主人公が曇らされてばっかりの世界に、一般通過過負荷(マイナス)が、ダイナミックエントリー! 作:霓霞霖
「うっし」
消えゆく
『霊王の欠片』を銀城たちに抜かれてから腐る事なく、彼は死神代行としての務めを果たしている。力をくれたルキアへの恩義や、家族・友人・隣人を守りたいという思いで、そうしている。
この前は胡散臭い霊媒師(ドン・
やはり、彼はお人よしだ。チョコラテ呼ばわりも致し方ない。
そうしてお人よしで世界の裏側から表の世界を守る正義の行いをし続けていた日々。
一護は、遠目に目が合う。
「ん?」
「どうした、一護。
「いや、悪い。ちょっと知り合いを見かけてな。挨拶してくるわ」
「なっ、たわけ!死神の姿で誰と会うと言うのだ!」
訝しむルキアへの説明もそこそこに駆け出していった一護。当然事情を知らないルキアは慌ててその背を追う他なかった。
一護は駆ける、目が合った知り合いの下まで。
知り合いは逃げない。彼も、この邂逅を待ちわびていたのかもしれない。
何せ、一護と彼は幼い頃から家族ぐるみの仲なのだから。
「よう、石田。話すのは久々だな。同じクラスだってのに避けやがってよぉ」
「……」
一護は死神代行となる前と変わらぬ拍子で、フランクに声を掛けている。対して、雨竜は仏頂面で黙ったままだ。仏頂面なのは前と変わらないが。
「言いたい事は分かるぜ?俺が死神代行なんてやってるから、避けてるんだろう?
「……そっちじゃない」
「あん?」
「死神に知られたくないから交流を避けているのは、数ある要因の1つでしかない」
雨竜は、こちらの心情も知らず暢気に語りかけてくる一護を睨んだ。
「君は、
雨竜は一護の背負う大太刀、一護の斬魄刀を見やる。
その刀こそ、一護が死神として戦っている証だ。
「何だよ、細けぇ奴だな。別に、俺がどの力で戦おうが俺の自由だろ?それに、空中の霊子を固める技術は使ってるぜ?足場作るのに便利でな」
「……より使い勝手の良い力を自身の都合よく使っている訳だ」
「嫌味ったらしいな。俺だって、
相変わらず気難しい奴だと思いつつ、一護は眉をひそめた。
ただ、だからって雨竜や竜弦のやり方を否定するつもりもない。彼らには
一護は間違っても、無抵抗で死んでしまえ、なんて言う気はないのだ。
「石田
「……知ってるよ。俺もちゃんと葬式出ただろ」
「ただの
「なっ」
雨竜から聞かされた事実に、一護は瞠目した。
一護も不思議には思っていたのだ。雨竜の師が宗弦だったと聞かされたのは、宗弦の死後、一護が竜弦から
竜弦から、宗弦は日夜自己研鑽に励む人だったと聞かされている。
そんな人が、どうしてただの
一護も不思議だった。
その答えが、雨竜が怒りを滲ませた開示したそれである。
「銀城さんも竜弦も、何度も言う理由が分かった。
雨竜の中で、確固とした結論が出ていた。
死神の味方はしない。
「黒崎。それでも君は死神に肩入れするのか?自分に都合が良い方に付くのか?」
「……石田。悪いが、俺は自身が
雨竜の語り口には自らの出自に誇りを持っているように、一護は聞こえている。一護には、それが無駄な拘りに見えていた。
「
「……ああ、分かったよ。黒崎」
一護の思いを聞いた雨竜。そうして眼鏡に手を添える彼の顔は、不思議と感情が窺い知れなかった。
「強い力の方に属する、という訳だ。なら、勝負しよう。
雨竜は懐からタブレット菓子のようなそれを取り出し、掲げた。
これ見よがしに掲げられたそれを、一護は知っている。
「ばっ、お前!それ撒き餌―――」
一護はまさかと思いつつも、雨竜を止めに掛かった。
だが、遅い。
雨竜は撒き餌を砕き、その効果を発揮させた。
そこかしこから、
空がそこかしこでヒビ割れ、そこから
「石田、テメェっ……!竜弦さんに言いつけとくからな!」
言い争っている場合ではない。
一護は駆け出す。
1体でも多く
1人でも多く人を守るために。
「……黒崎。君は理解すべきだ。敵にも情けをかけるようなその甘さでは、誰1人守れない事を」
石田は弓矢を番う。
そして、遠方の
彼はまだ、自分が何者かに踊らされてる事を知らない。
「嫌だなー、僕をフィクサーみたいに語るのは。僕はただ、
◇◇◇
撒き餌に釣られた
人より強い霊圧を持つ者を狙っている。
だから、
『チャド』の愛称で親しまれる彼は、『霊王の欠片』持ちだから。
1回目は数週間前なので、密度が高い。それまで一度も襲われなかった事は、幸運とすべきだろうか。
確定的に不幸な事は、彼にはまだ抗う力がない事だ。
