僕のスキルは、何処にでも行けるように見えてその実、何処にも行けないんだよ」

 

 メタ視点からすれば異世界転移も果たしているカイだが、カイ自身の視点では見え方が違っている。

 端的かつ比喩的に言えば、カイにとって全て『()()()()』なのだ。

 

「2つ目。君が生存できない。魚を陸に上げるようものだよ。呼吸できないどころか、君は消滅するだろうけど」

 

 霊子のない世界に霊子で構成されているヒトを連れていく。保有霊子がある間は生きられる、というなら御の字。最悪は、世界の修正を食らって即座に存在を抹消される。

 

「3つ目。多分今は僕の力不足で連れ出せない。劇は既に動き始めているからね。多分、連れ出そうとすれば僕の方に世界が修正を掛けに来る。元より自分以外にスキルを適応するのには、かなりの出力が必要になる。しかも継続的に出力しなくちゃ行けないとなると、リソースが足りなくなる事必至だね」

 

 カイのスキルには出力限界がある。しかも、自分<<<<世界<<他人という感じに必要な出力が違ってくるのだ。

 簡単に言えば、カイだけの力では藍染をこの世界から連れ出す事は不可能、という事である。

 

「……始まってしまった劇を終わらせねばならない。そういう事かい?」

 

「理解が早くて助かるよ。付け足すなら、劇が終わる頃には、君もこの世界の外で生きていけるだけの力を手に入れてる、て話。さすがに()()では生きていないし、()()()もなしに別の()に行く事は出来ないだろうけど」

 

「船旅に同乗させてもらう事は可能かな?」

 

 自分では宇宙船を用意できない、あるいは多大な時間が掛かると悟っている藍染。彼は、カイの宇宙船に同乗出来れば、少なくとも自分が宇宙船を準備する間も宇宙旅行が出来るという、名案を思い付いていた。

 上位世界には連れて行ってもらえないが、それは、数多世界を旅した上で、その扉を自分で開けば良い。己の望みは己の手で叶えるとすれば、むしろ藍染の信条に則すモノだ。

 

「良いよ、君との旅行は楽しそうだ。約束しよう。劇が終われば、僕の()()()に招待するよ」

 

 カイは藍染の頼みを即座に了承。

 船を用意する側のカイではあるが、藍染が付いてきてくれるというのは、カイにとって渡りに船なのだ。頭脳担当が足りてない点で特に。

 

「……1つ訊きたいのだけど。その劇の終わりが、君の知る終わりである必要はあるかい?」

 

 藍染は不気味で不敵な笑みを浮かべた。神が定めた道筋を破壊してやろうと、彼は燃えている。

 

「ないね。挑んでみると良いよ、世界に。どうしようもない()()に」

 

「『運命』という言葉は、現状の打破を諦めてしまった者の言葉だよ。そうは思わないかい?カイ」

 

「それは強者の言葉だね。共感したいところだけど。あいにく僕は()()代表だ。ま、僕も運命を乗り越えようと頑張ってはいるけど。だから、その言葉に対する返事は1つだ」

 

 藍染は、笑みを携えてカイの言葉を待つ。

 上位存在である彼は、いったいどんな言葉を下位存在に吐くのだろう。

 藍染は、素直に耳を傾ける。

 

「一緒に頑張ろう、惣右介君」

 

 藍染の耳に届いたのは、そんな同調の言葉だった。

 向いている方向は違うかもしれない。ただ、志は似通っているように、藍染は感じた。

 その感覚が、藍染の胸中に、未だかつてない感情を抱かせる。

 

「……。ああ、そうだね。お互い、頑張ろう」

 

 その感情はきっと、『友情』というモノだと、藍染は思った。




 先週更新するつもりだったの忘れてたので、今週更新したゾイ☆
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