主人公が曇らされてばっかりの世界に、一般通過過負荷(マイナス)が、ダイナミックエントリー!   作:霓霞霖

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26 MEMORY OF BONDS

退()けば老いるぞ!臆せば死ぬぞ!』

 

『『やって見せろよ、一護!どうとでもなるはずだ!斬魄刀だと……!?』……最後のは余計かな?』

 

『叫べ!お前のその力の名は―――』

『叫べ!君の名は―――』

 

 

 

―――『斬月』!!

 

 

 

 死神として力を取り戻し、なおかつその力を一段解放した一護。

 そこまで至るのに約3日を費やし、予定では残り7日も浦原と訓練をする。はずだったのだが、予定が変更となった。

 

『喜助、手を貸せ』

 

 喋る猫が、浦原の下を訪れたのだ。

 「猫がしゃべってる」と一護は驚くも、その猫は『夜一』という喜助の知人兼、後に尸魂界(ソウル・ソサエティ)で一護たちの案内役を務める人物であると、喜助から説明を受ける。

 

『で、どうしたんスか?夜一さん』

 

『織姫の方はすぐに完現術(フルブリング)の使い方を覚えたんじゃが。泰虎の方はどうも上手くいかんでな。完現術(フルブリング)の発動もままならん』

 

『……完現術(フルブリング)だって?』

 

 夜一と喜助の会話に反応せざるを得なかったのは、一護である。

 

『井上とチャドの完現術(フルブリング)がどうとかって。まさか、2人は完現術師(フルブリンガー)だってのか?』

 

『そう言っておろう。察しの悪い奴じゃ』

 

 猫からのぞんざいな扱いに青筋を立てながらも、一護は詮索するのだ。

 何故、2人を完現術師(フルブリンガー)として覚醒させようとしているのか。

 その答えが、「戦力とするため」というモノであった事に、一護は異議と抗議を口から吐く。

 

『ルキアの救出は危険なんだろ!?井上とチャドをその危険に巻き込むつもりかよ!』

 

 その言葉に夜一が反論するより早く、織姫とチャドが、一護と相対する。

 

『……チャド、井上』

 

『一護。お前の力になりたいと思ったのは、俺たちの意志だ。朽木を助けたいと思っているのは、俺たちの意志だ』

 

『黒崎くんを、守りたいの。隣に立つには、力不足かもしれないけど。盾を張ったり、治療したりはできるから』

 

『……分かったよ。……でも、怪我しそうならすぐに逃げろよ』

 

 一護は織姫とチャドの意志が固い事を垣間見て、彼女らの同行を渋々快諾した。

 

『で、どうすんだよ。完現術師(フルブリンガー)として鍛えるって言っても、銀城師匠たちの力は借りれないんだろ?』

 

 月島に事情説明を挿まれている一護。それによりXCUTION(エクスキューション)の面々は協力できない事を把握しており、完現術(フルブリング)の教師役が居ない事も推測できた。

 

『おぬしじゃよ、一護。儂らの中で、完現術(フルブリング)に一番詳しいのはおぬしじゃ』

 

『俺ぇ!?完現術(フルブリング)に一番詳しいつっても俺、完現術師(フルブリンガー)としての力抜かれてるし、抜かれる前も完現術(フルブリング)使えなかったんだが』

 

『儂や喜助は抜かれてるどころか、そもそもその力を持っておらぬ。手解きも受けておらぬ。おぬししか、教えられぬ』

 

『……分かったよ』

 

 夜一(猫)からの説得により、一護は渋々と教師役を承諾するのだった。

 そうして完現術(フルブリング)の仕様とか、使う感覚とかを、XCUTION(エクスキューション)の面々からの請け売りを聞かせ、どうにか1日でチャドを完現術(フルブリング)の発動まで持っていき、残り数日は3人で共に喜助の扱きを受ける事となった。

 そんなこんなで、訓練を終え、喜助たちが穿界門の準備をするという事で、1週間の平穏を一護たちは得る。

 

 普通の日常。夏休みだから、一護たちは共通の友人と、彼の家族で夏祭りに出かけたイベントはあったが、平穏な日常だ。彼がルキアと会う前の、銀城らに守られてきた日常。

 

