主人公が曇らされてばっかりの世界に、一般通過過負荷(マイナス)が、ダイナミックエントリー! 作:霓霞霖
夕暮れの空を駆ける。
屋根伝いに空を駆ける。
敵を滅却せんがために駆ける。
「……見つけた」
眼鏡越しに見る。神経を逆撫でるような、本能的な忌避感を抱かせるような、そんな霊圧。
そうして弓に矢を……。
いや……。
そうして、放たれた霊力の矢によって、
雑魚も雑魚。たったの一矢で滅却される。
「……」
眼鏡の少年は、滅却した
そんな少年の背後に、また別の少年が追いすがる。
「あーあ、やっぱやってるよ。
「……、いちいち追ってくるなよ、
2人の少年たちは、お互いを諫めるように素っ気ないやり取りをした。
若干棘があるが、内心、お互いを慮っての態度である。ツンデレ同士となるとこうなるのだ。
「……石田。……15になって父親がウザったくなるのは分かるけどよぉ。さすがに呼び捨てはマズくないか?母ちゃん泣くぜ。……いや、叶絵さんはむしろ子供の成長っつって、反抗期を喜んでたか」
「うるさい!そっちこそ反抗期真っ盛りじゃないか!一心さんのスキンシップが激しいとはいえ、暴力はよくないだろう!?それこそ真咲さんが泣くぞ!」
「おふくろだったら爆笑してるぞ」
一護と雨竜はお互いの反抗期を指摘し合う。
2人は、家族ぐるみの仲であり、幼少期から15歳となる現在も関りが続くからこそ、お互いの両親を引き合いに出して相手を揶揄える関係になっていた。
母親について言及する事も、彼らは躊躇しない。躊躇するまでもない。
だって、
とかく。そんな少年たちの青春劇に影1つ。
といっても、悪い影ではない。
何せ、その影は銀城空吾だからだ。
「おい、ガキ共、ハシャぎすぎだ。そろそろ死神が来る。さっさとヅラからねぇと、お縄になるぜ?」
「師匠」
「銀城さん」
呆れ拍子で2人に声を掛けた銀城。一護と雨竜は直前までその気配を読めていなかったが、驚きはなし。ただ、ちょっとばつが悪そうな表情をした。
この3人は奇妙な縁で繋がって、交流を持っている。
やんちゃな子供2人と、その子供たちを出しゃばり過ぎず面倒見る親戚のおじさん。そんな関係性だ。
ちなみに、
銀城はとある事情で
「ほら、さっさと行くぞ。
「……」
「……」
死神に敵意をむき出す銀城。一護と雨竜は小さく思慮を巡らせて、無言で遠のく彼の背を追う。
事情は、概要だけ聞かされている。
それだけだ。ただ、それだけとは、一護も雨竜も思っていない。
もっと根深い遺恨がある。
そうは察しても、容易く踏み込めないと、高校生ながら領分を弁える思慮を持つ2人である。伊達に、波乱な人生を送ってはいない。
道中、それぞれの帰路に就いて、1人の一護。
もう日が沈むという時に、彼はようやく実家であるクロサキ医院に辿り着いた。
「ただいまァ」
「遅ーーーーい!」
一護が玄関跨いだ瞬間に、一心の蹴りが頭に打ち込まれた。
これでは親子で殴り合いの喧嘩になるのも致し方ない。
「門限破りだっ、この不良息子!家には6時に帰ってきて、7時には一緒に飯を食う決まりだろうが!」
「てめぇ!それが他所の子供の無茶を引き止めに行った息子への態度か!てか、門限6時なんて男子高校生が守れる訳ないだろ!」
「やかましい!竜弦ところの雨竜ちゃんはお前みたいに無茶はせん!それに門限は母さんの子供はしっかり血を継いでるせいで
お互いの正論でお互い掴み上げる親子である。
ちなみに、一心は霊感がないが、
「もー、止めなよ。お兄ちゃん、お父さん。もうすぐ夕飯だよー?