(景色が一部かすむ……。そこに何かが居る……。俺を狙ってきている。前と同じだ。ただ、今回のスポッターは転入生じゃなくて、一護の妹*1)
チャドは夏梨を担ぎ、襲ってくる何か、
最悪な事に、夏梨も狙われている。その事はチャドも把握しているがため、彼女を担いで逃げている。
ただ、残念だが、そう長くは逃げられない。
チャドは担いでいた夏梨を取り落とす。
そうして、狙われるのは夏梨の方だ。
夏梨が襲われようとしている。
チャドにとっては、友人の妹、というだけの存在だ。自分も狙われるだろう状況で、自分の安全を天秤に掛けるか、判断が別れるだろう。
しかし、チャドは一護の友人だ。あの甘い男の友人が、甘くない訳はない。
ただ、チャドには守る力がない。
この瞬間はまだ。
―ヤストラ、おまえは優しくありなさい
チャドの脳内に、走馬灯のように駆け巡る、祖父との思い出。
それは、みんなに差別されて、喧嘩して人を殴った時にされた、説教の記憶だ。
説教なんて、普通の人だったら嫌な記憶に区分するモノだろう。
チャドはそうではない。
何せ―――
―ヤストラ、おまえは強い。おまえは美しい
―――敬愛する祖父に、皆から差別される自身の身体を、褒められたのだから。
祖父から褒められる前は、周りと違う体格が嫌いだった。
身長が高く、体格が良く、肌が黒い頑丈な体が嫌いだった。
でも、今は違う。
―おまえの、その、
(わかってる、
祖父に褒められた、自身の恵まれた体。今は誇らしく、愛らしく、俗に言えば
(だから少しだけ、力を貸してくれよ)
故に、愛着のある体は、その魂を呼び起される。
右腕に突如纏わりついた装甲。
チャドはそれが自分の力であると直感し、躊躇いなく
その右腕は容易く、
彼は、守る力を得た。
「覚醒おめでとう、茶渡泰虎」
◇◇◇
撒き餌に釣られた
人より強い霊圧を持つ者を狙っている。
その
その
彼女は『霊王の欠片』持ち、かつ、美少女と言って差し支えない人間だからだ。
襲われた場所は、織姫にとって非常に都合が悪かった。
高校の校舎。まだ人が沢山居て、誰一人抗う術を持たないからだ。
あえなく多くの者が、その
織姫を助けようとした友人、
操り人形となった竜貴が、織姫に襲いかかる。
(ずっと、守られて生きてきた)
無抵抗で友人に襲われる中、織姫は振り返る。
(私の生活を守ってくれたのは、お兄ちゃんだった)
彼女は、両親と絶縁状態にあり、兄と2人で生活していた。
生活を資金的に守ってくれていたのは、その兄だった。
ただ、その兄は彼女が中学一年生の時に事故で亡くなっている。
喧嘩したその日に兄は亡くなった訳だが、その兄が
(お兄ちゃんは、あたしの髪を、綺麗だって褒めてくれた。その髪に似合うような花の形をしたヘアピンをプレゼントしてくれたんだけど、あたしはそのヘアピンが無性に気に入らなくて。喧嘩したのはそれが理由だっけ)
最期のプレゼントであり、形見となったヘアピン。
当時は気に入らなかったそれも、兄との大切な繋がりとして身に着け続けた。そのおかげで、今ではそのヘアピンに
(髪、みんなと違って明るい色だから、いじめられてた。お兄ちゃんが居なくなって、塞ぎ込んでた時に、もっといじめられたっけ。そこから助けてくれたのが、たつきちゃんだったんだ。今では、ずっと守ってくれてる)
織姫は、自身の髪には愛着がない。
それは、ただ綺麗というだけの物で、虐められる原因だったからだ。
それでもその髪を大切に扱っているのは、その髪を大切にする事が、褒めてくれた兄への恩返しであり、守ってくれる友人への信頼の証だからだ。
その友人が操られ、自身を襲い、そうして泣いている。
傷付けたくないモノを自身の手で傷付け、泣いている。
(守ってくれて、ありがとう。たつきちゃん。だから、泣かないで)
織姫は、自身を掴み上げる竜貴の頬を撫でる。
「こんどはあたしが、たつきちゃんを守るから」
竜貴に泣いてほしくないから、織姫はそんな無理を言葉にした。
でも、無理だと終わらせたくない。
だから祈る。
(お兄ちゃん、力をかしてください)
残った兄との繋がり、ヘアピンに祈りを込める。
その祈りにより、ヘアピンに宿る魂が、呼び起された。
呼び起された魂の名は、『
盾を張り、拒絶する力。
その力は攻撃を拒絶し、攻撃を防げる。
その力は破壊を拒絶し、破壊をなかった事にできる。
その力は結合を拒絶し、物を両断できる。
「『
花のヘアピン、その花弁が1つ、盾を生み出して飛んでいく。
そうすれば、盾に触れた敵は結合を拒絶され、真っ二つとなった。
彼女は、守る力を得たのだ。
◇◇◇
「覚醒おめでとう、井上織姫」
織姫が