「……」

 

 期日の日、一護は自室のベッドで物思いにふける。時刻は、連絡すると言われた午前一時、ど深夜だ。

 一護は思う。

 誰かに守られて作られていた、平穏な日常。完現術師(フルブリンガー)としてだったり、滅却師(クインシー)としてだったりの激しい訓練はあって、多少怪我する事はあったが、危険のない日常。

 あの日々も、尊いモノだ。かなぐり捨ててはいけない、大切なモノだ。

 だからこそ、自分の手で、大切に守っていきたい。

 一護は、そう思う。

 そして、彼にとっての日常には、もう、ルキアも必要不可欠だ。

 

「……絶対、死なせねぇからな。ルキア」

 

 掲げた手を握りこむ。自身の思いと同じくらいに固く。

 

 ダイイングメッセージじみた文字を着弾地点に描く玉を投げ込まれたのは、その直後だった。

 「ダイイングメッセージみたいじゃねぇか!」とツッコんだ一護は、そのメッセージで「そのツッコミはツッコミのセンスがない」と指摘されるのだった。

 

 ダイイングメッセージじみた連絡で、浦原商店に集まるよう、言われた一護。

 家の玄関を開ければ、そこには彼の両親が待っていた。

 母の真咲は少し心配そうに、父の一心は心配を押し隠すように気丈に、それぞれ微笑んでいる。

 そんな2人に、一護が言う事は決まっている。

 

「んじゃ、ルキア助けてくるわ」

 

「おう、行ってこい」

 

「……。いってらっしゃい、一護」

 

 意志が固い我が子を、父と母はそう、送り出すのだった。

 

 駆け出す一護。

 その道中で、仲間たちと合流していく。

 一番初めは、織姫だった。

 

「……いいのか?」

 

「いいの!自分でそう決めたんだから!」

 

「そっか。じゃあ、急ごうぜ」

 

 覚悟を決めた友人同士。お互い、背中は押せども止めはしない。

 

 次は雨竜。

 

「え?なんでお前来んの?なんか、ルキアは俺にしか助けられないとか、浦原さんから伝言聞いたんだが」

 

「うるさい!僕は朽木さんを助けに行くんじゃない!あの死神たちと決着を付けに行くんだ!」

 

「……相手にもされてなかったのに?」

 

「うるさい!」

 

 いつもの仲の良い幼馴染である。

 

 最後はチャド。

 彼は浦原商店前で既に待機していた。

 

「オッス、チャド」

 

「茶渡くん……!早いね」

 

「眠れなくてな。それより、石田も朽木を救いに来たのか」

 

「ち、違う!僕は死神と決着を付けるために来たんだ!」

 

 事情を浅くも共有した、4人が集った。

 

「全員すぐに来てくれたっスね。結構結構―――そんじゃ、中で説明を始めちゃいましょうか」

 

 送り人・喜助が、彼らを出迎えた。

 

 彼らはこれから、波乱の渦中へと、身を投げ出す事になる。

 

◇◇◇

 

 阿散井恋次は六番隊隊舎を歩く。

 

「あ、阿散井副隊長?おはようございます。……今日は非番じゃ?」

 

 通りがけに恋次は一般隊士から声を掛けられた。

 然もありなん。恋次は一護から受けた傷を治す療養の身であり、合わせて業務は休養中なのだ。

 そんなヒトが、隊舎を堂々と歩いている。規律がかっちりしている六番隊に染まり出した一般隊士なら、なおさら疑問の声を掛けるだろう。

 

「おう。暇だから、囚人の様子を見に来たんだよ」

 

 疑問には答えるが、恋次はその一般隊士の横をそそくさと通り抜けた。

 「件の囚人って、副隊長の昔なじみの……」などというコソコソ話は、恋次はあえて聞き流す。

 

 留置所の鍵を手に、その錠を解く。

 見やれば、静かに腰掛け、たった一つの小さい窓から外を眺める背中がある。

 恋次にはその背中が、不思議と力強いモノに見えた。

 

「よォ、ルキア。メシ、食ってねェんだって?そこまでショックだったのか?」

 

