主人公が曇らされてばっかりの世界に、一般通過過負荷(マイナス)が、ダイナミックエントリー!   作:霓霞霖

16 / 34
※多大な独自解釈・捏造設定を含みます。ご了承の上、ご閲覧ください。


15 MEMORY OF DESTINATION

 別れや出会い、具体的に言うと『狭間空間』から出て行ったり、新たに拉致したりで、それが日常として流れて、浦原事件から約20年。

 

 そろそろ茜雫の精神年齢が高校生から逸脱するんじゃないかと心配になりながら、でも魂は器に寄るというのでそんな心配を押し込めるカイ。

 彼は今、現世に来ていた。現世日本。元号はまだ大正、昭和を迎える前、『鬼滅の刃』と同じ時代という忘れ去られた知識を挿んでおく。東京駅のような主要機関の施設は石造りとなりながら、民家はまだまだ瓦屋根の木造ばかりだ。

 そんな時代にブレザー制服を身に着けて視線を集めていたカイは、寂れた一軒家の前で足を止める。

 周辺の開発がまだ進んでいない、田畑ばかりのところにポツンと佇む一軒家。まだまだ珍しさもないその在り様に、強いて特筆すべき事をあげるなら、そこが後に『空座町(からくらちょう)』と呼ばれる土地である事くらいか。

 

「『ここが、あの女のハウスね』、なんてね。正確には男のハウスだし。女性も居るから女のハウスでもあるか」

 

 などと目的地を目の前で高揚感を独り芝居で表現するカイ。

 彼はその高揚感冷めぬまま、庭先に足を踏み入れようとする。

 そうして、呼び止められる。

 

「何の用っスか?八倉海さん」

 

 男の声が、カイを呼び止めた。しかも名指しで、特徴的な口調で。

 引っ張るまでもないだろう。

 カイの背後には、漫画『BLEACH』で見慣れた和装の浦原喜助が居た。

 口調こそ軽めではあるが、帽子の影にある目は、カイの一挙手一投足も見逃さないと、鋭くされている。

 

「やぁ、こんにちは。喜助君。元気だった?惣右介君がこの辺りの時期には落ち着いているだろうって言ってたから、様子見に来たよ。真子(しんじ)君たちは元気かい?」

 

 何の気なしにカイは浦原を正面に据え、挨拶を投げかけた。

 態度はまさに旧知の友へ参ったモノである。喜助側には友好の意志が全くない事を除けば、だが。

 

「……全員無事っスよ?平子サンたちも、夜一サンたちも。是非、藍染にもそうお伝えください。「お前の思う通りにはならなかった」と」

 

「「その程度で乗り越えたつもりか」って、鼻で笑うんじゃない?本人はもっと詩的に返すだろうけど」

 

 様子見の挑発を見舞った喜助だったが、当然、カイは堪えないし、藍染が堪えるとも思えない。カイたちは微笑むだけだ、微笑ましいモノを見るように。

 

「とにかく、だ。真子君たちが無事って事は、もう『崩玉』には用がないんだろう?ちょっと貸してくれない?死んだら返すから」

 

 相手が敵意を持っているのも気にせず、空気を読まずにカイは掌を差す出した。厚顔無恥というか、傲岸不遜というか。やはり、空気が読めない、というのが正確かもしれない。

 

「……敵に大事な物を渡すと思います?」

 

「世界が滅ぶけど良い?」

 

 日常会話のように混ぜられた世界滅亡宣言。カイから聞かされた喜助は一瞬呆けるも、即座に頭を回して結論へ至る。

 

「勇者を育てる、でしたっけ」

 

「天才は話が早くて助かるよ」

 

「……」

 

 正解の丸は貰った。でも、喜助は考える。

 普通なら、渡すなんてありえない。

 でも、『でも』なのだ。

 勇者を育てる方法が、自分にはまだ分からない。対し、目の前には答えどころか途中式も分かっているだろう人物が居る。

 では、渡すべきか。

 

「……アナタの目的を教えてほしいっス」

 

 判断材料が足りない。だから探る。

 

「毎度訊かれる気がするね、その質問。一々細かい説明も面倒くさいから、君たちが分かりやすいように要約するけど。僕は僕に比肩し得る敵が欲しいって話さ。その勇者が僕に比肩し得るかもしれないから、僕としても勇者を育てたいんだよね」

 

 肩をすくめて語るカイの目的。

 分からなくもない。喜助にも理解できる。カイは、護廷十三隊隊長全てと対峙して生き残っている存在だ。言ってしまえば、彼にとっては自分たちは役者不足なのだろう、と思う。

