主人公が曇らされてばっかりの世界に、一般通過過負荷(マイナス)が、ダイナミックエントリー!   作:霓霞霖

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11 MEMORY OF INTIMACY

 カイが『無間』へと投獄され、月日は流れた。カイは人目を盗んで脱獄していたが、幸福な事に、脱獄がバレる事はなかった。

 

 そうして、カイの関与しないところで、劇は1つのイベントに辿り着く。

 

 イベント開始の狼煙は、浦原喜助の十二番隊隊長就任だった。

 ちなみに、先代十二番隊隊長である曳舟(ひきふね)桐生(きりお)はちゃんとカイの監視任務を熟していたが、特筆すべき事項はないのでカットである。

 祝うべきかは怪しいが、曳舟は零番隊への昇進でもって、カイの監視任務から解放されたのだ。彼女自身は、カイのスキルに対して興味があったので続けたがっていた。

 だが、カイと連続・長時間の交流は精神異常を来たす危険性が示唆されていたので、隊長時代からカイの牢屋に入りびたる事は禁止、零番隊昇進からは接触禁止となってしまっている。

 

 話を戻して、喜助の隊長就任。

 

「……どもっス」

 

「やぁ、君もようやく隊長か」

 

 隊長となったのでカイの監視任務が言い渡された喜助は、率先してカイの目の前に現れていた。

 

「出禁解除、おめでとう」

 

「……知ってるんスね、ボクがアナタの監視を禁止されてた事」

 

「知ってるさ。次に君がいつ来るのかと、待ちきれなかったからね。だから、僕は次に君がいつ来るのか、()()()()した。隊長就任しないと来れないって事だったけど、君の隊長就任はすぐそこだったからね。早く会えて嬉しいよ」

 

 何もかも知っている、知る事ができるように喋るカイ。喜助は、そんな彼を注意深く、多大な警戒心と、小さな好奇心を持って、観察している。

 

「……未来を知る事ができるんスね。なら、やっぱりボクが『崩玉』を作る事も、その効能についても、知ってるって事っスよね?」

 

「忠告っぽい事は以前に言ったんだけど。君は作ったんだね、『崩玉』。ま、僕のあの言葉で作るのを止めるとは、微塵も思っていなかったよ」

 

「……()()()()()()()()()どおりでしたか?」

 

 忠告を聞かないと予測されていた事へ、喜助は不快感を滲ませた。それは、恐怖心を抑え込むために、気を張った故かもしれない。

 

「そうだね、僕の知るとおりだ」

 

 そんな喜助に向けて、カイはニッコリと笑って見せた。

 

「親切心から言っておくよ。いや、言わなくてもどうとでもなってしまう事だろうけど。『崩玉』の廃棄は止めておいた方が良い。それは、とっても大切な物だ。君にとっても、世界にとっても」

 

「……『崩玉』は、何を起こすんスか」

 

「魔王と勇者を育てる」

 

 カイの答えは、実に端的だった。そして、どうしようもない事実でもある。

 『崩玉』が、藍染(魔王)と一護(勇者)を育てる。それが、『BLEACH(この)』世界の運命だ。

 

 喜助がカイの言葉を嚙み砕こうとしている最中にも、カイは語りを続ける。

 

「ヒトってさ、問題が大事にならないと、それを問題視しないよね。ま、それがヒトの良い点でもあると思うんだけどね。問題を即座に改善してったなら、ヒトは気付いてしまうからね。ヒトというモノが、あまりにも生きづらい事を」

 

「……何が言いたいんスか?」

 

「魔王がその問題を提起する存在であり、勇者がその問題を解決する存在である、という話だ。ま、対処療法だけど。根本的な解決なんて望める問題ではないから、仕方ない話さ。この世界がどれ程矛盾を孕んで成立しているかを示している、そんな問題なんだから」

 

「……魔王は、身から出た錆だと」

 

「そうだ、とも言える。そうでない、とも言える。もう一回言うけど、根本的な解決が望めない問題だ。ある意味で、魔王はその問題の根本的解決を目指した者だ。その志は間違いなく善で、錆と言うには綺麗な思いだろう?その方法が、盤面をひっくり返すようなモノ、今あるモノ全てを蔑ろにするような行いだけど。それを悪とするのが、君たち体制側だ」

