主人公が曇らされてばっかりの世界に、一般通過過負荷(マイナス)が、ダイナミックエントリー!   作:霓霞霖

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 先週は色々あって更新忘れてました……。


24 MEMORY OF EMOTIONS 2

「オラオラどうしたァ!滅却師(クインシー)に死神気取り!」

 

「こなくそ……っ」

 

「ちぃっ……!」

 

 恋次は一護と雨竜を相手にする形でありながら、見事にあしらっていた。あえて深手を負わせないように加減する余裕すらある。

 

「おいおい。先に本気出す事許してやってんのに、何手ェ抜いてやがんだ?特に死神気取り。始解もしないで、本気でルキアを助ける気アンのか?」

 

 恋次が加減していたのは、余裕の現れもある。

 その他にも、色々な思惑があるのだが。例えば、ルキアを逃す協力者とするに足る力があるのか、とか。

 

「シカイ?何だそりゃ」

 

「はぁ……。とことん『死神気取り』だな、お前。ルキアもルキアだ、せめてそんくれぇは教えてやっても良いだろに……」

 

「さっきから、何の話をしてんだ!」

 

「お前はっ、ルキアに守られてるだけの、弱虫だっつう事だよ!」

 

 死神について何も知らない一護に、恋次は嫌気が差した。

 だから、彼は見せ付ける。彼我の差を。護廷十三隊と死神気取りの差を。

 

「『()えろ』!『蛇尾丸(ざびまる)』!」

 

 恋次の霊圧が膨れ上がるとともに、彼の斬魄刀が姿を変える。

 特徴的な蛇腹剣・『蛇尾丸』。それが恋次の刀だ。

 

「なん、だよ……それっ!」

 

「言ったろ、始解だ。斬魄刀ってのはな、認めねぇ奴には名前も教えてくれねぇんだ」

 

 驚愕で固まる一護に対し、恋次は最早、子供にモノを教える気分だった。

 ただ、優しさはない。哀れみしかない。この程度で驚いているようでは、ダメなのだ。

 

「こんな事もできねェなら、ルキアを助けるなんて、二千年早ェぜ」

 

 この程度で驚いている程度では、ルキア奪還の障害となるだろう者たち、居並ぶ隊長格たちに、太刀打ちなどできないのだ。

 だから、これ以上の無力を味わう前に、恋次は慈悲の一撃を見舞う。

 恋次の刀・蛇尾丸が、獲物に牙を立てんと、襲い掛かる。

 

 

 

 恋次たちが切り合っている最中、カイは暢気に、邪気塗れに、白哉と談笑しようとしていた。

 

「『ねぇねぇ今どんな気持ち?』君の部下と義妹のお友達が義妹を思って切り合ってるけど、『ねぇねぇ今どんな気持ち?ホンネのところを聞かせてよ』、なんてね」

 

「……、何とも思わぬ。死神能力を譲渡された存在は、処分するのが規則だ」

 

「初代死神代行は処分できてないけどね」

 

「指名手配はされている。何故か捜索隊は組織されぬが、それが護廷の意志ならば、従うだけの事」

 

「その護廷の意志とやらのおかげで、君の義妹は極刑だけどね」

 

 カイはチクチクグサグサ、涼しい顔の下で歯噛みしている白哉を言葉の刃で刺し続けていた。

 まさに悪魔(マイナス)である。

 

「カイ様、止めてくれ。良いのだ。私は、緋真様と瓜二つで、しかも妹だったから温情を受けていた身だ。罪を庇い立てする程の義理はなかろう」

 

「ぶはっ!だってさ、お兄様!義妹が不当な扱いを受けないように、僕の教え子だって事を必死に隠し、僕の教え子だと分かっても蔑まないだろう隊風の十三番隊に送ったのにね!微塵も伝わってないよ?君の愛情」

 

 白哉の愛情を全く感じ取っていなかったルキア。カイはそれをダシに、さらに白哉をグサグサ刺していく。

 

「私が、カイ様の教え子だった事を隠していた……?それは、いったいどういう……」

 

「ルキアちゃんも知ってるとおり、ルキアちゃんと恋次君以前にも、『狭間空間』から護廷隊に入った子たちが居るんだよね。で、時々言っちゃう子が居るんだ。「カイ様は罪人なんかじゃない」って。僕は罪人だから、本人たちの立場悪くなるだろうし、言わないように言い含めてあったんだけど。まぁ、正義感が強いと言うか、義理人情に厚すぎて、つい口走っちゃったって話さ」

 