 だからこそ、敵役に適役な存在を求めている。簡単に言えばバトルジャンキーの思考だ。

 それは理解できる。それが本心かはさておいて。

 

 喜助から見て、カイが嘘を付いているようには見えない。ふざけた話、冗談言っている時以外に、嘘を付いている雰囲気を捉えられた試しがない。

 ならば、カイのその言葉は本当だ。カイは、自身に比肩し得る勇者を求めている。

 

 そこまで整理して、では、『崩玉』を渡すか否か。そこに立ち返る。

 

「……ボクから受け取った『崩玉』で、具体的に何をするんスか?」

 

 冷静に、冷静に情報を探る。

 

「勇者の成長に重要な人物へ、それとなく渡す。そうすれば、『崩玉』はその人物が勇者と会えるように導き、そして勇者の成長に必要な試練を引き寄せる。その『崩玉』は、人の願いを叶える玉だからね」

 

「……」

 

 嘘を言っている雰囲気はない。

 でも、『崩玉』にそんな効果があるのか、その時点で疑わしい。どうやって『崩玉』が人を導くのか。

 難解な問題を提示されて、答えだけは渡されているような気分に、喜助は陥っている。

 

「言っておくよ。勇者の力なくして、魔王の打倒は叶わない。勇者なくして、この世界は救われない。五里霧中で暗中模索が研究者の常だとして、それで、世界の命運を賭ける気があるのかな?」

 

「……」

 

 悪魔の囁きにしか聞こえない。

 まだ誰も見た事もない物を作るなら自分の手で。そんな研究者・科学者としての欲望はある。

 でも、その欲望と世界滅亡を天秤に掛けるのか。

 賭けるべきでない。掛けるべきではない。

 世界を思うなら、悪魔とて利用すべきだ。

 そうして考える。悪魔を利用して成功した時、成功しなかった時。サポートもリカバリーも考える。考えつく限りの可能性を考え、それの対処を1つにつき幾通りも考える。

 そうして考える。暗中模索をした場合と、悪魔を利用した場合の、リスク・リターン。

 

 結論が出る。

 

「……これを、お渡しします」

 

 喜助は、正八面体に囲まれた黒い球を、懐から取り出した。

 

「英断ってやつだね。誇ると良い。今、高確率で世界は救われた」

 

 カイは差し出されるそれを、『崩玉』を、受け取った。

 

「……『高確率』ってのが、嫌なトコっスね」

 

「何事にも絶対はないと、常々言われてる事じゃないか」

 

 疲れたような、薄い笑み。悪魔のような、深い笑み。

 面と向かったその顔で、両者揃って同じ願いを抱いていた。

 上手く行きますように、と。

 

 

◇◇◇

 

 

「ハァ……ハァ……ハァ……ッ」

 

 逃げる。逃げる。女は逃げる。黒く長い髪をなびかせて、素朴な和装で身を包んで、か弱い面貌を引っ提げて、女は逃げる。

 

「誰か……、誰か助けて……」

 

 人通りの多い街並みを抜けてきた。人がまばらな街道も走り抜けた。そうして人目のない雑木林に駆けている。

 道中いくらでも助けを叫んだ。けれども誰も手を差し伸べてくれなかった。

 それが何故かと言われたら、彼女の胸に張り付いた鎖が示している。

 彼女は(プラス)、幽霊なのだ。現世を生きる人々には、霊感持たぬ人間には、彼女を見る事は叶わない。

 同時に、彼女を襲う化け物を見る事も叶わない。

 (ホロウ)を見る事は叶わない。

 

「あ、ぐっ……」

 

 走りつかれた足が、わずかに盛り上がった木の根に払われる。立て直す力も残ってないのなら、彼女が転び、地に伏せるのも、やむなしだ。

 

「あ……、あっ……!」

 

 立てなくなった彼女は、彼女を追っていたバケモノに、追いつかれた。

 体全体は黒ののっぺり。その顔には不気味な白のお面1つ。胸に大穴が空いてるとなれば、人型を保っていても、バケモノと呼ぶしかない。

 彼女目掛けて突進していたし、道中建物壊したり、大地や木々を抉っていたりすれば、それが何か知らない彼女でも、それが自分を食おうとしているバケモノだと嫌でも分かる。

 

「誰か……、誰か、助けて……。何でも、しますから……」

 

 自分を丸呑みにしようと大口を開けるバケモノ・(ホロウ)の前で、彼女はただか細く助けを乞う事しかできなかった。

 でも、その助けを呼ぶ声があったから、彼女は助かる事になる。

 

「今、『何でも』って言った?」

 