 

 カイの言っている事は、酷く抽象的で、酷く、人間性を問うような言葉だった。少なくとも、喜助はそう感じている。身につまされる思いで、唾を飲まされる。

 

「僕は彼の目指す先を悪とは思わない。その行いは悪だとしても、そんなの、この平穏を作り上げるために多くの犠牲を出してきた、自称善である君たちも変わらない」

 

 カイは悟りを開いた仏であるかのように、喜助を、善と自称する者たちを諭すように、言葉を紡ぐ。

 

「あるのは、世界はどちらを良しとするか、という話だ。僕は卑怯だと思うけど、そういう意味では君たちの方が有利だよ。君たちの方が間違いなく、今の世界にとって良い事だからね。でも、侮らない事だ。彼は、今の世界に、運命に抗う苦難を承知の上で挑んでいる。苦難を乗り越えるべく努力している。平穏を生きる君たちとは、平和に胡坐かいてる君たちとは違う」

 

 薄く開けられたカイの瞼、その奥にある瞳は、まるで怒っているようだった。いや、妬んでいるというべきか。

 

「心すると良い。試されているのは、君たちもだ」

 

 いつもと同じような微笑みを浮かべるカイ。でも、喜助にはシニカルなそれに見える。

 場合によっては君たちが悪になり得るのだと、そう言っているようで。

 

「思いの他喋ってしまったよ。やっぱり、僕の話をちゃんと聞いてくれる人って良いね。数少ないんだよ、僕の話を真面目に聞いてくれる人」

 

「……ボクの他に、誰が真面目に聞いてるんですか?」

 

「内緒♪」

 

 カイの微笑みからシニカルさが抜ける。それは、見た目相応の、お茶目な微笑だ。

 

「……。また、来ますね」

 

「うん。期待しているよ?」

 

 踵を返す喜助の背中を、カイは言葉通り期待を込めて見送った。

 

「さて、まずは9年後だっけ。それまで何してようか」

 

 浦原喜助の隊長就任から9年後に起こる事件、流魂街での変死事件、あるいは、魂魄消失事件。ある意味で、『BLEACH(この)』世界の1つとも言える、藍染が動き出した事件。

 その事件に思いを馳せながら、カイはそれまでの暇つぶしについて、思案するのだった。

 

「話を一気に飛ばしてしまっても良いんだけど。少し、閑話を挿もうか」

 

 

◇◇◇

 

 喜助が隊長として初めてカイの監視任務を熟した、後の話。

 ある日の『狭間空間』での話。

 

「茜雫さん……。それ、斬魄刀ですよね……?」

 

「うん。斬魄刀、だと思う……」

 

 茜雫が掲げる刀に、モトも茜雫も揃って懐疑の視線を向けていた。

 その刀を見つけたのは茜雫だ。状況を正確に言うと、彼女が今日起きた時に、その刀が布団の横に転がっていたのだ。

 何故刀がこんなところにと、第一発見者の茜雫は当然疑問に思ったのだが、その刀を手に取った時、妙に手になじむ感覚を茜雫は覚えた。

 あまつさえ、その感覚を味わって次の瞬間には、その刀が斬魄刀だという事を直感的に感じ取ったのである。

 しかし、最初の疑問、何故そんな物がこんなところにあるのか、というのはまったくもって解消できていない。

 

「誰の斬魄刀なんでしょうか……?」

 

「私に訊かれても……」

 

「普通に君のなんじゃない?」

 

「……そうなの?……というか。おかえり、カイ」

 

 いつの間にか帰ってきてて疑問に颯爽と答えたカイに、茜雫は慣れた様子で迎えの挨拶をした。モトの方はビックリして体を強張らせているのが、カイに対する親密度の違いを表しているだろうか。

 ちなみに、カイとして半分くらい驚かせるために急に表れているので、茜雫のこの対応にはちょっとガッカリしていたりする。

 