 『狭間空間』で育てられた霊力持ちは、ほぼ例外なくカイに恩義を感じている。その感じている恩が、恩人に報いれない不甲斐なさが、各々どれ程か、という事だ。

 そうして、耐えられず、自身の立場が悪くなるのも構わず、恩人を擁護してしまう者たちが、少なからず居たのだ。

 で、その者たちはどうなったか、というと―――

 

「そういう子、全部君のところか、十三番隊に行くよう、仕組んだんだよね。間違っても、ルキアちゃんが僕の教え子だって、漏らさないように」

 

―――白哉は、ルキアとの面識、その有無に関わらず、『狭間空間』出身者全員を自身の思惑に沿う部隊へと誘導したのだ。

 

「おまけに、全員に僕の事は口に出さないよう厳命までする徹底ぶりだ。そもそも、『狭間空間』出身だって口にしなかった者たちも、経歴洗っているなんて徹底ぶりだけどね」

 

「なっ……。そんな、兄様がそこまで私を……」

 

 カイの口から暴露された、徹底も徹底であるその隠蔽工作。これには、ルキアも唖然とし、白哉の意を輪郭だけでも捉えるに至った。

 

「で、そこまでしておいて、ルキアちゃんの極刑は見過ごす訳だ。そんなんで、死んだルキアちゃんの姉に、君の奥さんに顔向けできると思ってる?」

 

「……」

 

「二度と顔を合わせる事はないからとか考えてない?ねぇ、その顔で奥さんの墓参りに行くつもりなの?どの面下げて?」

 

「煩い!」

 

 カイの連撃に、ついに白哉は声を荒げた。

 よく我慢した方である。

 

「煩くもなるさ、老婆心でね。あ、僕は17歳だけど、永遠に」

 

「では貴様はっ、亡き父と在る祖父にっ、どう申し開きをしろと言うのだ!」

 

「普通に申し訳なさそうな顔して行けよ。義妹のためにもう一度だけ掟を破らせてくださいって」

 

「―――っ!」

 

 意固地になっている頭でっかちに、カイは白けた様子で一般論を浴びせる。頭でっかちの白哉にとって、それは冷や水だった。

 

「どっちが大切って話でしょう。家?妻と義妹?なぁ、家のためとか言ってさぁ、自分の思いを蓋するの?ねぇ、それってさぁ、本当に妻を愛してたって言える?」

 

 白けた様子のカイが浴びせかける説教。白哉は、瞠目しながら俯いている。耳を塞がない。目を閉じない。どちらもできない。逃げるべきか進むべきかも、分からないから。どっちがしたいのかも、分からないから。

 

「なぁ、証明して見せろよ。本当に妻を愛してたって言うなら、態度で示してみろよ。君は何も選択できないままに、死んだお父さんや奥さん、生きてるお爺ちゃんに会いに行くつもりか?()()()()()()?」

 

 『どの面』と、カイは再度突きつけてきた。

 白哉にも分かる。それだけは分かる。

 きっと今自分は、他人に見せられたものじゃない顔をしている。

 その顔で、誰に会いに行くつもりだ。

 何も選べなかった軟弱者のままで、誰に謝りに行くつもりだ。

 

「―――ルキア」

 

「は、はい、お兄様」

 

「―――あの者は、強いか」

 

 白哉からルキアに向けた問い。

 それはあまりにも唐突で、突拍子もない内容だった。ルキアの方から白哉の顔を窺い知る事もできない。

 でも、意図は伝わっている。

 

「……。どうしようもない、お人よしです。()()殿()()()()()()()()()()

 

「……そうか」

 

 ルキアの答えを受けて、予想どおりの答えを得て、白哉は瞑目した。

 次に目を開いた時は、一護を見つめていた。

 託すに足るかを見定めるために。

 

 白哉は、託す事を選択したのだ。

 

 その顔はきっと、誰に見せても恥ずかしくないモノだろう。

 

「いいね、そうでなくっちゃ。君たち()()が僕たち()()と同じ顔してちゃ、こっちも立つ瀬がないんだよね」

 

「……。礼は言わぬぞ」

 

「よく聞くけどさぁ、その台詞って礼を言ってるようなもんじゃない?」

 

「……」

 

 不気味な笑みを携えるカイに、白哉はようやく、沈黙を貫いた。

 

 

 

 蛇腹剣・蛇尾丸が一護に襲い掛かる。

 恋次は一護を正面に捉えていた。

 しかし、それは一護以外を見ていないという意味ではない。

 

「僕を忘れてるぞっ、死神!」

 

「忘れてねぇよ。取るに足らねぇだけだ」

 

 雨竜の横槍ならぬ横からの矢。ただ、それは自在に伸びる蛇腹剣が盾となり、まだ伸びる余裕がある刀身は無慈悲にも一護のその身に見舞った。

 実際、恋次からしてみれば、雨竜など取るに足らないのだ。滅却師(クインシー)だけあって、淀みない霊力コントロールには見るものがある。だが、空中の霊力を扱う滅却師(クインシー)だけあってか、雨竜自体の霊圧に見るものはない。

 

「黒崎!」

 

 無視されるよりも酷い、あしらわれるだけの彼我の実力。強敵の攻撃をその身に受け、膝を突く知人*1

 石田雨竜は、無力を噛みしめ、ただ一護を思って叫ぶ事しかできない。

 

(俺、何も守れねぇのか……?)

