主人公が曇らされてばっかりの世界に、一般通過過負荷(マイナス)が、ダイナミックエントリー!   作:霓霞霖

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20 MEMORY OF STEP

「まったく、ウルルのせいでメンドーな手間がかかったぜ」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「コラコラ、ジン太。その話は済んだ話っスよ?」

 

 弱気な少女を貶す少年・ジン太。

 そうして自身のミスである事に俯く少女・(ウルル)

 そんな少年たちを宥める喜助。

 その3人に付いていく大男・握菱(つかびし)鉄裁(てっさい)を合わせた4人は、布巻いて偽装した各々の武装を担いだまま、自分たちの店、浦原商店の敷居をまたいだ。

 

 原作既読勢に事の顛末を端的に話すと、改造魂魄(モッド・ソウル)・コンの事件を終えた帰路である。

 

 死神代行を務めるようになった一護のために、肉体の方に一旦入れておく魂魄をルキアが用意したのだが、それが改造魂魄(モッド・ソウル)という廃棄予定の粗悪品だった。

 粗悪品を卸してしまった喜助&その下で働く従業員たちは改造魂魄(モッド・ソウル)・コンの回収に動いたが、コンの事を不憫に思ったルキアと一護が以降もコンを使うとして、コンは廃棄を免れた、というスピリチュアル人情劇が展開されたのだ。

 そのおかげで喜助たちは粗悪品を卸してしまったミスを帳消しにされたが、武装までして動いたのが徒労になった形である。

 

 結局精神的な疲労だけで、強いて言うなら藍染に見つかるという懸念を抱く程度の心配を抱えつつも、喜助は店の奥でゆっくり休もうと居間に上がる。

 そこに、来客が2人居た。

 

「おや、銀城サンと月島サンじゃないっスか。今日はどんなご用件で?」

 

「……言わなくても分かってんだろ」

 

 飄々と振舞う喜助を、銀城は睨んだ。

 月島はただ銀城の横で平静に腰を落ち着け、しかしいつでも自身の完現術(フルブリング)、『ブック・オブ・ジ・エンド』を抜けるように栞を手に取っている。

 

「いやだなァ、銀城サン。アタシはエスパーじゃないっスよ?夜一サンには、人の心の機微に疎いと、言われる始末っス」

 

「……一護を呼べ、今すぐ」

 

 睨まれてなお飄々とした態度である喜助に、銀城は怒気まで滲ませた。

 怒りの燃料は当然、一護を巻き込んだ目の前の軽薄な男・喜助と、忠告してなお死神に関わった少年・一護だ。

 

「アタシが呼ばなくても、そちらの拠点で待ってれば良いでしょう。師弟関係でしょう?黒崎サンとは」

 

「あいつが死神から力を譲られた瞬間に、俺達は拠点を移した。あいつの口から俺達の拠点が漏れないとも限らねぇ」

 

「恐ろしい徹底ぶりっスね。綱彌代の方には、カイと共に約束させたでしょう?」

 

「それでもアウラの奴を遣わす事になってんだよ!アウラに綱彌代がしてる悪事の片棒担がせて、それでどうにか現世に居る『霊王の欠片』持ちへの不介入を呑ませてる!今でも俺達は、薄氷の上に立ってんだ!」

 

 仲間1人を差し出して、どうにか得ている平穏。仲間である完現術師(フルブリンガー)のアウラはそうされる事を納得しているが、銀城は己の不甲斐なさに嫌気を覚えているのだ。

 だからこそ、そんな犠牲の上にある平穏をどうにか保とうと、躍起になっている。

 それが外的要因で崩されようというなら、銀城は怒りを禁じ得ない。

 

「……それで、黒崎サンを呼んで、どうするんです?」

 

「あいつの『霊王の欠片』を奪う。そんで月島に()()()()。俺達は、ずっと前から敵だったってな」

 

「……本当に、それで良いんスか?」

 

「……一護1人のためだけに、仲間たちを危険には曝せない」

 

 喜助からの詰問。銀城の表情は苦渋に塗れていたが、それでも確固たる決意があった。

 一護1人と、その他の仲間たち。天秤は当然、人数が多い方に傾く。

 例え人数の少ない方が子供1人なのだとしても、人数が多い方には、子供が何人も乗っているのだ。

 

 そんな、重苦しい空気が漂う所に、明るめの声が響く。

 

「浦原さん、居るか!改造魂魄(モッド・ソウル)、コン以外も居るのか訊きたくて来たんだが」

 

 一護の声だった。

 一護は、コン以外にも廃棄されかかっている改造魂魄(モッド・ソウル)が気になって、浦原商店までわざわざ出向いたのだ。

 偏に、一護と喜助の間に浅からぬ関係がすでに構築されている故に。偏に、一護がチョコラテのように甘いが故に。

 一護は、その場に現れてしまったのである。

 

「いらっしゃい、黒崎サン」

 

 喜助は、店と居間に隔てる襖を、嬉々として開いた。

 銀城の覚悟を重んじて。

 

「ああ、良かった。浦原さ―――……銀城師匠?……月島さんも」

 

