主人公が曇らされてばっかりの世界に、一般通過過負荷(マイナス)が、ダイナミックエントリー! 作:霓霞霖
『浦原さん。
白哉に負けて死に体となったところを拾われた一護の、そうして浦原商店で目を覚ました彼の、喜助へ向けた第一声がそれだ。
『お説教から、とかも考えてましたが。いや~「死にに行く理由に他人を使うなよ」とか、カッコイイ説教考えてたんスけどね。余計な手間が減って、大助かりっス』
喜助は、あっけからんと了承した。
その後、一護は薬をもらい、夜までに傷を治す事、それと、家族にちゃんと話す事を条件づけられ、送り出された。
家族とちゃんと話さなければいけない理由は、普通にルキアの存在がバレているし、そもそも死神代行もバレているからである。
死神代行の方は雨竜がチクった。というか、息子が最近よく怪我をしている理由を知りたいと懇願され、雨竜が良心の呵責に耐えられず、素直に答えてしまったのである。
以降、一護は真咲に一回普通に怒られ、ついでにルキアも怒られた。しばらく帰れないから泊めてほしいと言えば、最初っからいくらでも泊めていた、と。
とかく。ルキアの居候を容認していて、しかしその子が突然消えたのだ。説明しない訳にはいかないだろう。
ただ、一護は危険な事をするからまた怒られそうだなと、昨夜は友達のところに泊まっていたと嘘を吐きながら、真咲たちへの説明を放課後まで先送りにした。
そんなこんなで、日中は学生生活。
溶け込んでいたはずのルキアが居ない、居なかったものとして扱われる生活を送る。
(あれ?これっておふくろたちもルキアの事忘れてんじゃね?ラッキー!じゃあ、ちょっと友達と夏休み遊びに行くって言えばクリアだ!)
一護はそう楽観視するが、残念ながらそうはならない事を、ここでもう記しておく。
(……ルキア、居ねぇんだな)
一護は、ヒト1人が、世界から消えるという事を、疑似体験した。
ルキアはまだ消えていない、死んでいない。
でも、そうなれば、こうなる。
皆が、忘れる。皆の中から消える。
(やっぱ、助けてやんねぇとな)
助ける事は決定事項である一護。彼はただ、決心を引き締め直すだけだった。
『……朽木さん、どこ行ったの?』
それは、一護と同じく、ルキアが消えた世界を疑似体験した、井上織姫の言葉だった。
一護はここで、織姫が死神時の自分も見えていた事を知る。
その事に驚いた一護だったが、全て説明した。
ルキアは元々、幽霊の世界の住人で、悪霊を退治していた存在だと。怪我をした時、生き残るためにその退治の力を俺に渡したと。その事が罪に問われ、元の世界で処刑されそうになっていると。
俺は、それを助けるつもりだと。
『助けて、それからどうするの……?友達も家族もそっちに居て、その人たちと引き離して、またこっちに連れてくるの?……それって、正しい事なの?』
織姫のその言葉は、まるで自問自答のようだった。
本当に
その織姫の自問自答に、一護は、自分の答えを開示する。
『生きてりゃその内、家族でもなんでもまた会えんだろ。死んだら全部オシマイだ』
一護はただ、覚悟をし直した。
そうだ。助けなければ、お終いだ。ルキアは、誰とも会えなくなる。自身が、ルキアと会えなくなる。
『ありがとう。井上』
一護は覚悟をし直させてくれた事、それを織姫に感謝し、次へと進む。
『……ケガ、しないでね。……ううん、……させない。……茶渡くんは、どうするのかな?』
一護には、その少女の覚悟が耳に届く事はなかった。
進む一護の、進んだ先。家族への説明。
家の敷居を跨ぐ彼。
まず一心のドロップキックを食らう。友達のところに泊まったというのが嘘だと早々にバレていた。
原因は喜助の密告だが。
一護は後で喜助を殴ると決めた。
『そう……。あの子は、それが罪だと分かっていて、それでも一護に力をくれたのね。私たちを、助けるために』
一護から全て説明され、真咲は察した。
自分たちは、あの子のおかげで今生きているんだと。
恩返ししたいと思う。それは真咲以外の黒崎一家もそうだ。
でも、そのために一護を死地へと追いやるのか。
『ねぇ、一兄……。それって、一兄がやんなきゃいけない事……?他の人に、頼めたりしないの……?』
兄を思う夏梨は、兄を死地へ追いやりたくなかった。
誰か、代わりになってくれる人が居るはずだ。そう思った。
では、仮にそうだとして、一護はそれで止まるのだろうか。
『俺以外にやれる人が居るとしても、それは俺がやらねぇ理由にはならねぇ』
覚悟も決心も強固となっている一護が、止まる訳がない。
『良く言った、一護!それでこそ、俺の息子で、真咲の子だ』
一心の、父親の言葉が、家族の意見を決めた。
黒崎家は、一護を送り出す。