 

 守る力を得たはずの一護。でも、その実態は、ルキアを、守りたいモノを攫われるしかない、あまりにも惨めなそれだ。

 

(俺、力を得ただけで、良い気になってたんだ……)

 

 浮かれていた。今まで何もできない自身に、ようやく何かできる機会が与えられたから。力を与えられたから。

 でも、もらった力を、ただ力任せに振るう事しかしてこなかった。

 目の前の男、阿散井恋次も言っていた。自分が振るってきた刀は、認めない者には名前すら教えず、力を貸さない。

 

 力に、認められていなかった。

 自分はただ、金属バットをその正しい使い方も知らず振り回していただけだった。

 一護は、その事に気付いた。

 

(情けねぇな……)

 

 自分の情けなさを自覚した一護。

 彼はふと、俯いていた顔を上げる。

 目の前の男、阿散井恋次は哀れみすら抱いて見下ろしている。

 石田雨竜は、今にも助け起こそうと、手を伸ばしている。

 ルキアも、心配そうに、ただ助ける好機を窺って、状況をつぶさに観察している。

 

(俺、まだ守られる側なんだな、カイさん……)

 

 いつだかの夢で、『君なら、きっとできる』と、応援してくれた。

 あれはきっと、本当に夢だった―――

 

「っ!」

 

 ルキアの奥を見る。一護はカイを見る。

 その表情は微笑みを携えていて、全幅の信頼を置いているようだった。

 

―――あれはきっと、夢じゃない。

 カイは、自身ならできると、微塵も疑っていない。

 

(ああ、全く情けない……!目の前の奴より弱いからって、今まで努力を怠ってきたからって、今頑張らねぇ理由にはならねぇだろ!)

 

―頑張れ、一護

 

 聞こえた気がした。一護には聞こえた気がした。

 カイは、自身を信じてくれている。お前は、頑張れる子だと。

 

(俺の斬魄刀、お前が俺を認めてねぇのは分かった。でも、力を貸してくれ!)

 

 己の中に眠る力に、願った。

 そうすると、固い蛇口が緩んだように、内から力が湧きだす。

 

(―――ありがとう。ちゃんと後で名前訊きに行くからな)

 

 刀を握る手に、一護は力を込めた。力を貸してくれた相手に、感謝も込めて。

 

 一護の霊圧。急に強まったそれに、恋次は動揺する。

 

(なんだっ、この霊圧!こんなモン、どこに隠して―――)

 

 動揺しているのが、隙となった。

 恋次は、左肩に切り傷を負う。

 

 切られたのだ、一護に。

 

「何……だ、てめェ……!」

 

 まだ動揺している。

 でも、次の攻撃には防御を間に合わせた。

 それでも、単純な力比べに負け、弾き飛ばされる。

 

「どうした、副隊長さんよ。さっきよりニブくなってねぇか?」

 

(てめェが(はや)くなったんだよ……!)

 

 一護の生意気な口に、恋次は内心で悪態を吐いた。

 突如埋められた彼我の差に、口から悪態を吐く余裕が削られている。

 

「認められるってのは、こういう事なんだな。名前は聞けてねぇが、俺の斬魄刀は力を貸してくれてるみたいだぜ?」

 

(始解間近まで斬魄刀を認めさせてる……?ありえねェ!普通の死神が、俺が、何年かけてそこに辿り着いたとっ……。こいつは何日で、そこに至ったとっ……)

 

 恋次に始解間近と評される程の実力を発揮する一護。彼の潜在能力に、恋次は悔しくも恐れ(おのの)いてしまった。

 

 ともすれば、ここで自身はこの死神気取りに負けてしまうと。

 

「終わりにしようぜ。―――俺が勝って、それで終わりだ!」

 

(いや、負けてたまるか!カイさんの目の前で、ルキアの目の前でっ、負けるなんてできるかよ!)