「モト君、食糧事情はどう?働き手から不満上がってたりしない?」

 

 ガッカリするのもそこそこに、カイは定期報告を促した。カイの帰りは不定期だが。

 

「誰も不満なんて持っていませんよ。備蓄が間に合っているから、食料の心配がない。おまけに雨風凌げる寝床があって、日々の疲れを流せるお風呂もある。一番は、(ホロウ)に襲われる危険がないという事です。何人かは天国だと言っていました。まぁ、彼らは戌吊(いぬづり)出身ですから、そうもなるでしょうが……。流厳(りゅうごん)出身の子供たちも、元気に遊んでいますよ。時々、畑の手伝いもしてくれますし。座学は、あまり真面目に熟してくれませんが……」

 

 『戌吊(いぬづり)』は流魂街西78区。数字が大きい程に中心街たる瀞霊廷(せいれいてい)から遠く、合わせて治安が悪くなる状況で、一番遠い区が80の数字を持つとなれば、78も相応に治安が悪い事請け合いだ。

 この『戌吊(いぬづり)』の困ったところは、ルキアや阿散井(あばらい)恋次(れんじ)が後々そこに住んでいる事を鑑みるに、善良な魂魄もそこに送られてしまう(あるいはそこで生まれる)事である。

 善良なヒトが、そんな治安の悪いところで平穏な日々を暮らせるはずもない。日々怯えながら暮らしていた中で、(ホロウ)どころか、襲ってくるヒトが居ない場所に連れられたのだ。手口は誘拐のそれだったとしても、不満を持てるはずがない。むしろ、そこ出身の者たちは、カイを神と崇めている程だ。

 

 追加で報告されるのが、流魂街東37区、『流厳(りゅうごん)』。この『狭間空間』に居る住人の中で、一番治安が良い出身地となっている。

 なのにこの『狭間空間』に居るのは、その子供たちがこの尸魂界(ソウル・ソサエティ)で生まれておきながら捨て子となった者だったり、現世で若くして死んだ上に尸魂界(ソウル・ソサエティ)の右も左も分からない者だったりするからだ。

 端的に言って、その子供たちは身寄りがない状態、頼るモノがない天涯孤独なのである。

 

「意外とどうにかなってるんだね。こんだけ連れてきた僕が言うのも何だけど、絶対生産間に合わないと思っていたよ」

 

「食事が必須な霊力持ちは、今のところ自分と茜雫さんしか居ませんからね。他の人たちからすれば、食事は娯楽以外の何者でもないんです。まぁ、現世生まれのヒトたちは、習慣的に食事を採りたがりますが」

 

「あ、そういえばそういう仕組みだったね。ただまぁ、皆3食食べても持続できるのを目標にしようか。食べてない人の横で食べるのって、あんまり気分良くないし」

 

「そうですね、自分もそう思います。だから、それ込みで計算して、まだ余裕がある、という感じです。後2・3人増えても、大丈夫かと」

 

「そ、ありがと。僕、計算苦手だし、計画性もないからね。都市経営シミュレーションとか、毎度絶滅エンドを迎えるんだよ」

 

 案外良い人材を拾えたなぁと思う、カイなのだった。

 

「カイ、ちょっと訊きたいんだけど」

 

「何だい?僕の好みのタイプとかかい?僕は僕が揉んでも罪にならない胸を持ってる女性が好みだよ?」

 

「セクハラでぶん殴るよ?」

 

「僕の人生において恋人が1人も居なかった理由を知る事が出来たよ」

 

 茜雫に笑顔で怒られたカイは自制した。

 

「こほん。……、カイは、何が目的でこんな事してるの?」

 

 茜雫のその質問は、ある意味で期待と言えるモノだった。

 カイという男は、実のところ弱者救済を願う勇者なのではないかと。

 

「期待を裏切るようで悪いけど。僕は弱者救済なんて殊勝な心掛けをしている人間ではないよ?」

 

 素っ気なく、ただし素直に、カイは自らの心の内を明かした。

 自分は正義の味方などではない。

 それが、カイの答えだ。

 

「じゃあ、どうして困っている人を助けてるの?」

 