 彼女と(ホロウ)の間に、少年が割り込んだ。

 彼女からしてみれば、訳が分からない。でも、彼女は、自分に代わって食われそうになっている少年へ、手を伸ばした。

 助けを乞いはしたが、代わりに誰かに死んでほしい訳ではないのだ。むしろ、彼女は誰にも死んでほしくなかったのだ。

 だから、助けを求めるこの期に及んで、助けに入っただろう少年を、庇おうとしていた。

 

「『大丈夫。僕、最強だから』、なんてね」

 

 少年が吐いたその言葉。佇まいも動揺がないとすれば、頼もしく映って当たり前。

 でも、気付くべきである。『最強』だと抜かしたその少年は、最弱(カイ)なのだ。

 なので、呆気なく(ホロウ)に噛み砕かれた。

 

「……え?」

 

 これには彼女も茫然自失である。

 

「何やってるんスか?全く」

 

 彼女やら現実やらを置いてけぼりにして、(ホロウ)がお面を中心にして真っ二つに割れた。

 背後から切り伏せたのだ、浦原喜助が。

 無事(ホロウ)は倒されたが、食われた少年は犠牲になってしまったのか。そんな心配は無用である。

 

「いやー、思わずカッコつけて女の子の盾になろうとしたけど。僕、盾どころか紙だったね。破ると気持ち良い障子紙だったね」

 

 食われたのが夢だったかの如く、五体満足で立っているのが彼、カイ・ヤグラである。

 

「アタシが咎めているのは、そこだけじゃないっスよ。人探しは自分で全部やるみたいな話、してませんでしたか?」

 

「いや、後になって気づいたんだけど。現世に居る(プラス)尸魂界(ソウル・ソサエティ)へ送るの、魂葬(こんそう)だっけ?それ、死神しかできないなぁって」

 

 計画性がないというか、何も計画できないカイ。彼に警戒心を抱いている喜助も、これには呆れてモノも言えなくなる。何言っても無駄だと、悟ったとも言える。

 

「……それで、このヒトっスか?」

 

「多分そうだけど、一応確認しないとね」

 

 (ホロウ)に追われていた彼女を置いてけぼりにしていた喜助とカイ。ここでようやく、カイが彼女に目を向ける。

 

「こんにちは。大丈夫かい?」

 

「え?あ、はい。助けていただき、ありがとうございました」

 

 カイに手を差し伸べられ、彼女はその手を掴み取った。

 カイがひ弱なのと、彼女が腰を抜かしてたので、彼女が立ち上がるのには時間が掛かった。

 

「お礼を言われるまでもないけど、代わりに君の名前を聞いておきたいかな」

 

「は、はい。私は、緋真(ひさな)と申します」

 

 故知らずで首を傾げながらも彼女は、緋真は、己のその名を明かした。

 その名を聞いて、カイは口の端を吊り上げる。

 

「……君、(ホロウ)に、さっきのバケモノみたいなのに、よく襲われてなかった?」

 

「……はい、そうです。この、幽霊みたいな状態になってから、度々バケモノに襲われていました。幽霊となったのも、多分あのバケモノたちのせいです。その、肉体を失って幽霊になった瞬間に、目の前にバケモノが居ましたから……」

 

 人間として死んだ瞬間を思い起こしたようで、緋真は眉をひそめ、声も尻をすぼめていた。自分が死んだ瞬間なんて、思い出したくないのは当然だ。それが、未知のバケモノによるモノならばなおさらだろう。

 

「その時は、男の人が、刀を持った黒い着物の人が助けてくれたので、何とかなりました。戦闘が激しかったので、私はその場から離れ、その後その戦いがどうなったのかは見届けられませんでしたが。……その後も、バケモノに追われては隠れ、逃げまどっていました」

 

 バケモノ、(ホロウ)に追われる事数度。今までは奇跡的にも逃げおおせてきた緋真(ひさな)だった。

 逆に、尸魂界(ソウル・ソサエティ)に送ってくれる死神としっかり出会えなかったのは、運が悪いと言えるかもしれないが。

 

「よく生き延び、いや、バケモノに食われないでいてくれた。おかげで、君と僕はこうして出会う事ができた」

 

 カイの声は、酷く優しい声音だった。弱った緋真の心に染み込むような、心身正常の喜助が悪寒を覚える程の、優しい声だった。

 

「君を、あのバケモノが滅多に現れない場所、尸魂界(ソウル・ソサエティ)に送りたいと思う。だけど、このままじゃ危険だ。君の中には、(ホロウ)を引き付けてしまう因子がある」

 

 カイが真摯に語る、(ホロウ)を引き付けてしまう因子。緋真としては訳が分からず、頭に疑問符を浮かべるしかない。対して、喜助は訳が分かったように、はっと目を見開いている。