 

 一護と恋次。両者覇気を漲らせ、共に己が刃へ力を籠める。

 

 ただし、刃は交わらない。

 

「そこまでだ」

 

 とても平坦な声音が、一護と恋次を縫い留める。

 発声者は、朽木白哉だ。

 

「……隊長?」

 

(けい)はよく頑張った」

 

 恋次を手で制し、一護へと歩み寄る白哉。その言葉も、一護への称賛である。

 

「……なんだよ。副隊長さんじゃ敵いそうにないから、隊長が直々に相手してくれんのか?」

 

「―――そうだ」

 

「っ!?」

 

 一護の憎まれ口に対する返答は、すぐ背後から聞こえてきた。

 見れば、白哉がそこに居る。

 さっきまで、互いの刃すら掠らない位置に居たのに。今は、凶刃が一護の胸を容易く貫くだろう位置に居る。

 

 一護は咄嗟に刃を振るう。

 白哉の刃が届く範囲なら、長大な一護の刃ならなおさら届く距離だ。

 でも、一護の刃は空を切る。

 

 長大な刃なら、届いていたはずだ。それが届かないという事は―――

 

―――その刃は、折れているという事だ。

 

 一護の斬魄刀は、白哉の手によって折られた。文字通り、素手で、だ。

 

「何……だと……」

 

(けい)はよく頑張った。だが、そこまでだ。借り物の刃を振るう(けい)は、ここで終わりだ」

 

 刃が折れた一護に、白哉は凶刃を見舞う。

 胸に二撃。

 

(俺、何をされ……。負ける、のか……?死ぬ、のか……?俺……)

 

 一護は、凶刃の軌跡を一切目にする事もできず、地に伏した。そうして、己が血の上に臥す。

 

「魂魄の急所である鎖結(さけつ)魄睡(はくすい)を突いた。半刻もせぬ内に死するだろう。仮に生き永らえたとして、死神の力はおろか、霊力の欠片も残るまい」

 

 白哉は、力なく倒れ伏す一護に、絶望を浴びせかける。

 このままでは確実に死ぬ。生き残っても、霊力は回復しない。

 

 弱った一護は、薄れる意識で、絶望を味わうしかなかった。無力感を、鉄の味と共に口いっぱいに広げるしかなかった。

 

 だから、聞き逃してしまったのだ。言葉の裏を。

 今すぐに適切な処置をすれば、ルキアから譲渡された霊力は失っても、一護自身の霊力は元通りになる。

 『借り物の刃を振るう』一護が、ここで終わっただけなのだ。

 

「黒崎!」

「一護!」

 

 一護と同じく聞き逃してしまった雨竜とルキアは、一護に駆け寄ろうとする。

 雨竜の方は一護を抱き起こす事に成功するが、ルキアは白哉に、そしてカイに止められる。

 

 白哉は耳打ちする、「あの小僧を助けようとすれば、ここで(とど)めを刺す」と。

 カイは耳打ちする、「一護を信じてやれないのかい?」と。

 

 ルキアは、苦渋を呑んで、踵を返した。

 白哉に指示された恋次は、色んな言葉を呑み込んで、穿界門(せんかいもん)、現世と尸魂界(ソウル・ソサエティ)を繋ぐ門を開く。

 

「……おい、ルキア。……待て、よ」

 

 一護のその声に、門を潜ろうとしたルキアの足が止まる。

 

「―――身の程を知れ、一護。貴様はそこで地に伏せて、一瞬でも生き永らえていろ」

 

―今の貴様では無理だ。悔しいなら足掻け。『好きなように生き、好きなように死ね』。

 

 素直に告げられない、別れの言葉。

 

 地面に水滴が落ちる。

 ルキアは門を潜る。

 一護も雨竜も、その背中を見送るしかなかった。

 

 雨が、振ってきた。

 

「るき、あ……」

 

 一護の意識は薄れ行く。

 

「黒崎!?気をしっかり持て!クソッ、鎖結(さけつ)魄睡(はくすい)だと……!そんなの、竜弦でも治せるか……」

 

 薄れ行く中で、雨竜の声が聞こえる。

 他の声も。

 

「大丈夫だよ、マッド・サイエンティストが来たから」

 

「誰がマッドっスか、酷い言い草だなァ。―――で、お困りですか?黒崎サン」

 

 視界もボヤけてくる中、一護は、どうしても薄気味悪さと胡散臭さが抜けない声を聞いた。

 

 雨雲の切れ間を、見た気がした。

*1
「雨竜君はチャンイチを仲間判定してないけど、どう見ても仲間だよね?というかその前に親戚で幼馴染だし。『言葉はもう必要ないさ。それ以上に通じ合って』てこと?」

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