主人公が曇らされてばっかりの世界に、一般通過過負荷(マイナス)が、ダイナミックエントリー! 作:霓霞霖
「おい、石田!どんな撒き餌使いやがった!」
「君も知っているとおりの撒き餌だ!特別性じゃない!」
一護と雨竜は、背中合わせで戦っていた。
あまりにも多い
通常、
だから、途中までは競争としていた雨竜も、さすがに一護と共闘している。
「銀城師匠も月島さんも見かけないって事は、あっちもあっちで手一杯って事じゃねぇか!?」
「言われなくても分かってる!彼らの助けは、最初っから計算に入れてない!」
「この大量発生は計算できてないじゃねぇか!」
「うるさい!」
仲良く喧嘩しながら、片や刀を振るい、片や矢を放つ。お互いの隙をカバーするような綺麗な連携ができているのは、原典と違い、幼馴染として共に研鑽したおかげだろう。
そのままお互い口喧嘩しながら数分、群がる
ただ、途中で
一護も雨竜も不思議がって攻撃の手を止めるが、その疑念はすぐに解消される。
大きな、いままで感じた事のない霊圧を、2人は感じ取ったのだ。
その出所は、
黒い次元の裂け目。そこに手を差し込み、広げて、裂け目の先から出てこようとしている、大きな
一護と雨竜は、それが
今の彼らでは、今まで戦ってきた
「なんかヤバそうなのが今にも出てこようとしてんだけど!どうすんだよっ、石田!」
「少しは自分で考えろ!まずは雑魚を散らしてからだ!あんな強大な相手との戦いに横槍なんて入れられたら一溜りもない!」
狼狽える一護に『考えろ』としながら答えてあげる雨竜である。
雨竜は一秒でも早く雑魚を散らそうと、攻めの手を再開させている。
「散らすったって、あのデカブツがそれまで待ってくれる保証はねぇだろ!」
「じゃあ君だけで行け!存分に横槍をくらってくれば良い!」
「お前を置いていける訳ねぇだろ!」
また仲良く喧嘩しながら背中を預け合う2人。
でも、両者ともにその焦りは拭えない。
敵が、多すぎる。
「―――と、思いのお二人に朗報です!」
一護と雨竜以外の声。それも緊迫した状況に似つかわしくない、暢気な声音。その主が2人の知り合いじゃなかったら、朗報を悲報と聞き間違えていた事だろう。
「助けに来てあげましたヨーーーン!」
「浦原さん!」
「浦原さん!」
暢気だが心強く、しかし意外な助っ人・喜助並びに浦原商店の面子に、一護も雨竜も揃って驚きを言葉にした。
2人の驚きを他所に、
「浦原さん、良いのかよ!」
「ダイジョーブ。商店の周りは片づけを済ませたっスよ。
「そっちじゃねぇよ!目立って大丈夫かって聞いてんだ!ずっと目立たないようにしてただろう!」
一護の洞察力に、喜助は小さく目を瞠る。
一護は、喜助が意図して影に潜んでいた事を察していたのだ。その理由までは推し量れないが、それでも、目立ってはいけない事情があると、慮っていた。
そんな喜助が今日、日の下に出てきた事を心配するくらいには。
そうして自分の事情に気付かれ、そして今まで深入りせずにいた一護へ、喜助は感嘆の思いを向けている。
嘆きの意味を含めて。
「……もう、隠れてても無駄、いえ、隠れる必要がない事に気付きました」
喜助は、事情を一部吐露した。
そう。喜助は、藍染から隠れる必要を失ったのだ。
何故なら、とっくに自身の所在は特定され、なおかつ利用されている事に気付いたから、だ。
少し前まで何事もなかったのに、最近は自身の周りで事件が立て続けに起こる。
始まりは、黒崎真咲の件だろう。
あの頃には藍染に所在を特定され、そうしてその周りで事件を起こし、介入せざるを得ない状況に陥れられている。
藍染惣右介の計画に、自身の行動が組み込まれている。
そう察した喜助は、隠れる事を、少なくとも消極的な介入を
相手の想定を超えるために、喜助は直接的に一護を援助する事に決めたのである。
「―――黒崎さん。ボクは君を手助けします。とりあえずは、あのデカブツ、
「……あのデカブツの相手はしてくれねぇのかよ」
「あれは貴方の敵だ」
喜助は、一護に多くを語らなかった。
もう1人の黒幕、カイの影も見えているために。
「―――分かった。恩に着るぜ」
「お、おい!黒崎!」
追及せず、ただ感謝を述べて
雨竜は喜助に追及したかったが、一護を放っておいてはいられない。
そんなところに、遅れてやってくるのがルキアである。
彼女の名誉のために補足すると、彼女も道中で
「一護ッ!?あのたわけ、一介の死神が相手にして良い相手ではないというにっ」
「ダメっスよ?朽木さん。これは必要な戦いなんス」
一護を引き戻そうとするルキアに対し、立ちふさがる喜助。
当然、ルキアは喜助の言葉、その意味を読み取れない。
「『必要な戦い』?貴様は何を言っておるのだ!」
「朽木サンに分かりやすく伝えるなら、これはカイの思惑って事っス」
「なっ……!?」
思いがけぬ名前を、思いがけぬ者からルキアは聞いた。
ルキアは、喜助とカイどころか、一護とカイの関りを知らない。
カイが意図して避けた、訳ではない。単純に会うタイミングがなかっただけだ。
「何故オヌシの口からあのお方の名が」
「……案外、何も知らされてないんですね。彼はとりわけ、貴女を気に掛けていると思ったんですが」
「何故知っているのか聞いている!」