その表情は、気味の悪い薄い笑みを浮かべている。
「原典どおりかい?」
そんなカイに声を掛けたのは、藍染惣右介だった。
そもそも、織姫を、チャドを、一護たちの現状を映すその設備は、藍染が用意した物だ。
カイはその設備で藍染と共に上映会を楽しんでいるのである。
「ああ、
「君の頼みだ、お安い御用だよ。面白いモノも見られたしね」
悪はそう微笑み合った。
そう。この現状は全て、カイが頼んで藍染が仕組んだモノ。
藍染に言われた通り、カイは宗弦の死、その真相を雨竜に伝えた。そうして雨竜が撒き餌を使うように誘導し、撒き餌に乗じて
そうする事で、雨竜、一護、そして
友人の頼みとあって藍染は二つ返事で、ついでに被検体、一護を育てる良い機会として請け負ったのだが。
予想外の能力が見られて、思いの他満足している。
「茶渡泰虎。彼の能力は取るに足らないが、その質は実に面白い。あれは、
藍染はモニター越しでありながら色々な計器で以って、チャドの能力を正確に分析していた。
そうして得られた情報から、藍染はチャドの性質に興味を持っている。
「チャン一が持つ、与える力のせいだよ。チャン一はその力を制御できてないから、無意識に周りに力を分け与えてる。泰虎君がその中で
カイは己の考察が現実になったものとして語った。
考察できていない部分も、そうなるだろうと思っていたので、そういうものだと認識している。理由を厳密に知る気はない。そこは原作設定が明かされるまで待っても問題ないと踏んでいるからだ。
「与え、奪う力、か。その力にも興味はあるが、カイもあまり知らないのだろう?」
「僕の知ってるのは、その能力の保持者は4名だという事だけだよ。僕が持つ、根拠のない考察でも聞く?」
「
世界を上から見下ろしていただろうカイに、藍染は一切の躊躇なく教えを乞うた。
カイからの情報を鵜呑みにするつもりはないが、重要な判断材料と、信頼しての事である。
「じゃあ、色々と省いて語るけど。多分、その能力の保持者は
黒崎一護、銀城空吾、ユーグラム・ハッシュヴァルト、ユーハバッハ。
前2人は
よって、カイは4名全員が
ちなみに、
「人間……。そうか、人間の因子か……。それでは、『霊王の欠片』保持者である死神は、その力に目覚めないね。人為的に生み出しやすいのは
興味深いが故に長く思考し、オマケにそれを口から漏らしていた藍染。
与え奪う能力者の生誕に運命を見出しつつ、しかしその運命に対する反骨心から、不可能だとは言葉にしなかった。
挑もうとしている相手に勝てないなどと潔く降参できるなら、そもそも挑んではいないのだ。
「なおさら黒崎一護を私の糧として育てる事に、意欲が湧いてきたよ」
「そりゃ良かった。ところで、織姫ちゃんへの感想も訊いて良い?」
「そうだね。片割れを語っておいて、もう片方を語らないのでは片手落ちだ」
カイから急に話題を元に戻されても、不快感は抱かない藍染である。
「事象を拒絶する能力か。余程重要な部位を宿しているのかな」
「ああ、その可能性はあるね。考えてなかったや。チャン一の与えた力が滅茶苦茶に多いんじゃないかって、短絡的に考えてたよ」
「確かに、黒崎一護から与えられた量もあるだろう。言霊で以って事象を改変している事から、死神の力が特に与えられたんだろうね」
「……技名だけじゃなくて、詠唱を声に出すの、そういえば死神の鬼道と同じか。……能力の名前が死神の斬魄刀と同じく漢字で表されてるからってだけで、死神因子だとは思っていたけど」
「その分析も、極論としては悪くない。それぞれの種族が持つ能力は、死神は現世で言う日本語を、
藍染は『興味がそそられる』と言いながら、何処か敵意を滲ませた笑みを浮かべていた。
なんとなく感じているのだろう。それに意味はほとんどないと。
この世界の創造主が、そう在れかしと定めたのだろうと。
「とにかく。どういう推論に基づくにしろ、彼女の能力が死神因子に由来するモノであるという推察は変わらない。ただ、その因子・力を大量に与えられたとして、死神にできるのは空間転移や時間停止がせいぜいだ。時を巻き戻す事は、できて神様くらいだろう。もちろん、死神や土地神と言った低俗な神ではなく、もっと上位の神がね」
『上位の神』と言う辺りで、ひっそりカイへ微笑みかける藍染である。
カイは訳が分からず、とりあえず微笑み返している。
「ま、あの子たちがどの欠片を宿していようと、優しく導いてあげようじゃないか」
カイは、モニターに移る彼女たちを優しく、気味悪く見つめた。
そのモニターの中には、一護は当然、銀城や月島が映っているのもあった。