主人公が曇らされてばっかりの世界に、一般通過過負荷(マイナス)が、ダイナミックエントリー!   作:霓霞霖

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23 MEMORY OF EMOTIONS

 雨竜によって撒き餌が巻かれたあの日。(ホロウ)が異常発生したあの日。

 当然、死神側もその異常発生を観測し、原因特定に動いた。

 一因に、滅却師(クインシー)の撒き餌が関係しているのまで捕捉した。

 しかし、その滅却師(クインシー)()()()()()()()()()()()()()()()()()。接触するのには、死神側で重要な要件があった上で手続きをしなければならない。

 それに、その撒き餌を調査したが、あれ程に(ホロウ)を呼ぶような成分は観測されなかった。「あの撒き餌に、あれ程の効果はない。改良されとらん限りは」と、()()()()()()()

 

 結局、主因は分からず仕舞い。

 

 ただ、異常発生の原因特定には至れなかったが、思わぬ収穫が得られた。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()。その存在を捕捉したのだ。

 

 現世長期滞在、及び霊力譲渡の容疑者。死神側に、()()()()()が見つかった。

 

 ルキアも、それを察していた。

 

「……しばらくは浦原に匿ってもらうしかないか。……全く、霊力回復の遅さが恨めしい」

 

 霊力が回復したら、さっさと尸魂界(ソウル・ソサエティ)に帰るつもりだったルキア。例え、処罰を受けるとしても。せめて、霊力譲渡の罪に、一護を巻き込まぬために。

 ただ、霊力を全て譲渡してしまったためか、回復は遅々として進んでいない。途中途中で(ホロウ)を撃退するため、鬼道を使っているのもあるだろうか。

 それにしても遅いと、ルキアは自身の回復の遅さを嘆いていた。

 

 何にせよ、しばらくは身を隠さねばならない。今捕まれば、一護を巻き込まないようにしてきた今までの努力が水の泡となる。

 だから、彼女は喜助の力を借りようとしていた。

 

 そうして夜道を歩く。

 

 ただ、彼女の判断は、遅かったのだ。

 

「朽木ルキア、見ィーーつっけた」

 

 粗暴そうな男の声が、空中からルキアの耳にも届いた。

 

 見上げればそこに、空中に、2つの人影がある。死神である彼らには、物理的な影などないのだが、霊感のない者には見えない霊的な影は存在するので、間違った表現ではない。

 

 とかく。大事なのは、その2人が、ルキアにとって知らない訳はない存在である事だ。

 

「恋次……っ!白哉、兄様……っ!そうか……、2人が来たのか……」

 

 幼馴染と言っても良い者、自身を養女として家に迎えた者。

 ルキアは捕縛者としてその2人が来た事に驚愕するも、納得感と、諦念を抱いた。

 前者は言わずもがな、後者も故知らぬが自身を厚遇してくれた人物。言い換えれば、自身を一等気に掛けてくれた者たちだ。捕縛の任なら、喜んで請け負うだろう。

 そして、その2人が来たという事は、もう逃げられない。恋次相手なら、切り合いでは負けるだろうが、鬼道を使えば撒けない事はない。でも白哉は無理だ。あらゆる面でルキアを優越する存在、護廷十三隊六番隊の隊長である彼から、ルキアが逃げ切れる訳はない。

 

「全く、何暢気に現世滞在してんだよ。期日超過で処罰もんだぞ?ルキア」

 

 恋次は空中からルキアの目の前に降り立ち、ルキアの様子をマジマジと見る。

 その目には、間違いなく安堵の思いが含まれていた。

 死んでなくて良かった、と。

 ただ同時に、呆れもしている。

 

「しかも、義骸に入ってるって事は、霊力譲渡の禁忌も犯してるじゃねぇか。霊力譲渡が罪に問われねぇのは、譲渡した側が殉職した場合だけだぜ?その辺は霊術院で習っただろ。座学じゃオレより上だった癖によォ」

 

 きっと仕方なくそうした。そんな事は恋次も察している。

 でも、お人よしがすぎると、呆れているのだ。

 どうして、霊力を渡したそいつから、返してもらっていないのかと。

 

「で、ルキア。誰に渡したんだ?期間次第じゃ、まだ定着してねぇだろ」

 

「……誰にも渡しておらぬ」

 

「……ああ、そういう事か。もう、返してもらうには、殺して奪い取るしかなくなっちまったって事だな?」

 

「……っ」

 

 もう渡した相手を殺さないと、渡したその霊力は返ってこない。

 それを認識する。恋次も、ルキアも。

 