「あたし達じゃ無理だって、ユズ。こういう時はお母さん呼ばないと。おかーさーーーん、また
親子喧嘩は見慣れた子供たち、ユズもとい遊子と夏梨である。
とくに夏梨は対応も手慣れていて、ノータイムで母親召喚の手を打った。
「はいはーーい。また喧嘩ーー?」
呼ばれて現れる、洗濯籠を手にした女性。黒崎真咲。
彼女には、以前危篤だった後遺症が、表立ってはそんざいしない。
裏では、
「アナタ、一護。喧嘩は止めて、ご飯にしましょ?」
「はーーーーい、マイ・ハニーーー」
「……分かったよ、おふくろ」
真咲の笑顔で一心も一護も陥落。色んな意味で母強し、である。
「一兄、あんまり銀城さんとか
「分ァーってるよ」
妹・夏梨にも諫められ、不承不承に磨きをかけて夕飯の宅に着く一護であった。
ちなみに、月島さん、月島
夕飯を終え、自室のベッドに寝そべる一護。
仰向けで自分の右手を見つめ、そうしてから天井に突き出し、踏ん張る。
何も出ない。何もできない。
物質に宿る魂を隷属させる事は、微かにできる。
空気中の霊子を集める事も、僅かにできる。
それ以上が、できない。
「……チクショウ」
掲げた右手を下ろして、視界を塞ぐ。
力が欲しい。
頑張ってるのに。
銀城からは
成果は、芳しくない。
閉塞感に悶えて、一護は願望を口から零す。
「力が欲しい……。みんなを、守れる力が……」
願いを秘め、されど口にした。
だから、その願いは聞き届けられる。
―『喜べ少年、君の願いはようやく叶う』、なんてね
「っ!?い、今の声、カイさん……!?」
脳内に直接響くような、それこそ回想のような声だったが。その台詞を、一護は聞き及んだ記憶がない。
銀城の元へ案内したあの日に限らず、一護はカイと何度も接触してきた。何年経っても高校生のような外見で、ついこの前会ってその背を追い越した事は、一護の記憶に新しい。
それでも、その回想のような声で聞かされた台詞は初めて聞いたモノで、何処か底冷えするモノで、しかし心に甘く染み渡る言葉だった。
みんなを守る力がほしいとした自分の願いが、叶うモノだと示してくれたようで……。
しかしそれでも一護はてっきり、
まさか、自分の目覚める力が、死神のモノであるなんて、露とも思っていなかった。
そんな彼の目の前に、死神が降り立つ。
黒髪、肩に掛かる程度のそれ。袴姿のような黒装束。腰に下がった刀。
そんな少女が、まるで壁を擦り抜けるように、一護の前に現れた。
しかし、少女は一瞥もしない。
「な……!?」
「……んん?」
一護が驚いた拍子で、少女はようやく訝しむように一護を見やった。
少女は、一護と視線がばっちり合うのまで確認する。チューチュートレインじみた動きをしてまで*1の確認なので、視線が合っている事を確信する。
「……貴様、見えているな」
「……見えちゃマズいのかよ」
少女と一護の間に、妙に緊迫した空気が満たされる。
「マズいに決まっておろう。我々が見えるという事は、それ程の霊力を持つという事。
「
少女の優しい忠告で、一護は勘付いた。
それは、銀城からも竜弦からも「関わるな」と口酸っぱく言われた、『死神』なのではないか、と。
「案ずるな。
少女が一般市民の不安を取り除くために自身の素性を軽く明かしたため、一護は彼女が『死神』であるという疑いの確証を労せず得る。
だから、一護は訊きたかった。知りたかった。どうして銀城も竜弦も「関わるな」と釘を刺すのか。どうして、
目の前の少女が、こちらを案じてくれる善良な彼女が、人の命を狙ってくるとは想像できないので、なおさらにそう思う。
だから、口を突く。
「……なぁ、アンタ―――」
ただし、その機会は今ではない。
大きな音が鳴った。
石やら木やらが打ち壊されるような、大きな音。
それは、2階の自室に居る一護の、階下から聞こえてきた。
「今の音はっ!……これは、
少女が霊圧感知で事態を把握するが、思わぬ事態すぎたために、思考を言葉にしてしまった。
その言葉を、一護は拾ってしまう。
大きな音の原因が
一護は飛び出す。音の発生源へ向かって。家族を襲う敵の下へ向かって。
「ま、待て!危険だ!ええい、待たぬか、たわけ!」
少女は飛び出した一護を引き止めようとするが、当然一護は止まらず、然るに少女は一護を追う。
