主人公が曇らされてばっかりの世界に、一般通過過負荷(マイナス)が、ダイナミックエントリー! 作:霓霞霖
『
『『やって見せろよ、一護!どうとでもなるはずだ!斬魄刀だと……!?』……最後のは余計かな?』
『叫べ!お前のその力の名は―――』
『叫べ!君の名は―――』
死神として力を取り戻し、なおかつその力を一段解放した一護。
そこまで至るのに約3日を費やし、予定では残り7日も浦原と訓練をする。はずだったのだが、予定が変更となった。
『喜助、手を貸せ』
喋る猫が、浦原の下を訪れたのだ。
「猫がしゃべってる」と一護は驚くも、その猫は『夜一』という喜助の知人兼、後に
『で、どうしたんスか?夜一さん』
『織姫の方はすぐに
『……
夜一と喜助の会話に反応せざるを得なかったのは、一護である。
『井上とチャドの
『そう言っておろう。察しの悪い奴じゃ』
猫からのぞんざいな扱いに青筋を立てながらも、一護は詮索するのだ。
何故、2人を
その答えが、「戦力とするため」というモノであった事に、一護は異議と抗議を口から吐く。
『ルキアの救出は危険なんだろ!?井上とチャドをその危険に巻き込むつもりかよ!』
その言葉に夜一が反論するより早く、織姫とチャドが、一護と相対する。
『……チャド、井上』
『一護。お前の力になりたいと思ったのは、俺たちの意志だ。朽木を助けたいと思っているのは、俺たちの意志だ』
『黒崎くんを、守りたいの。隣に立つには、力不足かもしれないけど。盾を張ったり、治療したりはできるから』
『……分かったよ。……でも、怪我しそうならすぐに逃げろよ』
一護は織姫とチャドの意志が固い事を垣間見て、彼女らの同行を渋々快諾した。
『で、どうすんだよ。
月島に事情説明を挿まれている一護。それにより
『おぬしじゃよ、一護。儂らの中で、
『俺ぇ!?
『儂や喜助は抜かれてるどころか、そもそもその力を持っておらぬ。手解きも受けておらぬ。おぬししか、教えられぬ』
『……分かったよ』
夜一(猫)からの説得により、一護は渋々と教師役を承諾するのだった。
そうして
そんなこんなで、訓練を終え、喜助たちが穿界門の準備をするという事で、1週間の平穏を一護たちは得る。
普通の日常。夏休みだから、一護たちは共通の友人と、彼の家族で夏祭りに出かけたイベントはあったが、平穏な日常だ。彼がルキアと会う前の、銀城らに守られてきた日常。
「……」
期日の日、一護は自室のベッドで物思いにふける。時刻は、連絡すると言われた午前一時、ど深夜だ。
一護は思う。
誰かに守られて作られていた、平穏な日常。
あの日々も、尊いモノだ。かなぐり捨ててはいけない、大切なモノだ。
だからこそ、自分の手で、大切に守っていきたい。
一護は、そう思う。
そして、彼にとっての日常には、もう、ルキアも必要不可欠だ。
「……絶対、死なせねぇからな。ルキア」
掲げた手を握りこむ。自身の思いと同じくらいに固く。
ダイイングメッセージじみた文字を着弾地点に描く玉を投げ込まれたのは、その直後だった。
「ダイイングメッセージみたいじゃねぇか!」とツッコんだ一護は、そのメッセージで「そのツッコミはツッコミのセンスがない」と指摘されるのだった。
ダイイングメッセージじみた連絡で、浦原商店に集まるよう、言われた一護。
家の玄関を開ければ、そこには彼の両親が待っていた。
母の真咲は少し心配そうに、父の一心は心配を押し隠すように気丈に、それぞれ微笑んでいる。
そんな2人に、一護が言う事は決まっている。
「んじゃ、ルキア助けてくるわ」
「おう、行ってこい」
「……。いってらっしゃい、一護」
意志が固い我が子を、父と母はそう、送り出すのだった。
駆け出す一護。
その道中で、仲間たちと合流していく。
一番初めは、織姫だった。
「……いいのか?」
「いいの!自分でそう決めたんだから!」
「そっか。じゃあ、急ごうぜ」
覚悟を決めた友人同士。お互い、背中は押せども止めはしない。
次は雨竜。
「え?なんでお前来んの?なんか、ルキアは俺にしか助けられないとか、浦原さんから伝言聞いたんだが」
「うるさい!僕は朽木さんを助けに行くんじゃない!あの死神たちと決着を付けに行くんだ!」
「……相手にもされてなかったのに?」
「うるさい!」
いつもの仲の良い幼馴染である。
最後はチャド。
彼は浦原商店前で既に待機していた。
「オッス、チャド」
「茶渡くん……!早いね」
「眠れなくてな。それより、石田も朽木を救いに来たのか」
「ち、違う!僕は死神と決着を付けるために来たんだ!」
事情を浅くも共有した、4人が集った。
「全員すぐに来てくれたっスね。結構結構―――そんじゃ、中で説明を始めちゃいましょうか」
