主人公が曇らされてばっかりの世界に、一般通過過負荷(マイナス)が、ダイナミックエントリー! 作:霓霞霖
喜助隊長就任から、約9年。
事件が起こり、そして、終わった事にされる。
事件の名称は様々だ。魂魄消失事件とも、
結論を、真実含めてまとめれば以下の通りになる。
藍染が
喜助はその隊長格複数名に対する
喜助は
あわや、喜助は霊力剝奪で現世追放、治療に協力してくれた
「という顛末だよ」
以上の事を、カイは藍染から聞かされたのだ。
もちろん、場所は『無間』である。発生源不明の光で、ソファにマフィアのボスが如く腰かけているカイと、対面のソファに座って頬杖突いている藍染が、スポットライトを浴びているという謎の状況である。
ちなみに、最初は藍染も光とソファの出所を気にしていたが、まだ自分が理解できるところにないモノと判断し、その理解できないところに居るカイへ畏怖の感情を抱いていた。
「そうかい。始まったかい」
これからの劇的な物語に興奮を隠せないように、カイは口の端を吊り上げていた。
実際のところ、激動となるのは約100年も後の話だが。それまでにもいくつかイベントがあるし、それは楽しもうと思っているカイである。
「原典どおりかい?」
「ああ。でも、残念がる事はない。原典どおりであるからこそ、君の成長に欠かせない試練がやってくる。その試練を乗り越えられるよう、頑張りなよ。惣右介君」
「もちろん、そうするとも」
人によっては上からな物言いのカイだが、藍染は不快感を覚えなかった。今はまだ並べないと、いつかは並ぶと、そう誓っているから。
「あ、そうだ。君を倒す勇者育成に、僕が手伝っても良い?」
「……それは、何故?」
自分を倒し得る存在を、カイが生み出すという事、合わせて許可を得ようとしてる事に、さすがの藍染も面食らった。
「勇者の物語が、あまりにも数奇すぎるからだよ。ある程度人の手が入っているとはいえ、それでも僕からすれば綱渡りが過ぎる。君、『霊王の爪』と
「……私がその存在の生誕を狙ったとしても、容易くはいかないだろうね。『霊王の爪』と
カイの語った数奇な生誕がどうやれば起こせるのか、藍染は頭を回した。
そして、可能性に辿り着く。
「……平子真子たちが浦原喜助から生殖機能も再現した義骸を受け取り、そうしてその内の誰かが
「ちょっとビックリしちゃったよ。それでも理論的には勇者が生まれるね。でも、あの中で
「……
「ん?あ、そうだ、継承されるわ。や、でも、あれは特殊な事例だからなぁ……」
「理解した。つまり、私が『霊王の爪』も混ぜた
「……『キッショ。なんで分かるんだよ』、なんてね」
「ふむ、どうやら正解だったようだね」
カイは藍染の頭の良さに素で引き、藍染はその態度で正解を確信して思わず微笑んだ。
ここに来て、カイは少し思う。これ、いっそ全部話した方が原作通り行けるのではないかと。
「……『おこk』。そこまで理解が及ぶなら、その勇者が如何に有用かも理解できるよね?」
「ああ。人間、死神、
まずはカイの予想どおり、藍染は勇者の誕生に乗り気だった。
ただ、次の言葉はカイの予想から少し外れる。
「……君も、その勇者に用事があるんだね?」
「…………もう1回『キッショ』って言う?」
「君の突飛な行動はともかく、君の計画は読みやすいよ。そもそもカイ、君は好きな事以外したくないタイプだろう」
「『キッショ。なんで分かるんだよ』」
度が過ぎる藍染の頭脳に、カイはドン引きして躊躇いなく罵倒した。『なんてね』と茶化すのも忘れるレベルの引き具合である。藍染はニッコリ笑っているが。
「君の目的を聞かせてもらう事は叶うかな?」
「……ま、教えても良いか。隠す事でもないし、追及され続けるのも面倒だ」