 一護は銀城と月島を視認し、瞠目した。

 これは、彼らにとって、一護が死神代行となってから初めての邂逅なのだ。

 

 一護は察していた。あれだけ死神と関わるなと言われておいて、関わるどころかその務めを代行しているために、避けられているのだろうと、察さざるを得なかった。

 だから、この邂逅に喜びがある半面、恐怖がある。

 面と向かって拒絶されるのではないかと、高校生ながら恐怖がある。

 

「……。よう、一護。何日ぶりだっけな。それまでは毎日の如く顔合わせてたのによぉ」

 

 銀城の顔は、躊躇ったようでありながら、微笑んでいた。

 

「っ!そうだぜ、師匠!確かに俺も悪いと思ってるけどよ、でも聞いてるだろ?こうしなきゃ遊子たちを守れなかったんだ」

 

 自分の思い込みだったと、一護は恐怖を取っ払い、ただ喜びに浸って銀城へと駆け寄る。

 

「ああ。助けてやれなくて悪かったな。その時は、俺達も忙しかったんだ。実は『霊王の欠片』持ちが事件起こしててな。揉み消すのに俺達『XCUTION(エクスキューション)』総出だったんだぜ?なんか、片思いの相手を能力で監禁してて、それが明るみに出ちまってたみたいでよぉ」

 

「ははっ、またトンデモないじゃじゃ馬だな。今度顔合わせさせてくれよ」

 

「それは無理だ」

 

「―――え?」

 

 和やかな、一護が死神代行となる前から変わらない会話が続く。一護がそう思っていたところで、空気が一変した。

 

 一護の胸に、刃が突き立てられる。

 背後からの薄い刃。

 一護はその刃を知っている。

 『ブック・オブ・ジ・エンド』。月島の完現術(フルブリング)だ。

 

 背後を見やれば、月島がそれを確かに構えていた。

 

「つきしま、さん……?」

 

「一護。君はもう必要ない」

 

 仲間からの凶刃に動揺する一護に反して、月島は、何処か寂しげだった。

 

「そうだ、一護。もう、俺達は仲間じゃない」

 

 銀城も、一護に刃を、『クロス・オブ・スキャッフォルド』を突き立てる。

 

「銀城師匠……。どうして……」

 

「お前はもう、完現術師(フルブリンガー)じゃない」

 

 裏切られた事を悟りながら、それを受け止めきれていない一護。銀城はそんな一護から、『霊王の欠片』の奪い取った。

 一護は、自分の中から何かが抜き取られた脱力感を覚えながら、意識が闇に呑まれる。

 

 倒れ伏す一護から、銀城も月島も刃を抜く。血が一滴も流れなければ、肉体の欠損どころか衣服のそれもない。

 銀城も月島も、一護を傷付ける事を、良しとしなかったのだ。もう、敵になったはずなのに。

 

「……月島、挿んだか」

 

「ああ。最初っから彼の持つ『霊王の欠片』が目当てだった事にしておいたよ。アウラが持つ『霊王の鎖結』みたいな特別製だと思い込んでね」

 

「……もし次会ったら、俺はとんだ大悪党を演じなきゃいけねぇのか」

 

「演じるまでもなく大悪党だよ。彼から大切な物を、守るための力を奪ったんだからね」

 

「……もう、必要ねぇだろ。一護には、死神の力がある。むしろ『霊王の欠片』が邪魔してたんじゃねぇかと思うぜ。ポテンシャルはピカイチなのに、完現術師(フルブリンガー)の力も、滅却師(クインシー)のそれも、全然発揮できてなかったからな」

 

 一護を見収める銀城と月島。彼らの様子はまるで、郷愁に駆られているようだった。

 

「……。浦原さん、邪魔したな」

 

 銀城は月島を連れて、喜助へ一切顔を向ける事なく、店の外へと出た。

 これから、喜助は死神関連に注力していく。ならば、死神を避ける銀城たちからしたら、しばらく喜助との接触を控えねばならない。

 仕事はまだ回されるだろう。でも、それも、直接顔を合わせてのそれではないだろう。

 

 これが、しばしの別れとなる。

 

「またのお越しを、待ってますよ。銀城サン、月島サン」

 

 喜助はただ、その2人をそう見送るのだった。

 

◇◇◇

 

「……ん?……あれ、ここは。……俺は、浦原さんのとこに」

 

 一護は目を開けた。

 ただ、周りの景色がおかしかった。

 何故か一護は、ビルの壁に寝ていたのだ。

 引力が下ではなく、横になっている。

 故に、ビルの壁が床となっている。

 

 一護は、これが夢であると直感した。

 しかし、ただの夢とは言えない。

 

「やぁ、チャン一。元気かい?」

 

「カイさん、なんでこんなとこ……。て、夢だから居てもおかしくねぇか」

 

「そうだね。説明も面倒だし、()()って事にしておこう」

 

 一護の目の前に居るカイは、一護への説明を全てぶん投げた。

 言ってしまうと夢ではないのだが、そう勘違いさせたままの方が都合が良いと、カイはそうしている。

 