「全部僕のためだよ。善だの悪だのじゃなく、全部僕のエゴによる行いだ。ついでに言うと、僕の最終目標から逆算すると、僕の行いは悪に分類されるだろうね。すべての行い、その善悪は結果で決まる。『終わり良ければすべて良し』。なら、終わり悪けりゃすべて()し、なんだよ」

 

 自分の行いはエゴで、結果的に悪になると断言するカイは、実に平静そのものだった。

 自分が悪である事に何の疑問もなければ、何の感慨も抱かない。

 その姿は、まるで諦めて悪であり続けているかのような、そんな寂しい姿に、茜雫には映った。

 だから彼女は、カイを憐れもうとする。

 

「カイは、悪じゃ―――」

 

 それが、カイの地雷を踏むとも知らずに。

 

「いいや、悪だ」

 

「……え?」

 

「じゃなきゃ説明付かないだろう?―――僕が不運である意味が」

 

 それは、カイが自身を何故悪と断じるか、語っている最中の事だった。

 カイの頭に、野球ボールが直撃する。

 なかなかの速度で飛んできた硬式球。それが頭部に直撃するという、普通に死ねる事故。

 実際、茜雫はそうしてカイが倒れ伏す光景を目の当たりにした。

 だが、一瞬きすれば、何事もなかったように立っているカイが目の前に居る。

 

「ねーー、こっちに球飛んでこなかったーー?」

 

「ああ、飛んできたよ。これだろう?危うく人にぶつかるところだったよ?」

 

「あ、カイの兄ちゃん!帰ってきてたんだ!」

 

「ついさっきね。それより、元気に遊んでいるのは良いけど、周りに気を付けようね。何処か、網が高く張ってあるところとかないかい?」

 

「校庭がそうだけど……」

 

「じゃあそこで遊ぼう。この辺りじゃ人を怪我させちゃうよ?」

 

「分かったー!」

 

 小学校低学年程の子供たちに、カイは笑顔で対応していた。

 そこに、怪我させられた怒りのような感情は一切見られない。

 カイはただ、校庭へ向かって走っていく子供たちに手を振って、彼らを見送るのだ。

 

「……カイ、さっきのって」

 

「僕が死んだなんて、幻想だ」

 

 茜雫の質問に先回りするよう、カイは言葉を紡ぐ。声音は、何処か悲しげだ。

 

「でも、ああいう事ばっかり起こる。僕がスキルを持っていなかったら、僕はとっくの昔に死んでいる」

 

 茜雫の方へ向き直ったカイの顔は、とても悲しげだった。悲しげに、笑っていた。

 

「僕は、僕が不幸な理由を、僕が『悪』になるためと、定めた。僕は正義の味方と戦い、そうして散っていく定めなんだと、思う事にした」

 

 自分が不幸である事の理由を、カイはそう定めた。

 そう定めなければ、とても正気では居られなかったから。いや、そう定めている時点で、もう正気ではないのかもしれないが。

 

「僕は『悪』だ。正義の味方と戦う運命にある者」

 

 自分は不幸な目にあい続け、そうして世界を恨み、なるべくして『悪』になる。それで、自身との正反対、世界を愛している者、『正義の味方』と戦う。

 それが、カイの運命だ。

 

「そうでなくちゃならない。そうでなくちゃ、受け入れられない」

 

 不幸な自分に納得できる運命が、カイにとってはそれなのだ。

 

「だから僕は『悪』で、『過負荷(マイナス)』だ」

 

 誰が何と言おうと、自分は(マイナス)である。

 それが唯一、カイが受け入れられる現実、なのかもしれない。

 

「カイ……」

 

 茜雫には分からない。カイが何を言っているのか分からない。

 此方と彼方に酷く大きな隔たりがあると、茜雫は感じた。

 でも、だから歩み寄れないのか。

 否である。

 

「でも、カイ……。カイは、私の恩人だよ……」

 

 こんなにも、心が締め付けられるのだから。

 

「……、ありがとう」

 

 自分を想って泣きそうになってくれている茜雫へ、カイは微笑みを送るのだった。




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