正直素直に聞かせてもらえるとは思っていなかった藍染。カイは気だるげだし、仕方ないといった様子でもあるので、聞けるのが本当の目的かは分からない。
だが、それでも聞く価値がある。この男を理解する判断材料は、カイという存在を推し量る材料は、いくらでも欲しいのだ。
そうして耳を傾ける藍染に、カイは呟く。
「僕はね、魔王として勇者に完膚なきまでの敗北を喫したいんだ」
「完膚なきまでの、敗北……?」
藍染をして、その考えは理解できなかった。
命ある者は皆適者とし生存する事を求める。それが、藍染の持つ価値観の1つだ。だからこそ、藍染は善にして秀でた者が適者になるべきだと、考えているのだから。
初めから負けたいという価値観は、理解できないどころか、許容すらできない。
でも、藍染は考える。
初めから負けたかった訳ではきっとない。
彼は、負け続けた故に、負け犬根性がついてしまったのではないだろうか。
「……カイ、君は―――」
「憐れむな」
「―――っ!?」
怒気が、叩きつけられた。霊圧なんて微塵もない相手に、藍染は怯んだのだ。
藍染を、カイの真っ黒な瞳が射貫く。そこには、純粋な感情がある。ただ怒りだけがある。
(なるほど、これが格の差か。これが、上位者と下位者の差か)
藍染は冷や汗をかきながら、しかしこの格の差をこの目にできた事を喜んだ。
実物を見ているのと見ていないのでは、そこを目指した際にかかる時間が変わってくる。実物を知っていると言うのは、ゴールを知っているのと同じだからだ。
「哲学の話だよ」
先程の怒りが何処へ行ったのか、ケロっとして元の糸目微笑に戻ったカイは語る。
「『人類悪』と『絶対悪』は違う。色々細かいところを語れば長くなるから、まず端的に言うと。その違いは、理解できるかどうかだ」
人類を愛するが故に人類を破滅させてしまう『人類悪』。
ただそこにある狂気かつ脅威である『絶対悪』。
「アニメとか漫画の悪役に例えるなら、『人類悪』は世界を救うために今在る命を滅ぼそうとする、いわば訳アリ悪役、あるいは主人公側と別の正義。『絶対悪』はぽっと出の魔王だ。特に理由もなく、世界に魔物を放って人類を脅かす存在」
『人類悪』は、その悪行に理由があるため、理解はできる。
『絶対悪』は、理由もなく悪行を重ねるため、「そういうものである」以上の理解は生まれない。世界の歪みで生まれた世界の防衛プログラム、という感じの理由がつく事はあるが。結局、体制側から共感する事はできないだろう。
「二次元のキャラだったら、僕は『人類悪』も大好きさ。泣かせに来るキャラも多いからね。でも、僕がそれになりたいと思った事は微塵もない。僕にとって人類とか世界とかはどうでも良いからね。僕が何をしなくたって、いずれは滅びる運命だし」
『人類悪』は好きだが憧れない。それがカイの価値観だ。
「僕がなりたいのは、『絶対悪』の方だ。同情も共感もできない、故に無慈悲に打ち倒される悪。僕はそっちになりたいし、なれるのは絶対にそっちだ。だから僕は『絶対悪』になると決めた」
『絶対悪』になりたいし、なれるだろうから、なると決めた。
カイのスタンスは、そんなテキトーなモノ。『決めた』とは言うが、至上命題としている訳ではない。
「『絶対悪』として、主人公の敵として、物語を彩る。僕は、そういう立ち位置でありたいんだ」
主人公の敵として、物語を彩りたい。
嘘ではない。
しかし、本心とも言い難い。
本音は―――
「―――意味が欲しいんだろう?」
―――それに尽きる。
藍染は、読み取っていた。散りばめられた情報から、藍染はカイの本心を読み取る。
「……」