「どうすんすかァ、朽木隊長」

 

 判断に困った事を、恋次は上司に投げた。

 下手人の義兄に。上から見下ろす貴族に。

 

「―――霊力譲渡の重禍(じゅうか)違反は、すでに隠密機動も映像庁も観測し、四十六室に報告されている。言い逃れのしようもない」

 

 白哉は冷静に、努めて冷静に事実を述べた。

 

「だとよ、ルキア。これ以上罪重ねねェように、素直に捕まれ。なァに、朽木隊長が口添えしてくれるって」

 

 恋次は白哉のルキアに対する厚遇を知っている。

 だから、今回も罪が軽くなるよう、取り計らってくれるものだと思い込んでいた。

 その思い込みのまま、ルキアの肩に気安く手を置く。

 

 白哉はその思い込みを訂正しない。ルキアを朽木家に迎え入れる時、これ以上の掟破りはしないと誓った事を、語らない。

 知らぬ間に強く握りこんだ拳を、誰にも見せない。

 そうして、口惜しさに口を噤んだまま、この場を凌ごうとしていた。

 彼自身、妻の妹が処刑されると、信じたくないのかもしれない。

 この場で面と向かって、実力を認めた部下や愛する妹に、嫌われたくないのかもしれない。

 

 そんな白哉の弱さが、そこに在った。

 

 その弱さを、(マイナス)が暴き立てる。

 

「いや、白哉君はルキアちゃんを庇ったりしないよ?そのまま死刑を見送るのさ」

 

「―――……は?」

 

 認識していなかった者の声。その声に、そんな素っ頓狂な声を返したのは誰だったか。

 ただ、その無情な暴きたてをした存在を、皆一様に目を点にして見つめている。

 

 口の端を吊り上げるカイを、恋次もルキアも白哉も見つめている。

 

(けい)は―――」

 

「カイさん!?」

「カイ様!?」

 

「やぁみんなお待ちかね。『殺戮者のエントリーだ!』なんてね」

 

 皆の驚きなど他所に、ニンニンといったようなポーズをするカイである。

 そこは両手を合わせてちゃんとアイサツしてほしいが、誉が浜で死んでいる彼に、古事記を書かれている大事な事を守る道理はない。実にアワレ。

 

「何故此処に居る」

 

「その質問は初手として赤点モノだよ?朽木白哉。答えは至って単純だからね。ただ僕が、『無間』に囚われている事も、此処に居ない事も、()()()()()()()()ってだけの話さ。それで、これを聞いて君に何か得がある?ないよね。ないから次の話に行くよ?君のはぐらかしには付き合ってられないからね」

 

 動揺しながらも捻り出した白哉の質問1つに、採点と愚弄と答えと話題転換を矢継ぎ早に叩きつけるカイ。誰も彼に追いつけない。追いつくべきでもないのかもしれないが。

 

「今の議題は、君がルキアちゃんの減刑を願わず、ルキアちゃんが極刑されるのをただ見送るだろう、て話だ」

 

「ま、待ってくれよカイさん!いくらなんでもそれはおかしいだろ!だって、朽木隊長は周りによく思われない事承知でルキアを朽木家に入れたんだぜ?そこまでして迎え入れた人間の極刑を見過ごすなんて、有り得ないだろ!」

 

「有り得るか有り得ないかは、本人に聞いておくれよ。ねぇ、白哉くん?」

 

 有り得ないとする恋次に、カイは白哉を指し示す。

 

「……」

 

「……嘘だろ、隊長?そんなはずねェよな!だって、ルキアはアンタが必死こいて迎え入れた妹だぜ!?義理でも流魂街出身でもっ、まさか妹を見捨てたりはしねェよなぁ!」

 

 黙り込む白哉に、恋次は掴みかかっていた。

 白哉は、無礼も侮蔑も、甘んじて受けている。

 

「ホント、律儀なもんだよね。失くした妻の遺言を聞き届けて、妻の妹を保護しようとしてさ。で、流魂街出身の妻とその妹を保護するので、家の掟を2回破ってるから、もう2度と掟を、それどころか死神の規律も破らないって。律儀が過ぎるよね?」

 

「い、妹……?私が、緋真殿の……?」

 

「―――(けい)

 

「ああ、ルキアちゃん。君と緋真ちゃんは姉妹なんだ。僕視点ではもっと繋がりが深いんだけど、そこは彼女がそう認識してたし、説明が面倒だから省こう。彼女は尸魂界(ソウル・ソサエティ)に辿り着いた時、当時赤子だったルキアちゃんを庇いながら生き残る事はできないと、君を置き去りにしたんだ」

