主人公が曇らされてばっかりの世界に、一般通過過負荷(マイナス)が、ダイナミックエントリー!   作:霓霞霖

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17 MEMORY OF CURSE

 彼は思い出す。

 

『おそらく、奴の狙いは―――貴様だ』

 

 バケモノに()()()襲われた記憶を、彼は思い出す。

 その原因が自分自身にあると知って、彼はその理不尽を嘆きそうになった。

 

『このままでは全員……奴のエサとなるのは、待つばかりだ……』

 

 血みどろで倒れ伏す、『死神』と名乗った存在。

 その存在が、ただその場に居る全員の死を予言する。

 

―みんな死んじまう……!

 彼は思わず、歯を食いしばった。どうにか、みんなを助ける術はないかと。

 死神に、思わず訊ねたのだ。みんなを助ける方法はないかと。

 死神は答える。

 

『貴様が、死神となるのだ……』

 

 『死神』と名乗った存在が、その手に握る刃を彼に向ける。

 

『貴様がこの斬魄刀を胸の中心に突き立て、そこに私が『死神』の力の()()を注ぎ込むのだ……』

 

『な……!そんな事したら、お前はどうなんだよ!』

 

『……貴様に、全てを託す』

 

 『死神』と名乗った存在は、全てを悟ったように、微笑んでいた。

 

『頼む、()()

 

『っ!』

 

 彼、銀城(ぎんじょう)空吾(くうご)とその死神は、振り返っても短い間柄である。

 それでも、確かな信頼関係があった。

 だから、銀城は、涙を呑んで、その死神である友人の、全てを()()()()()

 

 銀城はそうして、『死神代行』となった。

 

 それから銀城は、死神代行としての仕事をする傍ら、自分と同じように、バケモノ、(ホロウ)に襲われやすい者たちを探した。

 

 意外にも、その者たちは幾人か見つかった。

 見つけやすかったのだ。

 (ホロウ)に襲われやすいその者たちは、厄災を引き寄せる忌み子として扱われ、孤立していたから。

 

 皆が皆、(ホロウ)に襲われやすくなる因子を、自身らの中にあるそれを、忌み嫌っていた。

 こんなものは要らない。こんな目に遭うんだったら捨ててしまいたい。

 銀城はそれらの思いに共感できた。何しろ、同族なのだから。

 

 そして、幸いな事に、銀城にはその思いを叶えてやれる力があった。

 『クロス・オブ・スキャッフォルド』。相手の力を奪い、また、与える彼の能力だ。

 死神となった時に目覚めたモノだから、彼は斬魄刀の能力と当時は勘違いしていたのだが。

 

『安心しろ、みんな。俺が全部引き取ってやる』

 

 自身の中にある(ホロウ)に襲われやすくなる因子を忌み嫌う者たちに、銀城はそう笑って聞かせた。

 彼は忘れられない。そう聞かせた時に、涙を流しながら伝えてくれた、その者たち感謝を。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『死神代行・銀城空吾。不穏分子の捜索、及び捕縛の任、ご苦労だった』

 

 皆から因子を奪い取ろうとして集まってもらったその日。そう吐き捨てる死神が、銀城たちの前に突然現れた。

 1人だけじゃない。何人も居た。

 

『ふ、『不穏分子の捜索』……?何言ってんだよ、オタクら……。そもそも不穏分子って―――』

 

『ぎゃああああーーーー!!』

 

 銀城が問い質す前に、悲鳴が響いた。

 死神が、銀城の集めた者たちを、切り裂いていたのだ。

 

『ぎ、銀城さん!俺たちを騙してっ』

 

『ち、ちがっ……。俺はっ……』

 

 希望が絶望に裏返ったその者たちの顔。浴びせられる疑いに罵声。

 銀城は、忘れられない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『『地獄からの使者、スパイダーマッ!』なんてね』

 

 その訳の分からない名乗り口上には、唖然とする他なかったが。

 ただ、外は雨が降りしきる中、そんなふざけた男に、弱き者の味方と後で語った八倉海に、彼は救われたのだ。

 

 