 恋次は鉄格子を挟んで、ルキアに揶揄い調子の声を向けた。空元気なのは、ルキアからすれば一目する必要もなく瞭然だが。

 

「……恋次か。衝撃を受けてはおらぬ。腹が空かぬだけだ」

 

「……腹が空かねェだと。お前、全然霊力回復してねぇのか」

 

「ああ。意図したものではないが、ヤツに全て渡してしまったやもしれぬ」

 

「ヤツ……。あのオレンジ髪の死神代行気取りか……。でもよ、全部やっちまったって言っても、回復しねぇなんて事あんのか?」

 

「知らぬ。我々が知っている死神能力譲渡の一例も、譲渡した側が譲渡した直後に死したという話だけだ。その後も生きておれば、私との差異を知れたやもしれぬが」

 

「……」

 

 霊力回復の談は、2人にとっても未知が多すぎて、そこで途切れる。2人のやり取りもまた、同様に。

 沈黙が気まずくなる。気まずさが、暗い話題を胸の内から口元まで持ってくる。

 

「……朽木隊長が減刑嘆願に向かう素振りが見えねェ」

 

「それは当然だろう。兄様はルールに厳しいお方だ、違反者に恩赦など与えるものか。身内となれば猶更だろう。むしろ、静観してくれているだけでも甘い対応だ。一族の恥として、迎え入れたのに裏切った恩知らずとして、手ずから処刑に動かぬのだからな」

 

「なんでテメェは!」

 

 恋次は、ルキアの語る悲観的でありながら現実的であるそれに、叫ばずにいられなかった。

 何故なら―――

 

「ルキア、なんでお前はそんな堂々としてられる!」

 

―――彼には彼女が死にゆく者に見えなかったからだ。

 義兄に見捨てられ、極刑と定められ、抗う力も残されていないと言うのに。

 椅子に腰掛ける背筋も、自身の叫びに振り返って見せられた瞳も、どうしてそう真っすぐなのか。

 

「死ぬんだぞっ、殺されるんだぞ!?なんでそれでそんな、微塵の心配もありませんって顔でいられるんだ!」

 

「信じておるからだ」

 

「信っ―――はぁ!?」

 

 恋次には分からない。この状況で、何を信じているというのか。よもや、これが運命だと達観した末なのか。死にゆくにしても、誰かを救えたと胸が張れる故か。

 

「信じておるのだ。一護を、兄様を」

 

「っ……!?」

 

 恋次はさらに分からなくなる。

 何を信じると言うのだ。瀕死だったあの少年を。無慈悲であるあの義兄を。

 

「一護は、必ず私を助けに来る。そして、兄様はこの処刑が撤回できる瞬間を持っている。……私は、一護の友愛を知った。兄様の親愛を知った。だから、そうだと信じられる。まぁ、兄様の親愛は、カイ様が教えてくれなければ気付かなかったが」

 

 ルキアは知っている。

 共に過ごした二ヵ月もない期間で、一護の優しさを。

 この四十余年もひた隠しにしてきた、義兄の優しさを。

 どちらも、その所以すら知れている。

 故に、信じるに値する。

 故に、信じて疑わない。

 

「……オレは、どっちも信じられねェ」

 

「ならば、お前は好きなようにしろ。『好きなように生き、好きなように死ぬ』。カイ様の教えだろう」

 

「バカが、死なねェよ。オレも、お前も。……オレが覆してやる」

 

「フフ……。そうだな、そうしろ。お前が助けてくれる事も、信じておいてやる」

 

「ケっ、減らねェ口だ」

 

 言いたい事を言い切って、お互い、どちらともなく背を向けた。

 いや、最後に一言だけある。

 

「……足掻けよ、ルキア」

 

「……そちらもな、恋次」

 

 流魂街から長く共に生きた2人。『狭間空間』でも、霊術院でも、共に学んできた2人。

 原作では、ルキアが朽木家に迎えられた時、小さな溝ができた。

 此処にはない。

 2人の絆に、一切の綻びはない。

 

 だから、両者は自身の成すべき事を、相手を心配せずに邁進できる。

 綻びない絆と、恩人の教えを胸に。

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