「カイが全部仕組んでいる、あるいは共謀しているって事っスよ。貴女の誕生も、黒崎サンの誕生も」
「し、仕組まれただと!?そんなはずはない!」
ルキアは、喜助の言葉が信じられなかった。
胡散臭い取引相手と、かつて自分を救ってくれた存在を比べているなら、ルキアがそうなるのも仕方ない事だ。
彼女の中では、カイとは弱い者の味方なのである。同時に、おっちょこちょいな人という認識もあり、そんな人が計画的な犯行ができるとは思えていない。
「……信じられないって言うなら、それでも良いんです。ただ、備えはしておいてください。巨悪に対抗する力を」
喜助は、すぐに信じてはもらえないだろうと予想していた。カイも藍染惣右介も、人の心を操る術に長けている存在だ。あの2人に味方だと刷り込まれた者なら、状況証拠どころか確証があってもその信心を覆すのは難しいだろう。
喜助にとって、ルキアがその1人だ。カイに、味方だと刷り込まれている、信心を覆せない者だ。
「……オヌシにとって、これは巨悪に対抗する力を得るための試練、という事か」
「ええ。黒崎サンにとっても、貴女にとっても、ね」
ルキアに怪しくも語りかける喜助は、ただしルキアではなく、じっと一護の方を見つめる。
「……彼は、このくらいの試練は乗り越えられそうっスね」
喜助が見つめる先には、
喜助は、そしてルキアも、雨竜も感じ取る。一護から溢れ出る、多大な霊力を。
固く締められていた蛇口が、開け放たれたのだ。
ただ、それも締めていた者が主の危険を察しての、一時的なものであるが。
とかく。受け止めるために解放された霊力のまま、一護は刀を返す。
一護も、なんとなく、今ならできる気がしていた。
周辺にある霊力を集めて作るのは苦手だった、弓と矢。
今は、斬魄刀があるから、弓は作らなくて良い。矢も、周辺の霊力を集めなくても、自身から溢れる霊力を使えば良い。
矢の形にする必要もない。
ただ、自身の霊力を、刀を振るのに合わせて、放てば良い。
そうして、一護は斬魄刀を振り上げた。
惜しい点を上げるなら、その切り傷が
ただし、撃退は叶ったと言える。
一護も雨竜も、ルキアも喜助も浦原商店の皆も、それを見送る。
前3人にはもう余力がなく、後ろ数人には戦う理由がない。
事は、決着した。
この後、一護が溢れる霊力を抑えられないという事態が起こったが、雨竜がその霊力を矢として虚空に発散させる事で、解決するのだった。
◇◇◇
「ふむ。なるほど」
一護たちの様子をモニター越しに見ていた藍染は、感心したようにそう呟いた。
「何か面白い事があったのかい?僕としては結局大筋どおりで面白味がなかったんだけど」
「いや、何。あの天才が本腰を入れて黒崎一護を利用する事に決めたようでね、こちらの思惑を読んだ上で。とすると、間違いなくこちらの想定を超えようと足掻くだろう」
何も分かっていないカイ。そんな彼に惣右介は優しく解説する。
「私の思惑は、黒崎一護に、彼の持つ全ての素養を扱えるようにするというモノ。これを超えるとなると、大別して2つだ。どれか1つの素養に特化させようとするか、あるいは、新しい素養を植え付けようとするか。いや、違うな。あの男は、万に一つの可能性にも備える男だ。とすれば、全てか」
「……オーケー。天才の頭には付いていけないよ」
尋常じゃない速度で回転する惣右介の思考に、カイは付いていけなかった。
全て、という事は、1つに特化させながら、新しい素養も植え付け、さらに全ての素養を扱えるようにする、という事だ。
矛盾しかしてない。カイにはそれを矛盾させない方法が分からない。
「全て1つの系統に融合させる、という事になるだろう。つまり、黒崎一護は人間でも死神でも
藍染は言葉に裏がないように、穏やかな微笑みを浮かべていた。
自分の手で完成品を作れないが、素材を集めたのも、完成に手を貸すのも自分だ。いわば、共同開発である。
自分が全く関与していないのなら、そんな今まで存在しないモノの誕生は嫌っただろうが、自分も関与しているので問題ない。
それに、藍染の目的は天に至り、そして超える事だ。新しいモノを作る事ではなく、新しいモノを作る事は、あくまで藍染にとって過程である。合わせて、黒崎一護は自身の糧とする事を決めている被検体だ。その糧をより良く料理してくれる事に、彼は感謝の念すら抱いている。
「うん、さっぱり分からないや。でも、君が楽しそうならオッケーです、なんてね」
「ありがとう。存分に楽しませてもらうよ」
理解が追い付かない上にただ観客として楽しむカイ。藍染は、その態度に機嫌を悪くする事はない。
相手は上位者、世界を上から見下ろしていた存在。言い換えれば、それは観客と言って相違ないのだ。観客に深い理解を強要しようとするのは、無粋というもの。浅い理解でも楽しませるのが、芸術家だ。
少なくとも、藍染はそう解釈している。
なので、芸術家ではないが、藍染は浅い理解でもカイを楽しませる。横に立ってくれている、唯一の存在なのだから。
「ところでちょっと相談なんだけど」
「何かな?君の相談ならいつでも請け負っているよ?君の発想はなかなか愉快だからね」
「そう言ってもらえると有難いよ。でさ。織姫ちゃんと泰虎くん、強化してみたくない?僕はしたいんだけど」
「なるほど。それは愉快な相談だ」
悪は今日も、共に笑い合っていた。