 

 

 

「あ~たらし~いあ~さが来た!!!ぜつぼ~おのあ~さ~だ~!!!なんてね」

 

 大声量が鼓膜に叩きつけられた銀城は、ベッド代わりにしていたソファから飛び起きる。

 

「…………カイさんかよ」

 

「僕じゃなかったら殴りつけるつもりだったでしょ」

 

 銀城は握りこぶしを掲げている。ふざけた起こし方をしてくれた者に見舞おうとしたそれだ。

 銀城は正直、そのふざけた奴がカイだと分かってなお、振り抜こうと逡巡していた。悪夢から起こしてくれたので、止めたのである。

 

「今日暇?」

 

「暇だって言ったら、また『狭間空間』に拉致って茜雫の面倒見させんだろ」

 

「よく分かってるじゃん」

 

 仕事を押し付けてきそうな恩人を睨む銀城。そんな親密な態度(?)を取ってくれる事に、カイは微笑んでいた。

 助けた当時は酷かったのだ。死神たちに騙され、仲間たちに疑われ、人間不信となっていた当時の銀城。そんな彼が今のように真面に、少なくとも茜雫の世話を数度受け持つようになったのはひとえに、今居る仲間のため、これから会うだろう同族のため、だった。

 端的に言って、彼はお人よしだったのだ。仲間を、同族を、見捨てられない。さすがは『BLEACH』主人公の先達と言うべきか。

 

「面倒見ろって言われてもよぉ。俺たちの能力が完現術(フルブリング)だっての、カイさんに言われるまで知らなかったトーシローだぜ?全員感覚で使っちまってるしな。他人に教えろたって、なぁ」

 

 銀城はまだソファに寝そべりながら、そう事実を呆れ交じりに突きつけた。

 そう。彼らはカイに教えてもらうまで、自分らの能力が何なのか知らなかったのだ。覚醒者の共通点が(ホロウ)に襲われやすい事であるから、(ホロウ)関連の能力だと、ずっと勘違いしていたくらいだ。

 今となっては『霊王の欠片』保持者が目覚める能力と教えられたが、今でも『霊王の欠片』がどういう作用をして能力を形成するのか、不明のままである。ちなみにこの点は、カイもよく知らない。知る気もない。

 

「浦原のヤローが言うには、『霊王の欠片』が絶対条件ではあるが、完現術(フルブリング)を確定で得られる訳でもないって話だしな」

 

 自分ら完現術師(フルブリンガー)の身体検査をした科学者、浦原喜助から聞いた事を、銀城は反芻していた。

 さりげなく銀城と浦原の関係性が仄めかされた訳だが、何の事はない。カイが銀城ら完現術師(フルブリンガー)を助けた後、喜助に引き合わせたのである。

 主に、彼らの身の安全と、仕事を保障するために。

 再度明記するが、彼ら完現術師(フルブリンガー)(ホロウ)に襲われやすく、周りから厄災を引き寄せるとして避けられる存在である。合わせて、社会から孤立しやすく、社会に適合できない事もザラである。

 なので、浦原が(ホロウ)除けのアイテムを貸し与えつつ、彼らの能力に合った仕事を割り振って、疑似的に社会人生活をさせている。

 捕捉だが、『彼らの能力』というのには、完現術(フルブリング)も含まれる。

 個々に特異な能力を持っているため、特殊な仕事を任せられる人間も居て大助かり、とは喜助の言である。霊王に関する研究もできるし、というのも喜助の言である。無理強いはしてないっスよ~、というのも喜助の言である。

 

「それに、俺は不定期に仕事回される口だ。暇かどうかなんて、その日が終わってみなけりゃ分かんねぇよ。昨日だって、昼に急な呼び出し食らって、夜遅くまで仕事してたんだぜ~……」

 

 銀城は言葉の途中から欠伸をかき、眠たげなのをこれでもかと表現した。

 そう。銀城も、特殊な仕事を任せられている内の1人だ。

 

「夜遅くなったのは、君が完現術師(フルブリンガー)探しに手間取ったからでしょう?」

 