 

「カイ」

 

「その後運よく白哉くんと巡り会って、保護してもらえたんだけど。そうして余裕が出てくると、思い出してしまったんだ。君を置き去りにしてしまった事を。それで、病で命の灯が消えようとする最中、白哉くんにお願いしたんだ。妹の事を、君の事を。赤子の時に置き去りにしたんだから、生き残っている可能性なんて低いのにね?君が特別な存在でなければ、今頃どうなっていたか。君が霊お―――」

 

「ヤグラ・カイ!!」

 

 白哉は、斬魄刀を抜いていた。

 努めて冷静にふるまっていたのに、言わなくて良い事を湯水の如く流し込むカイの姿に、生来の激情家が業を煮やしたのだ。

 

「おいおい、図星突かれて怒るなよ。カルシウム不足なのかい?……霊的存在にカルシウムってあるのかな。……いや、普通に食事は摂らなきゃいけないんだし、あるのか、霊的カルシウム」

 

「―――それ以上口を開くな、ヤグラ・カイ」

 

「何?僕が悪い事してるっていうのかい?僕は悪くないだろう?だって、ただ事実を述べているだけなんだから。ルキアちゃんを見捨てる気がないならそう言いなよ。まぁ、父母の墓前で誓った事を破る事になるけどね?でも、すでにいない人に勝手にした誓いのために、奥さんとの約束を破るの?あ、でも、奥さんももう居ないから、破って良いのか」

 

 カイに毒矢の乱射は止まらない。

 そんなカイを白哉は溜まらず袈裟切りで両断する。

 

 3人は、両断されて倒れ伏すカイを、その目にした。

 

「白哉兄様っ!?なんて事を!」

 

「隊長!?一体何やってんですか!」

 

「『カイが死んだ!この人でなし!』なんてね。……死神だからそもそも人じゃないか」

 

「え?」

「は?」

 

 カイを殺した事について、ルキアと恋次は白哉に抗議していたが。その途中で余分な者が混じり、2人は抗議を中断した。

 そうして、その余分な者を見つめれば、それが倒れ伏したはずのカイだった事を視認する。

 カイは、倒れ伏したのが()()だったかのように、五体満足だ。

 

「カ、カイ様、いつものトリックか……。驚かせないでくれ……」

 

「あ、ああ、いつものトリックか……。久々に見ると、心臓に悪ぃな……」

 

 『狭間空間』で()()()()()()()()()()()()()()()()()2人は、今回もそれだと思い、胸を撫で下ろした。

 

「そう。『残念だったな。トリックだよ』、なんてね。ま、そこら辺は良いんだ。事実陳列罪なんて罪がある事は知ってるからね。僕も悪かったって事にしておこう」

 

 死んだ事を()()()()()()()、さっさと話を進めるカイである。

 

「大事なのはね?ルキアちゃん。君の実の姉は、我が身可愛さに、死にかねない君を置き去りにしたって事。それと、君の義理の兄は、誓いのために、死刑に処される君を見過ごすって事」

 

 カイはルキアに微笑みかけ、その心に毒を垂らし、弱らせる。

 

「可哀そうだねぇ、君は2回も家族に捨てられるんだ。貴族に迎え入れられて、孤立して、そこを助けてくれた恩師とも死に分かれて、何で生きているのか分からないねぇ」

 

「私が、捨てられて、死に分かれて……?何故、生きているか……?」

 

「―――でも安心しなよ。君は、求められている」

 

 弱らせたところに、蜜を垂らす。

 

 新たな気配が2つ。

 

「―――朽木さん、これはどういう状況かな?」

 

「―――おい、ルキア。死刑に処されるって、何の話だよ」

 

 石田雨竜と、黒崎一護だ。

 片や死神の濃い気配に(さそ)われるように、片や運命に(いざな)われるように、この場に辿り着いた。

 詳細は知らない。だけど、このままではルキアが死刑に処されるかもしれないと、耳に拾っていた。

 

「ルキア、どういう事だよ。『訳あって私は出ていく』って何だよ。『お前もしばらく身を隠せ』って何だよ」

 

「……」

 

 ルキアが居候していた黒崎邸を出る時に、残しておいた置手紙。

 一護はその意図を追及するが、ルキアは目を伏せ、何も語らない。

 

「死刑に処されるって、何なんだよ!!」

 

「―――死神能力の譲渡は、大罪だって事だよ」

 

 結局、一護の質問に答えたのは、恋次であった。

 