送り人・喜助が、彼らを出迎えた。
彼らはこれから、波乱の渦中へと、身を投げ出す事になる。
◇◇◇
阿散井恋次は六番隊隊舎を歩く。
「あ、阿散井副隊長?おはようございます。……今日は非番じゃ?」
通りがけに恋次は一般隊士から声を掛けられた。
然もありなん。恋次は一護から受けた傷を治す療養の身であり、合わせて業務は休養中なのだ。
そんなヒトが、隊舎を堂々と歩いている。規律がかっちりしている六番隊に染まり出した一般隊士なら、なおさら疑問の声を掛けるだろう。
「おう。暇だから、囚人の様子を見に来たんだよ」
疑問には答えるが、恋次はその一般隊士の横をそそくさと通り抜けた。
「件の囚人って、副隊長の昔なじみの……」などというコソコソ話は、恋次はあえて聞き流す。
留置所の鍵を手に、その錠を解く。
見やれば、静かに腰掛け、たった一つの小さい窓から外を眺める背中がある。
恋次にはその背中が、不思議と力強いモノに見えた。
「よォ、ルキア。メシ、食ってねェんだって?そこまでショックだったのか?」
恋次は鉄格子を挟んで、ルキアに揶揄い調子の声を向けた。空元気なのは、ルキアからすれば一目する必要もなく瞭然だが。
「……恋次か。衝撃を受けてはおらぬ。腹が空かぬだけだ」
「……腹が空かねェだと。お前、全然霊力回復してねぇのか」
「ああ。意図したものではないが、ヤツに全て渡してしまったやもしれぬ」
「ヤツ……。あのオレンジ髪の死神代行気取りか……。でもよ、全部やっちまったって言っても、回復しねぇなんて事あんのか?」
「知らぬ。我々が知っている死神能力譲渡の一例も、譲渡した側が譲渡した直後に死したという話だけだ。その後も生きておれば、私との差異を知れたやもしれぬが」
「……」
霊力回復の談は、2人にとっても未知が多すぎて、そこで途切れる。2人のやり取りもまた、同様に。
沈黙が気まずくなる。気まずさが、暗い話題を胸の内から口元まで持ってくる。
「……朽木隊長が減刑嘆願に向かう素振りが見えねェ」
「それは当然だろう。兄様はルールに厳しいお方だ、違反者に恩赦など与えるものか。身内となれば猶更だろう。むしろ、静観してくれているだけでも甘い対応だ。一族の恥として、迎え入れたのに裏切った恩知らずとして、手ずから処刑に動かぬのだからな」
「なんでテメェは!」
恋次は、ルキアの語る悲観的でありながら現実的であるそれに、叫ばずにいられなかった。
何故なら―――
「ルキア、なんでお前はそんな堂々としてられる!」
―――彼には彼女が死にゆく者に見えなかったからだ。
義兄に見捨てられ、極刑と定められ、抗う力も残されていないと言うのに。
椅子に腰掛ける背筋も、自身の叫びに振り返って見せられた瞳も、どうしてそう真っすぐなのか。
「死ぬんだぞっ、殺されるんだぞ!?なんでそれでそんな、微塵の心配もありませんって顔でいられるんだ!」
「信じておるからだ」
「信っ―――はぁ!?」
恋次には分からない。この状況で、何を信じているというのか。よもや、これが運命だと達観した末なのか。死にゆくにしても、誰かを救えたと胸が張れる故か。
「信じておるのだ。一護を、兄様を」
「っ……!?」
恋次はさらに分からなくなる。
何を信じると言うのだ。瀕死だったあの少年を。無慈悲であるあの義兄を。
「一護は、必ず私を助けに来る。そして、兄様はこの処刑が撤回できる瞬間を持っている。……私は、一護の友愛を知った。兄様の親愛を知った。だから、そうだと信じられる。まぁ、兄様の親愛は、カイ様が教えてくれなければ気付かなかったが」
ルキアは知っている。
共に過ごした二ヵ月もない期間で、一護の優しさを。
この四十余年もひた隠しにしてきた、義兄の優しさを。
どちらも、その所以すら知れている。
故に、信じるに値する。
故に、信じて疑わない。
「……オレは、どっちも信じられねェ」
「ならば、お前は好きなようにしろ。『好きなように生き、好きなように死ぬ』。カイ様の教えだろう」
「バカが、死なねェよ。オレも、お前も。……オレが覆してやる」
「フフ……。そうだな、そうしろ。お前が助けてくれる事も、信じておいてやる」
「ケっ、減らねェ口だ」
言いたい事を言い切って、お互い、どちらともなく背を向けた。
いや、最後に一言だけある。
「……足掻けよ、ルキア」
「……そちらもな、恋次」
流魂街から長く共に生きた2人。『狭間空間』でも、霊術院でも、共に学んできた2人。
原作では、ルキアが朽木家に迎えられた時、小さな溝ができた。
此処にはない。
2人の絆に、一切の綻びはない。
だから、両者は自身の成すべき事を、相手を心配せずに邁進できる。
綻びない絆と、恩人の教えを胸に。