「死神共がうろついてたんだよ!おかげで動きづらいのなんのって……」

 

 仕事の邪魔となった死神たちの姿を思い出し、銀城が怒りがぶり返した。

 自分たち完現術師(フルブリンガー)を狙ったのは尸魂界(ソウル・ソサエティ)の貴族・綱彌代家であり、死神全体ではない。その事は、カイより聞かされている。

 しかし、なおさらその事が死神全体に対する不信感を、銀城の中で煽った。

 何故、悪徳貴族を野放しにしているのか、という不信感である。

 故に、銀城は死神と関わらない事を心に決めていた。

 浦原たちは死神社会の被害者、兼、自分たちに色々と良くしてくれている恩人という解釈で、死神判定はしていない。

 ただ、浦原が今後取り組もうとしている死神社会関連の事柄には、協力しない姿勢である。

 

「別に隠れる必要はなくない?一応僕から綱彌代家には牽制したしさ」

 

「俺は普通にお尋ね者だっての。死神代行ほっぽりだしたってな。テメェらが押し付けてきたもん、こっちの都合で辞めて何が悪ぃってんだよ。むしろこっちが慰謝料貰いてぇんだがな!」

 

 カイへ返答する度に思い起こされる、死神たちへの怒り。銀城はついつい口調を荒くしていた。

 

「ごめんごめん。そうだね、僕の浅慮だった。謝るよ」

 

「……別に、カイさんは悪くねぇよ」

 

 あまり謝意が感じられないとはいえ、恩人を謝らせてしまったと思う銀城。彼はその居たたまれなさを、背もたれに顔を向けて耐えようとしていた。

 

「『そこがチョコラテの様だと言うのだ!!ぼうや(ニーニョ)!!!』なんてね」

 

「……『ニーニョ』って何語だ?」

 

「スペイン語だった気がするよ。ちなみに、意味は『ぼうや』ね」

 

「……チョコのように甘いガキだって言ったのは分かったが、ぼうやって歳じゃねぇぞ」

 

「ごめんごめん。もう40代だったね」

 

「まだ30にもなってねぇよ!!」

 

「じゃあやっぱり『ぼうや』で良くない?僕、軽く100年は生きてるよ?」

 

「……アンタこそ何歳なんだよ」

 

「永遠の17歳さ!」

 

「……」

 

 真面に取り合うんじゃなかったと、ここで悔いる銀城だった。

 これ以上は取り合わないと、彼はクッションを顔に被せて不貞寝に入る。

 それを許さないのが、理不尽な世界である。

 

「空吾くぅ~~ん、いらっしゃいまっか~~!」

 

 空吾の私室に響く、彼を呼ぶ声とドアノックの音。

 

「……居るよ、平子。……何だってまたそんなエセ関西弁なんだよ」

 

「誰がエセ関西弁やねん。こちとら数千年前からある尸魂界(ソウル・ソサエティ)の方言やっちゅうねん。言うたら、現世の関西弁がエセ尸魂界(ソウル・ソサエティ)方言やろ」

 

 銀城の声が聞こえたので、もう許しもなく入室している平子。

 彼らは喜助を仲介して交流を持った間柄だ。

 一応だが。平子ら元・護廷隊隊長格、現在『仮面の軍勢(ヴァイザード)』を名乗る彼ら。そんな者たちに対する銀城の解釈は、浦原に対するのと同じモノだ。

 

「……死神の文化が分かんなくなりそうだ」

 

「そないなことより。仕事や、銀城」

 

 銀城が思考する尸魂界(ソウル・ソサエティ)文化の変遷をかなぐり捨て、平子は真面目に口を開く。

 

「新たな『霊王の欠片』持ちや。それも、お前と同じ、死神と(ホロウ)の因子持ちやな」

 

「……は?」

 

 銀城は呆ける他なかった。

 自分と同じ、『霊王の欠片』、死神、(ホロウ)、3つの因子持ち。

 ただの『霊王の欠片』持ちなら、それこそ完現術師(フルブリンガー)の仲間たちが居る。

 死神、(ホロウ)のハイブリットなら、銀城の目の前に丁度仮面の軍勢(ヴァイザード)が居る。

 トリプル・ハイブリットは、今までは銀城のみだった。

 