『夏梨、遊子。心配かけて悪いな。ルキア助けて、絶対無事に帰ってくるからよ。―――おふくろ、ついでに親父。ありがとう。行ってきます』
何だか、わずかな躊躇いを断ち切るだけのような、それだけだったような気がするが。
それでも、一護は一切の憂いを捨てて、浦原商店に舞い戻る。
「よろしくお願いします!!」
己の意志がどれ程固いか、その声量で以って一護は示した。
不思議と、懐かしくなる。こんな事をしたのは、空手道場に通っていた時と、銀城師匠に稽古をつけてもらっていた時ぶりだ。
「こちらこそ。よろしく」
喜助は、ひっそり笑った。
夏休みが、始まる。
「じゃあまず、これ飲んでくださいねン」
浦原商店の地下。地下のくせに荒野と青空が広がる空間に案内された一護は、喜助から無色透明な球状物体を差し出された。
「……何だよ、これ」
差し出されてその物体を手に取って観察すれど、分かる事は、ビー玉以上・ピンポン玉以下の大きさである事、半透明の膜が外装となった空洞の物体である事、間違っても食べ物ではない事。以上3つの事しか分からない。
端的に言って、一護は効能が分からな過ぎて、言われた通りに飲み込む事を拒絶している。
「『
帽子と扇子で顔の大部分を隠して、喜助は語る。
「昔、魂魄の限界を越える事を目指して、似たような物を作りました。でもそれは、材料の入手があまりにも手間だったんス。それで、その材料入手の手間を改善したのが、それ、『破玉』」
その玉が何なのか、喜助は分かる人にしか詳しく分からないように伝えた。
分かる人なら、こう伝わるだろう。
それは、改良版『崩玉』だ。
一護が無意識に使っている能力、奪い与える能力がなければ何もなさないとすれば、改悪版とも言えるが。
「『破玉』は、黒崎サンの性質と合わさり、戦場で放出された過剰霊力を吸収し、完成に至る。そこに至れば、あるいは……」
「???」
「まぁ。要するに強い人と戦えば戦う程、黒崎サンは強くなれるって事っスよ」
シリアスな真実は一護の頭が受け付けなかったようなので、喜助はコミカルに脚色した。
「強くなりたいんでしょ?全部守れるくらいに」
喜助の眼差しが、一護を射貫く。
試している。試されている。
リスクがある事は明白。それを受け入れ、進む覚悟はあるか。
一護は、『破玉』を見つめて、それから飲み込んだ。その玉も、リスクも。
「―――鍛錬、さっさと始めてくれよ。時間は無限じゃねぇんだろ?」
「よろしい。では、始めましょっか」
一護が全てを飲み込み、喜助が応じる。
鍛錬が始まる。
最初の鍛錬は、死神としての霊力が0となった状態の霊体、つまり通常の
単純に、霊力を戦士としての最低限取り戻すためのモノだ。
これは、どうにかクリアする一護である。
次の鍛錬は、因果の鎖、自身の魂魄と器子の肉体を繋ぐそれを断って、
因果の鎖を断ってしまうと、死神でもないと器子の肉体に戻れない。つまり、現世では死を意味する。
そういう、死に瀕する状況に陥れる事で、本能的に死神の力を呼び戻す鍛錬だ。
当たり前だが、この鍛錬は元から死神因子がない存在が行っても、意味がない。眠っていない力は呼び戻しようがない、という話だ。
これは、一護が死神、それも血筋的に強い死神の因子を持つ者の子供であるから、有効な鍛錬なのである。五大貴族の血筋でなければただの自殺という話である。
さて、残念な話。一護が死ぬ、その一歩手前まで追い込まれる事となった。
彼の因果の鎖は自らを食み、心に穴をあける。
だが、それでそのまま
「あ゛……が……あ゛っ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!」
でもこれは、彼が
通常の
仮面が形成されるのは、むしろ最終段階。
一護の
誰がそうしているのかは知らないが。
ただ、一護にとって今際の際である事に変わりない。
彼は意識を暗転させる
そうして夢を見る。
―聞こえるか、一護
誰かに呼ばれて夢を見る。
「あ……?ここは……。以前も見たな……」
天が横に在り、横に在る天に向かって建物が伸びる世界。
一護には、見覚えがある。銀城と月島から刺された後に見たモノと同じだ。
彼にとっては、少し懐かしさすらある。
「何処を見ている。こっちだ」
その懐かしさに、声が挿まれた。
見れば、そこには男性が立っている。
一護が座り込むビルの壁、その後方。ビルの屋上の方に、黒い外套で体をスッポリ包んだ男性が立っている。
「……誰だよ、あんた」
初見の相手に誰何の言葉。
一護は相手を見た事がなく、分かる事はない。
ただ1つ分かるのは、只者ではない、という事だけだ。