「自分の持つ力の意味が欲しい。自分が生まれた意味が欲しい。自分が経験してきたモノの意味が欲しい。……なるほど、一見稚拙だ。だが、貫き通せばそこまで至れるか。雑念のない純粋な思いこそ、君をその格に至らせているんだね?カイ」
「……さぁ、僕自身よく分からないよ」
藍染の考察で一瞬真顔になったカイだったが、すぐに不気味ないつもの笑顔に戻った。
「僕がどうしてこうなのか。僕は本当にそんな思いでここに居るのか。僕はいつからそんな思いを抱いているのか。僕にも分からない。でも、気にする必要なくない?どんな出発点、中継地点、終点があったとして、僕が今やりたい事は変わらないんだから」
自分でも自分が分からない。でも、関係ない。
カイは、己の目標に向かって邁進するのだ。
「ああ、ご尤もだ。そしてやはり、それが君の強さだ。迷いがない。カイ、やはり君は尊敬に値する」
「誉めても何も出ないぞ?惣右介君。
好きな漫画のお気に入りキャラに褒められ、上機嫌になったカイ。ちょっと調子に乗って、ワンチャン原作ブレイクしそうな事を提案してみた。
カイとしては、どう転んでも面白いのだし。
「そうだね。それじゃあ、誕生が約束されている勇者の名前でも、訊いておこうか」
「そんなんで良いの?自分の末路とか訊くと思っていたけど」
「変わってしまった未来を訊いても、私が得るモノはないだろう?」
藍染は、傲岸不遜だった。
既に、自分が負ける未来は変わっている。藍染はそう、自信を溢れさせている。
「マジでそうなってそうだなぁ」と、カイはちょっと笑った。
とかく、カイは口約束を守る。
「勇者の名は、『
漢字までしっかり伝わるよう、カイは名前が印刷された紙を何処からともなく出現させて、藍染の方へと掲げた。
「黒崎、一護……。なるほど。確か、現世には黒崎姓の
「…………」
藍染の推理力が怖すぎて、カイは笑顔で固まった。
いや、確かに推理材料はあった。
藍染を倒し得る程に成長する素質がある事。
そして、名前。
ただ、この3つだけで正解に至れるのは怖すぎるし、そもそも正解に至るまでの情報を得ているのが怖すぎる。五大貴族の人間を把握しているのは、潜在的脅威の把握として分かるし、そもそも五大貴族は有名だから名前くらいは調べやすいだろう。
なんで現世の
何にせよ、カイとしては冷や汗をかくレベルで怖すぎて仕方ない。
「ま、まぁ、が、頑張りな?」
カイは震えながら、せめてその言葉だけはひねり出すのだった。
藍染は微笑んでいる。
ここでお開きと言うように、藍染は踵を返した。
「あ、ちょっと待って。参考までに訊きたい事があったんだった」
「何だい?」
カイが引き止めれば、藍染は快く足を止める。
「平子たちの暴走
「……逃亡した先で、という事だよね。こちらに見つからない拠点を構える時間、実験する設備を用意する時間、実際に実験して成果を出す時間などを加味すれば、早くても10年は掛かるだろう。もちろん、浦原喜助が天才である事も加味して、だ」
カイの質問から藍染はカイが欲している情報を推測し、それに沿った回答を返した。
カイは満足そうな笑みを浮かべる。
「オーケー。じゃあ、大きく見積もって20年後くらいに様子見に行くよ。ありがとう、惣右介君」
「どういたしまして」
そうして、悪役たちは笑顔でこの密談を締めるのだった。
※修正点
『そして、この前、五大貴族・
↓
『そして、十番隊三席が、五大貴族・
一心が志波海燕の叔父である、という設定をド忘れしてました。親戚なのは覚えてたんですけどねぇ。
それで、志波海燕が現時点で十三番隊副隊長への就任を打診されてる状態なので、その叔父である一心がまだ生まれていないのは違和感がありすぎるため、本編の内容を修正しました。
原作設定の把握をおろそかにしていた事を、この場を借りて謝罪申し上げます。すみませんでした。