 

「これを、君に」

 

 カイは、緋真へ『崩玉』を差し出した。

 

「アナタ、それは……」

 

「これは、いったい……?」

 

 喜助と緋真の反応は正しく対照。思わず身構える喜助と、いっさい気にせず掌で『崩玉』を受け取る緋真。

 

「それは、尸魂界(ソウル・ソサエティ)へと渡る瞬間、君から因子を切り離してくれる物だ。持っておいてほしい」

 

「は、はあ……」

 

 真摯で優しく対応するカイ。緋真は彼の言葉を額面通りに受け取りつつも、やはりまだ理解は追いつかずにいた。彼がそう言うなら、そういうものなのだろうと、ただただ理解できないままに鵜呑みにしている。

 

「よし。じゃあ、喜助君、出番だ」

 

「はいはい。……、ちょっとオデコ失礼。チクっともしませんから安心してくださいねー」

 

 カイの指示に喜助は渋々従って、緋真の額に斬魄刀の柄、その(かしら)を近付けていく。

 緋真は、抵抗しない。彼女にはカイが、()()()()()()に感じられているからだ。

 そのまま(かしら)が彼女の額に接し、『死生』という文字が押印されたように刻まれ、彼女を中心に発する光に呑まれていった。

 傍から見ると彼女が消滅したように見えるが、これが、(プラス)尸魂界(ソウル・ソサエティ)へと送り出す儀式、『魂葬(こんそう)』である。

 

 喜助は、彼女が無事送られたのを見収めてから、口を開く。

 

「あのヒトが持ってる、『(ホロウ)を引き付けてしまう因子』って、なんスか」

 

 喜助はカイを薄くにらみ、訊ねた。おおよその予測は自分の中にあるが、彼は確定させておきたかったのである。

 

「『霊王の爪』だよ。()()ではしっかり描写されなかったけど、僕がそうだと思っているって事は、()()()()そうだって事だ」

 

 カイは、自身が持っていた原作への考察を、そうしてそれが()()()()では事実になっているだろうそれを、喜助に聞かせた。詳細を語る気はないが。

 原典云々は、喜助にはまだ理解しきれていない。カイが知っている未来、彼の介入で変わりつつあるそれ、とは、推測している。ただまだそこは結論付けず、緋真は『霊王の爪』保持者である事を確度の高い情報として呑み込んでいる。

 

「……何故、緋真サンから『霊王の爪』を切り離す必要があったんスか」

 

「そうあるべきと、世界が定めているからだ」

 

 説明などしようがない。それが運命だ。

 それが、カイの結論だ。どうせ自分が手を加えなくても、奇跡みたいな形で似たように、原作通りになっていたんだろうと、その運命を鼻で笑う。馬鹿げている、と。

 

「……」

 

 喜助は、押し黙るしかなかった。まだ理解できる段階にない。そんな風に感じたから、カイの言葉を読み解く事に多少頭を回せど、本気では取り組んでいない。そう、自分の思考が誘導されているような感覚に浸りながら。

 

「さて。協力ありがとう。これでまた、世界は平和に一歩近づいた。また力を借りる事もあるだろうから、その時もお願いね。じゃね、バイビ」

 

 不気味な笑顔で手を振って、カイは消え去る。

 喜助は、彼が消えた跡を、ひたすらに見つめるのだった。

 

 

◇◇◇

 

 

「……ここは?」

 

 気付けば、草原に立っていた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、草原に立っていた。

 ()()()()()()()()()()()

 

「この子は……」

 

 女は赤子を見下ろすが、見覚えはない。なのに、まるで自身の一部であるかのような愛着と、本能的な忌避感を、女は抱いている。

 そして、どうするか揺れる。この愛着に従い、この赤子を養うのか。この忌避感に流されるまま、この赤子を捨てるのか。

 

「……ごめんなさい」

 

 女は、忌避感に流された。

 女は草原から去る。さっきまで抱えていた赤子を置き去りにして、罪悪感を置き去るようにして、早足でこの場を離れたのだ。

 

 女と赤子は、互いが見えなくなる程に(そもそも赤子は寝ていて何も見ていないが)、互いは離れ離れとなった。

 

 そうして、赤子は抱き上げられる。

 

「やぁ、()()()ちゃん。元気かい?」

 

 赤子を抱き上げたカイは、その赤子に、緋真から切り離された『霊王の爪』、それが『崩玉』を取り込む事で赤子の形を成したその存在に、『ルキア』と、名前を付けるのだった。

 

 これが、浦原事件から約40年後の話である。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。