「おいおい、冗談よせよ。何だ?そいつは俺みてぇに、(ホロウ)の因子を奪い取った死神兼完現術師(フルブリンガー)だってのか?」

 

 生まれながらのトリプル・ハイブリットとは、銀城には間違っても思えなかった。

 死神と『霊王の欠片』持ちのハイブリットならまだ分かる。死神の子がたまたま『霊王の欠片』を宿していれば完成だ。

 しかし、(ホロウ)の因子を先天的に持っているのは(ホロウ)だけだ。銀城も仮面の軍勢(ヴァイザード)も、後天的に得た例でしかない。

 その例から、自分のように他者から因子を奪える完現術師(フルブリンガー)だとしか、銀城には考えられなかったのだ。

 

「いいや、違う。そいつは、死神と、仮面の軍勢(オレたち)みたァに(ホロウ)の因子を植えこまれた滅却師(クインシー)の間に生まれた、『霊王の欠片』宿した子供や」

 

 平子から伝えられた情報があまりに濃密だったため、銀城は頭痛に襲われて顔をしかめる。

 

「……まず、死神と現世の滅却師(クインシー)じゃ子は生まれねぇだろ」

 

「死神の方が訳合ってチンコ付いとる義骸に入っとる」

 

「……人間が(ホロウ)の因子なんて植えこまれて、耐えられんのか?」

 

「「お前が耐えとるやろ」言いたかったんやけど。耐えられそうになかったそうや。なんで、喜助が処置した。説明されてもよォ分からんかったが、死神の方が義骸に入る事で(ホロウ)の因子を抑えとったっちゅう話や。そんで、その因子は子に引き継がれ、引き続き抑えるために、死神の方は当分現世暮らしやと」

 

 平子が懇切丁寧に説明してくれているが、銀城は顔をしかめるばかり。眉間のシワも深まる一方だ。

 

「………誰が、そんな事をした」

 

「藍染惣右介。―――オレらの敵や」

 

「テメェらの敵だろうが!こっちを巻き込むんじゃねぇ!」

 

 銀城は、平子に掴みかかった。怒りが抑えられなかったのだ。

 

「どいつもこいつもっ、死神ってのは俺たちを(ホロウ)から守る存在じゃねぇのか!?ええっ!?」

 

 三界の魂魄バランスを守るだの何だの宣いながら、現世の人間を弄んでくる。そんな死神という存在に、銀城は怒りを禁じえなかった。

 自分たちはただ、平和に暮らしたいだけなのに。

 

「……スマン」

 

 平子は、銀城の目を真っすぐ見て、そう謝った。

 銀城の感情が、揺さぶられる。

 

「ホンマ、オレら死神の責任や。平和ボケしとったから、悪を見逃すなんちゅうアホやった。ホンマ、スマン。いや、本当に、申し訳ない」

 

「……っ!……分かってんだよっ、アンタたちが悪くねぇのは!」

 

 分かっている。分かっていないはずがない。

 目の前にいるのは、悪者に貶められた側の男であり、その悪者を成敗しようと動いてる善人だ。

 八つ当たりでしかない。だから、銀城は平子から手を放し、自罰のように己の膝を打ち据えた。

 

 数秒の沈黙が、場を包む。

 破ったのは、平子の方だ。

 

「銀城。オレらのケツ拭かせるようでスマンが、せめてその子の状態だけでも確認してほしいねん。最悪、お前に因子を取り除いてもらわなアカン」

 

「……分ァってるよ。子供には罪も責任もねぇ。……その子の元まで、案内してくれ」

 

 喜助からの依頼だったそれを、平子からの頼みとなったそれを、銀城は呑んだ。

 平子は小さく、されど苦く笑って、背を向ける。

 銀城は、その背に付いていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「……あ、これ、僕完全に無視されてたのか」

 

 平子も銀城も意図して無視していた事に今更気づいたカイを置き去りにして。

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