一護は階下に降り、リビングへ目を映して、そうして視認する。
「親父!夏梨!おふくろ!」
3人がそれぞれ血を流し、倒れている惨状を視認した。
特に、一心は気絶しているのか、微動だにしない。
「一兄……」
「一護、銀城さんたち、か、竜ちゃん、竜弦さんを、呼んで……。
夏梨と真咲も、意識はあるが気を失う寸前だ。その状態の真咲はただ、一護を逃がすため、助けを呼ぶように指示を出していた。
しかし、一護は逃げない。
「遊子はっ!……っ!」
見当たらないもう1人の妹を探して、逃げない一護。辺りを見回して、探し人を見つけた。
外から打ち抜かれた外壁の、その先で。
「
足がすくむ。
遠目では何度も見てきたのに。相対して初めて、その威圧感をその身で味わう。
情けない。ああ、情けない。
何のために頭を下げて銀城に師事した。何のためにお膳立てしてもらって竜弦の教えを受けた。
鍛えても鍛えても、「戦うな」と、教師役たちに言われる日々。
情けない。ああ、情けない。
結局お前は、誰も守れず、誰かに守られたままなのか。
「っ!――――うおおおおおおおおおお!!」
一護は自らを非難して鼓舞し、拳を握った。
なけなしの霊力を込めて、
悲しきかな。それはまだ蛮勇で、バケモノには敵わない。
バケモノらしい人の丈程ある左腕で、一護は殴り飛ばされる。
だが、注意は引けた。
両断とはいかなかったが、痛みからか、遊子を手放させる事には成功する。
一護は遊子の落下地点に滑り込み、どうにか自身をクッションにして遊子の身を守った。
「遊子!大丈夫か、おい!」
「狼狽えるな、小僧!何故かは知らぬが、お前の家族は誰も魂を食われておらぬ!……そこの
一護が目を開けない遊子を心配するが、死神の少女はまたも一護を案じてそう声を掛けた。ただ、失言もまたしてしまう。
何故、
もっと美味しい魂が、そこにあるからだ。
「俺の、せいだ……」
「―――何?」
「俺が、
「貴様、いったい何を言って―――!?」
一護が滲ませる慚愧。死神の少女には寝耳に水だったため、気を取られた。
だから、
一護の言う通り、彼が弱いから、少女もやられてしまう。
「……っ!―――いい加減にしやがれっ、クソバケモノ!そんなに俺の魂が欲しいなら、俺だけ狙いやがれ!」
一護は自暴自棄気味に、
これ以上、自分のために誰かが傷付いてほしくない。
弱い俺を守って、みんなが傷付くならいっそ……。
バケモノの前に身を躍らせながら、せめて一矢報いようと、打ち抜かれた外壁の残骸、その一部たる木片に霊力を込めて構える。
バケモノが突っ込んでくる。
死を覚悟する。
しかし―――
「ぐっ、ぬ……」
―――犠牲になるのは、間に割り込んだ死神の少女だ。
「死神……、どうして……」
一護は倒れ行く死神の少女を見て、膝から崩れ落ちる。
ああ、やっぱり俺には何も守れないのか。
「―――力が欲しいか?」
倒れ伏す少女が問う。
「しに、がみ……?」
「力が欲しいかと、訊いておろう……。家族を助ける力が、守る力が欲しいか、と……。
少女はまだ死んでいない。
見れば、少女の言う通り、バケモノは傷で呻いている。
庇ったあの瞬間に、刀を突き立てていたのだ。
「……くれるのかよ、力」
「……ああ。私の、死神の力を、半分お前にくれてやる」
力を欲する少年に、力を与えられる少女は頷いた。
曰く、刀、斬魄刀に霊力を込め、胸の中心に突き立てれば、その霊力を譲渡できる。
ただし、譲渡される側に死神の力を受け止める土壌がなければ、される側は死ぬ。
しかし、そうしなければお互い死ぬ状況。確実に死ぬか、死中に活を求めるか。
未だに助けは来ない状況。
助けを呼びに行っても、一護以外はほぼ死ぬだろう状況。
そんな状況で、一護が選べる選択など決まっている。
「―――力をくれ、死神」
一護は、死中に活を求めた。
「関わるな」と言われた。「戦うな」と言われた。
でも、関わって、戦うのが、黒崎一護。『
「『死神』ではない。朽木ルキアだ」
「そうか……。俺は黒崎一護だ」
運命は、今交差する。
「お互いに、最期のアイサツにならない事を祈ろうぜ」
「ああ」
一護の胸に、ルキアは斬魄刀を突き立てた。
―始まるよ、
そんなカイの声が、一護もルキアも聞こえた気がした。