「……てめぇ、誰だよ」

 

「人に名前を聞く時は自分から名乗りな、て言いてぇが。ああ、分かるぜ。お前、身の程も知らずに首突っ込んだ馬鹿だろ」

 

「なっ」

 

 誰何する一護、恋次にとっては見慣れぬ死神に、侮蔑を向ける恋次。その突然の侮蔑には、一護も怯まざるを得なかった。

 明らかに、初対面なのに、殺意を向けられているから。

 

「死神の組織にはな、護廷十三隊って言うのがあってな。三界、ああ、現世と死神の世界と(ホロウ)の世界、その3つの魂魄バランスを整えてんだ」

 

「……そんくらい、ルキアから聞かされてる」

 

「そうか、仲良くやってたようで良かったぜ。んで、十三隊って言葉通り、それぞれの役割に別れた13個の隊があってな?隊長、副隊長、3から20の席官、席官以下の一般隊士で構成されてんだ」

 

「……いったい何の話してんだ」

 

「オレは副隊長で、後ろにお控えになってるのが隊長って話だよ」

 

 恋次の嘲り交じりの解説に、一護、それと雨竜も目を見開く。

 単純に理解したのだ、目の前に居るのは強者だと。

 

「改めて、だな。六番隊・副隊長、阿散井恋次だ。ほら、名乗ってやったぞ。そっちも名乗れ、死神気取り」

 

「てめぇ……っ、黒崎一護!死神代行だ!」

 

「……つくづくこっちの事情を知らねェ奴だ。―――何年か前に、『死神代行』ってちゃんと役職もらった奴がいたが、今じゃ指名手配中の犯罪者だぜ?」

 

 何も知らない子供、黒崎一護に、恋次は最早哀れみすら抱いていた。

 ただ、それでも治まらない怒りがある。

 

「……たく、こんな奴のために―――ルキアは処刑されんのかっ!」

 

「っ!?」

 

 切り掛かる恋次。一護は咄嗟に、彼の刃を受け止める事ができた。

 だが、その刃は押し込まれている。

 鍔ぜり合う刀は、大剣の如きそれと、日本刀らしいそれ。大きさだけ比較すれば、一護の方が上回っている。

 しかしそれは、練度の差を表しているのだ。

 

「なんだっ、そのデカいだけの斬魄刀は!霊力を御しきれてねェのが丸分かりだ!」

 

「くっ、そっ……!」

 

 恋次に押し込まれる。一護が押し込まれる。膝を突かせられる。

 刃が、届きかける。

 

「僕の事が見えてないようだね。あるいは、視野が狭まっているだけか」

 

 恋次の刃が一護に届きかける寸でのところで、雨竜は矢を見舞った。

 残念ながら、恋次は後退し、その矢を回避する。

 

「……何だ、てめェ。死神じゃねェな。……センナ先生みてェな完現術師(フルブリンガー)でもねェ」

 

「朽木さんのクラスメイトだよ、滅却師(クインシー)のね」

 

「……滅却師(クインシー)?名前は」

 

「ああ、ちゃんと僕も名乗り返そう。石田雨竜だ」

 

「石田雨竜……?その名前って、確か滅却師(クインシー)との取引で、要保護観察対象になってる奴だったような……」

 

 雨竜は冷静であろうとしていた。

 でも、記憶を掘り返すために零した恋次の言葉が、一気に雨竜を熱する。

 

「―――誰の事だ」

 

「……あ?」

 

「取引した滅却師(クインシー)とは、誰の事だ!」

 

 熱された思いに身を任せて、雨竜は弓矢を構えた。渾身の霊力は、見るからに脅迫である。

 

 脅迫してでも、訊き出さざるを得ないのだ、雨竜にとっては。

 何せ、雨竜の中で、自身以外の滅却師(クインシー)は、石田宗弦、自身の祖父しかいない。

 他の者たちは生き残るために滅却師(クインシー)の力を捨てている。

 竜弦はまだ力を持ったままだが、滅却師(クインシー)としての振る舞いを捨てている。

 

「……何だってんだよ、どいつもこいつも。……自分勝手にキレやがって。キレてェのはこっちなんだよ!」

 

「こっちの台詞だ!」

「こっちの台詞だ!」

 

 恋次、一護、雨竜。それぞれがそれぞれの事情で、感情を露わにする。

 良くも悪くも、彼らは三つ巴を形成したのだった。

 

 

 

「さて。知らぬ内に省かれた者同士、お茶会でもしてようか」

 

「断る。(けい)と茶を共にする時間など、一寸たりともありはしない」

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