「『誰』、だと?ああ、そうか。聞こえているものだと思っていたが、届いていなかったようだな。私の声が、私の名が。私が、ユーハバッハである事が」
男性の声は、届かなかった。
名前が、一護には届かない。まるで、何かに塗り潰されているかのようだ。
「悲しい事だ。お前には届くはずなのに。お前には理解できるはずなのに。お前なら受け止められるはずなのに」
男性は踵を返し、屋上の縁に立った。
そう。通常の重力における床に、彼は立ったのだ。
「!?おい、おっさん!」
「立て。傾くぞ」
一護が驚いている内に、男性の忠告もむなしく、重力が、傾く。
一護が座っていたビルの壁はちゃんとビルの壁になり、一護は、地面へと吸い込まれていく。
「うおわあああああああああああ!」
「この状況で絶叫している余裕があるとは、頼もしいな!」
「叫ぶ以外どうしろって言うんだよぉおおお!」
落ちる一護に、付き合う男。訳の分からない男の言葉に、一護はツッコミ役を演じざるを得なかった。
「捜すのだ、お前の中の力を!」
「……!……おっさん、まさか」
一護は、直感する。目の前の男が、自分にとって何なのか。
「今、均衡が崩れた!お前を構成する全ては細分化され、再構成を目指している!しかし、何を核とするかは、お前にしか選べない!」
ビルが並ぶ街並みが、ルービックキューブが崩れるかの如くバラバラになっていく。
「お前の中には、多くの力が眠っている!どれを核とするか、選べる時があるとすれば、再構成されようとするこの瞬間しかない!」
地面も崩れ、その先の暗闇に、海のようなそれへと投げ出される一護を、空中で制止した男性は見下ろし、見守る。
「捜し出し、選び取れ。できなければ、お前は
暗闇の海に落ちる一護を、男は穏やかに見送った。
(俺の中の、力……。
暗闇の海に沈みながら、不思議と息苦しくないそこで一護は考える。
(でも、俺に死神の力なんてあるのか?あの白哉って野郎に砕かれちまった気がするんだけど)
疑念がある。現状扱いが分かっているのは死神の力だが、その力はもうないのではないか。
では、死神の力ではなく、
その疑念を、払拭する声が届く。
―あるよ。君の中に死神の力
「どぉうわ!」
突如脳裏に響いた声に、一護は慌てふためいた。
その声が今まで聞いた事のない、さっきの男性の声とも違うとなれば、それは仕方ない事だ。
―驚かせてすまない、一護。でも、あのおっさんが説明を忘れてね。しょうがないから出張ってきた
脳裏に響き続ける、少年の声。その声は、初めて聞く声だが。不思議と、嫌悪感はない。
―時間もないし端的に。朽木白哉が砕いたのは、朽木ルキアの分だけだ。まぁ、鎖結と魄睡砕けば普通は君の分も含めて全部持っていけるんだろうけど。君の霊力は特別性だからね。上手い事隠れ、休眠してくれた
その少年の声は、とても親切に言葉を紡ぐ。
「俺の、霊力……?休眠……?」
―懇切丁寧に1から10まで説明したいのは山々なんだが……。すまない、一護。メゾンド・チャンイチの中で、僕は一番ヒエラルキーが低くてね。後、時間がない
「???」
『メゾンド・チャンイチ』とか、ヒエラルキーとか言われると、一護もさすがに意味が理解できなくなった。
―とりあえず。今は死神の力を探し出し、それを君の根幹に据えるのが先決だ。
「いや、探し出すってどうすれば!」
―それは
「―――
助言と言うかほぼ答えのおかげで一護は思い出す。
空中の霊力を凝固させ、視認する。
死神の霊絡、その色は赤だ。
「見つけたぁ!」
赤い霊絡が括られた箱を、一護は手繰り寄せ、そうして開けた。
箱からは、刀の柄、いいや、斬魄刀の柄が覗いている。
「よく、見つけてくれた」
「よく、見つけたね。おっと失礼。声が被っちゃった」
一護の背後から声2つ。その声は、街並みがバラバラになる前に話した男性のそれと、さっきまで脳裏に語りかけていた少年のそれ。
見やれば、やはり黒い外套の男性。そして、白い学ランに身を包んだ少年が居る。
男性は少年を忌々しげに一瞥し、少年は男性へ微笑んでから向き直っている。
「あんたら……」
「説明は、今度時間が合ったらゆっくりしよう。今は話している時間がないからね」
「ああ。斬魄刀を引き抜け、一護。―――次こそは、私の名がお前に届く事を願う」
「まずは斬魄刀の名前を聞いてからね。僕たちはその後だ」
「な、なんかよく分からねぇが。分かった」
男性と少年が自分にとっていかなる存在か、一護はまだ理解できない。
でも、彼らから親愛を向けられている事は確かで、敵ではない事もまた確かだ。
だから、彼らの言葉を疑わず、まずは自身の斬魄刀と向き合う。
黒崎一護は、死神となる。
……また投稿を忘れるところだったぜ。