「夢を見る直前の記憶はあるかい?」

 

「ん?ああ、あるよ。浦原さんのとこに、コンみたいのが他にも居るんだったら回収しようとして……。ああ、そうだ……。銀城師匠と月島さんに刺されたんだった……」

 

 夢だからと、カイの追及を不思議に思わず、己の記憶を反芻する一護。彼は、ちゃんと直前まで記憶を掘り起こせた。

 『ブック・オブ・ジ・エンド』を刺され、別の記憶を差し挿まれたはずなのに。

 

「あれ?君、秀九郎君に刺されて、記憶を入れ替えられてるはずじゃないの?」

 

「……月島さんが、挿んだ過去で全部教えてくれたんだ。俺の完現術師(フルブリンガー)の力を奪うのは、XCUTION(エクスキューション)のみんなと、俺のためなんだって」

 

 そう。実は月島は、敵対する過去など挿まなかったのである。

 代わりに、全て説明した過去を挿んでいたのだ。

 

『人間の完現術師(フルブリンガー)はカイさんがした契約によって、死神から守られている。でも、そこで不介入を明文化されたのは、人間の完現術師(フルブリンガー)限定だ。死神の完現術師(フルブリンガー)を守る契約はしていない。だから、死神となった君は、契約の対象外になるかもしれない』

 

 挿んだ過去の月島は、一護に説明する。懇切丁寧に。

 

『さらに、その契約はこっちからも不干渉を約束するものだ。僕たちが死神社会に関われば、あっちは契約違反と捉えかねない。だから、君を完現術師(フルブリンガー)じゃない事にして、僕たちと、君を守った』

 

 『霊王の欠片』を持っていなければ、完現術師(フルブリンガー)ではない。そもそも、相手、綱彌代の狙いは『霊王の欠片』だ。それを持ってさえいなければ、綱彌代から狙われる対象にはならない。

 そして、それさえ持っていなければ、如何に銀城と深い関りが疑われたとしても、完現術師(フルブリンガー)ではない。故に、銀城たち人間の完現術師(フルブリンガー)とは無関係だ。

 つまり、一護から『霊王の欠片』を奪ったのは、一護を綱彌代の標的にさせない事、不介入の契約を破らない事、以上2つの意図がある。

 それには、一護と自分たちを守るという意味があるのだ。

 

「なんつぅか、納得しちまったよ。だって、死神の力を得た今も、銀城師匠や月島さんに勝てるビジョンが浮かばない。それで、銀城師匠たちはその契約相手に敵わない。銀城師匠たちに敵わない俺なら、なおさらそいつらには敵わない」

 

 一護は、頭上を仰いだ。

 ビルやら建物やらが真横に伸び、上方向に建ち並んでいる、不思議な光景だ。

 奇妙ではある。でも、天が遥か遠い事だけは変わらない。

 自分では、天に届かない。

 

「俺って、まだ守られてんだな……」

 

 力を得た。死神の力だ。力をくれた奴、ルキアからは、膨大な力だと言われていた。

 でも、まだ天は遠い。上には上が居て、自分はまだ弱い。

 

「そうだね。君はまだ弱い。まだ守られる側だ」

 

「……ヒデェな。ここ、慰めるとこじゃないのか?カイさん」

 

 カイの言葉を苦言と受け取り、一護は苦笑した。

 でも、それが慰める必要のない証拠だ。

 

「悔しそうだね。て事は、諦めるつもりはない訳だ」

 

 カイは言い当てる。一護は、まだ諦める気がない。

 

「当たり前だろ?まだ死神の力を得たばっかりだ。才能を持ってたとしても、訓練も受けてねぇ素人がベテランに勝てるなんて、己惚れてねぇよ」

 

 座っていた一護は、立ち上がる。

 上を見た。目指す場所を見た。

 同時に、そこへ行けるかもしれない力を手に入れた。

 

「よっと。……お。霊子集めて固めて足場にするの、上手く行った」

 

 一護は少しだけ天に近付いた。

 

「……、遠いよ?」

 

「知ってるよ。でも、諦める理由にはならねぇ」

 

 天に近付く手段を得た。

 しかしその一歩は、あまりにも小さい。

 何十、何百、何千、何万、何億。何度も繰り返さなければ、目指した場所には辿り着けない。

 でも、諦めない。

 

「俺はな、みんなを守りたいんだ。夏梨や遊子、おふくろはもちろん、ついでに親父も、そして銀城師匠や浦原さんたちも。ああ、特にジン太や(ウルル)雪緒(ゆきお)もそうだな。守りたい。ルキアも守ってやらなきゃな。あいつが力を取り戻すまではもちろん、取り戻した後も」

 

 ずっとずっと、上を見上げていた。

 でも、何故だろう。いつかは行ける気がする。

 できれば早く行きたいから、ちょっと急いで、今の内に何回か上に登っておく。

 

 そんな彼を、カイは見ている。

 

「―――頑張れ、一護。君なら、きっとできる」

 

 カイは、ただ穏やかに、エールを送った。

 その言葉が、不思議と一護は力強く感じるのだった。

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